RASETSU Xan 〜羅刹・斬〜

Text by 大路政志
12th Nov. 2002

工画堂スタジオの意欲作,"羅刹シリーズ"の最新作が登場!

同時に複数のミッションが発生するようになったのは,プレイヤーにとって非常に嬉しい変更点。自部隊の戦力や経済状態を考慮して,引き受けるミッションを選択しよう

 2002年10月18日にリリースされた「RASETSU Xan 〜羅刹・斬〜」(以下,斬)は,2001年12月に発売されたサイバーパンク仕立てのRTS「RASETSU 〜羅刹〜」(以下,羅刹)の続編に当たる作品。前作から数年後の世界を背景に,傭兵ギルドの「お頭」(おかしら)であるプレイヤーは,さまざまな依頼をこなしつつ,乱世のうねりを体感していくこととなる。ベースとなる世界設定やシステム,登場人物等は羅刹から地続きで進展しているので,もし羅刹をプレイしていないのであれば,まずは「こちら」を一読し,シリーズの大まかな雰囲気をつかんでおいてもらいたい。

2冊のサブテキストを読めば,羅刹ワールドがより身近に

 本題に入る前に,まずは斬の概要を紹介しておこう。本作の舞台は西暦4967年,羅刹で展開されたトリット紛争から3年後の世界だ。地球を中心とした地球連邦と,その圧政に不満を抱くディック惑星連合は,トリット紛争終結を機に休戦協定を結ぶ運びとなったが,不可侵領域での小規模な艦隊戦がトリガーとなり,交渉決裂。地球連邦とディック惑星連合は再び戦争状態に陥ったのであった。近年活躍の場が減少していた第三勢力"傭兵ギルド"は,ここでにわかに活気づく。戦うことで収入を得る傭兵ギルドにとって,戦争は大きければ大きいほど美味しいのだから……。
 というのが,斬の大まかなオープニングストーリー。前作ですでに提示されていた各種設定の骨子は,本作へダイレクトに受け継がれているわけだ。なお,前作から本作の間にある空白の3年間は,パッケージ同梱のオリジナルノベル(著者:篠崎砂美)を読むことで補完できる。同じく同梱のデータブックも,前作データブックと併読すれば,ゲーム世界の「今」を知るためのよいサブテキストとなるだろう。純粋にゲームのみを楽しみたいユーザーにとっては上記の2冊は必要ないかもしれない。しかし,本シリーズの大きな魅力である"雰囲気"をより身近に感じるために,その2冊が重要な役割を果たすことは事実である。本作の世界観が嫌いではないのなら,斜め読みでもいいから目を通しておくことをオススメしたい。

これはタイトル画面。ここで選択できるモードはゲーム本編となる「キャンペーン」,セーブしたゲームを再開する「ロード」,最大4人までのマルチプレイが楽しめる「LAN対戦」,音声や音楽の調整などを行う「オプション」。キャンペーン内には「チュートリアル」も含まれているので,初心者も安心だ

斬は羅刹の健全な発展系。前作での不満はほぼ解消された!(1)

 本作のシステムや世界観,インタフェースなどは,基本的に羅刹とほぼ同様である。もちろんこの2作の間で経過した数年の時間は,背景世界やストーリーに大きな影響を及ぼしている。が,プレイ難度の異なるお頭を一人選び,部下となる傭兵を雇い,武装を整え,ミッションをクリアし,生態装甲を進化させ……というプレイの流れは,前作のそれと変わらない。羅刹をプレイしたことのあるユーザーなら,なんの違和感もなく,すんなりとゲームを始めることが可能だろう。そして,斬をひと通りプレイしてみれば,前作からの健全な進化が実感できるはずだ。

 まず,お頭=主人公の選択によってミッション成功時の報酬額に差が生じ,それがプレイ難度に直結しているという仕様は変わらないが,ストーリーの随所に挿入されるボーナスミッション(全滅してもゲームオーバーにならない)のおかげで,前作よりも資金が稼ぎやすくなっている。また,同時に複数のミッションが発生することがあり,状況に応じて好きなほうを選べるようになった点も,プレイの幅を広げるのに一役買っている。自部隊の戦力に自信があるなら報酬額の高いミッションを,戦力不足を感じるようなら簡単なミッションを選べばいいので,プレイ難度の高い(報酬額の低い)お頭"ラティアラ"でプレイしても,手詰まりになる危険性は小さいだろう。
 ミッションを遂行するために欠かせない仲間,傭兵に関しては,新たなメンバーが数人追加された。メイド型アンドロイドや超能力少女,どこかで見たことのある天才ダンサーなどなど,実に個性豊かなメンバーが加わったことで,羅刹ワールドはさらに混沌の色を深め,人選の幅も広がった。前作からのメンバー全員のグラフィックスがリファインされたことも,いわゆる"キャラ萌え"重視のプレイヤーにとっては,嬉しい限りである。
 また,ミッション遂行中に傭兵同士が会話を始めたり,他勢力の協力/敵対イベントが発生したりと,ストーリーを盛り上げる演出も多く用意されている。これらの演出が,平坦になりがちなゲーム展開を彩り,魅力的なキャラクター達にさらなる存在感を付与しているのも,ファンにとっては見逃せないポイント。武装や生体装甲も当然のように追加/リチューンされているので,傭兵の個性に合わせた武装のコーディネートや,生体装甲の進化が楽しめるはずだ。

オープニングムービーでは生体装甲,トリット族,通常兵器が入り乱れた過激な戦闘シーンが展開され,随所に新キャラクターのイメージショットが挿入されている

斬は羅刹の健全な発展系。前作での不満はほぼ解消された!(2)

 設定面やデータ面での追加/修正点はこれくらいにしておき,続いてはシステム面での変化を見ていくこととしよう。システム面での最も大きな追加要素は,資金を消費することで本隊からさまざまな援助を受けられる「支援」だろう。支援は「支援攻撃」「支援部隊要請」「支援施設落下」の3種に大別でき,必要となる資金があれば,ミッション遂行中のいつでも使用できる。
 支援攻撃には"コロニーレーザー""爆撃"の2種類が存在し,支援を要請することで敵または敵施設を直接攻撃出来る。敵が密集したポイントに攻撃を加えれば多くの敵に致命傷を与え,突破口を開くことが出来るだろう。支援部隊要請を行えば,その名の通り味方部隊を召喚できる。防衛や陽動目的の兵力が足りないときに,この支援は大きな助けとなる。そして支援施設落下とは,希望のポイントに病院,武器屋施設を投下してもらうための支援。長期戦が予想されるミッションで使用すれば,万全の体勢で戦闘に臨めるわけだ。
 以上3系統の支援が可能になったことにより,プレイヤーが選択できる戦術バリエーションは大きくアップした。選択可能な支援はミッションによって異なり,戦術の切り札と呼べるほどの効果も秘められてはいないが,戦術重視のゲーマーにとっては実に興味深い要素だろう。
 また,ミッションによっては自部隊の降下ポイントを選択出来る場合もある。降下ポイントが複数存在する場合は,ミッション開始直前に部隊を分けて二つのルートから敵部隊を挟撃するといった戦術も,比較的簡単に出来るようになった。それに加えて,攻撃態勢(敵発見時に積極的に攻撃),要撃態勢(拠点防御に適した態勢),防御態勢(自ら攻撃を仕掛けない。隠密行動に最適)といった傭兵への指示がワンクリックで選択可能になったことも,ゲームの戦術性を高めている。それらのシステムが追加された結果,ゲームの戦略/戦術性がどれだけ向上したかは,前作を知るユーザーなら容易に想像出来るはずである。

新キャラクター"ネネ"は,最初から「超能力型」生体装甲をまとっているエリート。超能力型は武装を装備出来ない,耐久力が低いといった欠点を持っているが,強力な超能力を用いて攻撃/回復役として活躍できる

制作側の才能とユーザーの声が作り上げた正当派の「続編」
まだ見ぬ次回作への期待も高まる!

 前作羅刹と本作を比較してみて最も強く感じたことは,作品をより良いものにしようというメーカー側の姿勢であった。各種データや設定の充実,グラフィックスを含む演出面の強化などは,「続編」として当然なされるべき変更だろう。しかし世の中に,その当然の努力があらぬ方向に向いていたり,なされていないように思えてしまう「続編」が多いことは,残念ながら事実である。もちろん本作にも「海外の第一線のRTSと比べてグラフィックス面が弱い」「乱戦状態になると敵と味方の区別がつきにくい」「移動ルートの細かな設定が出来ず,ストレスが溜まることがある」など,まだまだ課題は残されているが,それも次回作では可能な範囲で修正されることだろう。羅刹のレビュー記事で列挙した問題点が,斬において理想的な形で解決されていたことを鑑みれば,そんな希望的観測も,決して無責任なものではないだろう。少なくとも羅刹シリーズの制作チームは,ユーザーの声を聞く耳と,それを形にする才能を持ち合わせているのだから。

 ともあれ,前作に比べて戦略/戦術性が向上し,各種データ/設定面での充実が図られ,広義での自由度(プレイの幅,選択の幅)がアップした斬は,羅刹に好印象を持っているユーザーには文句なしにオススメできる秀作である。前作クリアデータからお頭(を含む4人までの傭兵)をコンバートすることも可能なので,ぜひプレイしてみてほしい。
 また総合的な難度はやや高まったように感じるが,支援,お頭による難度調整等のシステム的な救済手段や,チュートリアルモードも用意されているので,ゲームの腕に自信がない人でも十分楽しむことが出来るはず。独特な世界観やインパクトのあるイラストレーションに興味があるなら,きっと損はしないはずだから,一度プレイしてみるといいだろう。

前作よりもゲームとしての戦術性が向上したため,補助/支援武装の重要性も高まった。威力や連射性だけで武器を選んでいると,ミッション遂行中に思わぬ苦戦を強いられることも。地雷,煙幕等の武装も積極的に活用したい

 

ミッションによっては参加可能な傭兵数に制限が設けられているものもある(通常は最大8人)。兵力的に劣っている場合は,地形や味方,支援コマンドなどを駆使して戦っていこう

 

ミッション中に挿入される会話やイベントなどが強化されているので,ストーリー展開にも注目したい。ひと癖もふた癖もある脇役達の活躍は,さまざまな謎や障害を提供してくれるだけではなく,お頭たちの個性にさらなる輝きを与えている

 

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■メーカー:工画堂スタジオ
■価格:オープンプライス
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体験版(62.2MB)

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