G.I. Combat:Episode 1 - Battle of Normandy

G.I. Combat:Episode 1 - Battle of Normandy

Text by 奥谷海人

 「G.I. Combat:Episode 1 - Battle of Normandy」(以下,G.I. Combat 1)は,第二次世界大戦の渦中にプレイヤーを放り込む,本格派リアルタイムストラテジーゲームである。
 G.I. Combat 1のプロジェクトリーダー,エリック・ヤング(Eric Young)氏といえば,ウォーゲームファンの間でその名を轟かすゲームデザイナーで,以前Microsoft社から発売されていた「Close Combat」シリーズを手掛けた人としても知られている。Close Combatは,歴史事実を歪めずに高いゲーム性を維持するため"時間との競争"などの面白さを盛り込んだ秀作として,今も記憶に留めている人が多いはずだ。そのヤング氏が,Close Combatを制作したAtomic Games社を離れ,仲間と共に古巣の東海岸バルチモア地区に移って設立した会社が,G.I. Combat 1を制作するFreedom Games社である

 ヤング氏は,筆者との会話の中でClose CombatとG.I. Combat 1の類似性を認める一方で,直接的な続編ではないとも断言している。グラフィックスが3Dになり,リアルタイム戦闘の幅が出てきたことなどが大きな理由で,ちょっと意外に感じるかもしれないが,第二次世界大戦を扱ったストラテジーとしては,リアルタイムレンダリング技術が使われた初めてのゲームソフトになるそうだ
 そのほか,インタフェースの雰囲気やゲーム中に兵士ユニットが追加できないことなど,Close Combatの良い部分は完全に踏襲している。リアルタイムレンダリングばかりでなく,プレイヤーがそれぞれのユニットに乗り移る形で,第一人称視点でもプレイできるのも第二次世界大戦モノでは初めてだが,Close Combatの初期作品のようなトップダウンに近い視点でもプレイできる。タクティカルな部分で評価の高かったClose Combatのことを思えば,これらの類似性は決して悪いことではないと考えるべきだろう。
 ゲームの舞台設定は,タイトルにもあるようにアメリカで"D-Day"としても知られるノルマンディー上陸作戦。本作はこの出来事を九つのキャンペーンに分けて描いており,シングルプレイヤーモードは"コブラ作戦"とも呼ばれたコタンタン半島でのドイツ軍包囲網の突破から開始する。そのほか,マルチプレイヤー用に25程度のマップが用意される予定だ。

個々の兵士ユニットの心理的な部分をも描写

 ストラテジーには個々のユニットをプレイヤーが一つ一つ動かしていくタイプのものが多いが,G.I. Combat 1はグループ化した一個師団をいくつかに分けて動かしていく。師団にはリーダーとなるユニットを配置し,そのユニットがほかのユニットを統率するというシステムで,プレイヤーは戦場の全貌を把握して命令を出す司令官としての立場が強調されている感じである。

 プレイヤーは,1ゲームに最大で120ユニットを操作できる。扱えるユニットの総数はミッション後に与えられる"コマンド・ポイント"で決まり,そのポイントが高いほど,その次のミッションに多くのユニットを投入できるのだ
 これらのユニットはさまざまな武器や能力を持った兵士や兵器で構成されており,ヘルス,ストレングス,トレーニング,モラル,リーダーシップ,メンタリティ,そして得意分野というパラメータ,そして経験値やモラル値が用意されている。
 ユニットに与えられたパラメータの中でも,ひときわ異彩を放つのがメンタリティだ。これはClose Combatにも存在したパラメータで,個々のユニットの精神状態を示すもの。メンタリティは戦車を動かすクルーにまで与えられていて,そのユニットの心理状況によって行動パターンにも変化がみられるというわけ。
 この精神状態を良い順に記載すると,

・Fanatic……最も効率的で従順に行動する
・Heroic……行動力やモラルに多少のボーナスあり
・Normal……平均的な精神状態
・Hindered……少し頭に血が上っている状態。臨戦状態時の兵士に多い
・Pinned……生死を賭けた銃撃戦に心を奪われ,命令に従わないことも
・Cower……反撃は試みるが,怖じ気づいてその場から動けなくなっている
・Panic……命令も聞かず,まったく反応を示さない状態
・Berserk……あたり構わず発砲し,自分の生存のために無謀な行動に出る

 となっている。また,これらの状態をコンピュータが自動的に判断し,さらに"Good Soldiers" "Broken Soldiers" "Routed Soldiers"という3種類のモラルステージで表現される。
 Broken Soldiersは,心理的に問題はあるが,ほとんどの命令に従い精神的に回復する可能性のある状態。ただしそのまま銃撃戦などの激しい状況下に晒され続けていると,Routed Soldiersとなって逃げ出したり無防備に走り回って敵の標的になってしまうのだ。
 Brokenでもモラルの低い状態にあるユニットは,より命令を与えやすいリーダーユニットの影響範囲に留めておき,孤立しないように配慮しなければならないわけだ。プレイヤーの操作やユニットのバランスなどのある意味機械的な要素ばかりに重点を置かず,臨戦状態での各兵士たちの精神状態を模したシステムによって,ほかのリアルタイムストラテジーとは一線を画したものになっているのはいうまでもないだろう。

登場するユニットは,アメリカ軍とドイツ軍で200種類!

 オブジェクティブ(ミッションの目的)は,かなり正確に表現された3Dマップ上にフラッグという形式で表示されている。ミッションの終了後にはどれだけ効果的な戦争ができたかが確認できるウインドウが表示されるのだが,激しい抗争を戦い抜いたユニットにメダルを授与することでその戦功を認められるのが面白い。

 ミッション毎に選択できるユニット数がその前に遂行したミッションの評価で変化していくことは先に述べたが,そもそも選択可能なユニットタイプの種類が多く,そのミッションに合わせた師団を作るのは,それほど困難なことではない。
 アメリカ軍なら55種,ドイツ軍に至っては150種近いユニットが登場するようで,歩兵であれば保有できる武器によって大まかに一般兵士,重装歩兵,スナイパー,偵察,対戦車隊の五つに分けられる。ユニットの特殊技能を考慮し,アメリカ軍なら30mm M1 Garand (ライフル)やM1928 Thompson (サブマシンガン),50mm M2-HB (マシンガン),Sathcel Charge (爆弾)などが用意されており,ドイツ軍であればWalther P38 (ピストル),Mauser 98k ZF4 (スコープ付きライフル),Sturm-Machinegenwehr 42 (ドラムマシンガン),Panzerbuchse 39 (対戦車マシンガン)などが選択できる。また,ピストルからアサルトライフル,対戦車バズーカ, そして火炎放射器に至るまで,さまざまなものがバランス良く選べるのだ。

 兵器は,アメリカ軍のM4A1シャーマンやドイツ軍のパンツァー IVのバリエーションを含む,大小さまざまな戦車や対戦車砲,爆撃砲が用意されている。プレイヤーの本陣となるのはカンパニー・リーダーというユニットタイプで,両軍ともこのユニットが破壊された時点でゲームオーバーというわけだ。プレイヤーの命令下にある軍団の体系は,陣頭指揮するプラトゥーン・リーダーから,さらにアサルト・スクワッド,ライフル・スクワッド,レコン・スクワッド,エンジニア・スクワッドなどの師団に分かれていく。
 Close Combatシリーズでも物理面での作り込みが素晴らしかったように,G.I. Combat 1でも入念に武器の性能表現がなされている。それぞれの武器や兵器は40種類もの隠しパラメータが用意されていて,弾丸の初速や噴出重量,発砲速度,貫通力といった細かい事項が考慮されているのだ。もちろん,戦車などには鉄板の厚さや移動速度などの項目もあり,武器マニアの評価(?)にも十分耐えられるものになっている。

 プレイヤーがコマンダーとしてリーダーユニットの行動方針を決定する命令には,指示された場所まで直行していく"アサルト",緊急ではないが,より周囲に配慮しながら行軍していく"マーチ",歩兵なら腹ばいになって前進していく"コーション",そして指定した場所から動かず防御に専念させる"ディフェンド"がある。
 ユニットの攻撃はライン・オブ・サイト方式が採られており,オブジェや地形に疎外されていない視界領域にいる敵なら攻撃できる。
 緑が領域内にいる状態を示し,黄色であれば物体を挟んでいて命中率が下がってしまう状態を示す。黒なら視界領域外で,砲撃台などのユニットには,その攻撃範囲内であるかがオレンジで表示されている。ライン・オブ・サイトは,その兵士のメンタリティによっても距離が変化していくようで,よく統率された師団なら,相手に確実に先制攻撃を加えられるようになっている。
 最近では,シューティングゲームの「America's Army」で見られたが,"煙幕"は第二次世界大戦を扱ったゲームでほとんど無視されているのが現状だ。ゲームとは裏腹に,映画などでは頻繁に目撃されるが,実際あの時代には良く利用されていたものの一つである。G.I. Combat1ではこの煙幕も使えて,ライン・オブ・サイトの効果を巧みに操って状況を有利に運ぶことも可能だ。

 地形については,薄くモヤがかかったような地平線に立ち木やヨーロッパ風の建物が並んでいて,なかなかに雰囲気がある。ただ少し違和感があるのは,マップ上に低木で囲われたような敷地が幾重にも重なって用意されているということだ。当時のヨーロッパの田園地帯がこういう様式だったのかは知らないが,ゲーム的に考えると,ひと部屋ごとに敵が待ち伏せているようなシューティングゲームやダンジョン型RPGのような緊張感がある。そもそもレーダー外にいる敵の動きはまったく分からず,それでいて銃声や人間の叫び声が聞こえてくるような効果音が鳴り響いてプレイヤーの不安感を掻き立てられるため,この点でも通常の戦争ゲームとは違う味付けがされているようだ。

 マルチプレイヤーモードは二人がアメリカ軍とドイツ軍に分かれて戦えるモードで,先述したようにマルチプレイヤー専用マップも用意される予定だ。マップやシナリオを作成できるエディタもあるので,ノルマンディー上陸作戦だけでなく,それ以外の地域でのヨーロッパ戦線も熱烈なファンによってアップロードされることになるだろう。
 なお,2002年10月16日にゴールデンマスターが完成,アメリカでは2002年11月5日に発売が予定されており,販売はStrategy First社が行う。

G.I. Combatのデモ版紹介記事とデモ版ダウンロードは「こちら」からどうぞ。

c Freedom Games 2001