Painkiller

Text by 奥谷海人

 ポーランドの新鋭People Can Fly社が開発する「Painkiller」は,往年の「DOOM」や「Serious Sam」を思わせる軽快なアクションが魅力の第一人称視点型シューティングゲームだ。息のつく暇もないほどのアクションが,独自のPAINエンジンで美しく描画された世界で繰り広げられる。
 非リアル系FPSファン待望の本作は,快心のヒットになり得るだろうか?


天国から締め出された主人公が大暴れするアクションシューティング

 今から10年ほど前に登場した「DOOM」によって,FPS(第一人称視点型シューティング)というジャンルが確立されたが,その後完全3Dグラフィックスを実現させた「Quake」やストーリー性を加味して新境地を開いた「Half-Life」などの流れの中で,目の前に現れたものを全部撃ち殺す,という単純明快なゲーム性は薄れていった。
 そのアンチテーゼとしてリリースされた「Serious Sam」はスマッシュヒットとなったが,今回紹介する「Painkiller」も同じ匂いを持つ作品に仕上がってきた。ゴシックとヘヴィメタルが合わさったような世界観を持つPainkillerは,「DOOM III」は実はこうあるべきだったのではないか,とさえ感じさせてくれる
 People Can Fly社は,2002年に設立された新しい開発チームだが,元々ワルシャワベースのMetropolis社で「Gorky 17」(アメリカでは「Odium」としてリリース)といった作品を手掛けていたメンバーが集まっている。コンポーザなど外注を含めても20人という少数部隊ではあるものの,技術畑として赤丸急上昇中の東欧らしい活気がある。販売は,2003年のE3でDreamCather Interactive社が権利を射止めている。

 Painkillerの主人公は,交通事故で命を失ったばかりのダニエル・ガーター。同じく事故で他界した妻を追って天国の階段を上ってみれば,なんと入り口の門が閉ざされてしまっている。まさに死人に鞭打つような展開なのだが,こんな苦行にダニエルが立たされてしまったのも,時を同じくして地獄界から魔物たちが侵攻を開始していたからだ。
 そこでダニエルは,あの世で愛妻の顔をもう一度見るために,地上界の制覇を目論んで湧き出した化身達と戦いながら,自分に審判が下るのを待ち受けるのである
 ちなみにダニエルという名前の語源は,ヘブライ語で「神の審判を受ける者」という意味。このような宗教概念がゲームの各所に散りばめられているのが想像できるだろう。

 ダニエルは,なぜ自分が天国への到達を許されなかったのかという疑問を抱きながらも敵と戦っていくが,ストーリーラインは,ゲームプレイと違和感なく共存できるように配慮されている。
 その一例となるのがヘルス値の回復で,敵を倒すとその魂が緑色の煙となって浮かび上がるのだが,これを確保することで回復できるのだ。つまり,死体を残さないことでフレームレートの無駄な消費を押さえているばかりでなく,マップのあちこちに散らばるヘルスパックの不自然さも解決してしまっているわけ。
 ただし,それらは魔界に汚された魂であるため,100個の魂を集めるごとに一定時間プレイヤーキャラクターがデーモンに変身してしまう。開発チームは,このモーフィング効果はかなり見せ場になると話しているが,実際にどのような作用をもたらすのかは公表されていない。


高性能の独自グラフィックスエンジンと,HL2ばりのラグドール効果

 すでに何度か書いているように,Painkillerはプレイヤーの条件反射に依存したスリリングなアクションゲームとなっている。綺麗なグラフィックスのゲーム世界を眺めている時間もないほど大量のモンスターが襲いかかり,常に移動とマウス左ボタンの連打,そしてヘルス値を確認しておかなければならないといったシチュエーションが続く。
 こう書くと,昔から「大味なゲームプレイ」などと日本でも酷評されてきたシステムそのものだが,実際には,プレイヤーの「爽快感」と"瀕死状態でのプレイ"による「うっぷん」が,奇妙かつ絶妙なバランスとなっており,そこから生み出されるスリルは,そう簡単にはマネできない魅力を放っている。

 People Can Fly社は,このPainkillerのために独自のPAINエンジンを開発。DirectX 8.1bとDirectX 9.0をコアに,霧に質感を持たせるVolumetric Fogや水面の反映など,非常に美しいものに仕上がっている。
 キャラクターモデルはコミック調ながらも精巧に作られている。一度に表示されるモンスターは,50体から100体くらいになるとのことで,通常のモンスターキャラクターでも4000ポリゴン,ボスキャラクターなら8000ポリゴンで描かれることになる。
 静的な光源にもGlobal Illumination Lightmapping効果を使用していて,ソフトシャドウの実現も可能だ。Dynamic Per-Pixel Lightingのようなテクニックも,爆発時やフラッシュライト,武器などの効果に限定しているため,過度の使用によるプラスチックのようなスペキュラー効果になっておらず,かなり有機的でくすんだ雰囲気が保たれている。
 テクスチャは2048×2048の高解像度なものまでサポートしていて,とくにサーチライトやステンドグラスから漏れる光の表現ができるProjected Lighting効果は,ゴシックなゲームの雰囲気を盛り立てている。

 このグラフィックスレンダラの開発には2年をかけたそうだが,物理面を担当するのは「Half-Life 2」と同じHavok Game Dynamics SDKだ。そもそもPAINエンジンはHavokを中心にデザインされていたほどで,銃弾に命中した敵が後方にスライドしていったり,ロケットランチャーの爆裂で吹き飛んでいったりする。
 とくに,大きなハンマーで柱や石像をなぎ倒しながらプレイヤーに向かってくる巨大なボスキャラクターなど,見ていてドキドキさせられる。かといって内臓が飛び出すなどのグロテスクな表現は抑え気味で,不快な気分になることもなく楽しくプレイできる。
 被弾によって飛び散る木片や敵の投げる武器が,かなり画面を賑やかにしている。戦術の物理効果はこのような小型オブジェクトにも反映されており,別のオブジェクトにぶつかれば違う方向に飛んでいくし,木箱は爆発によって燃え出したりする。もちろん,モンスターが吹き飛んだり階段から落ちていく様子は,Half-Life2と同じように体をくねらせながらのラグドール効果を鑑賞できる


ユニークなゲームモードを搭載したマルチプレイヤーモード

 シングルプレイヤーモードは24種類のマップで進行していき,ある程度スクリプト化された演出でストーリーが語られる。ゲームはニューオリンズ風の石櫃が並べられたような墓場から始まり,修道院からベネチアなどに足を運ぶことになる。このへんは,DOOMというよりもQuakeのゴシック風な世界観に近いかもしれない。
 登場するモンスターは,ガイコツの修道僧や兵士,ゾンビなどのアンデッド系のものが多くなるようで,中には空中から飛来して死ぬまで負いかけてくる魔女などもいる。また,見るからに恐ろしいボスキャラクターと対峙するシーンも合計で五つあり,単なるFPSではなくホラーアドベンチャーの要素も兼ね備えているのだ。

 Painkillerでは,「Max Payne 2」や「Trinity」などで人気の(映画「マトリックス」のような)バレットタイムを発動可能だ。これは,プレイヤーキャラクターの移動速度はそのままに,モンスターだけがスローな動きになるもので,5秒間程度自由に攻撃したり動きまわったりできる。

 ゲームに登場する武器は,ゲームタイトルと同じ"ペインキラー"という三つ股のブレードが取りつけられたものや,ニトロ管も発射できるショットガンなど5種類程度。かなり種類が少ないのは,バリエーションを増やしても使われない武器が多い現状を考えてのことだと説明されている。しかし,各武器はマウスボタンでプライマリとセカンダリを使い分けられるようになっており,実際には倍のパターンになっている。
 またマウスの左右ボタンを連続してクリックすれば,コンボ技を発動できる。例えばショットガンの場合,右クリックでニトロ管を放出した直後に,左クリックでショットガンを発砲すれば,着弾以前に強大爆発を起こせるようになる。狙って使うのは難しそうだが,敵がバレットタイムで固まっている状態でなら,面白いように決められるはずだ。

 マルチプレイヤーモードは32人までのインターネット/LAN対戦をサポートしており,GameSpyのサービスに対応している。
 デスマッチやチームデスマッチに加え,面白いのが同社の名前を冠したPeople Can Flyモードだ。これは,1対1のデスマッチモードの変形で,プレイヤーに与えられるのはロケットランチャーのみ。しかもキャラクターが空中に浮いている状態でのみダメージを受ける。つまり,ロケットランチャーで相手を飛ばしてさらに攻撃を加えるという戦いになり,ここでもHavokの特性が発揮されることになりそうだ。
 また,ほかにも二つのマルチプレイヤーモードが存在しており,一つは,すべてのプレイヤーがサーバーがランダムに用意した武器しかもてないというVooshモード。もう一つは30秒間ずつアーマーを装着でき,ゲーム終了時にアーマーを着ていたプレイヤーが勝利するというThe Light Bearerモードである。どのモードも非常にユニークで,じっくり試してみたい気にさせてくれる。

 Painkillerは,激戦が予想される2004年3月(海外)の発売が予定されている。来春といえば「DOOM III」や「S.T.A.R.K.E.R.:Oblivion Lost」,さらには「Battlefield:Vietnam」「Serious Sam 3」などもリリースを控えているし,「Half-Life 2」の遅延から起こる玉突き効果に巻き込まれてしまうことだって想像できる。しかし,「Will Rock」や「Devastation」がなし得なかった爽快アクションのエッセンスがうまく配合できていれば,純粋FPSのオリジナル作品では久々のヒット作になる可能性は秘めている
 なお,「ここ」「ここ」で紹介したように,日本ではエムスリイエンタテインメントからの発売が発表されている。まだ発売日は発表されていないが,近々何かしら続報をお伝えできるだろう。当サイトの「こちら」に記事一覧があるので,ぜひご覧いただきたい。

 

*ゲーム画面はすべて開発中のものです。また,本記事の内容は製品版では変更される可能性もあります。ご了承ください。

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