「ディヴァイン・ディヴィニティ 〜完全日本語版〜」
=プレビュー第二回:クエストの魅力=
Text by Kawamura
※記事中のScreenshotsは,すべて開発中のものです。ご了承ください。
forGamer編集部で最初に「ディヴァイン・ディヴィニティ」(以下,DD)をプレイしたのは,Iwahamaであった。シナリオ重視型のシングル専用RPGということで,さすが英会話学校に通っている人は違うなぁと思いつつ,筆者は隣の席のIwahamaが楽しそうにプレイするのを横目に眺めていた。が,彼はすぐにプレイを断念してしまったし,私もその地味なゲームを熱心に横目に眺めていたわけではなかったので,わりと即座に忘れてしまった。
次に編集部内でDDの話題がのぼるのは,日本語版開発途中バージョンが送られてからである。まだメッセージの半分以上が英語のままのバージョンに,3名のforGamerスタッフが投入される。それからわずか数日で,編集部内に「DDすごいよ!」「やばいよ!」「面白いよ!」という声が飛び交うようになる。こうしてDDに魅せられた編集部員は,超大作揃いでよりどりみどりの12月のほとんどをDDに費やしてしまうのである。シングルRPGに没頭するという,もう何年も忘れていたあの懐かしく貴重な感覚が,DDによって鮮明に甦ったのだ。
■この意外なタイトルが,実は夢のRPGだったのだ
このプレビュー記事は,「クエストの魅力」と題してDDのストーリーテリングの魅力を述べる。前の部分でDDの基本的な概要と戦闘システムについては触れているため,今回はいきなり本題に入っていきたい。
DDの物語は,記憶を失った主人公が見知らぬ村で目覚めるところから始まる。そしてもちろんファンタジーRPGの御多分に漏れず,いずれはドラゴンやら悪魔やらをちぎっては投げる世界規模への戦いへと身を投じていくことになる。そこいらへんは,従来のRPGとおおむね同じだ。
DDは,何か一つの要素に突出していない。戦闘,アイテム収集,育成,物語,フィールド,ダンジョン,情報収集,寄り道,そのすべてが詰まった作品である。だが,それでも敢えて何か一つ最大の特徴を挙げるとすれば,それはクエストにあるといえる。大きなものだけで約200といわれるクエストからなる,DDの壮大なシナリオ。各クエストには始まりと終わりがあり,達成したクエストは"達成",失敗したクエストは"失敗"とクエストログに永遠に刻まれる。このクエストのつながりが,1本の長大な物語を紡いでいくのである。
このクエストによるシナリオシステム最大の特徴は,次々と発生するクエストのうち,どれがエンディングへと通じるストーリーの本筋(メインクエスト)で,どれが脇道(サブクエスト)なのか,よく分からないということだ。もちろん明らかに重要そうなクエストもあれば,箸にも棒にもかからないようなお使いクエストまで内容はピンキリである。だが一見どうでもよさそうな小クエストがメインクエストの一部の場合もあるし,世界の核心に迫る大クエストなのにメインとはまったく関係ないケースもある。自分が物語的にどれほど前進しているのか,本当に正しい道を歩んでいるのかよく分からない。プレイ時間40〜200時間といわれる理由も,主にここにあるのだ。
あちこち歩き回って人と出会えば,抱えるクエストは雪だるま式に広がっていく。牧歌的な雰囲気の漂う農村地帯を歩いていれば農民に農作物に関するクエストを頼まれるし,町の娘さんからは駐屯地で兵役に就いている恋人に手紙を届けてほしいといわれる。放火や暗殺を頼まれたり,盗賊ギルドに入る手段もある。物乞いの子供に泣き落とされ,小銭を恵んでやると「バカだこいつ!」といって大勢の子供に囲まれてしまう。酔っ払ったかのような騎士に絡まれることもある。普通に物語を進めている限りは発生しないようなラブロマンスもある。次にどの街へ向かってどのクエストを進めれば世界のためになるのか,さっぱり分からない。いや,別に世界のことなんか気にしなくてもいいのかもしれない。この果てしない行動選択肢が用意された冒険はDDならではのクエストシステムが成せる業(わざ)であり,制作者が血反吐を吐いて用意した膨大なクエスト量のおかげである。かつて「ルナティックドーン」などが実現しようとした"自由度の高いRPG"に,高い密度を保ったまま最も近い理想へと到達した作品がDDなのである。
■ファンタジーならではの種族が理想的に住まう世界
 |
DDの舞台となるリヴェロンの世界には,代表的な七種族が住んでいる。人間,魔術師(種族ではないが,ほかの種族と区別されている),エルフ,ドワーフ,リザード,オーク,インプの7種族は,縄張りとイデオロギーを衝突させながらも,今のところなんとか暮らしている。この七種族の存在が物語の中枢に関わってくるのだが,DDの素晴らしいところは,この七種族の生き様を言葉だけでダラダラと説明しないところだ。地図上に配置された絶妙な勢力図は,口では何も語らずとも各種族の関係を顕著に表している。ドワーフの集落に行けば「いよいよエルフと戦争か?」とか「人間とオークが戦争らしい」なんて話ばかりしているし,エルフの集落でも「ドワーフは許せん」とか「どの種族に味方すべきか」なんて世間話で持ちきりである。
プレイヤーが目覚める最初の村アレロスは,実はかなり特殊な村だ。ここは6人のヒーラー(と商人)が住まう医療の村で,しかも人間,魔術師,ドワーフ,エルフ,リザードという各種族が混在している。いわゆる種族を超えた聖域で,誰もがそこそこ仲良く暮らしているのだ。ここで各種族について深く学べるというわけではないのだが,人種差別的な習慣について簡単な基礎知識を身につけられる。
主人公は人間ということもあって,7種族のうち人間と真っ向対立中のオークが最も敵性が強い。リバータウンと呼ばれる地域の南部には人類の前線基地たる野営地があり,その奥には精鋭がひしめくオークの野営地がある。NPCのアルゴリズムの賜物でもあるわけだが,人間の陣営とオーク陣営の最前線で出会った互いのNPCは戦闘に突入する。この地域は方々で人間の兵士とオークが戦闘を繰り広げており,地面には死体や血が自然と散乱し,最前線の惨状を物語るのである。
ほかにもリザードはリザードの勢力地,インプはインプの根城といったエリアがある。こういった住み分けは,「DiabloII」のような単なるステージモンスターとは一線を画する。彼ら種族は確かにそこの住人であり,そこで生活しているのだという"空気"があるのだ。もちろん彼らは自分達の縄張りから一歩も出ないというわけではない。森の中では腹を空かせたオークがイノシシを一生懸命追い掛け回しているシーンをよく見かけるし,インプというのは一人で世界を旅して回るのが好きなんだなぁという習性も感じさせる。最大の勢力を誇る人間の中にも,富豪と貧民の格差が大きく感じられる分布となっている。DDは,実に社会的なゲームだ。
 |
 |
------------------------
この深い多民族社会の上に200ものクエストが用意されたRPGが,DDという作品だ。ストーリーに関して詳しく解説するのは野暮というものなので,なんとか概要のみを解説したのだが,うまく伝わっただろうか。後半では物語もあっと驚く変容を遂げ,印象に残る強力な敵が次々と現れ,意味深なエンディングへとつながっていく。単なる小クエストが詰まったおつかいRPGなんかとはまるで異なるので,誤解しないように。
次回はいよいよアイテム編。これだけ深い世界に,秘宝クラスの武器や防具が眠っていないわけがないじゃないか。物欲と収集欲を激しく刺激するDDのアイテム集めの魅力に迫る。
→「ディヴァイン・ディヴィニティ 〜完全日本語版」の当サイト内の特設ページは,「こちら」
(c)2002 Larian Studios. All rights reserved.


|