― 連載 ―

奥谷海人のAccess Accepted
2006年5月17日掲載

 5月10日から12日までロサンゼルスで行われていた,世界最大のゲームショウE3(Electronic Entertainment Expo)が終わった。入場時のチェックが例年より厳しくなったためか,今年は歴代のE3で初めて入場者が前年を下回ったとのことだが,それでも次世代ゲーム機や次期OSの投入で,新しい風を感じさせるゲームソフトが多かったのも事実。そんなE3を,改めて考察してみた。

 

E3 2006外伝

 

次世代ゲーム機戦争の中で健闘する,新作PCゲームソフト

 

 我々のような仕事に携わっている者にとって,1年で最も重要な,情報の掻き入れ時といえるE3(Electronic Entertainment Expo)も,怒濤のように過ぎていった。筆者は自宅へ帰り,こうして事後処理をしながら,今年のE3をどのように受け止めるべきなのかを思案している。
 ご存じのように,今年のゲーム市場は“次世代ゲーム機戦争”で先行したMicrosoftのXbox 360に対し,任天堂のWii,そしてSony Computer Entertainmentのプレイステーション3がどのような追撃を見せるかが焦点だったはずだ。もちろん,PCゲーマーにとっては,来年早々にリリースされる,Windows Vistaの登場でPCゲーム市場がどれくらい活気づくのかが注目すべきポイントとなっていた。

今年の会場で最も長い列を作っていた人気ブースは,「Spore」でも「Scarface: The World is Yours」でもない。コンベンションセンター内にあるStarbucks Coffeeなのだ

 E3で,それぞれのプラットフォームホルダーは,お互いの長所をうまく演出しながら各ハードウェアやゲームソフトを出展していたし,それはMicrosoftのGames for Windowsブースだって同じこと。ここ数年,同社はXboxを重要視していたため,Windows用ゲームソフトがなおざりにされる傾向にあったが,今年はWindowsとXbox 360が一つに統合されたブース構成となり,Xbox 360とWindowsでのゲームプレイ,およびゲーム開発に差がないことを強調するものになっていた。

 ソフトウェアのラインナップに目を向けてみると,毎年恒例のようになっている「メタルギアソリッド」の新作ムービーには相変わらずの大きな人だかりができていたし,コンシューマ機の新作発表をランダムに取り上げても「Halo 3」「God of War II」「鉄拳6」「ファイナルファンタジー XII」「ゼルダの伝説: Twilight Princess」「Heavenly Sword」,そして「Lost Planet」など話題性の高いソフトは多い。
 PCゲームでは,おそらく海外のゲームサイトではBest of Showを受賞するであろう「Spore」をはじめとして,「Battlefield 2142」や「Crysis」のようなElectronic Artsの作品に輝きがあったし,「Hellgate: London」「Neverwinter Nights 2」「Vanguard: Saga of Heroes」,そして「Aion: The Tower of Eternity」といったオンライン系のロールプレイングゲームのほかにも,「Microsoft Flight Simulator X」「Command & Conquer 3」「Company of Heroes」「Supreme Commander」「Sid Meier's Railroads!」「Medieval 2:Total War」など注目すべきソフトは少なくない。

イヤー・オブ・イノベーション?

 

 しかし,全体を見回すと,すでに発表済みのソフトが多く,“意外性”には乏しかったと言わざるを得ない。筆者の知るところでは,PCゲームの出展作品数は2005年と変わらない200本程度であったが,一部の大作を除いて,評価の難しい作品が多いと感じた。PC版も発売予定だというのにXbox 360版だけを展示していたり,初発表なのに2分程度のムービーしか展示されていなかったりというものが多かったのが原因で,実際,どれくらい期待して良いのか,我々取材スタッフも判断しにくいのである。
 本誌のE3 2006特集を読んだ人ならば分かるだろうが,今年はXbox 360やプレイステーション3をメインとする(「PC版もある」という程度の扱いのもの)新作ソフトを複数紹介している。マルチプラットフォーム化が,収益を少しでも増やすための現在のゲーム業界の流れであるから,これは仕方のないことなのだ。

CG映画のような雰囲気で,中世アラビア風の町で暗躍する主人公が登場するUbisoftの「Assassin's Creed」。人波を押しのけるように進んでいくキャラクター技術が目新しい

 そういったことを考慮しつつ,もう一度ポジティブにE3を眺めてみると,今年は「イヤー・オブ・イノベーション」(改革の年)であったのではないだろうか。もっと厳密に言うと,「HD(High-Definition)ゲーム発表の年」だ。
 高解像度のテクスチャを利用したゲームは,PCゲームでは珍しいことではないのだが,ショーフロアではあちらもこちらも液晶モニターだらけ。海外ソフトには,長年PCゲーム制作で培ってきたノウハウや,ハリウッドCG制作現場からの技術力流入が顕著で,グラフィックス面でのクオリティが高いゲームソフトが多い。
 そうした高解像度技術の恩恵を受けるのが「キャラクター」になるだろうか。
 HDによって,「より緻密にキャラクターを制作できる」ということは,キャラクター技術向上への投資に直結する。キャラクター技術とは,「ICO」「プリンス・オブ・ペルシャ」そして「Half-Life 2」を経て,アメリカ国内のゲーム開発者達に注目され始めているテクノロジーで,キャラクター描写のリアリティを洗練することで,プレイヤーのゲームへの感情移入を促進するゲームデザイン改革の一つである。3月のGDC(Game Developer Conference)でも,キーワードの一つとして多くの開発者の話題となっていた。

 高解像度化が,グラフィックスの相対的な質を向上させるだけなのに対し,キャラクター技術はゲームの面白さと密接に関係している。その観点から海外発のゲームに着目してみると,2K Gamesの「BioShock」,Activisionの「Tony Hawk's Project 8」,BioWareの「Mass Effect」,そしてLucasArts Entertainmentの「Indiana Jones 2007」などに高いキャラクター技術を見ることができた。本誌の特集でも取り上げたこれらのゲームの進歩は,まさに“次世代”を感じさせるものだった。今回4Gamerでは大きく取り上げなかったが,Ubisoft Entertainmentの“ペルシャ”チームが開発中の新作「Assassin's Creed」や,Electronic Artsの「Medal of Honor: Airborne」などにも,今後スポットライトが当てられていくに違いない。
 これらのソフトでPCゲームへの投入が確実視されているのはBioShockのみというのは寂しいが,この中から,実際に多くのソフトがPCでもリリースされるはずだ。そもそも,もはやプラットフォーム単位でゲームを眺める時代ではないということは,ゲーマーであればすでに認識していることだろう。

ブースベイブは「禁止」から「規制」に

 

 さて,E3が始まる前から参加者の間で話題になっていたのが,今年はブースベイブと呼ばれる色っぽいコンパニオンがいないのではないか,ということだ。「今年は各ブースに筋肉隆々のブースボーイズが溢れているのではないか」などと不安がる編集者もいた。開催前,主催者であるESA(Electronic Software Association)が,「ゲーム販売の促進とは関係ない」との理由でブースベイブによるプロモーションの禁止を発表したためだ。
 ロサンゼルスには女優志望のモデルが多く,いくらゲームと関係ないからといって彼女達の仕事が奪われるのは可哀想。確かにゲームの知識などかけらも持ち合わせていないだろうが,会場を華やかに見せる存在である彼女達は,いろんな意味で大切だ。

フラフープを使ったセクシュアルなダンスで,昨年に引き続き女性来場者の目を釘付けにしていたNCsoftのブースボーイ

 ところが,不思議なことに初日,入り口付近でホットパンツをはいた女性軍団を発見。しかも会場には,コスプレ姿で撮影に応じていたり,ワンピース姿で体をクネクネさせて踊っていたりするベイブ達が例年と同じ調子で活躍していた。「ブースボーイズ特集」の企画は吹き飛んでしまったが,これは嬉しい誤算である。
 勇気を出して,某周辺機器メーカーのロゴ入りタンクトップで豊かな体を包みつつ歩くブースベイブらの傍らにいた広報担当者に聞いてみたところ,匿名を希望しながらも,「業界の反発で“禁止”が“規制”になったのよ。確かに,昨年は行き過ぎた出展者も多かったようだけどね」とのこと。どうやら,水着や下着,ボンデージなどの衣装が禁止という“ドレスコード”で収まったようで,おそらく入場者の85%を占めると思われる男性達も一安心だ。

 

 

 


次回も,E3 2006からのネタを一つ。お楽しみに。

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。E3取材では,外に出る時間がもったいないため,全員がルームサービスを頼んで原稿執筆に励むことになる。ところがある晩,なんの拍子か,奥谷氏が頼んだ「煮込みハンバーグ定食」だけが来ない。朝から食事もせずに働きづめであるだけに,普段は温厚な奥谷氏も,さすがにこのときばかりはキレる寸前。しかもほかのスタッフは,奥谷氏の食事がないことを気にもとめないから始末が悪い。「オレがラグビー部の頃は,先輩が箸をつけるまで,食事なんかしなかった」と憤慨しきりである。とはいえ,我々にとってより忘れがたいのは,遅れて定食が届いたときの同氏の喜びようであろうか。えっへっへ,いっひっひと嬉しそうに食事の載った盆を自分の部屋に持ち帰る様子は,まあ,なんというか,ねえ。あれだけ喜んでもらえれば,作ったほうも嬉しいに違いない。


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