プレトリアン ガリア戦記

Text by TAITAI
11th Apr. 2003

ローマといえば,ユリウス・カエサルでしょう!

 突然で申し訳ないが,ローマという言葉を聞いて,まず最初に思い浮かぶ名詞が「ユリウス・カエサル」(英語名:ジュリアス・シーザー)だ,という人は多いのではないだろうか。
 もちろん,一言でローマといってもその幅は非常に広く,共和制時代や帝政時代とで違ったりもするワケだが,とにかくパっと思いつく固有名詞といったら,カエサルがダントツのトップになるのは間違いないだろう。まぁ個人的にローマといえば,高校時代の授業で異様に覚えやすかった「カラカラ帝」が非常に印象的で,その小気味良い発音もさることながら,業績が「大浴場の建設」と,凄いんだかくだらないんだかよく分からなかった甘酸っぱいような気持ちが,懐かしさと共に沸き起こってくるのだけど,まぁそういうのは恐らく少数派のハズだ。
 話をカエサルに戻すが,カエサルといえば,決断力に富む天才的な戦略家として知られるばかりでなく,太陽暦の採用や大図書館の建設など多くの優れた仕事を成し遂げた,歴史上で最も有名な人物の一人。その業績の偉大さは,かつてヨーロッパを席巻した"軍事的天才"ことナポレオンも,「尊敬に値する8人の将軍」の一人としてカエサルの名を挙げているほど。歴史にそれほど興味がない人でも,「賽は投げられた」「来た,見た,勝った!」の名言は,一度くらいは聞いたことがあるのではないだろうか。

 「プレトリアン ガリア戦記」は,そんなカエサルが繰り広げた歴史的会戦を題材にした戦術級のリアルタイムストラテジーゲーム(以下,RTS)。題名からも推測できる通り,本作は,カエサルの記した「ガリア戦記」をモチーフにしており,ガリア戦役初期からカエサルの政敵ポンペイウスとの戦いまでを忠実に再現している。プレイヤーは,カエサルあるいはクラッススとして,屈強なガリア人や高度に組織化されたエジプト軍,そしてポンペイウス率いるローマ軍との激戦を戦い抜いていかなければならない。
 あの「コマンドス」シリーズなどで知られるスペインのデベロッパーPyro Studiosが開発を手掛けている点も注目で,高度な技術力に裏打ちされた美しい3Dグラフィックスや,Pyro Studiosらしい"細やかな演出"の数々は一見の価値あり。比較的マニア向けに属する作風となってはいるが,幅広い層に訴え得る"なにか"を匂わせる仕上がりを見せる作品だ。その完成度たるや,「Age of Mythology」や「Warcraft III」など同ジャンルの大作と比較しても,決して見劣りするものではない。

古代ローマ時代の戦いをリアルに再現した秀作

 上の紹介で"戦術級"と表現した通り,本作の最大の特徴は,戦闘に特化したゲームシステムを搭載している点である。Age of EmpiresシリーズなどほかのRTSで見られるような内政的要素が省かれており,プレイヤーは,与えられた兵力のみを使って敵を撃破していかなければならないのだ。地形やユニットの特徴を生かして,いかに有利な状況を作り出していくかが勝負の分かれ目となる。
 具体的に説明していくと,本作では,12〜30人前後で構成される部隊が1ユニットとして扱われる。登場するユニットの種類は,重装歩兵,槍兵,騎兵,弓兵など多岐に渡り,それぞれの兵科にユニット的な特性(得手不得手)や"特殊なアビリティ"が用意されているのだ。
 ユニットの特性を軽くまとめると,

 歩兵系ユニットは近接戦闘に優れるが機動力に劣り射撃系ユニットに弱い
 射撃系ユニットは素早く間合いを詰められる騎兵系ユニットに弱い
 騎兵系ユニットは機動力こそ優れているが数が少なく乱戦になると脆い

など。ゲームの基本的な仕組みの一つでもある,いわゆる"三すくみ"の関係といった感じだろうか。
 面白いのは特殊なアビリティの存在で,例えば,歩兵でも盾を使って防御を固める「亀甲隊形」をとることで,弓矢に対する防御力が劇的に高くなったり,槍兵では密集隊形をしいて防御力の強化,あるいは槍ぶすまをしいて敵の突撃に備えるなど,あらゆる戦術的なアクションが行える点は,戦闘に特化した本作ならではの要素だろう。

 またほかの同ジャンルの作品に比べて,地形を利用した戦い方の幅が広い点も要注目。マップ上の生い茂る草原に部隊を伏せて敵を奇襲したり,森の中を移動することで敵の哨戒網をかいくぐったりと,現実に近い戦法をゲーム中で再現しているのだ。
 さらに個人的に開発者のこだわりを感じたのは,森から矢を射たり,森に伏せた部隊で一斉に移動を開始しようとすると,まず森の中から鳥の群がバサバサバサッと一斉に飛び立つ演出だ。というのも,今日でもその精神が生き続ける兵法書「孫子」の中に,

 「鳥の起つは伏(ふく)なり,獣の駭(おどろ)くは覆(ふく)なり」
訳:鳥が飛び立つのは伏兵がいる証拠で,獣が驚いて走り出すのは敵の奇襲の兆候だ

という一文があり,本作では,まさしくそれをゲーム中で再現していると思ったからである。実際にゲームを作るにあたってちゃんと孫子の兵法が読まれているんだなぁ(もしかしたら違うかもしれないが)と,妙なところで感心してしまった。だからなんだ,と言われればそれまでなんだけど,なんかこう熱心さというか,真面目に作ったって感じがすると思うのだ。

プレトリアンよ,おまえもか!?

 否定的な見出しだけれども,言いたいのは"良い"部分。ゲームにとって命ともなり得る"操作性"についてだ。
 ここ数年,非常に完成度の高い戦術級RTSが目立つようになってきた。代表的なのが,ファンタジーRTSの「Myth」シリーズと,ド迫力の映像がウリの「Total War」シリーズ。どちらも素晴らしいゲーム性とグラフィックスを兼ね備えた秀作だが,ただ一つ,ゲームとして大きな欠陥があった。それは"操作性"と"視認性"の悪さである。
 偶然かどうかは分からないが,どちらもフル3Dの作品で,視点を自由に移動できるというシステムが操作性の悪さを助長しており,筆者にとって,それだけはどうにも不満でならなかった。そのほかの部分が非常に良くできていただけに,これで遊びやすければ最高なのに……と思わずにはいられなかったのだ。
 そこをいくと,プレトリアンの操作性は非常に良好だ。フル3Dながらもプレイアビリティを重視し,下手に視点の回転などといった操作を盛り込んでいない点は英断といえる。このあたりの設計思想は,同ジャンル(RTS)の人気作「Age of Mythology」や「Warcraft III」と等しく共通するモノなのかもしれない。筆者もこの方向性には大賛成だ。3Dだからといって,無理に演出(自由な視点)にこだわる必要はない。プレイしてなんぼのゲームなのだから,まずは"遊びやすさありき"だと思う。
 プレトリアンでは,「良くできてるけど,操作がさぁ……」という筆者が個人的に苦渋を舐めた言葉(対戦相手が欲しくて,知人に上記ゲームを勧めたときの言葉)を聞かなくて済みそうなのは,非常に喜ばしい。いや,個人的な思いは抜きにしてもだ。本作の完成度の高さは,それだけお勧めできるレベルなのだ。
 歴史的事実に沿った24のシングルキャンペーンミッションも遊び応えがあるし,マルチプレイモードの出来も悪くない。少なくとも買って損をしたと思うような作品じゃないことだけは確かだろう。

 万人が楽しめるゲームとは言わない。しかし,楽しめる人はトコトン楽しめる。それが,筆者が本作に下す評価(思い)である。
 ストラテジーゲームファン並びに歴史ゲームファンの方々,2003年5月22日という日(発売日)を心に刻んでおいてはいかがだろうか

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■発売元:アイドス・インタラクティブ
■価格:7980円(2003年5月22日発売)
■動作環境:Windows 9x/Me/2000/XP,PentiumIII/500MHz以上(PentiumIII/1GHz以上推奨),メモリ128MB以上(256MB以上推奨),空きHDD容量600MB以上
Screenshots集
ムービー
日本語体験版(50.5MB)

Praetorians (C) Pyro Studios S.L. 2003. Published by Eidos Interactive Limited 2003. Praetorians is a trademark of Pyro Studios 99 S.L. Eidos, Eidos Interactive and the Eidos Interactive logo are trademarks of the Eidos Group of companies. All Rights Reserved.