パンツァーエリート スペシャル・エディション

Text by 松本隆一
10th Oct. 2002

私はいかにして心配するのをやめて戦車を愛するようになったか

 個人的な話で恐縮だが,私は戦車が好きである。小学生の頃,工事現場で前進するブルドーザーのキャタピラの枚数をいくら数えても終わらないので気絶して以来のファンであり,韓国語で言えるフレーズが「戦車だ,逃げろ!」だけというくらいの筋金入りだ。
 しかし,やんぬるかな,世の中には戦車を主役にしたゲームが少ない。少なすぎる! あんまり少ないので,こうなったら自分で作るしかないとネットで無料のC言語コンパイラを手に入れ,名前を打ち込むと「ほお,それはすごいですね」と誉めてくれるソフトや,電話番号を一件だけ覚え,しかも終了すると忘れてしまう電話帳ソフトなどを次々に開発。だがこの調子では戦車ゲームが完成するまでに十万年はかかると気づいて,涙をのんで中止にしたというくらい戦車ゲームは少ないのだ。
 だが,捨てる神あれば拾う神あり。葛飾区のは亀有。それが,ここに紹介する「パンツァーエリート」なのである。ここからが本題。忙しい人は,ここから読んでもかまいません。

いろいろと複雑な思いの交錯するファーストインプレッション

幼稚園児でも知っている有名戦車ティーガー。ソ連のT-34に対抗するために作られ,無敵の88ミリ砲を装備する。終戦まで約1300両が生産され,さまざまなバリエーションや派生型を持つ

 私が最初にこの「パンツァーエリート」に関する記事を読んだのは,当サイトのライバルとされる(と勝手に思っているだけなのだが)GameWatchにおいてだったということは書かない約束なので書かない。けど一読。思わず,わー,やったー,いよいよ戦車の時代だ,戦車ブームの到来だ,オレ様の時代だ,と喜んだものである。このところ「メダル オブ オナー アライド アサルト」や「バトルフィールド 1942」など,たとえ戦車は脇役でも第二次世界大戦をテーマにした大物ゲームが次々とリリースされており,なんとなく期待はしていたのだ。食玩でおなじみの“ワールドタンクミュージアム”も私の周囲30メートルほどでは大流行してるし。
 しかも最近のゲームと来た日にゃ,あんた。今を去ること10年前,重ねた段ボール箱みたいな戦車で戦った「M1タンクプラトゥーン」の解説記事で"まさに究極のリアリティ"と書いちゃったオレの立場はどうなるんだ! というくらい3D描画能力が強まっているので,期待しないほうが変である。ああ,ヤケクソに描き込まれた3Dの荒野を,大砲を撃ちまくりながら進む40万ポリゴンぐらいで描かれたわがドイツ機甲師団……。うっ!
 ちなみに,この「パンツァーエリート」を制作したのはドイツのWings Simulations社であり,ドイツといえば泣く子も黙る戦車王国である。戦車王国といってもドイツの王様が戦車で王妃も戦車だとかそんなんじゃないから気をつけるように。本家なんだから戦車の資料には事欠かないだろうし,この点も期待大。ゲームの背景となるのは,第二次世界大戦のドイツ軍と連合軍の戦闘だ。だが,連合軍の中にソ連軍がいないので,数々の激戦で有名な東部戦線を楽しめないのがちょっと残念かも。スターリングラードとかクルスクとかもやりたかった気もする。よって,ゲームにおいて戦車王ドイツ様の敵になるのはアメリカとイギリス,つまりシャーマンとかスチュワートだ。なんだね。へなちょこだね。

 つべこべ言わずに,さっそくプレイ開始だ。ちなみに1か月ほど前,「こちら」からダウンロードしたデモ版をプレイしたところ,全部英語でしかも操作方法をよく読まなかったためなにがなんだかよく分からず,スタート直後からまっしぐらに全速後進して海まで走っていったというのも今では懐かしい思い出。だが今回はメディアクエストによって完全日本語化され,しかもMODその他が収録されたボーナスディスクの付いたスペシャルエディションなので心配無用だ。ところで「こちら」ってどこよ? あ,ここね。

ドイツ軍の隠れたワークホース,IV号戦車。ドイツが生産したほかの種類の戦車すべてを合わせたよりも数多く生産された。傑出した点はないが,堅牢で,柔軟性が高かった シャーマンM4A3E2,通称"ジャンボ"。シャーマンの装甲を強化したタイプで,ノルマンディー以降のフランスで使われた。重量は38トンを超え,ファミリー中最もヘビー

上から読んでも戦車戦,下から読んでも戦車戦

横隊,縦隊,左梯隊と,小隊の隊型をさまざまに変えることができる。どういうときにどういう形だと何がどう有利なのかは,いまのところ研究中。刮目して待て

 まず手始めに,気軽に戦車戦のみを楽しめる"インスタントアクション"を選択し,搭乗戦車を選ぶ。ここはもちろん漢のティーガーIだ。これを「カンのティーガーいち」と読んではいけない。これは「オトコのティーガーアイン」と読むのだ。また,アイ〜ンと伸ばすと志村になっちゃうので,アイン! とドイツ語っぽくナタで切って落とすように読むべし読むべし。前面装甲100ミリ,主砲88ミリ,重量57トンの戦うマシンだ。渋谷の女子校生もほっとかないぞ。
 さあ,戦闘開始。画面が切り替わると,どこからともなく「ミッショーン,スタァート」と男の野太い声が響いてくる。なんだかリングアナの「本日の〜メ〜ン,エベント〜」なムードで,まあ盛り上がるけど,ちょっと格ゲーっぽいかしら。
 ともあれエンジンスタート。ブリリリリン。あたりを見回す。はっきり言って,グラフィックスは前述2大作にくらべて18か月ほど遅れている感じもする。画面写真を見ていただければ分かるとは思うが,戦車そのものも,アングルによってはけっこういいが,もう少し豪勢にCPUパワーを奪ってくれてもよくってよアタクシ,かな。でも雰囲気は悪くない。
 「小隊,パンツァー,フォー!」。いまのは"戦車前へ"という意味。うふふ。オレって詳しいでしょ。突然,またどこからともなく「敵戦車11時。距離300メートル」という叫び声。文章で説明するのは難しいのだが,ちょっと高くて変な声だ。しかも,英語がわざとドイツ語なまりになってて,"300メートル"というところを"300ミータラ"と発音するので,思わず笑ってしまったら,丘の向こうからアメリカ軍の攻撃が始まった。いかん,さっそくピンチだ。立ちのぼる火柱。揺れる大地。小隊,後退! 後退後退! 後退だっちゅーに!
 どういうものだか,前後進のレスポンスが悪い。ようするにこれがリアルなんだけど,ガッチン,ガッチャンとギアの噛み直す音がして,それからオレ様のティーガーはゆるゆると後退を開始する。じれったい。敵はどこだ。報告せよ。
 「敵戦車11時。距離250ミータラ」と,どこかにいる裏声の部下。11時? 腕時計を見て確認。ああ,ちょっと左なのね。双眼鏡モードにしてそのあたりを見る。いないぞ。なにしろ,戦車が上へ下へガタガタと動くため,視線が定まらない。敵戦車を発見+クリックして砲撃,というダンドリなのだが,カーソルが右に左にブレちゃって思いもかけないところをクリックしてしまう。しかも双眼鏡で見ていても,敵は遠いのだ。ああ,これがリアリズムなのである。現代戦車のようなジャイロを使った砲安定装置もないし,コンピュータによるレーザー測距装置もない。赤外線熱映像装置もないし光増装置もない。行進間射撃もできないし,だいたいオートマですらないのだ。こんなんで戦争したってんだから,兵隊さん達は本当に偉かったと思う。
 さて落ち着いて見てみると,敵の砲弾はあまり当たっていない。シルエットからすると,どうやら敵はM5リー戦車のようだ。すると主砲は37ミリか。なんだ,小学生じゃないか。こちらは隆々とそそり立つ88ミリ砲だ。兵士諸君,やつらに戦争を教えてやれ。反撃だ。
「AP弾装填中。装填完了」と装填手。
「目標補足。距離測定中」と砲手。
「発射」
 はずれ。家屋に命中。なんじゃそりゃ。続いて発射。
「AP弾装填中。装填完了」と装填手。
「目標補足。距離測定中」と砲手。
「発射」
 今度は命中。それにしても,いちいちうるさーい。いやー,第二次世界大戦て,とってもナイスですね! あ,やられちゃった。なんで? ティーガーなのに。(次のページへ

ドイツ戦車中最優秀と評価されるのがこのパンター。傾斜面で構成された車体は耐弾性にすぐれ,搭載の長砲身75ミリ砲は,宿敵であるT-34を一撃で倒すことができるのだ ゲーム中ではパンターD型,A型,G型の3種類を選べるのだが,残念ながらグラフィック的な違いしかないようだ。後ろ姿がかなりセクシーなので,よしとしよう

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