Text & Photo by トライゼット西川善司

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■Half-Life2のディスプレースメントマッピングへの対応について

善:  Half-Life2エンジンの地形データは,ディスプレースメントマップデータの属性をもつという説明がありましたね。

BVB:
 はい。地形はプレイヤーの干渉で隆起したり陥没したりしますが,その表現にディスプレースメントマッピング(*)テクノロジーが使われています。

Half-Life2における地面の隆起や陥没,一部のオブジェクトの変形表現などは,ソフトウェアベースのディスプレースメントマッピング技術で実現している
善:  これはポリゴンを算術分割する,いわゆるSub-Division Surface(サブ・ディビジョン・サーフェース)技術をインプリメントしているということですね。

BVB:
 そうなります。

善:  ディスプレースメント・マッピングといえば,ATIのRADEON 9500以上のTRUFROM 2.0でアクセラレートできますが,こうした機能を活用したものなんでしょうか?

BVB:
 いえ。ソフトウェアで処理するものになっています。

(*)簡単にいえば,凹凸をジオメトリレベルでポリゴンに貼り付ける技術。凹凸があるかのように陰影処理を行うバンプマッピングと違い,実際に幾何学的に凹凸が貼り付けられる




■物理エンジンについて

善:  物理エンジンについてですが,Half-Life2ではHAVOKの物理エンジンをライセンスして使っているとのことですね。

BVB:
 HAVOKからはとても強力な物理エンジンの基本セットを提供してもらいました。
 当たり判定,動力学シミュレーション,圧力シミュレーション,バネ力学,アクチュエータのシミュレーションなどが主なものでしょうか。
 それぞれの機能はもちろん単体だとHalf-Life2のようなゲームで利用できないので,我々はそうした基本物理エンジンの一つ一つを組み合わせ,オブジェクト同士の干渉と反応の関係をHalf-Life2のゲーム世界でうまく動作するようなゲーム物理エンジンに作り替えました。

この3本足の巨大兵器は,重心が高く重そうにフラフラと歩くが,そうした挙動もゲーム内の物理法則に従っている
善:  ゲーム側が使用する上層の物理エンジンは,すべてHalf-Life2オリジナルというわけですね。

BVB:
 そうです。そして,我々は「物理AI」という技術もHalf-Life2のために新規開発しました。Half-Life2に登場する乗り物や機械,そして我々のゲームデザインツールにこの技術は盛り込まれています。

善:  それは具体的にどんな感じでゲームに作用するシステムなのですか?

BVB:
 例えばHalf-Life2には"物質システム"というのがありまして,これがゲームデザイナーやアーティストの高等なレベルでの作業を可能にしているんです。
 このシステムを利用すると,デザインしたキャラクターを構成するパーツに物質パラメータを与えてやるだけで,そのキャラクターの物理プロパティは自動的に計算され,その挙動はゲーム世界の物理法則に従うようになるんです。

善:  つまり重い材質でキャラクターをデザインすると,重そうに歩くアクションを付けなくても重そうに歩く――という感じですか。これは面白いですね。



■プログラマブルシェーダへの対応について

善:  結局Half-Life2をプレイするには,DirectX 9世代のGPUが必要なんでしょうか?

BVB:
 今回のSIGGRAPHのように,我々が公式発表するレベルでの映像表現を楽しみたいならDirectX 9世代のGPUが必要ですね。
 ただDirectX 8世代のGPUでも,いくつかの表現は簡略化されこそしますが,ゲームプレイ自体に支障はないです。またDirectX 6や7世代のGPUだと,映像的にはさらに簡略化されますが,それでもプレイはできます。
 Half-Life2は,PCゲームならではのスケーラブルな設計になっているんです。

善:  Half-Life2は,DirectX 9世代のGPUに対応している――という解釈でいいと思うんですけど,そうするとDirectX 9の目玉であるプログラマブルシェーダ2.0を活用したシェーダを内蔵しているということなんですか?

BVB:
 そうですね。プログラマブルシェーダ2.0,そして2.0+の両方を使用しています。

善:  具体的にどのような表現に活用されているんでしょうか。

BVB:
 それは残念ながらお答えできないんです。

善:  例えば,GeForce FX系とRADEON 9500以上ではレンダリングパスを変えているとか,あるいは動かすシェーダを切り換えているとか,そういったことはHalfe-Life2エンジンで行っているのでしょうか。

BVB:
 それについてもお答えできないです。

善:  読者の多くは,"DirectX ビデオカードを持っていても,3Dベンチマークしか実行したことがない"という人がほとんどです。"Half-Life2ではこんな表現に使われている"ということを教えられれば,読者にとって非常に有益な情報となるんですが……。

BVB:
 申し訳ないんですが,現時点ではシェーダ関連でこれ以上の情報はお教えできないんですよ。現時点でいえることは,プログラマブルシェーダ2.0でも2.0+でも,Half-Life2は非常によく(Really well)動作する,ということだけですね。実際のところ,ハイエンドGPUに対してのオーサリングは現在も進行中なんですよ。

水面は,周囲がさざ波の効果と共に動く動的な環境バンプマッピングによるもの。光源位置と視点位置との関係で,水面下が透けて見える度合いが変わるフレネル効果もサポートしている。当然プログラマブルシェーダによる産物だ


■最後に

善:  初代Half-Lifeはマップ間がシームレスにつながっていましたが,エリア境界ではローディングが発生していましたね。Half-Life2ではどうなるんでしょうか?

BVB:
 これはHalfLifeと同様,ローディングが発生します。この部分は最適化していません。

主人公は前作と同じゴードン・フリーマン。「前作の謎は解明されるのか?」という質問に対しては「秘密です」の答え
善:  多くの3Dゲームファンは,Half-Life2とDOOM IIIを"それぞれをベースにした新たなゲームが登場する"と想定して,一つプラットフォームと見ています。そして「同じPCゲームの新プラットフォーム」ということから,両者はライバル関係であるとみるファンが多いようですね。

BVB:
 ライバルとは考えたことがないですね(笑)。両者は目的が違いますし,ゲーム内容の方向性も違いますから。彼らがやっていることは素晴らしいし,我々がやっていることも非常に優れていると思います。

善:  例えばHalf-Life2はオープンフィールド系,DOOM IIIは屋内系と大別できますよね。

BVB:
 ええ。それぞれが自分達のやろうとしていることに最適な技術を開発し,それを取り込めていると考えています。ライティングの手法一つをとっても,両者は異なりますしね。

善:  なるほど。Half-Life2は写実表現を重視しますが,DOOM IIIはリアリティの中に"絵画的"というか,ゴシックホラー映画的な雰囲気を感じますからね。

BVB:
 私はどのメーカーもそれほど互いに意識しているとは思ってないんです。実際に他社の優れたゲームを見てしまうと,私なんかは感嘆して「凄いゲームだ。これはいい」とすぐに褒め称えてしまいますし。

グラフィックスも内容もPS2でトップレベルの完成度を誇る「ICO」。日本では中ヒットクラスの作品という認識だが,欧米のゲーム開発者には絶大な人気を誇る
善:  そうそう。これはなにげに気になっているのですが,Half-Life2にベンチマークテストモードは搭載されるんでしょうか。また別のプラットフォームに移植する計画とかはないのでしょうか。

BVB:
 ベンチマークモードはまだ搭載していませんが,いずれ搭載する方針でいます。移植に関しては,Xboxが有力で,ほかは未定ですね。

善:  最後の質問ですが,お好きなゲームはなんですか?

BVB:
 今はHalf-Life2の出荷に向けて仕事が大詰めなのでゲームはプレイしてませんが(笑),最近では「Medal of Honor」「Battlefield 1942」などですかねぇ。コンソールゲーム機だとPS2の「ICO」ですね。あれはグラフィックスも内容も両方素晴らしかったので気に入っています。

善:  本日はありがとうございました。発売を楽しみにしています。

岩壁などのテクスチャのほぼすべてに,"法線マップ"が用意され,地形の凹凸表現はバンプマッピングによって表現されている。ビデオメモリに余裕がないと,この表現は省略される。ビデオメモリは最低でも128MBはほしい

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