天覇光芒記 〜プリンス・オブ・シン〜

Text by Iwahama
24th Jun.2003

 「天覇光芒記〜プリンス・オブ・シン〜」(以下,PoQ)は,一見すると"ディアブロ風"と十把一絡げにされてしまうRPGのようだが,……まぁこの表現がまったく違うとはいわないが,ディアブロ風のハデなアクションを期待すると,肩すかしを食らってしまうだろう。
 PoQはアクションRPGというより,中華大河ドラマ風RPGとでも表現すべきゲーム。そのストーリーや世界構築に重点が置かれているのである。
 そこでまず,PoQのストーリーについて紹介しよう。



■父親は秦の始皇帝! 項羽と劉邦まで登場する歴史大河RPG

会話時にはセリフだけでなく,まるで小説のように,その場面の説明もメッセージで表示される

 舞台は,秦の時代(B.C.221〜B.C.207)の中国大陸。
 主人公の名は,扶蘇(フソ)。彼は実在した人物だが,さすがに日本人だと,中国通でもなければ普通は彼の名前を知らない(覚えていない)だろう。
 しかし秦の始皇帝ならば,日本人の98%が知っていると思う。始皇帝は,広大な中国大陸をサクッと統一し,史上初の"皇帝"を自ら名乗った偉人である。暴君として語られることもあるが,彼がある種の天才であったのは間違いない。扶蘇は,その始皇帝の長男である。

 扶蘇は始皇帝の長男だが,"秦の二世皇帝"ではない。史実では,始皇帝の死後,保身を図った宦官の趙高(チョウコウ)が丞相の李斯(リシ)と共謀し,始皇帝による勅命を偽造して胡亥(コガイ:始皇帝の末子)を二世皇帝に据え,(始皇帝が死の直前に二世皇帝に指名していた)扶蘇を自害させている。
 この"史実"が"事実"かどうかは,ほかのほとんどの"歴史"と同様,今となっては確認できないが,少なくともPoQの物語では,ちょっと事情が違う。
 PoQでは,やはり偽書によって自害を命じられた名将軍の蒙恬(モウテン)が,勅命の内容に疑問を感じ,扶蘇の自害を思いとどまらせる。そのために蒙恬は捕らえられてしまうが,扶蘇はかろうじて脱出に成功。そして,真実を探る旅に出る。
 ここまでがPoQのオープニング。ゲームではさらに,全十章からなる壮大な物語(注1)が語られて,ようやくエピローグとなる。ゲーム中で扶蘇は,中国大陸をところ狭しと駆けめぐり,数多くの人物と出会い,助け助けられ,新たな歴史を綴っていくことになるのだ。

 当然登場人物には,歴史上の著名な人物も多い。"道ばたで言葉を交わした人間が,実はのちの偉人だった"なんてことはしょっちゅうで,ストーリーに深く関わってくる人物もいる。
 日本でも有名なところでは,項羽と劉邦。彼らは扶蘇の仲間にこそならないが,かなり重要な役回りでストーリーに絡んでくることになるのだ(注2)
注1……メインストーリー以外をどれだけ遊ぶかにもよるが,クリアに50〜60時間はかかるだろう
注2……劉邦に仕えた天才軍師,張良は仲間にできる。扶蘇の"名声"が低いと断られるが……



■PoQをプレイして初めて気づく,中国大陸の真の広さ

 しかしまぁ,日本人にとっては想像すら難しいほど,中国大陸は広い
 PoQでは,さすがに中国大陸全体をフィールドマップにしてはおらず,都市の周辺などの重要なポイントのみマップが用意されている。にも関わらず,やはりPoQの世界は広大だ。

 マップ間の移動は,マップ上にある別のマップへと続くポイントをクリックすることで行う。例えば邯鄲からだと,鉅鹿,沛県,豊県,三川群,陳城へと続くポイントがあるのだ。
 ただ,必ずしも一瞬で移動できるわけではなく,3回に一度くらいの確率で,盗賊か獣,あるいは趙高が放った追っ手との戦闘が発生する。ちなみにこの戦闘は,経験値稼ぎはもちろん,材料(後述)集めにも役に立つ。

 序盤からかなり広範囲の場所に移動できるので,プレイヤーの中には,途方に暮れてしまう人もいるかもしれない。また,ただ広いだけではなくイベント等の密度も濃いので,未解決のクエスト(依頼)もどんどん溜まっていくことになるだろう。
 しかしこの世界に埋もれていく感覚は,筆者にとってはなかなかに心地よい。「ディヴァイン・ディヴィニティ」と似た感覚といえば,分かってもらえるだろうか。PoQのクエストのほうが比較的現実的で,その分面白味が少ないが,それは舞台の差。実在の中国大陸を舞台に繰り広げられるPoQのクエストは,面白味が少なかろうが,雰囲気は十分で,魅力的だ。



■中国風の多彩なスキルを使いこなせば,獣なんか恐くない

 冒頭でPoQにディアブロ風のハデなアクションは期待できないと書いたが,ハデではないだけで,アクション性はある
 PoQでは,最大で5人のパーティを組み行動することになるが,同様にパーティを組む"ディアブロ風"RPGである「マイクロソフト ダンジョンシージ」に比べれば,戦闘中にプレイヤーがやるべきことは多いといえよう。

 戦闘は,敵キャラクターが画面内に入った瞬間に始まる。といっても通常のモードと戦闘モードでは,"セーブができない"という点以外に違いがない。シームレスに切り替わるので,気づいたら目の前に敵がいた,なんてことも十分起こり得る。
 さて戦闘が始まれば,プレイヤーがなんの指示も出さなくても,キャラクター達は自動で近くの敵に襲いかかり,相手を倒すまで戦い続ける。が,彼らは自分が攻撃されるまでは相手を敵とみなさないのか,少し離れた場所の敵は(例え仲間が襲われていても)無視してしまう。そのため,効率よく戦うためには,プレイヤーの指示は必須である。
 指示の出し方は,RTSに似ている。キャラクターを1〜5人選択した状態で,標的とする敵を左クリック,もしくは右クリックするのだ。左クリックと右クリックの違いは,ほとんどない。ただ別々にスキルを登録でき,かつ別々にショートカットキーでスキルを切り替えられるので,戦況に応じて細かくスキルを切り替えながら戦えるというわけ。このあたりに,アクション性があるのだ。

 スキルはクラスごとに20種類用意されている。クラスは英傑(扶蘇はこれ),豪傑,狩人,幻術師,呪術師の5種類があるので,計100種類のスキルが存在する。
 使えるスキルはキャラクターのレベルが上がるたびに少しずつ増えていく(注3)ので,筆者もまだすべてを見たわけではないが,虎を召喚できたり,敵を攻撃する植物を生やしたりと,なかなかユニークなものが多く用意されている。

注3……正確には覚えられるスキルが増えるだけで,使えるようになるにはレベルアップ時に一つずつ増えるスキルポイントを割り振る必要がある

■すべての装備品が自作可能! 豪華絢爛なおまけシステム達

 PoQは,あまりゲーム本編に関係ないようなシステムにも凝っている。
 例えば,RPGでよくあるいわゆる"エレメント"の概念がPoQにもあるのだが,これがなかなかに凝っている。
 具体的には,PoQでは陰陽五行説が採り入れられていて,キャラクターやモンスター,アイテムには,金,木,水,火,地の五つの属性に対する攻撃力/防御力が設定されている。相生/相克といったことも考慮されており,敵によって,装備やスキルを切り替えて戦うことでより有利に戦えるようになっている。

 また,やはり最近のRPGでよく見られるが,装備品に宝石を埋め込み,能力をアップするというシステムもある。
 PoQでユニークなのが,一度はめた宝石を外せるという点。残念ながら宝石は外したときに壊れてしまうが,装備品のほうは元に戻るので,より能力の高い宝石に付け替えることで,お気に入りの装備品を使い続けることができるというわけ。


 そして,これまたよくあるアイテム合成システムも搭載しているが,PoQのそれは,凝りに凝っている。というのも,短剣も長剣も斧も,盾も兜も,ネックレスや指輪に至るまで,とにかくすべての装備品を,材料から作成可能なのだ。
 材料を大まかに分けると,獣の骨,獣の筋,獣の皮,鉱石,木材の5種類。獣系の三つは,当然獣タイプの敵から手に入る(ことがある)。狼よりは虎,虎より熊と,強い獣のほうがより高いレベルの材料を出し,レベルが高い材料を使うほど,完成する装備のレベルも高くなるというわけだ。
 鉱石/木材は,マップ中の岩石/樹木のなかにまれにマウスカーソルを合わせると明るく表示されるものがあり,これらをクリックすることで入手できる(できないこともある)。マップは当然有限であるため,これらの材料も有限かというと,実はそうではない。先述したように,マップからマップへの移動時に戦闘が発生することがあるのだが,その戦闘用フィールドでも,岩石/木材が手に入るからだ。
 この装備品などの作成は,扶蘇が"職人の術"のスキルを覚えることで可能になる。決して必須のスキルではないが,ぜひとも全プレイヤーに使ってほしいスキルである。


■中国人の,中国人による,日本人のためのゲーム

おまけ程度だが,PoQでは8人までのマルチプレイも可能。一人のキャラクターのみを操作するので,よりディアブロに近いプレイ感覚となる

 本作の魅力を強引にひと言で表すならば,「中国」である。PoQは,メチャクチャ中国なのである。

 PoQを開発したのは,三国志RTS"フェイト オブ ドラゴンシリーズ"で有名なObject Software社。中国に詳しい……ていうか"中国の"開発会社だから,PoQの中国大陸には嘘臭さが微塵も感じられない。
 PoQは日本語ローカライズされているため,メッセージはすべて日本語表記であるが,音声はオリジナルのまま,中国語だ。これが実に耳に心地良い! 歌っているかのような中国語独特の発音で語られる物語は,自然とプレイヤーを始皇帝時代の中国(秦)に引きずり込むのである。
 さらにストーリーラインはもちろん,グラフィックス,人物名,キャラクターの微妙な動きや"かけ声"に至るまで,中国風。悲鳴まで中国風で,香港映画ファンにはたまらないだろう(?)。

 ただ逆にいえば,PoQから中国を取れば,普通のRPGであるのは否めない。
 偉いはずの扶蘇は平気で庶民の家からアイテムをネコババするし,初対面の人に「ナツメヤシを買ってきて」なんて頼まれごともする。
 それに,日本語版の発売が大幅に後れたのも原因だが,グラフィックスやインタフェースに,多少の古さを感じてしまう。
 そのため筆者は,中国にまったく興味がないという人には,とくにPoQを勧めようとは思わない。ただ中国に興味がある人なら絶対に遊ぶべきタイトルだし,PoQを遊ぶために中国の勉強をするというのも,それはそれでいいと思う。

 中国文化の影響を受け続けてきた日本人にとって「中国は心のふるさと」……というと大げさかもしれないが,筆者に関していえば,心の奥底に"大陸への憧れ"がある。この憧れに,これまで気づかずに生きてきたのだが,PoQで強く認識した次第である。
 ともあれ,中国人スタッフが作った"中国もの"であるPoQは,同じアジア人である日本人にとっても非常に興味深いゲームなのは間違いない。



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■発売元:カプコン
■問い合わせ先:052-760-0335(平日9:00〜17:30)
■価格:7800円(2003年8月8日発売予定)
■動作環境:Windows 98/Me/2000/XP,PentiumII/266MHz以上(Pentium III/450MHz以上推奨)メモリ 128MB以上,空きHDD容量 1GB以上(1.6GB以上推奨)
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