レビューコンテスト

 

4Gレビューコンテスト 佳作作品

 

ハイアード・エクスプローラー

Text by 石敢当未来不(せきがんとうまつらわず)
30th Jun. 2003

※レビューコンテストという性質上,forGamer編集部では最低限の校正しか行っていません。ご了承ください

 

 「ハイアード・エクスプローラー」(雇われ冒険者,以下HE)は非常にマイナーな作品だ。名前を聞いても,どんな作品かと,疑問符が浮かぶ人ばかりと思う。何せ,forGamer.netでも取り上げてもらえなかったのである。もちろん,その他のニュースサイトでも。救いとしては,体験版のような形で某雑誌に連載されたことだろうか。ただし,製品として発売されるという記事は悲しいほど小さかったが。
 と,なんだか,聞くだけで可哀想な作品である。確かに,ムービーや音声,バリバリ3Dのような派手な演出はない地味な作品だし,会社も無名だ。しかしながら,ただただ悲運な作品というだけでなく,HE独特の魅力や楽しさは大きい。これをこのまま埋もれさせてしまうには惜しい。そんな作品だけに,禿筆ながら紹介させていただこうと思う。

 HEはクォータビュータイプのアクションRPG。プレイヤー(主人公)は,エリアルの街にあるハイアード・ギルドのリーダー的な存在として,仲間と共にさまざまな依頼をこなしていく。
 ギルドの仲間は全部で16人。主人公を狙うマッドサイエンティストから,華麗な女騎士,関西弁の盗賊までと,個性(能力面を含めて),外見もさまざま。さらに街の人々も負けてはいない。昼間は広場で恋の話をして,夜になれば酒場に集って愚痴や談笑をする。一見して当たり前のことだ。しかし,この当たり前こそが,リアルで,人物関係を浮き彫りにするとともに,彼らがそこに生きているのだと実感させてくれる。そして親しくなるにつれて明かされていく各キャラクターの過去や,背負った運命は,彼らを息づかせ,それぞれの物語を綴り描き,いっそうの感情移入をさせてくれるだろう。HEの大きな魅力の一つだ。
 ギルドで斡旋を受けて依頼を達成する,の繰り返しがゲームの基本的な流れ。依頼――クエストは個々の独立性が高く,バリエーション豊富。喩えるなら,オムニバスとか短編連作の小説を読んでいるようなイメージが近い。それでいて,主人公の見る謎の夢が絡んで大きなストーリーが進行していく。
 さて,依頼を受けて,いざ冒険にというときには二人の仲間を同行させる。このメンバーは,誰を選ぼうとも自由。ハッキリいって,顔だけで選んじゃってもOKだったりする。まあ,育成の面からして,大概は2〜5人程度の決まった仲間でプレイしていくことになるだろうが,メンバー構成をあれこれ試してみるのも醍醐味だろう。
 メンバーが決定したらいよいよ冒険の始まりだ。HEではクエストに入ると,ほとんどがリアルタイムの戦闘になる。敵を倒しながら,ダンジョンなどを探り,目的達成を目指す。こんな感じだ。謎解きも程よい。加えて,クエスト中のセリフが同行した仲間によって微妙に変わったり,選択肢によっては進行に違いが出たりするのが面白い。
 ところで,アクションRPGのサガともいえるのがその操作性ではないだろうか。きっと苦しんだ経験のある方も多いことだろう。ではHEの操作性は? というと……非常に快適。操作はマウスで,左クリックが話すやアクション系,右クリックで移動。つまり必然的に右クリックを多用することなるので,最初はとまどう人もいると思うが,慣れてしまえばお手の物。少なくとも筆者はかなりよいほうと思う。いや,トップクラスというべきかもしれない。それだけプレイしやすかった。また,スムースな操作性によって,戦闘では常に動き回って攻撃という緊張感を生み出していることも評価できる
 その戦闘において重要なのは,プレイヤーがリーダーであるということ。要するに,仲間達を指揮しなければならない。二人の仲間達はAIで自律して動くから,「全力」「慎重」「回復」のような指示の中から場に適したものを選ぶ。
 とはいっても,ボス戦以外ではとかく気にする必要はない。普段は時に滅茶苦茶な動きを,たまに「おおっ!」と,驚かされる行動をとって生身の人間が動かしているのかと印象を与える仲間と一緒に,冒険を楽しめばいい。だが,逆にいえば,ボス戦でいい加減な指揮をしていると,すぐに仲間が死亡,蘇生させようとしているところを,囲まれてゲームオーバーなんて最悪の事態にもなり得るのでお気をつけあれ
 それから,敵には視界が存在する。この視界内に入ると,敵はこちらの存在に気がついて,襲ってくる。近くに複数の敵がいる場合は一人の敵が気付くだけで全員が襲ってくるという具合。反対に,こちらが敵の視界に入らずに,つまり背後から攻撃すれば2倍のダメージを与えることができる。決まったときは何なんとも快感。アクションならではの爽快さ。つい癖になってしまう。
 さらに,注目すべきなのはソリッドと呼ばれるもの。敵を倒すと,宝石のような物を落す。これがソリッドだ。このソリッド,パッと見はそう見えないけれど,キャラの成長に欠かすことができない大切なアイテムなのだ。なぜかというと,ソリッドを使うことにより,キャラの能力成長,スキル習得がなされるから。ソリッドには種類があり,それによって上がる能力も違う。ただ,惜しむらくは,「ソリッドを均等に分配」するという親切な機能が裏目に出てしまい,これを利用していれば,こいつは守備が低いからこのソリッドで守備力を上げよう,といったことをせずとも十分な強さを持つキャラができるので,育成の楽しみが薄れてしまった点であろうか。これは非常に残念に感じた。
 もう一つ面白いのが,アタッチメントとアクセサリー。名前の通りというか,RPGでは定番となっている補助装備である。……のだが,HEではやたら強力だ。少し説明しておくと,アタッチメントはアクセサリーを改造改良したもので,これにはソリッドとその他のアイテムを要す。アクセサリーの強力版と思ってもらえれば結構。
 アタッチメントの効果は,即死攻撃……物理攻撃に限り一定確率で敵を瞬殺,魔法力増加……魔法ダメージ1.5倍,貫通……弓矢などは射程内の敵全員にダメージ,などなど。もしも,魔法が得意なキャラが即死攻撃を装備したならば,鬼神のごとき強さになんてことも。どれも強力無比な効果を有しており,使い分けできれば相当楽になるし,何より,敵をバタバタとなぎ倒せるのがありがたく嬉しい。

 最初に述べたように,HEに派手な要素はない。不具合,インタフェースの不備,前述のソリッドに関しても,まだまだ甘さが目立つし,その他細かい点での不満もいくつかある。それらを差し引いても,音楽が耳を,不思議なマウスさばきが手を,地味ながら凝った演出が眼を――制作者の力強さと意気込みでもって,プレイヤーをぐぐっと世界へと引きずり込む。前には敵,横を見れば仲間がいて,檄を飛ばし叫ぶ自分がいる。暗い雲が徐々に空を染め,世界は渦へと巻き込まれていく中で,どう生きるか……。そう,すべては自分次第,あなた次第。
 長時間プレイでき,かつ値段も公式サイトでは2000円とお手ごろとなっている。少なくとも,ここに熱中した輩が一人いるのだ。やや体温の下がった国産PCゲーム業界に,火を灯しつつある良作といえるのではないだろうか。

「ハイアード・エクスプローラー」公式サイト

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