Sacred

Sacred

Text by 奥谷海人

 「Sacred」は,ゲームシステムもビジュアル面も「ディアブロII」を彷彿とさせる,ヨーロッパ生まれのアクションRPG。本格的なストーリーラインやマルチプレイヤーモードも持っており,このジャンルの王道をゆくプレイ感が魅力的だ。
 アンカリア王国を中心とした広大な世界で,ロールプレイを満喫しよう!


「パトリシアン」の開発元が,アクションRPGに初挑戦!

 1996年にリリースされた「ディアブロ」の印象は,未だに強烈だ。ディアブロによって,それまでのRPGのような謎解きや会話に重点を置いたプレイ感ではなく,"ハック&スラッシュ"と呼ばれるアクティブなスタイルが確立された。この系統は,もはやPCゲーム分野においてはRPGの中核的な存在になっており,現在でも「Star Wars:Knights of Old Republic」や「ディヴァイン・ディヴィニティ」など,安定したヒット作が登場している。
 2004年3月末にアメリカで発売される予定の「Sacred」も,リリースされたデモの評価も高く,ハック&スラッシュRPGのファンには気になる一作だ。

 Sacredを開発するのは,イギリスをベースにするAscaron Entertainment社。小規模の開発チームで,緻密なゲーム性で人気の「パトリシアン」や「ポートロイヤル」など,シミュレーションゲームでお馴染みだろう。現在は今夏に発売予定の「ポートロイヤル2」の開発も平行して行われている。
 作り込みが得意な同社の特色が,Sacredにも生かされているようだ。

 Sacredの物語は,星の領域(Star Region)にあるアンカリア(Ancaria)王国の王族であり,黒魔術師としても名高いシャダー(Shadder)という男が出発点となる。大地を血の海に変えた「同族戦争」とも呼ばれた大戦で,その魔術を使って形勢を有利にしたシャダーは,妹を生贄にすることで不死の肉体をも得る。しかし,その強大な地位を危険視するものも多く,ミストデールのメイジの一団に捕らえられてしまうのだった。
 一度は死罪になったものの,同族のよしみで王から恩赦をもらったシャダーは砂漠地帯に追放処分となり,その後に訪れた数百年に渡る平和の中で,この黒魔術師の存在は忘れられていく。しかし,いつしか砂漠のさらに奥にある山岳地帯には"シャダー・ヌール"(Shadder Nur)と名付けられた塔がそびえ立ち,そのウワサがアンカリア王国にも広まり始めるようになった。やがて,シャダーの魔力に支配されたゴブリンが地獄につながる門の封印を解き,死の軍団"デーモン・ウォーガナー"(Demon Worganer)を召喚したことで,混沌の時代の幕開けとなるのである。


広大な世界でキャラクターのコンボ技を発揮させる

 Sacredの舞台であるアンカリアの世界は,砂漠や湿地帯も含めた16地域からなる広大な地域。プレイヤーが自由に訪れられる町や村も多く,その周囲にはモンスターの生息する森やダンジョンがある。
 鳥がさえずりながら飛んでいったり,小川が流れていたりといった細かい描写や,昼夜の変化も表現されていることで,全体的に"生き生きとした"グラフィックスになっているのが特徴的だ

 ディアブロや「ダンジョン シージ」などと異なる部分は,最初からマップ上のほとんどの場所へ行き来できることだろう。「バルダーズ・ゲート」の初期作でもそうだったが,あまりにも広大な世界では,主要地以外で"中だるみ"することが多い。Sacredでは,それをどのように克服しているのか楽しみだ。
 旅行時間を削るために,マップ各地にはポータルが配置されていて,自由に瞬間移動できるようになっている。また馬で旅行できるようにもなっており,そのスピードを利用して走り続け,無意味な戦闘を回避したりもできる。もちろん,騎乗体制のまま攻撃することも可能だ。

 Sacredで選択できるキャラクタークラスは,男女3種ずつの計6種類。とにかく前へ出て戦う典型的な戦士タイプの"グラディエータ",弓使いの"ウッドエルフ",魔法と剣の両方を使いこなす"バトルメイジ"が男性キャラクター。魔法専門の"セラフィム",モンクやアサシン系の"ダークエルフ",そして一番ユニークなクラスといえる"ヴァンピレス"の3種が女性キャラクターだ。
 ヴァンピレスはヴァンパイアの女性名詞で,昼間は女騎士に,夜は吸血鬼になるという変わり種。ディアブロと同じくキャラクターの性別とクラスが固定しており,新しさがあるわけではないが,本来なら脇役のクラスになってしまいそうなものを集めた感じで面白い。
 各キャラクターの能力はクラスごとにフィックスされたものではなく,戦闘能力,敏捷性,集中力などのステータスを,ある程度カスタマイズできるのは有り難い。両手持ちや乗馬などの特技も設定できるようになっていて,バルダーズ・ゲートや「The Elder Scrolls III:Morrowind」の雰囲気に近いといえるだろう。

グラディエータ

強靭な肉体を持ち,どのような武器でも使える闘士。敵を放り投げる"Throw Away"や,喉元をつかみあげて顔を殴りつける"Face Punch"など,かなり乱暴なスキルを覚える

バトルメイジ

コンボ技が出せない唯一のクラス。しかし"Firewall"や"Stoned"のように敵の進行を一時的に止めたり,"Healing"のように治癒できる魔法を持ち,同時に剣も使いこなす

セラフィム

武器に火炎や電撃の属性を付加して敵にダメージを与える攻撃を得意としているクラス。"Holy Light"や"Earthquake"など,天災系の派手な魔法が見物だ

ウッドエルフ

レンジャーやハンター型のクラスで,複数の矢を使用できる。また,"Plant Control"で相手をがんじがらめにするなど,エレメンタル系のスペルも習得できる

ダークエルフ

多彩な武器を使う。視界を遮る"Fog"や"Bomb" "Mine"など敵を欺く攻撃が得意で,また"Bear" "Eagle" "Rabbit"など動物の名前が付けられた素手用のスキルを持つ

ヴァンピレス

昼間は一般的な騎士として戦うが,夜になると吸血鬼となり,敵の生気を吸い取って自身を治癒したり,かみ殺して自分の意のままに操ったりなどできる

 Sacredの戦闘システムの最大の特徴は,「刀剣封魔録〜封神演技異聞〜」のような,プレイヤーキャラクターごとに用意されたユニークなコンボ技が出せることだ
 特殊なムーヴや連結魔法を自分のものにするには,まず"Master of Combat"と呼ばれる町の師匠に教えを乞わなければならない。そして,このマスターから指示された通りの訓練をしたりスクロールを見つけたりすることで,新しいスキルを体得できる。このようにして見つけたスキルを,インタフェース上のアクションスロットに並べてコンボ技を作るのだ。
 登録できるスキルは,左クリック用と右クリック用を合わせて最大で10種類。しかしグラディエータは合計4種類のみとなっているなど,クラスによって登録数に制限がある。コンボ技はマナならぬパワーが消費されるので,画面のゲージを見ながら戦う必要もある。
 このコンボシステムは,本作のアクション性を高めるのに一役買っている。キャラクターが成長するに従って,クラスごとに独特のコンボ技を生み出していけるだろう。


マルチプレイヤーモードも用意された充実のゲーム内容

 Sacredのシングルプレイヤーモードは壮大なキャンペーンになっていて,すでに述べたように序盤からどこにでも行ける自由度の高さを持っていながら,メインクエストが30種類,シナリオとは直接関係のないサブクエストも200種類以上用意されている。また,なんらかのアイテムが取得できるような隠しダンジョンなどもいくつか存在していて,そこではメインストーリーでは登場しないような専用のモンスターが徘徊しているようだ。
 サブクエストや隠しマップは,村人らと会話することでプレイヤーが見つけていくようなスタイルとのことで,非常にオープンエンドなゲームになっていると予想される。メインクエスト以外はクリアする必要はないが,シングルプレイを存分に楽しむためにも,一つ一つしらみつぶしにクリアしていくのも一興だろう。
 地域別に用意されているメインクエストとサブクエストをすべて終了させた場合には,その地域は魔力から完全に開放されて,市外に現れるモンスター達が一掃されて平和が訪れる。

 マップに点在する町や村には,スキルを教えてくれるマスターのほかに,商人や鍛冶屋がいる。基本的に武器やアイテムを売買するのは商人だけで,鍛冶屋は武器と宝石やスクロールを掛け合わせるなどして,より強力なユニークアイテムを作成してくれる。
 多くのディアブロタイプのゲームでは装備品を使い続けていると劣化したりするが,本作では装備品は劣化しない。武器を修理するためだけに町に戻るというような無駄な時間は省かれることになりそうだ。
 Sacredには,ゲームの途中でプレイヤーの仲間になってくれるようなNPCもいる。連れ立ってクエストを行う場面もあるのだろう。

 Sacredに登場するモンスターは,オークやゴブリン,ジャイアント,ドラゴン,オーガなどファンタジーRPGでお馴染みの敵が多く,またオオカミやクマなどの野生動物や,シーフや戦士のような純人間系も多い。
 とくにストーリーにも深く関わってくるアンデッド系のモンスターが充実していて,スケルトンやゾンビ,ミイラ,グールなどの定番が続々と登場する。さらにそれぞれがバラエティに富んでおり,終盤に近づくにつれて防具と武器で武装したバトルゾンビや,砂嵐に変化するミイラなどとも対峙することになる。
 モンスターはある程度のAIも備えており,物陰を利用するなど戦略的に動くし,状況が不利だと感じれば逃げ出したり束になって襲ってきたりする。同じ種類や系統のモンスターでも,手にする武器や魔法,戦略が異なっていることもあるようだ。

 シングルプレイヤーモードは,一度ゲームを終わらせた状態でも,また一からプレイし直すことができる。プレイヤーキャラクターのレベルも上がった状態で始められるのだが,モンスターもレベルに応じて強力になっていたり,入手できるアイテムが一新していたりするのだ
 またマルチプレイヤーモードも用意されていて,インターネットやLAN経由で最大16人がプレイできる。協力してシングルプレイヤーモードのストーリーを進めていくCo-opでは,モンスターの能力や数がプレイヤーの人数やキャラクターのレベルによって変化する。ほかにもHack 'n' Slayというデスマッチもあり,極限までレベルを上げたキャラクター達を戦わせると面白いかもしれない。
 現時点ではディアブロのマッチングサーバー「Battle.net」ほどサービスが充実していないのが残念だが,ファンのサポート次第では大きく成長することもあるだろう。

 なにかとディアブロと比較してしまったが,SacredはほかのRPG作品の良い部分を取り入れながら,この手のゲームが好きなプレイヤーが心から楽しめるような充実した内容になっている。
 なお,3Dのキャラクターや効果を駆使しているために,Pentium4/1.4GHz以上,メモリを64MB以上搭載したビデオカードを推奨するなど,要求スペックは少々高めだ。
 ヨーロッパ圏では発売されたばかりで,近々アメリカでもリリースされる予定の本作。日本での発売は発表されていないが,今月中には輸入ソフトを取り扱っている小売店で入手できるかもしれない。
 アクションRPGの王道ともいえるプレイ感で,ファンの欲求に十分に応えている作品である。

 

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