Highland Warriors

Highland Warriors

Text by 奥谷海人

 スコットランド人というと,"スカートを履いた乱暴者"といった「Everquest」のバーバリアンのようなイメージも根強いが,1995年に公開されたメル・ギブソン監督/主演の「ブレイブハート」以降は,自由を求め続けた彼らに対するイメージもずいぶん変わってきている。
 本作「Highland Warriors」は,現在ドイツのSoft Enterprises社が制作中のRTSで,スコットランドが独立していくまでの5世紀に渡る戦いを描いている。本作は技術的に高いレベルであるばかりでなく,ユニークな経済システムや外交モードなど魅力的な要素が詰まった作品だ。

スコットランドの歴史を辿る3DRTS

 1999年にEidos Interactive社から発売された3D RTS「Braveheart」は,まだ完全3DのRTSが珍しいかったこともあってか,ゲームプレイに大きな問題があって良い評価はされなかった。しかしこのジャンルの3D化は,ここ数年で確実に進んできているようだ。
 Soft Enterprises社は,最近では「America」を発売しているものの,完全3Dのゲームを制作するのは「Highland Warriors」が初めて。会社があるのがドイツだから,アメリカはまだしもスコットランドの歴史をテーマにしたゲームを作るというのはちょっと不思議な感じ。しかし本作では「エンパイア・アース」を思わせる手堅い技術力を見せており,Highland Warriorsは,今後同社がドイツの中堅開発元として飛躍するきっかけとなりそうだ。
 販売を担当するのは北アメリカ地域でAmericaを販売したData Becker社で,新しい販売会社ながらも廉価ソフトを中心に知名度を上げてきている。ヨーロッパではNova Logic社の協力を受けて,InfogramesやUBI Softなどの流通を利用する予定だという。それほど大々的なプロモーションが展開されるわけではなさそうだが,ドイツでのRTS市場が非常に大きいこともあり,かなり話題になりそうである。

 Highland Warriorsの舞台となるのは,Northwest Highlndという高地を中心にしたスコットランド地方。スコットランド人が上陸してアルバ王国を建設した9世紀から,イギリス軍を破って独立した14世紀初頭までの時代を四つのキャンペーンに分けて描いている。その四つとは,西暦850年にアルピン・マックイオチャイルドがピクト人に対して行った反乱1286年のエドワード1世侵攻1297年からのウィリアム・ウォレスを中心に発展した蜂起,そしてロバート1世がスコットランドをイギリスから独立させた1306年から1307年まで。このキャンペーンには30種類以上のミッションが用意されており,ボリュームある内容になっている。マルチプレイヤーモードも最大で8人までをサポートしており,GameSpyを利用したインターネット経由やLAN経由での対戦が楽しめる。

 またHighland Warriorsでは四つの軍団が描かれていて,プレイヤーはマッケイ・クラン,マクドナルド・クラン(商人),カメロン・クラン(ウォリアー),そしてイギリス帝国軍からの視点でゲームを楽しめる。スコットランドの3軍はさらに色分けされており,例えばマッケイは秘術を操るなど長距離攻撃に長けている。マクドナルドは距離的にイギリスに近いことから,イギリス風の最新技術を身に付けた商人,そしてカメロンはシンプルな生活を維持しながらも,戦士としての誇りを持っているハイランダーという設定だ。

新鮮味がいっぱいのユニットマネージメント

 Highland Warriorsのゲームシステムは,全体的に見れば一般的なRTSと大差ない。耕作したり食料を集めたり,石材や木材,鉄鉱を求めて農民ユニット達を周囲に送り込み,バラックや倉庫のような施設を建設していく。建設やリソース面では「エイジ オブ エンパイア」や「スタークラフト」の良い部分を参考にしているようで,鉄鉱が廃鉱となったら別の場所に作り直す必要があったり,バラックが多いほど兵士ユニットの生産スピードが上がるといったシステムになっている。
 イギリス軍には,やはり相当に優位な条件が整えられているようで,重装備の騎兵ユニットや攻撃距離の長いロングボウマン,攻撃力はないが周囲のユニットの能力を上昇させる旗持ち"フラッグベアラー"などのユニットがある。さらには,砦や訓練所などスコットランド側にはない施設を建てることも可能だ。対するスコットランド軍には騎馬弓兵やドルイド,大槌兵,バーサーカーなど,各クランに合わせたいくつかのバリエーションのユニットが用意されているが,全体的にはイギリス軍よりも安価に生産できるようだ
 ゲームには,それぞれのチームに合わせてリーダーユニットが登場する。現在分かっているのは,ウィリアム・ウォレス,ロバート・ザ・ブルース,ウィリアム1世,エドワード1世などである。もちろん最近のゲームのトレンドとしてこれらのリーダーユニットには特殊能力が備わっており,ウォレスの場合は"恐怖"と"捕虜拷問"というスキルがある。恐怖は,ウォレスを先頭にして敵の軍隊中心に突入しながら発動することで,敵軍を真ん中からプッツリと割ってしまうことができる。これで,敵リーダーへの奇襲攻撃が可能になるのだ。もう一つの捕虜拷問は,視察に来たスパイなどをさまざまな形で拷問して,味方に有利な情報を聞き出すというもの。ちょっと過激な拷問シーンも見られるらしい。

 Highland Warriorsでのユニットマネージメントは,少しユニークな仕様になっている。専用のウインドウで自分の保有するユニットの全リストが見られ,そこで各ユニットがどんな作業をしているのかを確認したり,アイドルになっている農民ユニットを検索できるのだ。3D画面なのでオブジェクトに隠れて見えにくいユニットが出ることも十分考えられるので,かなり便利なシステムになりそうである。
 またユニットには経験値の概念もあり,経験を積むことでベテランユニットへとレベルアップしていく。これはもちろん農民ユニットにも当てはまることで,見習いからマスターへと成長を遂げることで,無駄なユニット作りをする必要がなくなる。本作では農民ユニットにでさえ,彼らなりの人生が与えられているのだ。
 兵士ユニットはフォーメーションが組め,ウェッジ(V型の攻撃用)やサークル(円形の防御用)といったフォーメーションを使いこなすことで,戦略的にアドバンテージを握れる。そのほか,スパイやスカウトを送り込んで敵情視察することも可能だ。それぞれユニットタイプに特殊能力が一つ備わっていて,例えば槍兵の場合では,ブレイブハートのシーンにあったように何人ものユニットが座った状態で槍を突き合わせることで,騎馬軍団の突撃に対しての防御ボーナスが付くのである。
 細かい部分では,高所からの攻撃にはボーナスが付いたり,天候ばかりではなく季節の移り変わりによって異なる戦術を選択しなければならないなど,プレイヤーの判断で優劣が付きやすくなっているようだ。同じエピソードでもミッションをこなしていくうちに夏から冬へと季節が変わっていき,雪で覆われた山での移動が困難になったりする。山岳地帯からの奇襲を得意にしていたプレイヤーなら,それまでとは違う状況にとまどってしまうかもしれない。

Atlasエンジンは,1ユニットにつき8000ポリゴンで表示可能

 Highland Warriorsで使用されている技術も解説しておこう。本作のために開発されたゲームエンジンはAtlasエンジンと命名されており,その名前からかなり地形の表現に優れているのだと察せられる。実際,地形は1メートルにつき16ピクセル,1画面につき20万ポリゴンを表示可能で,建物なら最大で1700ポリゴン,樹木でさえ600ポリゴン,兵士にいたっては8000ポリゴンで制作されているのだ。一般的なアドベンチャーゲームのキャラクターでも5000〜6000ポリゴン程度が普通だから,RTSとしては驚くほどのポリゴン数であることが分かる。なお現在公開されている画像には古いものが多く,その10分の1ほどに縮小したモデルを使っているそうだが,それでもかなりの美しさである。
 このため「Medieval:Total War」のようなゲームとは違い,プレイヤーが一度に生産できるユニット数はそれほど多くない。1画面につき200ユニットほどが表示可能らしく,カメラをズームインさせるほどギクシャクするかもしれない。
 さらにHigland Warriorsでは,もはやドイツの伝統芸能ともいえるテクスチャやアニメーションの細かさも伺える。ゲーム上のすべてのものは影を作るし,しかもどの影も同じ形にはなっておらず,きちんとキャラクターの動きに合わせられているし,建設中の施設にもちゃんと影が描かれている。また施設が作られている様子ばかりか,攻撃を受けて破壊される有様もこと細かく表現されていて,破壊だけでも30パターンのアニメーションが用意されているらしい。風車の中を覗くと石臼が動いているという描写にいたっては,まさにマニアックという表現がピッタリだ。

 ただ当然必要なマシンスペックは高くなりそうで,現在推奨されているのはPentiumIII/700MHzとGeForce3以上のビデオカードとなっている。ちなみにSoft Enterprises社の公式サイト「こちら」からこのゲームのエンジンを使ったFPS「Kilt Invaders」をダウンロードできるのだが,前述の推奨スペックを十分クリアしているはずの筆者のマシンでさえ満足なプレイが出来ないほどカクカクしてしまう。まだチューニングしていない状況なので仕方ないのだろうが,1ユニットにつき8000ポリゴンという"目玉"がボトルネックになってしまう可能性も否定できない。
 Kilt Invadersのビジュアル面で物足りないのは,水面の効果が昔ながらのタイルベースになっていること。光りの反映や波紋など,DirectX 8世代で一般的な効果が見られないのだ。ただ,これも製品版までに改良したりパッチアップデートすることもあるので,このKilt Invaderに関してはあくまでゲームが出るまでの余興と考えるべきだろう。ゲーム中のカットシーンは豊富で,おおよそ80に及ぶムービーがリアルタイムで表示される。
 最後になったが,このゲームで忘れてならないのが秀逸なインタフェースだ。カスタマイズの幅が広く,Customizable GUI(C-GUI)と呼ばれているほどである。ここのボタンやウインドウは,カーソルを合わせてAltキーとMキーを押すことで画面上のどの位置にもドラッグできる。さらにCtrlキーを使えば,移動したボタンやウインドウをグループ化してまとめてくれるという細かさ。これまでプレイヤー自身が親しんできた,別のお気に入りソフトに似せたレイアウトに仕立て上げられるのである。

 歴史好きのRTSファンなら気になって当然のHighland Warriorsは,欧米では2003年1月末に発売される予定だ。日本では今のところ発売元が決定していないようなので,プレイするならしばらく輸入版に頼ることになりそう。RTSの良作が次々と発売されている中で,Highland Warriorsはどこまで健闘できるだろうか。
 なお,ちょうど本日(2002年11月22日)当サイトの「こちら」Highland Warriorsの体験版をUpしたので,ぜひ手持ちのPCでどれだけ動くか試してほしい。

余談:スコットランドの歴史

 もともと現在のスコットランド地方には"ピクト人"と呼ばれる民族が生活していた。人種としてはケルト系だったようだが言語的にはゴール語族に属し,体中を鮮やかな入れ墨で覆い,また航海術に長けていたという。ローマ人の北進を撃退し,有名なハドリアヌスの壁を築かせたのも彼らだ。
 しかし,9世紀になって北欧からのバイキングの侵略が増加するに従いピクト人達の体力も消耗していき,ピクト王家はアイルランド地方から渡って西部に定着していたスコットランド人達に攻略されてしまうことになる。こうして,西暦844年にケニス・マクアルピンによってアルバ王国が建設される。ピクト人は次第にスコットランドの文化に融合されていき,やがてアルバ王国もスコットランド王国へと成長していく。

 それからしばらく平和な時代が続いていたが,13世紀までには各地で諸侯達による対立や小競り合いが頻繁に起こるようになり,そんな中でアレクサンダー3世が王位を継承する。彼は東海岸に定住していたバイキングを追い払ってスコットランドの基盤を確固なものにしたが,王妃や息子達に先立たれしまい,1286年に没したのちに王座に座ったのは,ノルウェーの王子と結婚したマーガレット妃。しかし彼女も1290年に病で倒れ,スコットランドは再び混乱に陥ることになる。
 その隙に乗じたのが野心溢れるイングランド王エドワード1世で,スコットランドに内政干渉しながら政治的権限を強めていく。内乱鎮圧を名目に送られてきたイングランド兵達は横暴を重ね,「スコットランドの魂」とまでいわれた"運命の石"を略奪。スコットランド人の間に反乱の機運が高まっていくのだが,ここで登場するのが家族を焼き討ちされ復讐に燃えるウィリアム・ウォレス。そう,映画ブレイブハートの主人公になった人物だ。身分の高かったロバート・ザ・ブルースやジョン・コミンのような諸侯よりも人気が高く,その人望と行動力でスコットランド人を動かし,数で圧倒的に優勢なイングランド軍を何度も撃退したうえヨーク地方まで逆侵略を試みる。だが映画でお馴染みのように,1305年には火を吹く巨人と恐れられた彼も捕らわれて,エドワード1世の手によってロンドンで処刑される。

 政敵だったコミンを暗殺したロバートは,1306年にスコットランド王を自ら名乗って王国の回復に乗り出す。1307年にはついにエドワード1世が他界して息子のエドワード2世がイングランドを継承するが,彼には父親ほどの能力はなかったらしく,取り巻きを優遇したために貴族達から見限られてしまう。ロバート1世を名乗ったロバート・ザ・ブルースは,スコットランドの旧領を次々と回復し,翌年までにはすべてのスコットランド地方からイングランド勢を追い出し,1314年に起こった天下分け目のバノックバーンの戦いでも勝利した。そして1320年,スコットランドは完全なる独立を宣言した。
 Highland Warriorsが描いているのは,この5世紀に渡るスコットランドの建国史である。この後両国は(名目上は)対等な関係を築き,United Kingdomと呼ばれる現在の国名も,未だに連合国家であることを示している。サッカーやラグビーで,未だにイギリスから複数のチームが出場権を得るのも,この伝統に起因しているのである。

 

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