パトリシアンII 日本語版

Text by いらいじゃ
1st Apr. 2003

"冒険商人"の貿易

いくつもの商人の船が行き交う海。彼らの活躍が,一大貿易圏である"ヨーロッパ"を形成していくこととなる

 「パトリシアンII 日本語版」は,14世紀の"中世"が舞台のリアルタイム貿易シミュレーション。14世紀といえば,日本では鎌倉幕府から室町幕府へ変わる時期,ヨーロッパでは百年戦争の15世紀へと続いていく時代で,のちの"大航海時代"へと通じる黎明期といえる。
 主な舞台は,ハンザ自由都市同盟が存在した北海/バルト海付近。プレイヤーはヨーロッパ北部をメインとした冒険商人として,やがて訪れる「商人の時代」を切り開いていくことになる。冒険商人といっても,鋼鉄製のそろばん片手にスライムを殴るわけではない。彼らの武器は船と,そこに詰み込む商品だ。

 農業革命。13世紀から始まったさまざまな技術の交流により,ヨーロッパの生産技術は向上し,「食べるだけで精一杯」という時代から脱しつつあった。
 生産技術が向上することで,強い力を持った地方領主が生まれる。富を備蓄する都市,そして市民が生まれてくるのである。
 目端の利く者はどこにでもいる。彼らは,農業の仕事をせずに,小麦を余っているところから足りないところに運び,代わりにワインを持って帰る。このように彼らはちょっとした機会を見つけて利益を生み出していく。こうした人々がやがて統合され,大商人になっていく。

 本作ではこの感覚を追体験できる。あっちにはビール,こっちには羊毛……。一艘のボロ船を操って海を走り回り,各都市の名産物を買い漁り,交易を行っていく。やがて資金が貯まって船はより大きくなり,その名声は市民が知らぬ者がなくなるほど高まる。最終的には権力者の座まで上りつめていくのだ。
 商人が歴史を動かす時代。ライバル商人との市場の争い,海賊の横行,自然現象による災害,そして戦争。こういったさまざまな歴史的要素をすべて詰め込んだ,まさに"商人"を楽しめるゲームなのである

リューベックを始めとした中央のマップ。西にはロンドンやハンブルグといった都市もある 初級キャンペーンなどの舞台となるリューベック。都市のグラフィックスは細かく,各オブジェクトをクリックすることで反応が返ってくるのが楽しい ちょっとした3DCGムービーが入る演出も。酒場の怪しい雰囲気を,こだわって再現している

ゲームのコツが覚えられる工夫が随所に

 このゲームの特徴の一つとして,"チュートリアル"の充実が挙げられる。貿易の基本,都市の発展のさせ方,そして海戦の方法などを日本語音声付きで丁寧に解説してくれる。
 さらに"初級キャンペーン"そのものが,ゲームの進め方に対するヒント集になっている。このキャンペーンでは,自由都市同盟の盟主である"リューベック"という都市をホームタウンとした商人の立場でプレイしていくのだが,キャンペーン中は定期的にヒントメッセージが与えられる。リューベックの産業の特徴から有利な取引先,物流の仕方など,キャンペーンそのものがある意味実践を伴ったチュートリアルとなっているわけだ。
 このゲームは非常に自由度が高い代わりに,ある一定のセオリーをつかまないとジリ貧になってしまう可能性も高い。こういったヒントメッセージの存在は,プレイするうえでの大きな助けになるだろう。

チュートリアルのメニュー。必要なときに参照するのもいいだろう 西側のマップ。街のそばにあるアイコンが,その街で不足している物資。慌てて届けても,ほかの商人に先を越されていることも 街に入らなくても,右クリックで取り引きできる。早送りボタンと併せて使えば,スピーディーな貿易が可能
初級キャンペーンでプレイヤーに渡されるヒントメッセージの手紙。都市の名前は,マニュアルの全体マップを参照するといい 港のドッククレーンを左クリックすることで出てくる貿易メニュー。備蓄量と値段はリアルタイムでみるみる変動する 最初のキャンペーンをクリアしたところ。このキャンペーンはギルドの加入や生産工場なしで達成できる

自ら体得していく貿易の「鉄則」

 チュートリアルの充実により間口は広くなっているものの,商人として成功するのはたやすいことではない。しかし,頭で覚えたことを,実際の貿易で「身体で」覚え込んでいくこと自体も,このゲームの楽しさの一つとなっている。

 各都市が扱う品目は多岐にわたり,最初は目移りしてしまう場合も多い。しかし初級キャンペーンでは,目的を「リューベックへの供給」という一点に絞ることで突破口が見えてくる。最初はリューベックの周辺で都市の要求を満たしていけばいいのだ。
 マルモで材木と布,アールボルグでは陶芸品,そして欠かしてはいけないのが,主にオスロで採れる鋼鉄。この鋼鉄の供給が尽きれば,リューベックの特徴である鉄製品の生産は止まってしまう。 リューベック周辺の都市だけで,これだけのものがまかなえる。こういった"商いのコツ"を,ゲームを進めながら得ることができるのである。

 商品の売買も少し難しい。物の値段は市場の在庫状況で劇的に変化する。安易なまとめ買いは物価の高騰を招き,まとめ売りも価格破壊を起こしてしまうのだ。あらかじめ最低料金と最高料金を見極めて売買を行わないと,あっという間に仕入れ額が売却額を上回ってしまうだろう。
 さらにここにライバル商人が絡んでくると,商売は一層熾烈になる。儲けを見込んで仕入れた商品をほかの商人が先に納入していると,損害を出しかねない。もちろんその商品を別の都市で売ってしまえばある程度の資金は回収できるのだが,実は売らずに自分の倉庫に収めておくという手もある。都市の消費は意外なほど早いので,こまめに価格をチェックしておけば倉庫の備蓄からでも商売は可能だし,不足しがちな物資を絶え間なく供給することで都市での評価は上昇する。

 こういった貿易作業をしているのは意外に忙しく,油断していると無駄骨を折ることも少なくない。ここで便利なのが"船長"の存在。船長を雇って船に乗せると,貿易の細かい指示を与えることができ,自動で操業してくれるのだ。そのためプレイヤーは,また別の船で貿易を行えるというわけ。
 ただランダム要素が高いのも本作の特徴で,船長に任せきっていると,いつの間にか鋼鉄の供給が止まっていて大損をした,という事にもなりかねない。細かいチェック,そしてフォローは常に必要である。

 ちなみに筆者はリューベックで売っている鉄製品というのが具体的になんなのか分からず,調べてみたところ,どうやら鋤や鍬,斧など農具のことらしい。こういった器具が鉄製に換わることで,より深く畑を掘り起こし,木を多く切り出せるようになった。いわば「農業革命」の主役ともいえる道具らしい。リューベックという街はそういった最先端の技術を扱う,時代の中心的な街だったのである。こういった歴史に根ざしたゲームというのは,ちょっと調べてみることで制作者のこだわりを感じられる。

都市の消費画面。消費量を考えて供給することも大事だ。値段が下がってしまったときは倉庫に保管しておくのがお勧め 黒い印は海賊船。貿易用の船では歯が立たないので,とにかく逃げ続けるのが得策。船長の能力が高いほどうまく逃げられる 船長は限られた街の酒場にしかいない
船長を雇うことで使用可能になる自動購入画面。非常に細かく設定できて便利だが,任せきりは危険。プレイヤーのフォローが必要 結婚したところ。それなりの評価と地位を持った商人には,結婚業者から見合いの連絡がある。結婚相手から持参金と船をもらえる 地道に貿易を進めていくだけで,それなりに地位は上がっていく。しかし大金を稼ぐには,ほかにもさまざまなアプローチが必要だ

唸る砲弾,砕ける木片! 海賊との戦い

 貿易に夢中になっている限り,戦闘はただの障害でしかない。貿易船は基本的に最低限の人員しか積んでいないし,武装もない。そのためコグという大型船に大砲と荒っぽい船員を満載した海賊相手では,戦ってもまず勝ち目がない。しかし船長を雇って乗せておけば戦いはかなり回避できるし,貿易に多く使われる小型船クレイヤーは,船足が速いため逃げるのは難しくない

 とはいえ船の戦いというのは,大航海時代におけるロマンの一つである。コグに兵器を満載し,対海賊用の船を造り,船員を募るという行為には独特の興奮がある。
 まず船を建造し,砲が積めるように改装。さらに優秀な船長と数多くの船員を募り,船員の手に出来るだけ多くの剣を装備させるため武器商人から剣を買っていく……。と,戦闘準備のための手順は意外と多い。
 船の搭載兵器にはバリスタや投石機などさまざまな種類がある。基本的には船長任せとなりがちな戦闘だが,経験を積めば効率的な戦法を編み出せそうだ。
 準備ができたら航路上に船を停泊,黒い旗を掲げた海賊を待ち受ける。敵影が見えたらこれを追跡し,戦いを挑むのだ。こちらの船に船長さえ乗っていれば,1対1ならまず負けることはないはず。敵の船をボコボコにした状態で船員が減っていることを確認したら,生かしたまま拿捕してもいい。拿捕した船は,あとで高く売れる。

コラム その1 

 そんな調子で「戦闘も結構いけるね」なんて思っていたら,甘かった。コグ2隻編成という強力な海賊に襲われ,無惨にも敗退してしまったのである。そちらが2隻なら,こっちは3隻だ! と,今度は長い時間をかけて武装と船員を満載したコグ3隻の船団を用意し,海賊退治に乗り出した。
 気合いを入れた船団の前に現れたのは,なんと同じく3隻の海賊船。しかし自分の武装に自信のあった筆者は,意気揚々と戦いを挑んだ。
 3隻の船の集中砲火で,海賊船1隻をあっという間に撃沈した。しかし次が甘かった。敵の攻撃を受けて弱っていた味方の船に敵船がするすると近寄り,拿捕されてしまったのである。いきなり3対2の状況を逆転され呆然としている自軍の船に,容赦なく砲弾が突き刺さる。ついさっきまで味方だった船の砲弾の,痛いこと痛いこと……。今回の場合は,百戦錬磨の海賊に見事にやられた新米提督という感じだろうか。

 

船を改修して,兵器の搭載量を増やす。船長を乗せたり,船員に剣を渡したりと準備には時間がかかる 3vs.3の大艦隊戦。このあと,敵海賊船団は驚くべき戦術を……。風を読んで敵の進路を予想して戦わなくてはならない 船員を満載したスナイカで,別のスナイカを襲う。拿捕した船を売り飛ばすことで利益を得られる


 プレイヤー自らが海賊になることも可能だ。前述した通り,貿易船は武装していないことが多い。周辺に船がいないときを見計らって,海賊旗を掲げて弱そうな貿易船に襲いかかればいい。海賊行為で利益を得るためには,できるだけ弱くて小さい船を狙って,拿捕してしまうのがいい。その任務に最適なのが,小型船のスナイカ。最低人数しか乗っていない同型船相手なら,人数を多く乗せて剣を装備させた船で当たればまず勝てる。

正攻法に裏街道……,市長までの道

 自分のホームタウンをより一層発展させていくのも,本作の楽しさだ。産業を興すことで,富はより確実なものになっていく。
 リューベックの場合,鍛冶屋を作って鋼鉄を供給することで,大量の鉄製品を作成できる。これを船長を乗せた二艘のクレイヤーで販売して回るよう自動貿易を設定しておけば,ある程度安定した収入を得ることが可能だ。
 もちろんフォローも忙しくなる。リューベックの材木供給も滞りがちなので製材所を作り,さらに各階級の家も造ることで,住人を増やしていこう。

 ゲームの"目的"の一つとして提示されているのが,商人として階級を上げ,タイトルにもなっているパトリシアン(上流貴族),そして市長になることである
 そのためには"名声"が必要だ。市民の要求を満たすだけではなく,井戸を作り,道を整備し,教会に施しをするといった「地方の名士」らしい活動が必要となる。いくら貿易しても評価が上がらず,やけくそで貴族の家を一軒建てたらあっさり次の段階に進んだ,ということもある。商人としての評価を上げる手段は,貿易ばかりとは限らないのだ。

コラム その2

 「鋼鉄を安定供給したい」と考えて,あまり貿易をしたことのない街にいきなり事務所を建て,製鉄所を作ってみたこともあった。ところが労働者がまったく集まらず,結局ロードしなおすハメになったのだ。街が寂れていると,産業も育たないのだ。長期的な目で見れば,ホームタウンのほか二つくらいの都市をそこそこ発展させ,そこで作られた製品をほかの都市に売り払うということも可能かもしれない。


 さて,筆者も地道にプレイを重ねることで,ようやくパトリシアンにまでなることができた。目的である市長の座まで,もう一歩。そんなとき,何気なく公衆浴場に入ってみると先客がいた。彼をクリックしてみると,画面に「賄賂」の文字が。これだっ! とばかりに袖の下を渡すと「これっぽっちか,あんたの対立者に票を入れることにするよ」という,すげないお返事。市長選は1年に1回しかなく,このゲームは1年が長い。この機会を逃すのはあまりにもったいない。過去のデータをロードして,今度は10万もの賄賂を贈り……見事市長になることができたのであった。

 さらに長期的な戦略を立てて,いくつかの都市で名声を得たならば,あとは市長のときと同じように賄賂を贈ることで,商人ギルドの頂点・ハンザ同盟の盟主になることも可能だろう。都市の防衛戦に備えると共に,祭りを開催するなどして市長としての地位も保たねばならない。まさに「権力者」としての苦労と野望を体験できるゲームなのである。

 このほか「旅商人キャンペーン」では,精霊や船幽霊が登場するユニークなイベントがちりばめられたストーリーも楽しめる。「貿易」を多角的に,アイデアたっぷりに仕上げたキャンペーンとなっているのだ。
 緻密なマネジメントゲームに加えて,世界の探索と海賊退治のロマンなど数多くの要素を包括した「パトリシアンII」は,多くの人々を満足させる実力を持ったタイトルである。本場ドイツでは,すでに「パトリシアンIII」の話も出るほどの人気だ。難度は少々高めだが,ぜひチャレンジしてもらいたい。

武装した強力な船は探検にも最適。成功することで,プレイヤーに名声をもたらしてくれる 公衆浴場での取引。入っている客は上流階級の人で,大金を渡すことで彼の票は確実なものになる 念願の市長に。しかし,ここからが本当の野望の始まりだといえるだろう
かなり資金と時間がかかりそうな城壁の建造。実際の歴史でも,城壁は発展していく都市に合わせて常に改修/増築が行われていたようだ 市長としての地位を守るためにも大事な,お祭り行事。市民に楽しんでもらうためには倉庫に多く食糧の備蓄が必要となる 船の精霊や幽霊船といったメッセージが登場する旅商人キャンペーン。難度は高いが,これまでとは違った雰囲気が楽しめる

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■メーカー:メディアクエスト
■価格:8980円
■問い合わせ先:TEL 03-5805-3629
■動作環境:Windows 98/Me/XP,PentiumII/450MHz以上(PentiumIII/800MHz以上推奨),メモリ128MB以上(256MB以上推奨),空きHDD容量 530MB,DirectX 8.0aに対応する12MB以上メモリを搭載したビデオカード
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