美しい弾幕は大量の弾で成り立つが,そもそも弾幕が美しいと認識してもらうためには,プレイヤーにそれを味わえるだけの余裕を与えなければならない。これは大いなる矛盾だ。爽快感を求めるタイプの"正当派"シューティングで美しさを追求するならいざ知らず,弾数は少ないが美しい弾幕などというものはあり得ないからだ。 東方シリーズ――現在入手可能なのは,Windows用として初めて登場した第6弾「東方紅魔郷」以降,「東方妖々夢」「東方永夜抄」なので,話はこれらに絞るが――の価値は,この相容れぬ命題に正面から取り組んだ点にある。美しい弾幕を追求しつつ,さまざまなレベルのプレイヤーに余裕を提供する……。東方シリーズがいわゆる"同人ソフト"であり,メジャーなジャンルとは言いがたい弾幕シューティングでありながら,尋常ならざるプレイヤー数を得た理由は,明らかにここにある。 どうやっても避けられそうにない敵の乱射乱撃。だが,それらのほとんどには少なくとも一つ以上のはっきりとした抜け道が用意されている。はじめはただひたすらバラ撒かれているようにしか見えなかった敵の弾の間に,ふとした隙間や仕組まれた一本道を見出せた瞬間,プレイヤーには余裕が生まれ,それまで雑然と見えていた弾は「弾幕」という集合体として捕捉可能になる。 弾幕シューティングを"楽しむ"とはどういうことか,東方シリーズはすべてのプレイヤーにその答えを提供してくれる。一方その完成度ゆえに商業作品と比べられることが多く,しばしば劣る点があげつらわれてしまうのも事実だ。例えば,コミックマーケット66で販売される最新作「東方永夜抄」の基本システムを話題にするならば,どうしても商業作品たる「斑鳩」と比べてしまうのが人情かもしれない。東方永夜抄では,プレイヤーキャラクターは基本的に人間と妖怪の二人(?)一組。高速移動(人間)と低速移動(妖怪)を適宜切り替えるシステムで,選択によって倒せたり倒せなかったりする特定の敵が存在するため,斑鳩風といってしまうことは確かに可能だ。 しかし,少なくとも体験版をプレイする限り,この切り替えに無理はないのである。ゲームである以上慣れは必要だが,意図的に切り替えなければすぐに難易度が上がるというシステムは,商業作品とはまた違ったとっつきやすさとして評価できる。東方紅魔郷や東方妖々夢はもっとシンプルだが,誰にでも弾幕の芸術性が味わえるようにという配慮は一貫している。いや,グラフィックス面の未完成具合と,いかにも最近の作品らしい"深読み"を誘うシナリオ/設定が,多くの"二次創作"を生んでいるのはまた別の論点なのだけれども。 「こちら」の上海アリス幻樂団のサイトで配布されている東方妖々夢,さらにいえば東方シリーズの体験版はそういった意味で,初めて弾幕シューティングに挑戦する人には最適の教材といえるだろう。なおこのゲームは,ぜひとも可能な限りの大音量で楽しんでいただきたい。 (佐々山薫郁)
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