DeltaChromeベンチマークテスト

TEXT By トライゼット 西川 善司

話題の新GPU,DeltaChromeベンチマークテスト

 S3 Graphicsは,いまゲーマーの間でも話題となっているDirectX 9世代の完全新アーキテクチャのGPU「DeltaChrome」シリーズの出荷を,2003年12月末より開始する。
 この新GPUを搭載したビデオカード(試作品)による各種ベンチマークの結果を見ていきながら,気になるパフォーマンス面を評価していこう。

DeltaChromeってどんなGPU?

S3 DeltaChromeビデオカード(試作品)

 S3 DeltaChromeについてよく知らない読者も多いと思うので,まずは基本的なスペック周りから紹介しよう。
 DeltaChromeはDirectX 9世代のGPUとしてデザインされ,プログラマブルシェーダ2.0+に対応した3Dグラフィックスエンジンを内包する。製造プロセスルールは0.13μmで,総トランジスタ数は6000万〜8000万となっており,DirectX 9世代GPUとしては極端に少ないといえる(ちなみに,DirectX 8世代のNVIDIA GeForce3が5700万程度)。ロジックはリーク電流の少ないHighVtトランジスタで構成され,最大パフォーマンスよりも省電力性能を重視した設計となっている
 その少ないトランジスタ数とは裏腹に,3Dエンジン部のデザインはDirectX 9世代GPUトレンドを踏襲しており,プログラマブル頂点シェーダは4基,ピクセルレンダリングパイプラインは8本という構成を取っている。しかも8本すべてのパイプラインに浮動小数点実数(以下FP)プログラマブルピクセルシェーダユニットを搭載する
 ただし,その演算精度はATI RADEON9500以上と同じで,DirectX 9-Direct3D(以下D3D9)の正式なFP形式としては存在しない24ビット精度を採用。ちなみにD3D9で規定されているFP表現は,16ビットFPと32ビットFPの2種類。すなわち,DeltaChromeでは(RADEONシリーズもだが),32ビットFPについては24ビットFP表現に近似されて演算されることになる。
 「ただし,シングルパスでスループット出来るのは16ビットFP演算精度時」(S3/VIA)という説明から考えると,各パイプラインに実装されているFPピクセルシェーダユニットは16ビットFP精度であると推察される。
 動作クロックはコア300MHz,ビデオメモリはDDR SDRAM 600MHz。動作モードには「通常モード」と「省電力モード」の二つがあり,カードベンダーやノートPCメーカーは,そのどちらかから動作モードを選ぶようになるという。なお,ユーザーは動作モードの切り替えを行えないようになっている
 省電力モード時は,未使用ロジックへの電源供給を動的にカットする機構が働き,最大消費電力は3.4W以下になるという。省電力モード,通常モードいずれにおいても最大300MHzまで動作し,通常モードでも4W以下。これは他社の同クラスノートPC向けDirectX 9世代GPUが8W超であることを考えれば,DeltaChromeの省電力性能はずば抜けているといえる。
 なお,基本的なスペックを表1に示す。

表1 メインストリーム主要GPUのスペック
  S3 Delta Chrome NVIDIA GeForceFX5600 ATI RADEON9600PRO
コアアーキテクチャ DirectX 9
 プログラマブルシェーダ2.0+
DirectX 9
 プログラマブルシェーダ2.0+
DirectX 9
 プログラマブルシェーダ2.0
コアクロック 300MHz 325MHz 400MHz
ビデオメモリ
 インターフェース
128bit
ビデオメモリ(最大) DDR SDRAM 256MB
メモリクロック 600MHz 550MHz 600MHz
メモリバンド幅 9.6GB/sec 8.8GB/sec 9.6GB/sec
テクセル毎秒 24億 13億 16億
頂点毎秒 3億 8800万 2億
頂点シェーダユニット 4 未公開 2

ピクセルレンダリング
 パイプライン

8 4(バーチャル) 4

気になるそのパフォーマンスは?

 さて,気になるDeltaChromeの実際のパフォーマンスはどんなものなのだろうか。
 ここでは,ゲーマーにも馴染みが深いであろう,実際の3Dゲームを使ったベンチマークテストを中心に実行してみた。
 DeltaChromeの対抗カードとして選んだのはATI RADEON9600PRO搭載カード(GIGABYTE GV-R96P128D)と,NVIDIA GeForceFX5600(Albatron FX5600P TURBO)の2枚。なおFX5600P TURBOは,NVIDIAのGeForceFX5600公称スペックとは異なるコア300MHz/メモリ600MHz(DDR)で動作する仕様になっている。ちょうどDeltaChromeの仕様と同じなので,あえてオーバークロックなどはせずに,そのままでベンチマークテストを実行した。

テストに使用したPC
・CPU Pentium4/1.6A-GHz (2.133GHz動作)
・M/B ASUS P4B266
・メモリー PC2100 SDRAM 768MB
・HDD SEAGATE ST313620A
使用したビデオカード
・DeltaChrome S3(試作品)
・GeForceFX5600 Albatron FX5600P TURBO
・RADEON9600PRO GIGABYTE GV-R96P128D

 

Unreal Tournament 2003ベンチマーク
(1024x768/32ビットカラー)

 「Unreal Tournament 2003」(以下,UT2003)のデモ版に付属のベンチマークモードでの計測。
 ジオメトリ量はそこそこ,マルチテクスチャリングは多用するが,シェーダーは簡易的……という,現行3Dゲームの代表的サンプルともいえるこのテストの結果はまさに横並びとなった
 このことからDeltaChromeは,メインストリームクラスGPU相当の性能はちゃんと持ち合わせているといえる。


  Flyby Botmatch
DeltaChrome 132.833649 52.407398
GeForceFX5600 123.161591 54.602528
RADEON9600PRO 143.817032 55.475719

UT2003テストの結果を見る限り,とりあえずDeltaChromeにメインストリームクラスGPUの能力があることは証明された

 

Splinter Cellベンチマーク
(1024x768/32ビットカラー)

 「Tom Clancy's Splinter Cell」のVersion.1.2パッチにて追加されたベンチマークモードで計測を行った。GeForce系が有利にならないように,影生成メソッドにはシャドウバッファ技法をキャンセルし,プロジェクションシャドウ技法を使うように設定して計測した。
 結果は,RADEON9600PROにはまったく及ばず,GeForceFX5600にも僅差ながら劣る結果となった

  SCENE 1 SCENE 2 SCENE.3 TOTAL
DeltaChrome 23.395511 18.777278 20.72852 62.90131
GeForceFX5600 24.031234 19.871595 29.375296 73.27813
RADEON9600PRO 32.699284 26.262549 36.029657 94.99149

もうちょっとGeForceFX5600に食いついていってほしかったところだが……

 

Tomb Raider 美しき逃亡者ベンチマーク
(1024x768/32ビットカラー)

 「Tomb Raider 美しき逃亡者」のVer.49にあるベンチマークモードでの計測。
 Glow効果をオンにするとDeltaChromeではリセットがかかってしまうので,これを外しての測定を行っている。設定状態は下にSETTING画面を掲載したのでそちらを参考にしてほしい。
 ヌメヌメとした床や岩壁は環境バンプマッピングによるものだし,水面の映り込みは,シーンをリアルタイムにテクスチャにレンダリングしてのマルチパスレンダリングによる映り込みとなっている。テストは全シーンに渡ってプログラマブルシェーダが多用されており,非常にヘビーなテスト構成といえる。
 ここまでのヘビーなテストでは,前出二つのテストとは違い,DeltaChromeの完全並列8本のパイプライン構造の優位性がスコアに表れることとなった
 結果はGeForceFX5600の2倍を記録。同クロック動作のGPUで2倍のスコア差が現れるというのは,アーキテクチャの差が如実に表れたとしかいいようがない。
 なお,RADEON9600PROには負けたが,RADEON9600PROのコアクロックは400MHzで,DeltaChromeに比べ33%も高い。スコアの数字も,このクロック比にならったものになっている。
 ちなみに,DeltaChromeは今回の試作カードでも採用されている300MHz動作版が最上位モデルとのことだが,ぜひとも400MHz超版も用意してほしいものだ。

  TOMBRAIDER AOD
DeltaChrome 21.20085
GeForceFX5600 11.65202
RADEON9600PRO 28.281946

スコアは高いが,実は途中こんな表示異常が現れることもあった。ドライバの完成度アップに期待したいところ


Tom Raiderベンチのセッティング例。GeForce系で有利不利が出ないように「nVidia Shadow」(GeForce系で利用できる)と「Pixel Shader2.0 Shadow」(GeForce系で利用できない)はオフにしている

 

FINAL FANTASY XI for Windowsオフィシャルベンチマーク ソフト2
(ハイクオリティ)

 いつの間にかゲームベンチの標準的存在となっている「FINAL FANTASY XI for Windows」オフィシャルベンチマーク ソフト2(以下,FFベンチ2)。
 このベンチマークテストはいわば前出のUT2003テストのジオメトリ高負荷版ともいうべきもので,ジオメトリ処理は高負荷だが,ピクセル処理系はマルチテクスチャリング主体で,複雑なシェーダプログラムは動いていない。ただ,最近のPC用3Dゲームは1ピクセルに多大な情熱をかけるよりは,進化の方向がジオメトリを増大させるほうへ強く向いてきていることから,世相を反映してはいる。
 さてその結果だが,DeltaChromeは頂点処理ユニットが並列4基構成というだけあり,GeForceFX5600を楽勝で上回り,100MHzも動作クロックを上回るRADEON9600PROの後ろにぴたりとつける格好になった

  FFベンチ2
DeltaChrome 3268
GeForceFX5600 2756
RADEON9600PRO 3433

無数のタルタル,チョコボ,そして大量の木々とが同時に登場するFFベンチ2。どちらかといえばジオメトリストレステスト的な側面が強い

 

AquaMark3
(デフォルト)

 3Dグラフィックス・フィーチャーを実際の3Dゲームエンジンの中で実戦的にテストしていくのがAquaNox2エンジンベースのベンチマーク「AquaMark3」だ。
 トータルスコアにしてみると,DeltaChromeはRADEON9600PROには劣るものの,GeForceFX5600には辛うじて勝っているといった結果に
 AquaMark3のスコアは,テスト全体を通しての平均フレームレートを1000倍にしたものであり,特定のテストでの平均フレームレートの落ち込みがスコアに響く。DeltaChromeがGeForceFX5600に辛勝できた要因は,「Large Scale Vegetation Rendering」テストにある。これは大量の植物が存在する地形のレンダリングテストで,それぞれの植物が個別のジオメトリを持っていることから,いわばFFベンチ2のようなジオメトリ・ストレス・テストに近いものになっている。
 このテストのDeltaChromeのスコアは実にGeForceFX5600の2倍。この結果も,DeltaChromeの高いジオメトリ処理能力が功を奏した結果だといえる。

  AquaMark3 Dynamic
Occlusion
Culling
High
Particle
Count
Masked
Environment
Mapping
Large Scale
Vegetation
Rendering
DeltaChrome 19395 29.37 12.04 22.97 15.37
GeForceFX5600 17822 41.92 12.05 25.17 7.96
RADEON9600PRO 24597 47.39 15.3 33.15 14.7

 

  Vertex
And
Pixel
Lighting
3D
Volumetric
Fog
Complex
Multimaterial
Shader
Massive
Overdraw
DeltaChrome 23.81 24.49 17.88 13.03
GeForceFX5600 20.85 28.34 18.8 12.39
RADEON9600PRO 30.9 32.7 24.83 15.29

大量の海底植物が揺れ動くAquaMark3の「Large Scale Vegetation Rendering」テスト


 今回のテストを行ってみて,DeltaChromeはハイエンドGPUに勝るパワーはなかったが,現行メインストリームGPU並のポテンシャルを秘めていることは感じられた。しかし,性能だけで見れば"あえてDeltaChromeを選ぶ"理由が見つからないというのもまた事実。
 S3もそのあたりはちゃんと心得ているようで,性能面とはまた別の魅力でライバル達との差別化を図っていこうとしているようだ。具体的には,今回あまり深く触れなかったが,"高画質コンポーネントビデオ出力機能" "高品位動画再生支援機能" "フォントスムージングアクセラレーション",そして"省電力動作"といった要素がそれに当たる。
 あとは価格だ。GeForceFX5600系や,RADEON9600系が1万円後半から2万円前後で販売されていることから,例えば1万5000円以下で登場させることができれば,メインストリームユーザーだけでなく,エントリクラスユーザーまでを取り込むことができるかもしれない。
 ちなみにDeltaChromeのバリエーション展開は,最上位モデルが今回テストした試作カードと同じ動作クロック300MHzの"DeltaChromeF1"で,その下が"DeltaChomeS8" "DeltaChomeS4"と続く。F1とS8が8レンダリングパイプラインモデルで,S4は4レンダリングパイプライン仕様となる。S8,S4の動作クロックについて,現段階では未定となっている。
 最後にDeltaChromeのリリース時期と価格についての情報をお届けしよう。2003年12月末には台湾ベンダー製のものが先行して発売される予定で,年が明けてからは日本の有名周辺機器メーカー製のものも登場するといわれている。いずれも価格は未定としながらも,台湾製のものは1万8000円前後,あるいはそれ以下で市場に登場するのではないかとみられている。
 ATI,NVIDIAに続くGPUメーカーの第三勢力としてS3の復活はなるか? 今後もその動向には注目せずにはいられないだろう。