「オンラインゲーム専門部会」(SIG-OG)が特別講演会を開催 - 2004/06/21 21:53

 2004年6月19日,特許庁など政府関係の施設が建ち並ぶ東京都千代田区の霞ヶ関ビルで,「オンラインゲーム専門部会」(以下,SIG-OG)による特別講演会が開催された。
 SIG-OGは,2003年7月に設立された「ブロードバンド推進協議会」(以下,BBA)に属する研究機関。オンラインゲームの開発や運営に関する研究を行う組織だという。
 当日は,ソウル中央大学経営戦略学科助教授である魏晶玄(ウィ・ジョヒン)氏ほか,コーエー執行役員の松原健二氏,立命館大学政策科学学部助教授の中村彰憲氏らを招き,日本と韓国,そして中国のオンラインゲーム市場の現状報告を中心にしたさまざまな講演/議論が行われた。



オンラインゲーム市場の現状を報告:日本のオンラインゲーム市場は150億円前後

 最初に行われたのは,ウィ氏による「韓日中オンラインゲーム産業の向上と今後の発展の可能性」についての講演。韓国を中心としたオンラインゲーム産業の現状と,今後の展望についての報告/発表が行われた。
 ウィ氏は,アジア各国でオンラインゲーム市場が立ち上がっている中,なぜ日本が(オンラインゲーム市場の成長という意味で)立ち後れているかについて,「コンソール(コンシューマ)ゲーム市場の有無」「ユーザーのPC操作能力」「海賊版」という三つのキーワードを取り上げ,それを軸に日・韓・中を比較。すでにコンシューマゲーム市場が存在し,またPC房(ゲームに特化したインターネットカフェ)などといったPCの操作を習得する施設がない日本や北米では,オンラインゲーム市場の成長は厳しいという見解を示した。
 ウィ氏は続いて,韓国ゲーム業界におけるゲーム会社のポータル化や,Yahooなどのオンラインゲーム事業への進出といったトレンドを報告。アバターやチャットといったコミュニティサービスと,オンラインゲームが本格的に融合に向かっていると語った。
 ウィ氏の講演の中で興味深かったのは,日・中・韓におけるMMORPGプレイヤーの特性の違いについての分析だ。簡単に言うと,PKやレベル上げに対する執着/情熱は中国,韓国,日本の順に高く,コミュニティに対する要求(仲良くするという意味で)の高さは日本,韓国,中国という先ほどとは逆の順序になっていること。
 まぁここまでは今さら驚くほどのことではなく,「そうなんだよね」というレベルなのだが,興味深いのはそこから先。なんと中国では有料のマクロ(チート)プログラム市場が急成長しており,メーカーによっては,ゲームシステム自体にマクロを取り入れる動きも見せているという。こういったニーズは,おそらくゲーム内のアイテムを現実のお金で取り引きする"リアルマネートレード"と密接に絡んだものだと考えられるが,ウィ氏は「法整備など課題はあるものの,リアルマネートレードはオンラインゲーム市場における新しい市場となる可能性があり,ゲームメーカーは真剣かつ積極的に取り組むべきだ」と言う。
 この意見には賛否両論あるだろうが,中国において今後この問題がどう進展していくのか,その動向は注目する価値がありそうだ。





 ウィ氏の講義が終わったあと,少しの休憩を挟んで,コーエーの松原氏,立命館大学の中村氏を加えたパネルディスカッションが,IGDA日本の新清士氏の司会で行われた。
 そのパネルディスカッションの中で,とくに参考になる見解を披露していたのは,コーエー松原氏だ。松原氏は,まず「信長の野望 Online」の登録者が8万5000人以上,有料課金者数が5万人以上,そして同時接続者数が約2万人になっていることを報告。"この数字には満足していないが"と付け加えながらも,「プロジェクトとしては成功といえる状況。年間で7億円程度のキャッシュを生む計算になる」と発表した。
 松原氏は,日本のオンラインゲーム市場に関しても話を進め,「日本のゲーム市場の規模は年間約3000億円。その中でオンラインゲーム市場は約5%の150億円程度」とし,「ビジネスとしては魅力的なマーケットとは言えない。日本のオンラインゲーム市場はまだまだこれからの段階だ」との見解を語った。
 続けて松原氏は,「例えば信長の野望 OnlineのGMサポートは,日本では16時間体制だが,韓国ではプレイヤーの要求が厳しいため,24時間にせざるを得ない」など,GMを始めとした人件費増大の問題や,中国ビジネスにおける許認可の問題など,アジア展開におけるさまざまな課題を指摘。松原氏の話は,コーエーが今まさにアジアのオンラインゲーム市場に向けて進出せんと準備中の段階だからか,具体的かつ的確な指摘が多く,興味深い内容が多かった。さすがは日本のゲームビジネスの第一線に立つ人物といったところだろう。

 ディスカッションの途中からは,リアルマネートレードなど諸処の問題にも話題が移ったが,それほど踏み込んだ議論には発展せず,多くの問題点を再確認するといった内容にとどまったのが残念。次回のディスカッションでは,焦点を絞った議論を願いたいところである。




研究者の課題は,まず有益な情報ソースを獲得すること

 さて最後に,若干の補足と筆者の私見,そしてSIG-OGなどの研究活動に関しての指摘を行って,今回の記事を終りにしたい。

 まずはSIG-OG初の具体的な活動となった今回の特別講演だが,講演の全体的な内容としては,いささか物足りなかったと言わざるを得ない。
 聴衆があまりオンラインゲームに詳しくない人ばかりなら,このようなレベルでも構わないかもしれない。しかし参加していた人の多くは,実際にオンラインゲームを運営する業界関係者である。今さらながらの問題確認や現状報告などには,それほど興味が無いのではないだろうか。
 直接ビジネスを行っている人々が"研究会"に望んでいるのは,より突っ込んだ"具体的な話"なのではないかと思う。

 また"具体的"云々に関する部分で言えば,研究者の研究/調査を支える"情報ソース"の貧弱さも大きな問題に思える。というのも,ウィ氏と中村氏の両名とも,新聞やいわゆる公式発表と呼ばれる"表面的に出てくる情報"を自身の見解の主なよりどころとしていると思われること。彼らは具体的な数値/実態を把握できていないのではないか,と感じたのだ。
 MMORPGプレイヤーの行動特性に関する見解を披露していたウィ氏にしても,ゲームメーカーとの直接的なやり取り(ログの調査など)はほとんど行っておらず,アンケートなどによる調査がメインだという。
 もちろん,筆者もアンケート調査を一概に否定するワケではない。しかし,オンラインゲームプレイヤーの行動を調査するというのであれば,ログの詳細な解析や,会員の情報に基づいた統計的な調査は必須ではないだろうか
 例えば,今回行われたディスカッションの中で,なぜコーエー松原氏の発言がひときわ"リアリティのある内容"だったのか? おそらく,ログや会員情報などといった"具体的な情報"を分析し,自身(自社)の知識(ノウハウ)としているからだろう。

 そういった意味でも,研究者はまず"よりよい研究素材"(データ)の獲得を目指すべきだ。どんなに優れた料理人でも,素材が悪ければ本当に素晴らしい料理は作れない。消費者行動の分析などといった研究に関しても,同じようなことが言えないだろうか。
 とはいえ,ログや会員情報などといった重要な情報(統計的なデータ)を企業が外へ出すかといえば,それはそう簡単なことではないはずだ。なぜなら,そういった情報やその分析によって得られる知識(ノウハウ)こそが,企業にとっての大事な"宝"そのものであり,おいそれと公開できるような代物ではないからだ。そして企業とは,本質的に情報/知識を独占したがる(当たり前だけれど)。

 今後,オンラインゲームの研究機関であるSIG-OGが"実質的な成果"を出すためには,ゲームメーカー各社とのより密接な連携は避けられない。そのためにも,SIG-OGがどういう形でメーカーと連携していくのか,まずはこの方向性をハッキリと定めるべきだろう。(TAITAI)


友達にメールで教えよう!
←Back to 4Gamer Top
←Back to News Archive