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D.I.C.E. Summit開催
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文・写真 奥谷海人
業界の重鎮たちが集うゲーム開発者サミット
アメリカ時間の2月28日から3月1日にかけて,ネバダ州ラスベガスのHard
Rock Hotelにて,第1回となる「D.I.C.E. Summit」が開催された。"D.I.C.E."とは,全米インタラクティブ芸術科学学会(The
Academy of Arts&Sciences,以下AIAS)が主催するサミットで,「Design,Innovation,Communicate,Entertain」の頭文字を取って名付けられている。そこからも分かるように,ゲーム業界関係者であるアカデミー会員が一同に介し,その知識を共有することでゲーム産業をさらに盛り立てようという目的で始められたのである。
さて第1回のサミットには,およそ200人くらいの業界関係者が参加しており,3月に行われるGDC(Game Developers Conference)にも似た,各分野の講義も行われる形式になっている。ただ,参加人数が小さいために1時間に一つの講義しかなく,ゲームデザインに関する考察や経験談がメインとなっており,GDCと比較しても規模が大きいものではない。しかしその内容は非常に濃くて,2日間の講義で段上に立った人たちには,
・ローン・レニング(Lorne Lenning)
Oddworld Inhabitants社 ― Oddworldシリーズ
・マーク・サーニー(Mark Cerny)
Cerny Games社 ― Marble Madness,スパイロ&ドラゴン
・ブルース・シェリー(Bruce Shelly)
Emsemble Studios社 ― エイジ・オブ・エンパイア
・シド・マイヤー(Sid Meier)
Firaxis Studios社 ― シヴィライゼーション
・リチャード・ギャリオット(Richard Garriott)
NC Soft社 ― Ultimaシリーズ
・ジェイソン・ルビン(Jason Rubin)
Naughty Dog Studios社 ― クラッシュバンディクー
・ウィル・ライト(Will Wright)
Maxis社 ― シムシリーズ |
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ウィル・ライト氏 |
シド・マイヤー氏 |
らがおり,まさに業界のVIPたちが集結したような威圧感さえ受ける。
とくに,レニング氏とサーニー氏が企画書の書き方の手法を巡って激しい火花を散らしたり,ウィル・ライト氏がシド・マイヤー氏が講じる「Dinosaursプロジェクト企画が潰れた理由」に関して質問を投げかけたりと,上下関係や敵対心とは無縁のアカデミックな雰囲気がある会場となっていた。また,会場となったホテルのあちこちではゲーム開発者たちが交流している様子が見られ,リチャード・ギャリオット氏と「Dark
Age of Camelot」のプロデューサーであるマーク・フィロア(Mark Firor)氏が日本のオンラインゲーム市場について立ち話しているなど,肩の力を抜いた情報交換の場所にもなっていたようだ。
アカデミーとは?
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ポール・プロペンザノ氏 |
今回ラスベガスに集結した開発者たちの多くは,AIASの会員という立場になっており,ハリウッド映画界の全米映画科学学会(Academy of
Motion Pictures&Sciences)をモデルにして1996年に設立された。現在2代めの学長となっているのは,D.I.C.E.の開催に奔走したポール・プロペンザノ(Paul
Propenzano)氏である。
アカデミーの会員となれるのは,実際にゲーム制作に参加しているデベロッパーたちだけとなっており,複数の会員からの推薦を受けて正会員となることができるという構造も踏襲している。駈け出しのデベロッパーはもちろん,実際にゲーム開発に携わらない経営者らは,会費を払っていても準会員という立場にしかなれないのである。
さて,正会員に数々の特典があるのはもちろんだが,中でも1997年から行われている「インタラクティブ・アチーブメント賞」への投票権が与えられていることが挙げられよう。この,いわば"ゲーム界のアカデミー賞"は,正会員から選ばれた役員たちがノミネート作品を選び,正会員がオンラインで無記名投票を行うという形を取っているのである。
もちろん,今年も各分野で功績や成功を認められた全25作品がアカデミー賞を獲得し,業界での栄誉を受けることになったのである。とくに第5回となる今年のアカデミー賞は,初開催のD.I.C.E.サミットが行われたこともあり,ハリウッド俳優やコメディアンの進行役も加えた大掛かりなものとなっており,テレビ放送のための収録も行われていた。会場となったホテル内のコンサートホールは華々しい照明で照らされて,活気のあるアメリカのゲーム業界を象徴しているようでもあった。
気になる受賞作品だが,PC部門では次のような結果になっている。
PC部門 ゲーム・オブ・ザ・イヤー - 「ブラック&ホワイト」
ベスト・アクション/アドベンチャー - 「Return
to Castle Wolfenstein」
ベスト・戦略ストラテジー - 「シヴィライゼーションIII」
ベスト・ロールプレイング - 「バルダーズ・ゲートII」
ベスト・シミュレーション - 「Microsoft
Flight Simulator 2002」
ベスト・常時稼動型オンラインゲーム - 「Dark
Age of Camelot」
総合的なゲーム・オブ・ザ・イヤーには,Xbox用に開発された「Halo:Combat
Evolved」が選ばれれ,コンシューマ部門では「GT3」や「ICO」「ピクミン」「メタルギアソリッド2」などの日本の作品も受賞している。
しかし,中でも「Dark
Age of Camelot」が多くの部門にノミネートされていたのは印象的だ。Mythic Entertainment社は,"中堅"ともいえないような30人程度の開発チームでしかないが,大きな販売元の資金的,技術的な協力を得ることもなく,たった3億円弱という予算という制約を受けながらも作品を大成功に導いたのが評価されたようだった。また,ゲーム・オブ・ザ・イヤーに選ばれた「ブラック&ホワイト」にしても,商業的には失敗している作品であるといってもよいに関わらず,ゲームデザインや最新技術の応用といった,職人的な作業が認められた形になっており,経営者の趣向に惑わされていないAIAS会員たちだからこその結果であったのだろう。
また,業界で功績のあったゲーム開発者に送られる「Hall
of Fame」には「シムピープル」のウィル・ライト氏が選ばれ,第1回から数えて5人めとなる"殿堂入り"を果たしたのだった。なおこのゲームの殿堂には,過去から順番に宮本茂氏,シド・マイヤー氏,坂口博信氏,ジョン・カーマック氏が選出されている。
最初のホール・オブ・フェイマーとしても知られる宮本茂氏が,アメリカの開発者の間ではゲームデザインの神のように慕われているのは有名な話しである。今回の授賞式でも,彼はノミネート作品の紹介者として段上に立っていた。宮本氏自身はアカデミーの会員でもあり,2日めに行われた「これまでに考えられなかった市場に向けたゲーム作り」という円卓会議に,同じくニンテンドウの岩田聡氏や,アンフォグラム社長のブルーノ・ボネル(Bruno
Bonnel)氏,エレクトロニック・アーツ社長のラリー・ブロブスト(Larry Probst)氏らと共に熱弁を振るっていた。
プロヴェンザノ学長によるとD.I.C.Eサミットは毎年行われるようになるとのことで,ゲーム業界にはなかった秀作の権威付けが加速されていくこととなりそうだ。この"権威付け"は,別段悪い意味に取っているのではなく,エンターテイメントとしてすでに底が厚いゲーム産業が,急速に形成されつつある過渡期にあると見るべきだろう。ちょうど昨年は,ゲーム業界の年間収益がハリウッド映画産業の興行収入のそれを追い抜いた年でもあったし,少なくとも,アメリカのゲーム産業が大きく発展している様を実感できるサミットであった。
プレイヤーの立場である読者のみなさんに直接関係あるような話は少なかったが,追って面白かったスピーチを抜粋して掲載するのでお楽しみに。
To Be Continued !

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