刀剣封魔録〜封神演義異聞

Text by 大路政志
19th Dec. 2003

 

 「パワードール」シリーズのうさぎさんチーム,「シュヴァルツシルト」シリーズのくまさんチーム,「羅刹」シリーズのイルカさんチームなど,動物名を冠した開発グループが存在する工画堂スタジオに,このたび「熊猫公司」(パンダサンチーム)が誕生。パンダサンチームでは,今後海外コンテンツのローカライズ&プロデュースを担当していくということで,海外ゲームファンにとっては要チェックの開発グループといえるだろう。
 そんなパンダサンチームの記念すべき第一作が,今回レビューする「刀剣封魔録〜封神演義異聞」(以下「刀剣」)。オリジナルは中国のPixelSoftwareが制作しており,開発者が日本の格闘ゲームに影響を受けたことから,ガードや奥義,浮かせ技といった要素が盛り込まれているというユニークなアクションRPGである。「刀剣」に関する基礎知識は,「こちら」のプレイレポートを参照してもらうとして,さっそく本題へと移ろう。

ゲーム序盤から「コンボの魅力」が堪能できる!

 本作の画面を見たほとんどのPCゲーマーが抱く印象なのだろうが,確かに「刀剣」は「ディアブロ」に似ている。ゲーム画面から受ける雰囲気や,そこから予想できる操作系統などは,明らかに「ディアブロ」的だ。未だに「ディアブロII LoD」にMODを当て,LANでのマルチプレイを楽しんでいるような筆者も,実際にゲームを始めるまではそう侮っていたものだ。しかしいざゲームを始めてみると,その魅力的な戦闘システムに時を忘れてハマッてしまった。その魅力の源は,なんと言っても格ゲーテイストの強い攻撃システムにある
 「刀剣」の攻撃操作は至ってシンプル。マウスのカーソルを攻撃対象に合わせ,右・左ボタンを押すことで,各ボタンに割り当てられた通常攻撃や技が発動する。通常攻撃(斬撃・蹴り)単体でも3〜7連続ヒットの攻撃を繰り出せ,右・左ボタンを切り替えるだけでスムースな連携が可能なので,「蹴り3発→斬撃6発→蹴り4発」といった感じのコンボが簡単に完成するのだ。画面右上に表示される最大ヒット数を眺めつつ,より効果的なコンボを模索しているだけで,キャラのレベルがどんどん上がっていっていってしまう。序盤のこととはいえ,レベル上げのつらさを微塵も感じさせなかった「刀剣」の戦闘システムには,熱烈な「ディアブロ」ファンである筆者も素直に感心してしまった

一度決まれば,敵に反撃の余地を与えることなく無数の攻撃を叩き込むことが可能なコンボシステムは,本作最大の魅力。斬撃や蹴りなどの通常技だけでもある程度のコンボ数は稼げるが,武術(スキル)を組み込めばヒット数・攻撃力ともにアップする

コンボシステムの魅力は,武術を組み込んで初めて引き出される

 キャラのレベルが上がると,体力,気力,攻撃力,防御力,命中率といったパラメータが上昇するほか,技能ポイントが得られる。技能ポイントは武術(スキル)を習得するために必要なポイントであり,これを消費することでさまざまな武術が習得可能だ。武術の種類は3人の主人公ごとに4系統3種類の12種類ずつ用意されており,同じ武術にポイントを振って,技を強化することもできる。
 武術が使用可能になると,敵との戦闘はより効率的に,そして楽しくなっていく。跳び蹴り,組み付いてからの投げ技,"気"による長距離攻撃,浮かせ技などなど,バリエーション豊かな武術を駆使しての敵との戦闘は,まさに格闘ゲームに似た爽快感が味わえる。さらに,それらの技を単体で使用するのではなく,コンボに組み込んで活用していけば,攻撃力も楽しさもより強化されていくわけだ。「7発めでダウン効果が発生する斬撃は6発で止めておいて,そこから蹴りを3発。続けて浮かせ技→斬撃を2セット入れて,最後は吹っ飛ばし効果のある武術でフィニッシュ!」「いや,それだったら浮かせ技×2→斬撃→浮かせ技×2→吹っ飛ばし,のほうがコンボ数稼げるでしょ」「だったら,最初の斬撃と蹴りを入れ替えれば,左ボタンの斬撃をトリガーにできてさらに調子いいかも」など,およそPC版アクションRPGのこととは思えないような熱い会話が成立してしまうのだから,アクションゲームとしての完成度はかなりのものといえるだろう。格闘ゲームも嗜むというゲーマーならば,まず間違いなく熱中するはずだ。

 なお「刀剣」では,オリジナルのコンボを作成・登録できる機能が搭載されているので,頭を捻るのはコンボの作成時のみ。登録したコンボは右ボタンに割り当てられるので,格闘ゲームのように複雑な操作技術は要求されない。ゲームに不慣れな人でも簡単に派手なアクションを楽しめるわけだ。

1系統の武術を3種類すべて習得することで,その系統の奥義が使用可能になる。Altキーを押しながら「/」や「>」といった記号を描いたあと,対象を右クリックすることで,奥義が発動。ブラウザなどではよく用いるマウスジェスチャーによる操作を,まさかアクションRPGですることになるとは思わなかった
「刀剣」では,武具の装備によってキャラを強化することはできない。よって,残念ながら武具集めの楽しさは味わえないのだ。その代わり,武器や防具に特殊な宝石をはめ込むことで,戦闘力を高められる。下位の宝石複数を合成し,上位の宝石を生成していくことで,キャラの装備を充実させることとなる

新機軸? マウスジェスチャーによる奥義発動が戦術をさらに深化させる

 キャラごとに,4系統3種類,計12種類ずつの武術が用意されているということは,先ほど説明したとおり。「刀剣」には,それに加えて"奥義"という超必殺技が用意されている
 奥義は,一つの系統の武術(3種類)をすべて習得することで使用可能になり,敵に攻撃を当てるたびに蓄積されていく"怒気力"を消費して発動する。発動のための操作方法は,Altキーを押しながらマウスで特定の記号を描き敵を右クリック,という特殊なもの。戦闘中にそんな操作をしている暇があるのか? とも思ったのだが,実際に使ってみると思いのほか簡単。Altキーはキャラに防御姿勢を取らせるキーなので,高威力な奥義を使用しがちな状況(強敵との戦闘中)でも,安心して発動できるのだ。使い勝手はキャラごと,奥義ごとにまちまちだが,思ったほどの破壊力はないかな,というのが正直な感想。「危機を脱するための逆転技」と考えるよりも,「最大コンボ数を稼ぐだめの決め技」と考えるのが,「刀剣」プレイヤーとしては正しいのかもしれない。……こんなことを書いてしまうあたり,すでに筆者は「刀剣」コンボシステムの虜なのだろう。

レベルアップ時に得られる技能ポイントを消費し,奥義を習得することができる。奥義はプレイヤーキャラクターごとに4系統・3種類ずつ用意されており,一つの武術を複数回強化することも可能。スキルツリー形式の分岐はないが,どの武術をどれだけ強化するかで,ゲーム展開に多少の差は生じてくる

アイテムコレクターにとっては,若干物足りないRPGかも?

 本作の戦闘システムに関しては非常に好印象を持った筆者だが,当然不満な点もいくつかは挙げられる。まずはやはり,グラフィックスの貧弱さ。ごく最近に開発されたゲームではないし,戦闘の爽快感を損なわないためにも過剰な演出表現は禁物だろうが,目の肥えた日本のゲーマーには,ややアピール度が低いと言わざるを得ない。キャラのモーションも多くはないので,キャラの動きが全体的にギクシャクしている点も,充実したアクションが堪能できるゲームであるために,残念だ。
 また,武器や防具を装備してキャラを強化する,という概念が存在しないのは,一人のRPGファンとしてはマイナスに思えた。「刀剣」では武具の交換ではなく,武具に特殊な宝石をはめることで戦闘力を強化する。よって購入・入手できるアイテムは,武器や防具以外の消費アイテムがメインとなる。イベントなどで宝剣を入手したり,鎧を強化することはできるのだが,ゲーム内では「宝石を填めるための穴が増える」という処理になる。宝石を合成してより価値のある宝石を作ったり,所持しているだけでパラメータがアップする宝石(「ディアブロ」シリーズでいうCharm)が存在したり,使い魔を召喚する札や様々な特性を備える飛び道具などもあったりと,それなりに楽しめる要素はあるのだが……。武具を集め,装備をコーディネートする楽しみが味わえないのは非常にもったいないと思ってしまった。

通常技や奥義を任意に配列することで,オリジナルのコンボを作成・登録することが可能。オリジナルコンボは最大4種類登録できるので,最大ヒット数狙い,最大ダメージ狙い,緊急回避用などなど,目的に応じたコンボを使い分けることができる

アクションRPG・格闘ゲームファンならハマること請け合い。
戦闘の面白さを満喫したい人にはぜひプレイしてもらいたい秀作!

 「ディアブロに似ているなら遊んでもいいかな」と思っている人は,決して少数ではないだろう。だが,「ディアブロ」シリーズでのアイテム収集を最大の魅力と捉えている人にとって,「刀剣」は期待通りの満足感を与えてはくれないかもしれない。
 しかし,マウスジェスチャーによる奥義や最大ヒット数を競えるコンボシステムなど,革新的ともいえる戦闘システムは,アクションRPGファンのみならず,格闘ゲームファンでも大いに楽しめる。コンボや奥義を絡めた攻撃,ダッシュ,防御を用いての回避行動を積極的に活用すれば,単純なルーチンワークになりがちな戦闘が,実に刺激的な体験となる。モンスターに関しても,全体的に耐久力が高いのでコンボが決めやすいし,ダメージを与えていくことで腕や首がもげ,攻撃頻度や攻撃パターンが変化したりもする。戦闘だけで得られる満足度ならば,「ディアブロ」シリーズを凌駕しているといっても過言ではないだろう。マルチプレイヤーゲームに対応していないことは残念だが,年末年始にじっくりと遊ぶタイトルとして「刀剣」を選ぶことは,RPGファンにとっては有意義かもしれない。とにかくハマれるアクションRPGを探している人には,「刀剣」を選択肢の一つとして考えてもいいだろう。

「刀剣」の世界は大きく分けて三つに分かれており,それぞれが一つの章として扱われている。冒険中に引き受けた任務,戦った敵,入手したアイテムなどは,日記画面で手軽にチェックできるので,しばらく遊んでいなくても,とまどうことなく遊べるはず
選択できるプレイヤーキャラクターは三人用意されている。右からパワータイプ,バランスタイプ,スピードタイプの特徴を持つ。通常技や武術の特性がかなり異なるが,本作最大の魅力であるコンボを極めたいなら,スピードタイプを選ぶのが無難 キャラクター作成時にはゲームの難度を任意に選択できる。易,中,難,真の戦いという4段階から選べるので,プレイヤーの操作技術を問わずプレイすることができそう。ちなみに最高難度の「真の戦い」では,ゲーム序盤の敵の攻撃を一発もらうだけで,半分近くの体力を奪われてしまう ゲームの簡単なストーリーに関しては画像の通り。封神演義を題材としているが,あくまで背景設定として利用されているだけなので,封神演義に明るくなくても十分楽しむことができるはず 状況に応じて戦術を変え,いかに効果的に敵と戦えるかが勝負の分かれめ。ただ闇雲にコンボを繰り出すだけではなく,ダッシュで距離を置いて飛び道具を撃ったり,強敵の攻撃モーションをよく見て防御姿勢を取ったり,場合によっては仲間を召喚するなどして戦うべし。思い通りに戦えたときの快感は,従来のアクションRPGではなかなか味わえない大きさだぞ

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■発売元:工画堂スタジオ
■価格:オープンプライス
■動作環境:Windows 98/Me/2000/XP,celeron/500MHz以上,メモリ128MB以上 ,DirectX 8以上に対応したAGP接続ビデオカード
ムービー(2分13秒:64.1MB:ZIP)
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