プレトリアン ガリア戦記
〜メールインタビュー〜


2nd Jun. 2003
Text by TAITAI

 2003年5月22日に発売された「プレトリアン ガリア戦記」は,古代ローマを舞台にした戦術級の3D RTS。世界的ヒットメーカーのPyro Studiosが制作を手掛けた,歴史ゲームファン注目タイトルである。
 forGamerでは,そんなプレトリアンのディレクターを務めたジャビア・アレバロ氏に簡単なメールインタビューを行った。

プレトリアン ディレクター:
         ジャビア・アレバロ氏


 「Commandos」シリーズなど,世界的ヒット作を生み出しているPyro Studiosに所属。「Commandos:Behind Enemy Lines」ではソフトウェアエンジニアとして開発に参加し,「Commandos2:Beyond The Call of Duty」のリードプログラマを担当。Pyro Studios以外では,「Microsoft NBA Inside Drive 2000」のリードプログラマや,「Speed Haste」を一人でプログラミングした経歴を持つ。


forGamer(以下,4G):
 Pyro Studiosといえば,コマンドスシリーズが非常に有名で,どうしても「第二次世界大戦」という印象が強いのですが,プレトリアンというローマを題材にした作品を作るキッカケなどは何かあるのですか?

ジャビア・アレバロ氏(以下,アレバロ氏):
 もちろん,第二次世界大戦だけをテーマとして考えているわけではなく,以前からローマ史は,ストラテジーゲームを作るうえで非常に高いポテンシャルを秘めた題材だと感じていました。
 叙事詩的な戦闘,長期に渡る遠征の物語,そして北ヨーロッパからアフリカ,中近東へと広がるスケールの大きさなど,プレトリアンの特徴は,まさに魅力溢れるローマ史を体験できる点だと考えています。

4G:
 プレトリアンを制作するにあたって,最も注力したのはどの点ですか? また開発で苦労した点は?

アレバロ氏:
 最初は,煩雑なユニット操作,資源や経済管理といった面倒な部分をなくしたRTSを,いかにして作るかという部分に注力しました。また戦術的なコンセプトや,"村"単位で行うゲームシステムが決まったあとに,攻城戦という要素に取り組んだのですが,これには手を焼きましたね(笑)
 ただ苦労した甲斐があって,見た目こそ従来のRTSに似てますけど,プレトリアンでは,ユーザーにまた一味違ったゲームシステムを提示できたと実感しています。

4G:
 美しい3Dグラフィックスもプレトリアンの大きな特徴だと思いますが,3Dエンジンは新たに開発したものなんですか?

アレバロ氏:
 ええ,プレトリアンを作るにあたって,グラフィックスエンジンはまったく新しいものを開発しました。なにせ,プレトリアンでは数多くのユニットが一画面内で動き回りますからね。古代ローマにおける壮大な戦いを表現できるだけのグラフィックスエンジンが,私達には必要だったのです。

4G:
 プレトリアンは戦術的な部分に特化したゲームシステムを搭載してますが,他社の同ジャンルの作品,「Myth」や「Total War」などは意識しましたか?

アレバロ氏:
 それはもちろんです。ただ私達は,従来のRTSで見られるような内政的な要素と,また純粋に戦術部分に特化する方向性,その両方の要素をうまく融合させて,プレトリアンに盛り込もうと考えていました。そうすることで,これまでの作品にはない新たな面白みが生まれると思っていたからです。

4G:
 ゲーム中,歩兵が隊列を組んで戦う描写などを見て,個人的にはスタンリー・キューブリック監督の「スパルタカス」やリドリー・スコット監督の「グラデュエイター」などを連想しました。やはり映画などから受けるインスピレーションは大きいモノですか?

アレバロ氏:
 プレトリアンにおけるローマ観や作品全体の雰囲気,ゲーム中の演出など,映画からの影響は大きいですね。

4G:
 またゲーム中の描写といえば,部隊が森を移動するとき,鳥の群がいっせいに飛び立つ演出が非常に印象的だったのですが,これは映画などを参考にしてのことですか?
 私は,東洋の兵法書として名高い「孫子」の一文(※注1)を思い出して,「もしかしたらPyro Studiosのスタッフは孫子を参考にしているのではないか」と思ったのですが(笑)

※注1
「鳥の起つは伏(ふく)なり,獣の駭(おどろ)くは覆(ふく)なり」
意味:鳥が飛び立つのは伏兵がいる証拠で,獣が驚いて走り出すのは敵の奇襲の兆候だ

アレバロ氏:
 プレトリアンの制作初期の段階で「孫子」の兵法書は読みましたよ。このような書物を読むことは,あらゆる意味において価値のある経験になると思いますね。哲学的観点と戦術的観点,その両方から非常に素晴らしい内容だと感じました。
 ただ実際のところ,敵の攻撃をプレイヤーに警告する演出として"野生生物"を使おうと考えたとき,私はこれが「孫子」に記述されている事柄だったことは知りませんでしたね(苦笑)
 話を戻しますが,孫子に限らず,私達はローマ軍の戦術や隊形について多くのリサーチを行いました。しかし私が考えるに,ゲームの開発にとって重要なのは,世の中にある事柄を"単純に再現/表現する"のではなく,ゲームとしての厳密なルールをいかに構築するかだと思います。
 野生動物を使ったプレイヤーへの警告は,そういうゲーム的な観点からのアイデアでもあるのです。

4G:
 拡張パックや追加マップの予定については?

アレバロ氏:
 残念ながら未定です。

4G:
 では最後に,日本のファンへ一言お願いします。

アレバロ氏:
 日本のプレイヤーの皆さんが,キャンペーンモードだけではなく,マルチプレイモードも楽しんでくれるよう願っています(もちろん,キャンペーンも面白いですが)。
4G:
 ありがとうございました。

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 今回のインタビューで印象的だったのは,アレバロ氏が「世の中の事柄を単純に再現/表現するのが,ゲームなのではない」と語っていた点である。
 こと"演出の細かさ"では,世界でもトップクラスのPyro Studios。しかしその数々の演出の中にも,そういった"ゲーム的な視点"がしっかりと織り込んであり,だからこそPyro Studiosが世界的ヒットメーカーであり得るのだと,今さらながらに実感した思いだ。
 今後のPyro Studiosの作品(次はCommandos3かな?)にも注目していきたい。