2002 Game Developers Conference
= 講義3日目 =

26th Mar. 2002
Text/Photo by 奥谷 海人

 

3日めの講義内容について
ここでは,forGamer.net特派員が,個人的な興味から参加した講義の内容をまとめる。

 

1・第3世代の常時接続型オンラインゲームを作るにあたって
(Building a Third-Generation Online Persistent World)

スピーカー:ゴードン・ワルトン(Gordon Walton)ほか

 オンラインゲームの開発者として名高い業界人が集まって,今後のMMORPGに必要なゲームデザインを討論。Electronic Arts社でオンラインゲーム部門を統括するワルトン氏を中心に,「Star Wars Galaxies」のラフ・コスター氏,「リネージュ」のジェイク・ソン氏,「Middle-Earth Online」を開発中のジェシカ・ミューリガン氏らが集まった。
「映画やテレビのように,より多くの参加者を獲得していくには何をすべきか?」という議題を中心に,女性プレイヤーの参加や,集金するための"魅力あるゲームデザイン"といった話に花が咲いた。ただ,セッションの議題にある"第3世代"というのは間違いで,これからの常時接続型ゲームを作っていくための心得などの説明が中心だったようだ。

オンラインRPGの開発者たち
左から,ラフ・コスター氏,ジェシカ・ミューリガンさん,ジェイク・ソン氏,そして飛び入り参加のため名称不明の男性。ゴードン・ワルトン氏は,一番奥の進行役を務める

 

2・「Earth & Beyond」にみる星と惑星の作り方
(Creating Stars & Planets in Earth & Beyond)

スピーカー: エリック・ワン (Eric Wang)

 近日公開予定のMMORPG「Earth & Beyond Online」の製作状況が発表された。これまでは,「Freelancer」に似たスペースコンバットシューティングゲームの要素の強いゲームだと思われていたが,昨年の段階でRPGへと大きく方向転換しており,プレイヤーキャラクターが惑星に降り立って探索できるように進化している。
 ワン氏の講義は,ゲームデザインやレベルデザイン的な視点から製作進行を説明し,1日めからプレイヤーを楽しませ,RPGとしての付加価値を高めるための仕かけなどが,仲間のゲーム開発者たちに惜しげもなく公開された。それによると,ゲーム参入直後のプレイヤーキャラクターのスキルが上達しやすくなっていたり,最初からグレードは低いがフル装備の状態の宇宙船が手に入るなどするという。さらに,インゲームマップの必要性を説き,Earth & Beyondでは太陽系の周囲は始めから開拓されており,熟練プレイヤーはより遠方でプレイするなどの地域差で区別することになる。ちなみに,このゲームでは銀河全体をマップ化しており,「Everquest」のように150のゾーンに別け隔てられている。

エリック・ワン
 古くからWestwood Studios社に在籍し,「コマンド・アンド・コンカー」シリーズの開発でも手腕を振るっている製品開発ディレクター。「Earth & Beyond Online」では,クリエイティブな作業にも深く関わっている。最初に触ったコンピュータが「TRS-80」というほど古参のゲーマーでもある

 

3・楽しさとゲーム
(Fun and Game)

スピーカー:ジョン・H・コンウェイ(John H. Conway)

 数学者のコンウェイ博士を有名にしたのは,彼が発案した「ライフゲーム」という数字遊びだ。ライフゲームは,生物の集団の繁栄や衰退を極度に簡素化したもので,コンピュータの理論モデルになっているともいわれている。日本に旅行した際に"イズミ"という女性に説明してもらったという紙と鉛筆を使ったゲームを紹介して,会場のボランティアと対戦。10戦10勝となった理由から,その簡単なゲームの中に潜む理論を暗示した。
「準備する時間がなくって」と言いながら,オーバーヘッドプレオジェクタに手書きの文字や絵を次々と挿入していくような講演で,終始笑いを誘っていた。

ジョン・H・コンウェイ
米プリンストン大学の数学博士。母国イギリスのケンブリッジ大学に学び,若くして才能を開花させる。「超実数」や「ゲームの理論」,「文様の群論」など,数学的発見は数知れない。ライフゲームは,「ここ」でJAVA化されている

 

4・詩篇46篇の謎
(The Secret of Psalm 46)

スピーカー:ブライアン・モリアティー(Brian Moriarty)

 モリアティー氏はGDCの常連的な存在で,いつも大人気の講義となる。その理由は,練り込まれた遊び心いっぱいの講義方法と,まったく関係なさそうな話題からゲームデザインについて考えさせる講義内容である。今回も,部屋の照明をすべて落とし,バッハの音楽をかけながら,1970年代にイギリスで起こった"黄金のウサギ"の財宝探しのブームや,バッハの楽譜に秘められたレトリック("ヨハンセン"の14文字に因んだ音符の数や,B,A,C,H――Bマイナーのドイツ表記――という音色など)などを紹介し,「芸術的な遊びというものは,隠しキャラなど小手先の商売道具ではなく,すでに受け手の前に出された状態で存在し,知的な興味や探求によって引き出されるべきだ」と述べた。
 講義のタイトルは,シェイクスピアが埋葬されているという教会に,旧約聖書が詩篇46篇のページを開いた状態で展示されていることから取られている。つまり,これを題材に根拠なき論説を立てる一部の熱狂的知識人を皮肉っているわけだ。

ブライアン・モリアティー
Infocom社全盛期に,「Wishbringer」,「Trinity」,「Beyond Zork」などの名作を開発し,LucasArts Entertaiment社の初期にも「Loom」をリリースしている伝説的なゲームデザイナー。その後独立して,インターネットゲーム時代に先駆けて,Mpath Interactive社を設立した

 

5・「Project Ego」をサンプルとして使ったファンタジーRPGの進化考
(The Evolution of the Fantasy Role-Playing Genre using Project Ego as an Example)

スピーカー: ピーター・モリニュー

 モリニュー氏が監修している「Project Ego」とは,同氏のサテライト会社であるBig Blue Box社が開発中のXbox用最新RPGのコードネームだ。ストーリーや世界観など,Project Egoに関する具体的な内容は示されなかったものの,「ゲーム内で大事件が発生してプレイヤーが世界の運命を握り,旅をして成長しながら問題を解決するのに,1週間くらいの時間的感覚しかないのはバカららしい」というコンセプトをもとに,15歳で冒険に旅立つプレイキャラクターがゲームの進行と共に年齢を重ね,それに合わせた時間的な経過を演出することで,ファンタジーRPGの新境地を見つけようという試みである
 完全3Dの世界を自由に動き回れるようになっているのはもちろん,プレイキャラクターやNPCに記憶という概念を持たせていたり,ヒーローとして崇められる戦士たちがほかにも多く存在し,同盟や連携プレイも取れるようになっているなど,モリニュー氏らしいスパイスの効いた作品になりそうだ。ゲーム中に家を買って財宝を蓄えたりもできるというから,かなり長時間遊べるゲームになるのだろう。

ピーター・モリニュー
イギリスの誇る奇才モリニュー氏は,1987年に「Populous」を発売して以来,風変わりな作品ばかりを世に送り出してきた。とくに「Dungeon Keeper」以後は自分が何をやりたいのかを確かめているようで,「Black & White」から「Project Ego」へと連なる過程で,彼の考えがゲームとして明確に表現されるようになってきている