2002 Game Developers Conference 概要 2/2
よりアカデミックとエンターテイメントへの歩み寄り
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| 写真左は,DirectXのグラフィックアーキテクトであるチャズ・ボイド氏。開発者と語り合う姿勢が,DirectXを浮動のAPIに押し上げた |
今年のGDCの印象は,「ゲーム業界が成長するための躍進と苦悩」である。昨年のインターネットバブル崩壊が,ゲーム産業にも影響を与えているのは参加者が少なくなったことからも想像できるが,1時間ごとに行われるセッションの数は実質的に増えており,近辺のホテルのボールルームを借りてまで行われるようになっている。また,セッションの内容も「これからのゲームのあり方をいかに考えるべきか」というものが多く,アメリカのゲーム産業の真剣な取り組みが,ヒシヒシと伝わってくるのだ。
中でも,19日と20日の二日間にかけて,GDC史上初めて行われたアカデミック・サミットは,非常に興味深かった。これは,ゲーム業界と大学関係者が共同で行った会合で,双方の理解を深めるための歩み寄りを目的として行われたようだ。ゲーム業界にしてみれば,現在大学では一般的な専攻分野であるコンピュータサイエンスという広義での知識ではなく,大学機関の段階からゲーム産業への就職を意識したより狭義の学科を設けてもらうことで,多くの有能な人材を確保しようという意図がある。もちろん大学側にとっても,資金の豊富なゲーム産業から支援を受け,学生も送り込めるようになるという目算もあるだろう。近年では,ビジュアルや思考ルーチンの最新技術がゲームに活かされることが多くなっているから,これは"来るべくしてやって来た流れ"というべきものなのだろうか。
ただし去年の段階で,すでにウォーレン・スペクター(Warren Specter)氏とダグ・チャーチ(Doug
Church)氏らが中心になって教育準備委員会が発足されていたため,今回の会合は顔見せの意味合いが強かったのかもしれない。具体的には,id
Software社のデザイナー,グレム・デヴァイン(Greame Devine)氏が「Doomエンジンが陸軍のトレーニング用ソフトとして軍事産業にライセンスされたり,MODコミュニティの育成がコンピュータグラフィックスの進化に繋がっている」など,すでにゲームがおもちゃの域を越えた影響力を持つに至っていると語ったのを始め,多くの大学関係者らも取り組んでいるカリキュラムを紹介するなど,すでに根付き始めている業界と研究機関の関係が強調されることが多かった。
また,今年のGDCでは,ゲームの社会への影響力についても多くの議論がなされている。元マイクロソフトで,Xboxの仕掛人でもあったケビン・バッカス(Kevin
Bachus)氏は,ゲーム業界を「今後5年の間に黄金時代へと突入していくだろう」と予言しているが,より多くの一般人に受け入れられるべきマスメディアにするために,ゲーム業界にいる者が何を考えていくべきかを模索する動きがあちらこちらで見られた。
DirectXも進化
毎年のことではあるが,GDCが開催されている5日間のうち,最初の2日はエキスポ会場が準備中になっており,より専門的な講義が1日を通して開催されている。例えば思考ルーチンのプログラム技術や,開発ツールの使い方など,入念に講義する必要のある小難しい議題が多い。中でも恒例になりつつあるのが,マイクロソフト主催によるDirectX
Dayである。
DirectX Dayは,DirectXを開発しているMS内部のチームによって行われるもので,ゲーム開発者がより快適にプログラミングできるように,余り知られていないテクニックなどを,サンプルコードを実際に提示しながら説明するものだ。非常に技術的で,非ゲーム開発者にはなんの面白味もない話しなのだが,元はといえば,数年前までは最新のDirectX
APIの仕様をゲーム開発者に説明するメルトダウン(現在は初夏に以降)が行われていた時間枠である。そのために最近のDirectX Dayでの講義は,むしろ以前から使われているテクニックの汎用が多く,DirectXを使ったゲーム開発に慣れてもらおうという趣旨になっている。やはり今年のDirectX
Dayの内容も,くぼみに溜まった霧などの処理に使うボリューメトリックフォッグを適切に表現できるプログラマブル・シェイダーのように,DirectX8.0になってから導入されたシェイダー機能の説明に重点が置かれていた。
もっとも,次のバージョン以降でどのようにDirectXが進化していくかについて触れられなかったわけではない。DirectX9.0については,前述したように7月に行われるメルトダウンで説明されるはずなのだが,そこは「開発者のフィードバックを次のバージョンに活かしていく」のが通例のDirectXチーム。グラフィックアーキテクトのチャズ・ボイド(Chas
Boyd)氏自らが,今後どのようになるかを語ってくれた。
DirectX9.0は,端的にいってDirectX7.0からDirectX8.0へ移行したときほどの劇的な変化はないものの,バーテックス・シェイダーとピクセル・シェイダーがバージョン2.0へとアップグレードされる。面白いのはバーテックス・シェイダーで浮動少数点のコントロールを実装しているのに加え,ピクセル・シェイダーでも浮動ピクセルデータの正確な明示ができるようになるという説明だ。これはつまり,頂点データと浮遊点データが混在してフレームバファーに出力されるということなので,実質的に二つのシェイダーの差がほとんどなくなってしまうのである。開発チームでは,今後シェイダー機能の統合も視野に入れているようだった。
さらに,ゲーマーとして実際に目にすることになる視覚的効果の新しいものが,変位マッピング(Displacement
Mapping)というテクスチャマッピング技法である。これは,従来のバンプマッピングが表面法線ベクトルのみを変形させてきたのに加え,表面のテクスチャ座標の数値を変化させて,より劇的なテクスチャの変形を可能にするというものである。会場では,「コマンド&コンカー」シリーズのWestwood
Studios社の開発者が技術デモを行い,製作した3D世界でどこまでカメラを進めていっても,256×256の地形テクスチャーが途切れることなくスムーズにつながっていくプログラムを披露した。
DirectX9.0のベータ版は夏頃から配布される見込みで,予定では各ハードウェアベンダーは第3四半期での新型グラフィックカードの投入を予定しているのだという。ソフトに付点される形で,XboxのDirectX
APIも自動更新されるとのことだった。
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| Westwood Studios社が公開したDisplacement Mappingのデモ。プロジェクターに写ったものを撮影したので,色が褪せてブレてしまっているけど,本当なら32ビットカラーの美しい地形になっている |
DirectX Dayで使用されたプレゼンテーションの一例 |

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