― 特集 ―

タイトル

 ゲーマーにとって,Sound Blaster X-Fiがどういう位置にある製品かを明らかにするのに,思いのほか時間がかかってしまった。ここからは第1講のメインテーマ「Sound Blaster X-Fiはゲームの体感速度向上に寄与するのか」について,評価に入っていこう。
 さて,Sound Blaster X-Fiシリーズのラインナップは以下の4モデルとなる。

  • Sound Blaster X-Fi Elite Pro
  • Sound Blaster X-Fi Fatal1ty FPS
  • Sound Blaster X-Fi Platinum
  • Sound Blaster X-Fi Digital Audio

写真左上のメモリチップがX-RAMだ

 各製品の詳細については2005年9月7日の記事に詳しいので,そちらを参照していただきたいが,ざっと説明しておきたい。
 最上位となるSound Blaster X-Fi Elite Pro(以下X-Fi Elite Pro)と,その一つ下に位置するSound Blaster X-Fi Fatal1ty FPS(以下Fatal1ty FPS)は,64MBのキャッシュメモリ「X-RAM」を搭載。下位2モデルのキャッシュメモリ容量は2MBとなる。また,X-Fi Elite Proは外付けI/Oボックス,Fatal1ty FPSとSound Blaster X-Fi Platinumは5インチベイ内蔵型I/Oボックスが付属し,3モデルにはリモコンも付属。Sound Blaster X-Fi Digital Audio(以下X-Fi DA)は,デジタルサウンドデータ入出力に対応したアダプタのみが付属する。

 前のページで説明したように,そんな重装備でなくても,コンシューマ向けサウンドデバイスはほとんどがDS3D(≒EAX 1.0/2.0)に対応している。
 しかし,同時発生音数が増えれば増えるほど,ソフトウェア処理ではCPUの負荷が高まっていく。現在のところDS3Dのハードウェア処理を行っているのはSound Blaster Audigy/X-Fiシリーズ(ただし,一部製品を除く)と,C-Media Electronicsの一部のチップだけである。
 では,これらスペック上の違いは,ゲームにおいてどれくらいパフォーマンスに影響するのだろうか。そして,Sound Blaster X-Fiは,購入に値するだけの"何か"を,ゲームにおいて持っているのだろうか。今回は,X-Fi Elite ProとX-Fi DAを用意して,その点に絞って評価していくことにしたい。

左:Sound Blaster X-Fi Elite Pro。カードから給電して動作する外付けI/Oボックスと,リモコンが付属する。なお,Sound Blaster X-Fiシリーズを通じて,Sound Blaster Audigyシリーズで賛否両論あったIEEE 1394インタフェースは省かれた
右:Sound Blaster X-Fi Digital Audioのカード。これに,Sound Blaster Audigy 2 ZS Digital Audio(や,それ以前のDigital Audio製品)に付属していたのと同様のデジタル入出力ブラケットが付属する

 テスト環境は表1に示したとおりだ。また,テストに利用したサウンドカード(やオンボードサウンド)とデバイスドライバのバージョンは表2に示した。「SE-150PCI」(VIA Tecvhnologies製Envy24HT搭載),「CMI8738-6CHLPE」(C-Media Electronics製CMI8738搭載,以下CMI8738)は,それぞれユーザー数が多いと思われるチップを搭載する製品の代表として用いている。また,オンボードサウンド(AC’97 CODEC,以下AC’97)は,表1のテスト環境で示したマザーボード「A8N-SLI Deluxe」が搭載しているものだ。オンボードサウンドのCODECにはAC’97以外にもIntel High Definition Audio CODECがあるが,今回は「ソフトウェア処理のオンボードサウンド」ということで,Realtek Semiconductor製チップに代表させている。
 ただし,nForce4については,A8N-SLI Deluxeに標準で付属するRealtek Semiconductor製ドライバのほか,NVIDIAが配布する「nForce Audio Driver」も利用できる。よって,こちらでもテストを行ってみることにした。以下,前者はAC’97,後者はAC’97 nF4と表記するので,nForce4以外のチップセットでAC’97を利用している人はAC’97,nForce4チップセットで利用している人はAC’97 nF4を,自分のPCに近い環境として見てもらえれば幸いだ。

 テストに用いたアプリケーションは「3DMark03 Build 3.6.0」(以下3DMark03)と「RightMark 3DSound 2.0」(以下RightMark 3DSound),「バトルフィールド2」のデモ版,そして「TrackMania Sunrise」の4本。これらを利用して,CPU負荷やフレームレートを見ていくことにしよう。

左から順に,SE-150PCI,CMI8738-6CHLPE,ALC850。マザーボードも含め,いずれも市販品を利用している。AC’97やIntel High Definition CODECは,複数のチップメーカーが提供しているが,どれも定められた仕様にのっとって製造されている"ソフトウェア処理"のチップという意味で,基本的にはシステム負荷に大差はない

 まず3DMark03だが,これには同時発音数の違いによるフレームレートの違いをテストできる「Sound Test」がある。24音,あるいは60音を再生しつつ3Dデモを行って,その間の平均フレームレートを計測できるのだ。フレームレートなので,スコアの高いほうが優秀ということになる。
 ただし,最低でも24音ということで,同時発音数がこれに満たないサウンドデバイスではテストを行えない。このため,Creative Technology製品とAC’97 nF4以外では計測を行えなかった。また,24音同時発音はハードウェアでサポートしている必要があるが,Sound Blaster Live! 24bit(以下Live24)とAC’97 nF4は,ドライバがハードウェアに見せかけているようだ。

3DMark03のサウンドテスト設定

 以上を踏まえて,まずはグラフ1を見てほしい。これはNo Sounds,つまりサウンドを出力しない状態なので,サウンドカードごとの違いは出ないわけだが,シングルグラフィックスカード(以下シングルカード)では,スコアがバラけ,NVIDIA SLI(以下SLI)構成時だとほぼきれいに揃っている。シングルカードだと負荷が軽すぎて,スコアを正しく取得できないわけだ。

 よって,SLIのスコアを中心に,グラフ2,3を見ていくことにするが,いずれの場合も,ソフトウェア対応となるLive24とAC’97 nF4のスコアが大きく落ち込んでいる。3Dサウンドをソフトウェア処理するサウンドデバイスでは,せっかく追加で購入しても,思ったほどのフレームレート向上にはつながらないことが,はっきりと見て取れた。
 一方,ハードウェア処理のSound Blasterシリーズ間に,差は誤差程度しかない。Sound Blaster Audigy 4 Pro(以下Audigy4Pro)やSound Blaster Audigy 2 ZS Platinum Pro(以下Audigy2ZSPP),Sound Blaster Audigy Platinum(以下AudigyPT)と比べて,体感レベルでSound Blaster X-Fiに明確なメリットはないといっていい。

 続いて,4Gamer初登場となるRightMark 3DSoundだが,これには3Dサウンド再生時のCPU使用率を計測する「Utilization test」と,プログラムが意図したとおりにユーザーのサウンド出力環境が3Dサウンドを再現できるかチェックする「Positioning Accuracy test」の二つがある。

 というわけで,今回は「Utilization test」を利用した。Utilization testは,8/16/24/32/60音を同時再生したときのCPU使用率をそれぞれ見るテストで,単位は%。スコアが低いほうが優秀というわけだ。グラフィックス処理は伴わず,純粋にサウンド再生のCPU負荷だけを計測するようになっている。

 3DMark03と同じように,サウンドカード側の仕様によりテストできない製品があるので,最初にお知らせしておこう。CMI8738では16音までとなるほか,ソフトウェア処理のAC’97は24音,AC’97 nF4は48音まで。そして,搭載するEnvy24HTを認識できないのか,SE-150PCIではテストそのものが実行不可能だった。

 結果はグラフ4〜8にまとめたとおりだ。3DMark03と同様,8音同時再生(グラフ4)では負荷の軽さからスコアがばらつくので,グラフ5〜8を中心に見ていきたい。

 まず,誰の目にも一段劣って見えると思われるのが,AC’97である。PC用のサウンドデバイスとしてはこれが最も普及している以上,標準といえば標準なのだが,測定可能な16/24音のいずれも,27%以上と飛び抜けて高いCPU負荷率を示しており,次にCPU負荷の高いLive24やAC’97 nF4とすら比較にならない。

 8音以外で最もサンプル数の多い16音で比較してみると,CMI8738がLive24よりもCPU負荷が低く,ハードウェア処理の恩恵を受けているのが分かる。
 また,Sound Blaster X-FiとAudigyシリーズを比べると,前者のほうがCPU負荷が高いという,気になるスコアが出た。今回掲載しているのは初回計測時のデータだが,実際には,測定ミスの可能性があるので,数回計り直し,Sound Blaster X-FiのほうがCPU負荷が高いという傾向にはまったく変化がないことを確認済みである。
 伝統的に,Creative Technologyのドライバ開発能力はあまり褒められたものではないが,今回も初期ドライバということで,練り込みが足りないのかもしれない。

 ベンチマークアプリケーションから傾向が見えたところで,実際のゲームにおける3Dサウンドテストに移ろう。

 今回バトルフィールド2とTrackMania Sunriseを選択した理由だが,バトルフィールド2は,2005年秋時点では唯一といっていいEAX ADVANCED HD 5.0標準対応タイトルであるというのが最大の理由だ。TrackMania Sunriseを選んだのは,2005年秋の時点で本誌がハードウェアレビューに用いるゲームタイトルのうち,唯一,ベンチマークテスト時にサウンド再生が伴うからである。また,(当たり前だが)多彩な武器などが登場するわけではないため,サウンドは最近のゲームにしてはシンプル。サウンド負荷の軽いゲームタイトルで,Sound Blaster X-Fiにメリットを見いだせるかを測定できると思われる。

 バトルフィールド2では,デモ版から「Gulf of oman−32」で実際に行われた15人×15人対戦のリプレイを120秒間再生し,同じくFraps 2.60を用いて平均フレームレートを計測した。画面解像度は1024×768ドット。
 サウンド設定項目のうち,「AUDIO RENDERER」は基本的に「Hardware」に設定した。ただし,Sound Blaster X-Fiシリーズを差しているときは「Creative X-Fi」モードを選択できるので,こちらで設定した状態でもテストを行っている。なお「SOUND QUALITY」は「High」に,EAXのチェックはすべて有効にしている。

 結果はグラフ9にまとめたとおりだ。まず,16音までハードウェア処理の可能なCMI8738が健闘している。そして,シングルカードではソフトウェア処理の3デバイス4項目が揃って大きくフレームレートを落としており,ソフトウェア処理の限界を見せた。

 ただし,SLI動作時のSE-150PCIとAC’97は,スコアが異常に伸びているという,おかしな事態になった。何度も計測し直したので,今回のテストではこういう結果だったというほかないが,明らかに異常である。
 そこで,より異常なスコア上昇が見られたSE-150PCIを使ってリプレイ中のサウンドを聴いてみると,興味深い結果が得られた。例えば,数人の兵士とともに行軍中,戦闘機やヘリが上空を通過するような局面において,SE-150PCIでは,周りの兵士の足音が減ったり,場合によっては消えたりするのだ。Sound Blasterだと,同じ局面を迎えても,そのような事態はもちろん発生しない。
 SE-150PCIが搭載するサウンドチップ,Envy24HTの3Dサウンド処理能力については,有効なデータシートなどが公開されていないため,原因の特定には至らなかった。しかし,上のような現象から推測するに,システムに高負荷がかかるような局面では,音数を減らしたり,場合によっては出力しないことで,システム全体に負荷がかからないようにしている可能性が指摘できそうだ。

 以上,他社製品を見終えたところで,Sound Blaster同士の比較に入っていくわけだが,注目したいのはSound Blaster X-Fiの2製品である。AUDIO RENDERER設定を「Hardware」にしたときはSound Blaster Audigyよりスコアの低いX-Fi Elite ProとX-Fi DAが,同設定を「Creative X-Fi」にすると,いずれも約3fpsほどフレームレートが向上し,Sound Blaster Audigyシリーズを逆転する。もちろん,3fpsというのは,体感できるほどのメリットではない。しかし,EAX ADVANCED HD 5.0対応ゲームと組み合わせれば,Sound Blaster X-Fiに利点が見いだせるのは確かだ。

 最後にTrackMania Sunriseだが,テストに当たっては,53秒程度で1周する「Paradise Island」というマップを実際にプレイした結果のリプレイを3連続で実行し,その間の平均フレームレートを「Fraps 2.60」を用いて測定してスコアとした。サウンドの設定は「Hardware」「StereoWide」「EAX ON」「ドップラー効果ON」。TrackMania Sunriseでは,「Hardware」に設定していても,非対応のサウンドデバイスではソフトウェア処理されることから,設定を統一している。前述のとおり,負荷が高くないことが想定されるので,ここでは解像度を3段階に変更してテストを行った。

 結果はグラフ10〜12にまとめたとおり。端的にいえば,16音以上でテストしたRightMark 3DSoundのスコアに準じている。もっというと,Sound Blaster X-Fiに,Audigy4ProやAudigy2ZSPP,AudigyPTに対して,明らかな優位性は見いだせない。ただし,SLI構成だと若干ながらSound Blaster X-FiがSound Blaster Audigyシリーズよりもよいスコアを出しており,ポテンシャルを感じることはできる。
 なお,SE-150PCIが,SLI時にスコアを大きく伸ばす点だが,これもバトルフィールド2と同じ理由だ。テストは数回繰り返し,再現性のあることを確認済みなので,SLI時には何か処理が省略されているものと推測される。

 第1講の結論として,まず確実に断言できるのは,「PC(正確にはマザーボード)のオンボードサウンドは,単体サウンドカードと比べると,ゲームプレイの快適さにかなりの悪影響を与えている」ということだ。読者が今プレイしている3Dゲームを遅いと感じたとき,原因はCPUでもグラフィックスカードでも,はたまたメモリ容量でもなく,オンボードサウンドだったという可能性すらありそうである。nForce4シリーズなら,nForce Audio Driverの導入によって,ある程度までは解決できるが,それも完璧ではない。

 一方,微妙なスコアを残しているSE-150PCIやCMI8738,Live24だが,フレームレートを重視する第1講的観点に立つと,EAX ADVANCED HD 3.0以上をハードウェアでサポートする製品へ乗り換えるべきといえる。
 SE-150PCIは,アナログ2ch出力音質の高さから人気のあるサウンドカードだが,全体的にスコアが不安定で,ゲームにおいては問題を抱えている可能性が否定できない。また,当然のことながらEAX ADVANCED HD 3.0以上にも対応しておらず,やはり向いていないと判断すべきだろう。

 2005年9月7日の記事で紹介したように,Creative Technologyは,新世代のサウンドカードを投入するごとに製品ラインナップを整理する。このため,Audigy4ProやAudigy2ZSPP,AudigyPTは店頭在庫のみだ。そういう意味で,ゲームのフレームレート向上(や維持)を目指してサウンドカードを購入するのであれば,選択肢はSound Blaster X-Fiになる。
 では,X-Fi Elite ProとX-Fi DAのどちらを選ぶかといえば,これは迷わず後者ということになろう。まず,X-Fi Elite Proのスコアを見る限り,(現時点で,という注釈は付くものの)ゲームプレイにおいて,X-RAMのメリットはほとんどない。実際,Creative Technologyが配布している,プレス向けのレビュワーズガイドにも,64MBのキャッシュ容量を有効に用いるアプリケーションが登場するまで,X-RAMにはそれほど効果を期待できないというニュアンスの文言が見て取れる。
 将来,魅力的なゲームタイトルが複数誕生し,それらがことごとくX-RAMのポテンシャルを活かし切るという事態が訪れる可能性は確かにある。しかし,その可能性に賭けて,X-Fi Elite Proを買うというのは,コストパフォーマンス的にはまったく割に合わないだろう。2005年11月上旬時点の実勢価格では,X-Fi DAが1万6000円前後なのに対し,X-Fi Elite Proは4万3000円前後。正直,比較にならない。

 また,Sound Blaster Audigyシリーズのユーザーにとっては,積極的に買い換える必要性を感じないのもまた事実である。EAX ADVANCED HD 5.0対応ゲームが出揃うまでは,様子見でいいのではなかろうか。

 ただし,今回の評価は,あくまでゲームパフォーマンスにターゲットを絞ったものであり,大きな進化が謳われている「CMSS-3D」や,新機能「24-bit Crystalizer」などの使い勝手,あるいは音質については,一切考慮していない。つまり,最終的な評価ではないわけで,この点には注意してほしい。使い勝手や音質については,近日中に掲載予定の続編でお届けしたいと思う。(Jo_Kubota)