[GDC2004#16]ウィル・ライトのゲームデザイン講座 - 2004/03/29 22:05

〜レクチャー4:ウィル・ライトのゲームデザイン講座
Triangulation:A Schizophrenic Approach to Game Design

 ウィル・ライト(Will Wright)氏といえば,ゲーム業界では一目も二目も置かれている重鎮。「Sim City」から「The Sims」まで,まるでゲーム世界を公園の砂場に仕立て上げてしまう独特のゲームデザインで日本でも有名だ。
 そのライト氏が「Triangulation:A Schizophrenic Approach to Game Design」(三角模様:ゲームデザインへの統合失調症的アプローチ)というタイトルでレクチャーを行った。この題目から,いったいなんの話を進めるつもりなのかは検討がつかなかったが,そこは奇才ライト氏のこと。「君は大きな予算と優秀な開発チームを任されたプロジェクトのリーダー。しかし,小さな問題から始まった困難に直面し,まったく動けなくなってしまったときに,どう行動するべきなのか」という,リーダーとしての気構えを説く内容だった。

 ライト氏は,まず「ゲーム開発者とプレイヤーが話す言葉は,必ずしも同じではない」と語った。ゲームを作り出す側の思想や感覚を,ゲームを遊ぶ側がそのまま受け取るとは限らないということだろうか。そのために「デザイナーというものは,開発者とプレイヤーの共通言語を探しておくべきなのだ」と付け加える。こうして端的に自分達の作品を説明できることが,そのプロジェクトリーダーの任務として重要なのであり,自分の中で消化したゲームデザインの目的をすべての開発者に説明しておくことで,ちょっとした惨事にもチームで団結して対処できるのだという。
 また,自分の能力を補ってくれる人材を身近に置いておくのも良い手法だとし,ワンマン的に引っ張る現場を否定する。Maxis社の場合,ライト氏はリンゼイ・マックガウ(Lynsay McGaw)というアシスタントプロデューサーとの協力体制は欠かせないのだと説明した。彼女は,"ブレインストーミング"のように溢れ出てくるライト氏のアイデアを,ほかの開発メンバーらに分かりやすいように数ページでまとめ上げるという卓越した能力を誇る。またライト氏は男として,マックガウ氏は女性としての立場でゲームを見られるので,性別に関係のない広いファン層を見つけることができるのだという。
 それでも危機から抜け出せない場合はどうするか。「問題の主語,述語,形容詞を知っておくこと」「プレイヤーから見てどういう状態なのかを理解すること」「例えば,ゲームに詳しくない"自分の妹"にならどのように説明するかを考えること」「プレイヤーは天才であり,やっかいな人であると考えること」など,ライト氏らしい表現で説明していた。

 とくに面白かったのが,「いつも与えられたテーマで講義することが多いので,ちょっとくらい自分の好きなことを話させてください」と強引に話を切り替え,同氏が今一番夢中になっているというロシアの有人宇宙船についての解説が始まったこと。
 最初は,NASAのアポロやスペースシャトルと比較しながらロシア製宇宙船の簡略的で素朴なコクピットを皮肉っているのかと思ったが,実はライト氏はコクピットをインタフェースとして考えており,「どんどん複雑化して専門家にしか分からなくなったNASA製のコクピットよりも,宇宙船の居場所を知るための地球儀に似た器具のように,何十年も使われ続けたインタフェースのほうが優れている。これを生み出したロシアのエンジニアに敬意を表する」とまとめたのには感嘆した。
 最後にはライト氏が個人的に参加している地元バークレーのサークル「Stupid Fun Club」の企画したロボットのテレビ番組を紹介。どっきりカメラのようにレストランの従業員としてオーダーをとったり倉庫の裏路で壊れて助けを求めているロボットに対し,何も知らない一般人がどう対応するのかを調べるものである。
 「違う角度や少し離れた距離からプロジェクトを見つめてみる」というのは,ライト氏にしてはちょっとありがちすぎるコメントにも聞こえるが,これこそ長年同氏が作品の中で表現してきたことであり,彼のゲームデザインのすべてであるような気がした。(奥谷海人)


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