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信長の野望 嵐世記 with パワーアップキット
Text by 朝倉 哲也
13th Jul.2001
 日本のPCゲーム史上,一,二を争う長い歴史を誇るコーエーの戦国時代シミュレーションゲーム"信長シリーズ"最新作の「信長の野望 嵐世記」(以下,嵐世記)が発売された。コーエーには,これまた同社の看板となっている歴史シミュレーションゲーム"三國志シリーズ"もあり,日本において高い人気を持っている戦国時代と三國志を併せ持つ,日本最強のシミュレーションゲーム会社といっても過言ではないだろう。
 "信長シリーズ"では,毎作ごとに新たな試みが導入されているのが特徴となっているのだが,今回の嵐世記では"諸勢力の登場""リアルタイムになった合戦"。この二つのフィーチャーが大きな特徴だろう。

大名,朝廷以外の新たな勢力の登場

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 まずは新フィーチャーの一つである"諸勢力"について見ていこう。
 以前の信長シリーズにおいて,プレイヤーが合戦を行う相手は,自分以外の大名家(本願寺家のような大名とは言いがたい勢力も含め)のみであった。
 ところが,嵐世記には"諸勢力"と呼ばれる,"国人""寺社"という相手大名家以外に直接戦闘に関わる勢力が登場する。これはかなり大きなフィーチャーで,たいていどこの国にも国人か寺社のどちらか,あるいはその両方が存在しており,各勢力と各大名家の間には友好度が設定されている。この友好度の大小によって,他国に攻め込んだとき,あるいは攻め込まれたときに,味方をしてくれたり敵対されたりするというわけだ。どの国人や寺社にも,一人から数人の武将,僧兵がいるので,敵に回すと厄介なことになりかねない。そこで,合戦前の準備段階として彼らに兵糧や金銭などを送ってご機嫌取りをしておくことが重要となってくるわけだ。
 国人には,まったく初めて登場する武将のほかに,以前までの信長シリーズでは大名の家臣に組み込まれていたような人物も登場する。たとえば,"三本の矢"の教訓などでお馴染みの毛利元就の領国安芸備後には,熊谷信直が国人として登場する。以前までの信長シリーズでは,毛利元就家臣だった武将だが,嵐世記では独立した国人として登場するのだ。国人/寺社の両勢力は,仲良くなっておくと合戦で味方してくれるだけでなく,内政において開墾の手助けをしてくれたり,城の改修を手伝ってくれたりもする。国人の中には家臣にしてくれと自分を売り込んでくるのもいるので,やはり仲良くなっておくのが得策だろう。

 それ以外に直接合戦には関わらない諸勢力として,"水軍""忍者""都市"がある。
 水軍は10以上が存在しており,それぞれが縄張りを持って日本をぐるりと取り囲むような格好になっている。大名の領国が海に接しているところでは,必ず彼らとの関係が生じてくる。とはいえ水軍は,直接合戦には関係してはこない。彼らが必要となるのは,本州から九州へ攻め込むときや,蝦夷から陸奥に攻め込むときなど,海を越えて合戦を行う場合。そのときに,軍勢を渡海させるために彼らに金を支払って渡してもらうのである。当然友好度が高いと料金は安くなる。
 なお水軍同士での合戦もしばしば発生し,負けたほうは滅亡する。この合戦はコンピュータ処理となっており,直接プレイヤーが手を下すことはできないのだが,水軍に普段から十分な金や兵糧を与えていると,その物資で戦備を整えているようで,合戦に勝ちやすくなるようだ。合戦前に水軍の頭が金の無心に来ることもある。そんなときは気前よく欲しがっている金の倍も渡してやれば,合戦に勝利した暁には,茶器などの家宝を持ってお礼言上に来るだろう。なお友好度が低いと頻繁に金や兵糧が略奪される海賊行為が発生するので注意が必要だ。
 忍者は,他国の情報を見る場合などに必須となる"忍"を派遣してくれる大元締めで,全国に散らばっている。有名どころとして伊賀衆,甲賀衆,風魔衆などが挙げられるが,聞いたことのないような(失礼!)忍者集団も登場する。他国の情報を見るには,忍者の元締めに"忍"を派遣してもらい,その"忍"を敵国に潜りこませねばならない。しかし忍者の場合友好度が低くても貸してくれるので,無理して仲良くなっておく必要はないかもしれない。なお,伊賀忍者の頭として百地三太夫が,風魔忍者の頭としては風魔小太郎が登場するので,以前の信長シリーズのように彼らを家臣にすることはできないようなのが残念だ。
 都市の勢力としては,博多,堺,京などの大商人がいる。彼らと親交を結び有効度を高くすると,商人が自国に現れやすくなるようだが,それ以上の効果は今一つよく分からなかった。

 このように特徴のある諸勢力なのだが,ゲームが進み中盤以降で自分が大きな大名家となってしまうと,もはや眼中に入れなくともよくなってしまうのが残念なところだ。たとえ攻め込んだ相手国の国人や寺社勢力が敵対してきても,精鋭で固めた自国の強力な軍団にはかなわないし,大勢力で攻め込んだり,波状攻撃がかけられるのなら,忍者の協力がなくて相手国の情報が一切分からなくとも力でねじ伏せることができる。大国になってしまえば軍勢渡海の際に水軍に払う金の多少などタカのしれたものだし,京都や堺のある国を攻め取ってしまえば,いつでも商人との取引ができる。惜しむらくはこれら諸勢力が,ゲーム序盤から中盤にかけての,一兵でも惜しい,米の一粒たりとも無駄にできない,というような状況でしか存在価値がないようなところではないだろうか。

リアルタイムになった合戦

クリックすると拡大します  次は,リアルタイムになった合戦について見ていこう。
 これまでの長い信長シリーズにおいて,常に変わらないところがターン制の合戦シーンだった。ちょうど将棋やチェスのようにプレイヤーとコンピュータが交互に部隊を動かしていくというものだ。ところが本作嵐世記においてその長年の伝統がついに打ち破られ,「エイジ オブ エンパイヤ」のようなリアルタイム制を取り入れた合戦となった。
 リアルタイムなので常に相手側も行動しているわけで,のんびりと戦場の様子を眺めていたりトイレに立ったりしたが最後,致命的なミスとなりかねない。一度合戦が始まってしまえば,勝負がつくまでは一時も目が離せないという緊張感が生まれている(ポーズ機能は用意されているので,生理的欲求のときは無理せずにポーズさせよう)。じっくりと考えて部隊を動かしたい人は最初のうち戸惑うかもしれないが,慣れてしまえば実にスピーディに合戦を行うことができる。特にゲーム中盤以降,強大になった自勢力の大部隊で相手大名を力でねじ伏せるような合戦においては,ありがたい仕様となっているといえるだろう。
 合戦時において武将は,それぞれが一つのユニットとして表され,率いている兵科,兵数によってグラフィックスもまた変化する。プレイヤー側ユニット,敵側ユニット,国人勢力ユニット,寺社勢力ユニットなどが,一度に激突する様はなかなかの迫力だ。プレイヤーが武将ユニットに命令できることは,基本的に移動させることと,敵への攻撃命令を出すことだけなので,一度激突が始まってしまえば,あとは各ユニットの士気が落ちたら"気合"を入れてやるか(気合は総大将のみが使えるコマンドで,落ちた士気のいくらかを全ユニット同時に回復できる。気合コマンドを連発しなければならない合戦では勝利はおぼつかないだろう),兵数の減ったユニットに後方への移動を命じるくらいしかないので,手に汗握って合戦の模様を眺めていることとなる。
 ただし,残念なことにリアルタイム制になったことでのマイナス面もそれなりに存在している。合戦で部隊同士が激突するとごちゃごちゃの乱戦となってしまい,ユニットの個別指定が困難になってしまうのだ。自勢力の場合は画面下側に,各ユニットのアイコンが表示されるので,アイコンをクリックすることで指定することができる。しかし相手大名家のユニットの兵数や士気を確認するには,そのユニットを直接クリックしてやる必要があり,乱戦になってしまうととてもじゃないが決め打ちでクリックできなくなってしまうのだ。ユニットの上に表示された棒グラフである程度の判断はつくのだが,やはり自分達の武将の攻撃がどの程度のダメージを与えているのか,はっきりと知りたいのは人情というものではないだろうか。
 また,全ユニットを一団で動かして門を潜り抜けねばならないようなとき,いくつかのユニットが門の脇などにひっかかってしまって進軍が遅れたり,橋の向こうを移動地点に指定したときに橋をうまく渡りきれずまごまごしているユニットが発生することもある。スピードが命のリアルタイム合戦においては大いなるマイナスだろう。また,合戦フィールドの視点変更ができないのも残念。せっかくリアルタイムにしたのだから,せめて90度づつ四方向からの視点変更くらいできるようにしてほしかった。そうすれば,敵側ユニットをクリックできないというような状況も減るだろう。このあたりは今後の信長シリーズに期待したいところだ。

やはり登場したパワーアップキット

クリックすると拡大します  いつの頃からか,信長シリーズ,三國志シリーズでは恒例となったパワーアップキットが,嵐世記にも発売される(最初から入れとけよ! というツッコミを入れたいのは筆者だけではあるまい……)。それが「信長の野望 嵐世記 パワーアップキット」(以下パワーアップキット)で,単体での発売のほかに,本体とのセットで発売されるところもお約束。
 パワーアップキットでは,お馴染みの追加武将,追加シナリオ,武将・城などのエディタの他に今回は"ミッション チャレンジモード""イベントエディタ"の二つが大きな特徴となっている。ミッション チャレンジモードはいわゆるショートシナリオで,一年から数年という期間の間に,敵対大名家を滅ぼすなどのミッションをこなさねばならないというもの。ミッションの数は最初七つ用意されているが,これを全てクリアすると,また次のいくつかができるようになり,それをクリアするとまたまたその次が……というように合計で35ものミッション数が用意されている
 信長ファンの間で,とみに話題になっているのがイベントエディタだ。これは自分で作成した歴史イベントを,ゲーム本編に登場させることができるというもので,作成したオリジナルイベントは,データとしての受け渡しが可能となっている。自慢のオリジナルイベントを,自分のホームページで公開・配布するようなこともできることから,シリアスなものからふざけたものまで,パワーアップキット発売後は信長ファンのホームページでオリジナルイベントのダウンロードが日課となりそうだ。
 なお,当サイトではパワーアップキットに関連して,Newsの「ここ」で,また「Previews」コーナーの「ここ」でも,パワーアップキットを大きく取り上げているので,そちらも合わせて読んでもらえるといいだろう。

 諸勢力,リアルタイム,この二つの大きなフィーチャーが加わった信長シリーズ最新作「信長の野望 嵐世記」。リアルタイム合戦を取り入れたことで賛否両論があるだろうが,シリーズ物の常として,固定ファンを離さないために冒険を避ける姿勢をとらず,21世紀最初の"信長"として大きく新たな道に踏み出した"信長"をぜひプレイしてみていただきたい。

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■発売元:コーエー
■価格: 11800円
■問い合わせ先:コーエー TEL 045-561-6861
■動作環境:Windows 9x/Me/2000,PentiumII/233MHz以上(PentiumII/333MHz以上推奨),メモリ64MB以上(推奨128MB以上),空きHDD容量250MB以上

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