Text & Photo by トライゼット西川善司

ページ 3/3



■RADEON 9200はRADEON 9000と何が違う?

善:
RADEON 9200(以下,R9200)とはズバリ,AGP8X版のR9000(以下,R9000)と解釈していいのでしょうか?

ABT:
R9700とR9800の関係に似ているといえます。R9000のリファインを推し進めて完成したのがR9200なのです。まぁ端的にいえばその通り,AGP8Xという点がR9000とR9200の最も際立った違いといえるでしょう。  半年から9か月で姿を消すR9800のようなハイエンド製品とは異なり,R9200には製品寿命が長いという特性があります。そのためより安く提供していくと共に,今後も改良を続けていく可能性があるでしょう。最終的には,より高いクロックで動作するR9200を出すかもしれません。
RADEON 9200シリーズ
善:
R9200は,R9000と同様にTRUFORMエンジンはなく,頂点シェーダは1基,ピクセルパイプラインは4本というデザインなんですね。

ABT:
その通りです。
善:
つまりR9200は,DirectX 8.1世代GPUということになります。NVIDIAはGeForce FX 5200/5600発表会で「DirectX 9を79ドルで!」と繰り返し叫んでいました(笑)。このことはどうお考えですか?

ABT:
GeForce FX 5200がどの程度のGPUかを把握していないのでなんともコメントできないですが……。
善:
もし優秀なDirectX 9世代GPUであれば,ATIもR9600を値下げするといった対応をするのでしょうか?

ABT:
非常に早い時期に,R9600の値段が下がることはあると思います。


■GPUは今後どう進化する? NVIDIA GeForce FXの方向性は正しいのか

善:
固定パイプライン構成でないGeForce FXのアーキテクチャは"将来を見越したデザインになっている"と彼らは主張していますが,これについてはどうお考えですか?

ABT:
彼らのやっていることは,我々も納得のいくところではあります。GPUにとって,現行の3Dアプリケーションを高速に動かすことが第一に求められます。そして近い将来出てくる3Dアプリケーションにも対応しなければならない。そこで重要になってくるのが,1クロックあたりのピクセル処理量です。
善:
すると,どんどん1クロックあたりのピクセル処理量を増やしていくような進化を辿ると?

ABT:
いいえ。あと2年のうちに,1クロックあたり64ピクセルの処理が可能になるとは思いません。おそらく1クロックあたり8ピクセルのスループットのままだと思います。
善:
すると何が変わるんでしょう?

ABT:
シェーダユニットの数を増やします。それぞれのシェーダユニットは非常に高速に動作します。ただし,ピクセルスループットはいままでとあまり変わらない。
善:
つまり,1頂点,1ピクセルにかける陰影処理量を増やす方向に進化すると?

ABT:
もちろんクロックスピードはどんどん向上していくでしょうから,単位時間あたりのピクセルスループットは向上するわけですが。
善:
その意味でNVIDIAの進化の方向性は正しいと?

ABT:
ですが,ちょっと先走った感があります(笑)。現行の3Dアプリケーションのボトルネックはシェーダパフォーマンスじゃないんですから。現在求められているのは,まだピクセルスループットなんです。NVIDIAはその点にもう少し配慮するべきだったのでは? と個人的に思いますね。ほら,シェーダパフォーマンス自体も,それほど速くないわけでしょ?(笑)
善:
GeForce FXはテクスチャユニットがパイプラインから分離されて,柔軟な構成になっていますね。
ATIは,皮肉たっぷりにGeForce FXアーキテクチャを茶化したTシャツを配布。「本物の8パイプ,4(パイプ)は大風呂敷」。前者はRADEON 9800,後者はGeForce FXのこと。かなり挑戦的だ


ABT:
といっていますが,私はそれほど柔軟性があるように思っていません。実態は4ピクセルパイプラインに2個ずつのテクスチャユニットがあるようなイメージだと考えています。
善:
「500MHz駆動している割にはパフォーマンスが伸び悩む」というGeForce FXのボトルネックはどこにあるのでしょうか?

ABT:
シェーダパフォーマンス,ピクセルパフォーマンスですね。  GeForce FXは,DirectX 8世代(整数ピクセル演算しか行わない)の3Dアプリケーションのパフォーマンスはいいんです。ところが実数ピクセル演算が遅くなるんですね。R9800(R9700/R9500)ではこういったことはありません。
善:
プログラマブルシェーダ3.0に関して,ATIはどう考えていますか?

ABT:
マイクロソフトと共同で,規格の策定を進めています。まだ完了していないので,これをインプリメントしたGPUの設計はもっと先ですね。ただし「ピクセルシェーダが動的フロー制御可能になり,頂点シェーダがついにテクスチャへアクセスできるようになる」という,プログラマブルシェーダ3.0の仕様は画期的です。
善:
動的な頂点テクスチャリングですね。(*5)

ABT:
頂点シェーダ3.0では高次サーフェース,平面分割,摂動型ディスプレースメントマッピングなどが処理可能になりますね。SoftImage,Maya,3DSMAXなどでデザイナーが作成した3Dオブジェクトは,高次サーフェースを多用していますが,これをアクセラレーションする仕組みは今後必ず重要になると考えています。
善:
今後のGPUの消費電力はどうなっていくでしょう?

ABT:
高速化と共に大きくなるでしょうね。しかしビデオカード全体で考えた場合,消費電力の約半分はビデオメモリのものなんです。まあいずれにせよ,プロセスルールを90nmに近づけることで消費電力を抑える方向になるでしょうね。
善:
でもトランジスタ数はどんどん増えますよね?

ABT:
そうですね。そのために電力管理機構の工夫が重要になってきます。将来的には,ノートPC用GPUだけでなく,デスクトップPC向けGPUに対しても電力管理を積極的に行う必要があると考えています。
善:
90nmプロセスルールへの移行は,いつ頃になるのでしょうか?

ABT:
製造工場は,年内に90nm製造対応の見込みですが……。「鶏と卵」論争のように「いつになったら90nmプロセスで製造できるんだ?」「じゃあいつになったら90nmプロセスでたくさんのチップを生産する気なんだ?」ということになってしまって(笑)。まぁ我々も確実に90nmに移行しますよ。
善:
0.15μmから0.13μmへの移行はどこも苦労していたようですが?

ABT:
同様の問題は,90nmへの移行時には起こらないと思っています。なぜなら,0.15μmから0.13μmへの移行で手間取ったのは,銅配線技術関連の問題だったからです。  我々は0.15μmでもFSG(SiOF)プロセスを採用しています。銅配線技術の難しさから,まだ誰も低誘電率(Low k)層間絶縁膜材料を使えていないというのが現状です。つまり,まだまだ0.13μmでやるべきことが多いのです。そのため,しばらくは多くのGPUが0.13μmに留まるかもしれません。
善:
GeForce FXはダイサイズが大きいようですね。

ABT:
ロジックを最適化すれば小さくなるはずなのですが,ただ,そうした変更というのはチップやドライバソフトの動作の"堅実性"に影響してしまいます。ただ堅実性を保つためになんの最適化も行わないと,ロジックは肥大化してチップは大きくなります。もしかしたら前世代GPUのロジックをかなり流用しているせいかもしれません。

  (*5)頂点テクスチャリングは,いわゆるディスプレースメントマッピングのこと。頂点シェーダがテクスチャにアクセスできるようになることで,摂動型のディスプレースメントマッピングが可能になる。


■3DMark03論争を,ATIはどう考えるのか

3DMark03より。この事件以来,NVIDIAは自社GPUのパフォーマンス指標として,3DMarkを採用していない
善:
NVIDIAが3DMark03に対する抗議文を発表しましたね。GeForce FXのパフォーマンスが3DMark03で上がらないためでしょうか?(笑)

ABT:
「実際のゲームベンチマークを使うべきで,3DMark03は使うべきでない」というあれですね。私は,彼らの行動がちょっと理解できなかったです(笑)。  DirectX 9テクノロジベースの3Dアプリケーションがないという現在,DirectX 9テクノロジを利用して制作された3DMark03を動作させるということは,一般ユーザーやゲーム開発者にとって無駄な情報ではないと思うんです。
善:
3DMark03で使われている技術を,ホワイトペーパーまで出して非難していましたね(笑)。

ABT:
あそこで非難している技術手法についても,私はとくに問題点として指摘するほどのことでもないと思ったのですが……。「DOOMIII」がDirectX 8世代とDirectX 9世代のテクノロジを活用した3Dゲームとして登場しそうですが,まだ市場には無いわけですし。
善:
それこそ3DMark03しかないですよね。

ABT:
そうです。我々は,DirectX 9世代GPUとしてR9700をすでに100万個出荷しました。そしてユーザーや開発者にとって,その真価が発揮されるアプリケーションの登場は,むしろ歓迎されるべきだと思いますけどね。
善:
これを受けてかどうかは分かりませんが,3DMark03は反論を,そしてATIは3DMark03を逆に擁護する文書を出しましたね。


■RADEON 9800がパイロット訓練用シミュレータに使われている!

善:
RADEON 9000シリーズのキラーアプリケーションとして,どんな3Dゲームが登場してくるのでしょうか。

ABT:
"3Dゲームに新技術が導入されるには約3年かかる"という経験則がありますが,その意味で今年は転換期です。
技術的なことも分かりやすく解説してくれたAndrew B. Thompson氏
善:
2001年にDirectX 8が登場して,ちょうどそのくらい経つからですね。

ABT:
そうです。今年はあのDOOMIIIが登場しますし。映画「マトリックス」の続編が公開され,これにシンクロしてゲームも同時発売されます。そしてこれらはすべてプログラマブルシェーダ技術が使われているのです。例えば影生成や,高度な陰影処理の実現に。
善:
私も今年がDirectX 8円熟期になると考えています。

ABT:
そうですね。DirectX 8が登場してからしばらく経ちますが,その技術が積極的に使われることはありませんでした。今年は"その時"が来たという感じです。3Dゲーム映像が単に高解像度化するだけでなく,映像の品質そのものが高品位化(フォトリアリスティック化)する流れになってきたのだと思います。
善:
DirectX 9テクノロジを活用したゲームについてはどうでしょう? 何かタイトルがあれば教えてほしいのですが……。

ABT:
NDAの関係で,それは無理です。E3に来てください(笑)。
善:
forGamerスタッフも大勢行く予定ですよ。

ABT:
そうそう。R9700/R9800は,SGIやEvans&Sutherland社に出荷してるんですよ。彼らはR9700/R9800を複数使ったシステムで,パイロット訓練用のフライトシミュレータを実現しています。
善:
本日はありがとうございました。

ページ 3/3