グランプリ4
Text by UHAUHA 2nd Oct.2002
■知名度ナンバー1のGrandPrixシリーズ最新作が登場
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2001年仕様のJordan EJ11,ドライバーは現在DTMで活躍中のジャン・アレジ。発表会の写真などと比べてみると,マシンモデリング,スポンサーシールの位置などが忠実に再現されていることがよく分かる |
PCでのF1レーシングシミュレータといえば,まずGrandPrixシリーズの名前が挙がるだろう。GrandPrix2から4年という長い沈黙ののち,待望のGrandPrix3(以下GP3)がリリースされたが,グラフィックスの向上,ドライブシム初のリアルタイムに変化する天候は称賛されたものの,マシンの挙動などは前作から目立って大きな変化はなく,ただ綺麗になっただけ……といった批判的な意見が多く見受けられた。
そしてGP3から約2年が経ち,GrandPrixシリーズ最新作「グランプリ4」(以下GP4)がリリースされた。GP3は残念ながら賞賛されたとは言い難いできだったが,このGP4ではさまざまな部分がパワーアップされており,GrandPrixシリーズの名に恥じない完成度となっている。「これがGP3でやりたかったことなのでは?」とさえ感じてしまったGP4を,大幅に改良された部分を中心に紹介していくことにしよう。
なお,輸入版を日本語Windowsにインストールすると,インストーラが停止してしまうという不具合(?)があり,インストールには少々テマがかかったが,国内代理店のサイバーフロント版ではこの問題は解決されているので安心してほしい。
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オンボードカメラの映像と同じ視点でプレイすることも可能だ。この視点は比較的プレイしやすいので初心者にお勧め。アーケード調のコース図も表示されている(非表示可)。きちんとサイドミラーに後方のマシンも映っているところにも注目 |
GP4ではブレーキング時のローターの発熱まで再現されている。フロントのローターが真っ赤になっているのがお分かりいただけるだろうか |
■期待のネット経由のマルチプレイは今回もお預け……
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メインの視点といえるドライバーズビュー。カラーリングが違うだけで,全車共通のグラフィックスというのが残念なところか。画面写真では雨があがり路面が乾き始めている。レコードラインの色が,若干違っている |
GP4のプレイモードは次の通り。
Quickrace……6位スタート(デフォルト)から,AIカー相手の3LAPのレースを行う
Quicklaps……デフォルトセッティングのマシンを使い,1LAPのタイムを競う
Practice……練習走行。セッティング調整やタイムアタックにいいだろう
Non-championship race……サーキットを選び,一つのレースウィークを楽しむ
Championship season……2001年シーズン全17戦を通して戦う
Multiplay……ネットワーク(インターネット不可)を使った複数人での対戦
使用しているデータは2001年シーズンのもので,ミカ・ハッキネン,ジャン・アレジなども健在だ。しかしすでにコンシューマでは2002年データを使ったEA F1 2002(PC版も発売予定)が発売されており,データ的には,悪くいえば出遅れた形になってしまっている。どうしても2002年の最新データでプレイしたいという人は,ユーザー作成の2002年仕様カーテクスチャなど各種データも出回るようなので,そちらに期待したいところだ。原稿執筆時点でもすでに数種類のデータが出回っているので,YerrowGarageなどを参考に,海外サイトを探してみてほしい。
今度こそは……,と期待度大だったインターネット経由でのマルチプレイだが,残念ながら今回も見送られてしまった。今のご時世,ゲームジャンルを問わず,ネット対戦ができる/できないで購入を検討するユーザーもいるわけで,これは少々痛い部分だ。開発者のGeoff Crammond氏がネット対戦を重視していないのか,実はそのあたりのプログラムを組める人間がいないのか……。どちらにしろマルチプレイに関しては,メインメニューのプレイモードになく,下のほうにヒッソリと表示されているのを見る限り,オマケ程度にしか考えられていないのだろう。EAのF1シリーズなどでは比較的快適なネット対戦が可能なだけに,そろそろ本腰を入れてサポートしてほしかったところだ。
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タイヤ同士がぶつかれば,マシンは簡単に宙を舞う。こうなってしまうと大きなマシンダメージは避けられない。ドライバーズビューで逆さになると,かなり怖い映像を見ることになる |
フリー走行,予選などではピットアウト時にジャッキを下ろすなどのクルーの動きを見ることができる。前方にいるクルーはピットレーンの安全確認をして,クルーの合図を待ってピットアウトする。実は合図を待たずに出て行けるが,とりあえず合図を待とう(^^; |
相変わらず不満の大きいブラックフラッグの処理。フライングやコースのショートカットでペナルティを受けるが,ブラックフラッグ表示中は強制スロー走行となる。次回作では改善されることを期待したい |
今回からバイザーも表示でき,一段とドライバーに近い視点でプレイ可能だ。より臨場感を求めるのであれば,バイザーは表示しておきたいところか。バイザーに当たった雨粒が横に流れていくところもしっかり再現してある |
■よりリアルになった挙動,人間臭い動きのAIカーと熱いバトルを
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レース中にピットインすると,これだけのクルーが動き回る。決してパターン化された動きでないのは,左右のタイヤが一緒に取り付けられていないことから判断できる。フロントウィング交換なども作業の一部始終を見ることができるぞ |
誰もが気になるのは,ドライブシミュレータの要(かなめ)ともいえるマシン挙動だろう。GP4は基本的にシミュレータであるが,プレイヤーを選ぶコテコテのリアルシミュレータというわけではなく,アシスタントヘルプ機能,充実したセッティング項目なども手伝って,初心者から上級者まで,腕に合わせてマシンを操ることができるようになっている。最も簡単なモードにすれば,アクセルを踏んで左右ステアリングを動かすだけでもOKだ。
上級者であればトラクションコントロール(TCS)を切って(2001年のマシンにTCSは付いてないし),しっかりセッティングしてプレイしてほしい。GP3ではピーキーで扱いにくく感じたマシンコントロールも,カウンターを当てるなどしてコントロールできるようになり,オーバースピードでコーナーに入ればアンダーステアでノーズがアウトに逃げ,低速コーナーからの立ち上がりでは,加速に合わせて流れ出すリアを押さえるため,微妙なアクセル,ステアリング操作が必要になってくる。バンクの付いた小さい上りコーナー(ブラジルなど)では,低速とはいえ不用意にアクセルを開けるとグリップを失って外側に流れていってしまう。縁石に大きく乗り上げたり,コース外に足を落としたりして一瞬で挙動が変わる場合には,瞬間的なステアリング操作も必要である。またレインコンディションは非常に滑りやすく慎重なマシンコントロールが必要で,少しでも無理をすれば簡単にスピンしてしまう。路面コンディションを見極めて慎重にドライブする必要があり,天候の変化を読んでピットインするなどの戦略面も楽しむことができるのがGP4の魅力である。
セッティングも基本部分から詳細までひと通り網羅され,しっかり挙動に反映されるので,ぜひ調整して自分にあったセッティングを見つけよう。またマシン破損については,フロントウィングは片側だけが壊れたり,リアウィングも完全に落ちてしまう場合やウィングの部分のみ脱落してしまうなど,かなり細かくグラフィックスで再現されており,その影響までもきちんとシミュレートされているのが嬉しい。
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観客席の前を通過すると大きな歓声が聞こえる。そしてカメラのフラッシュが光り,無数の旗が揺れている……が,これはどう見てもイエローフラッグやグリーンフラッグだ。どうせなら国旗にしてほしかったが,旗が揺れているだけで気分は盛り上がる |
コース上でマシンを止めたりクラッシュが起きたりすると,コースマーシャルが走ってきてイエローフラッグやグリーンフラッグを振る。ちょっと見づらいが,前方でジョーダンのマシンがコースマーシャルに押されている |
GP3で評価の高かったAIカーの動きは,さらに良くなっている印象を受ける。こちらがミスをすれば,すかさずインやアウトからズバッと攻めてくる。逆に後ろからプレッシャーを与えると,必死に引き離そうとしてブレーキをロックさせたりといった挙動に現れるのだ。このあたり,プレイヤーを熱くさせるような人間臭さがうまく再現されている。当然AIカー同士でもバトルをしているので,プレイヤー設定をせずにAIカーのみでレースを走らせて,F1中継を眺めているような遊び方まで可能だ。
本物のF1をドライブしたことのない我々には,マシンの動き,オンボード映像,マシン同士のバトルなど,リアルに再現されているかどうかをF1中継の映像と比べて判断することになるが,"GP4は現在のF1の挙動をリアルに再現しているのでは?"という印象を強く受けた(全体的にタイヤのグリップ力が強く,ブレーキが強烈に効きすぎという感もあるが)。また,ドライブシミュレータではステアリングなどの専用デバイスが必要不可欠というイメージがあるが,GP4ではキーボードやゲームパッドでも十分にプレイ可能だ(初代からそうだった)。それでいてシミュレータという面は損なわれていないというのは高く評価したい。
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熱によって遠方が揺らいで見える陽炎(かげろう)も再現されているが,パッと不自然な現れ方をする(笑)。カメラアングルによっては非常に美しく再現されるので,雰囲気は十分味わえるだろう |
レース前に表示される天候の変化はチェックしておくこと。forecastの部分は色合いによって雨の降り方の違いを表し,○分後に○%の確率で降るであろうという予想がグラフ表示される |
上級者であればセッティングに凝ってタイムアップを狙ってほしいところ。各項目とも細かく調整可能だ。セッティング画面は,一見,各項目が分かれていて使いやすいように見えるが,実は意外と使いづらかったりする…… |
セッティングを検討するのに必要なデータロガー。さまざまな走行データを見ることができる。画面写真では回転数と速度が表示されているが,ギア比の調整などに役立つ部分である。なお,画面のラップタイムが遅いのは許されたし |
■こだわり抜いて再現したF1の世界,普通ここまでやるか!?
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濡れた路面にマシンや風景がリアルタイムに反射する。コースマーシャルもコース上に反射しているのが分かるだろうか。リアルに跳ね上がる水しぶきにも注目 |
GP4の大きな特徴は,コースの完全再現,そして臨場感を醸し出す演出面の強化にある。過去にもGPSを使ってコースを忠実に再現したソフトが多数あったが,GP4ほど完璧に再現しているものはないといっても過言ではない。
しかしどれくらい忠実に再現されているのかは自身の目で見たほうが早いということで,GP4と実際のF1オンボードカメラと比べたムービーを作成しているF1 Racerというサイトがある。原稿執筆時点ではAustralia(Melbourne),Monaco(Monte-Carlo),Canada(Montreal),Belgium(Spa Francorchamps)が公開されているが,誰もがその再現度に驚くことに違いない。
そして演出面の強化がものすごい。レインコンディションの再現は,同じコース内でも雨の強弱,濡れているところ,乾いているところの違いなどはGP3からさらに緻密になって引き継がれている。濡れた路面に映り込んだマシンや背景は美しいのひと言。一見の価値ありといえるだろう。
とくに,雨の再現は異常とも思えるほどのこだわりぶり。GP4ではコクピットビュー時にバイザー表示が可能になったのだが,バイザーに当たった雨粒が速度に合わせて横に流れていくところも再現している。またリプレイを外部視点で眺めている場合には,カメラに当たる雨粒も再現していて,カメラのピントが遠い場合には雨粒はボヤケて,マシンをアップにしたときなどは雨粒がはっきりと映るようになる。さらに雨粒一つ一つに周りの風景が映つりこむという……極端な話,雨粒までもシミュレートしているのである。
ほかにもピットクルーがポリゴンで表示され,レース中にピットインすれば,一人一人が仕事をこなす様子を見ることができる。ここまではほかのソフトでも再現されていたが,GP4ではピットイン/ピットアウトする場合にも,ピットクルーが作業をしてくれるのだ。ピットレーンの安全確認,フロントとリアのジャッキを下ろす,予選などでピットインすればマシンを押してガレージに入れてくれるなど,数名のクルーが本物同様の動きをしてくれる。しかし,最初は感動していたピットクルーだが,何回かプレイする内に邪魔に感じてきたのは筆者だけだろうか……(笑)。
またコースマーシャルもポリゴンで再現されていて,スピンしたマシンがいたり,コース上にマシンを止めた場合などはコース脇から走り出してきてイエローフラッグを振り,危険がなくなったところでグリーンフラッグを振るといった部分まで再現している。しかしやや残念なのが,ブラックフラッグ,ブルーフラッグの処理だ。
フライングやコースショートカットなどの場合はブラックフラッグが振られ,ピットストップなどのペナルティを受けることになるが, 本作ではレース中であろうがペナルティを犯した瞬間に10秒間のスロー走行になってしまうのだ。どうせならばフィニッシュラインを通過するときにコースマーシャルがブラックフラッグを振っていたり,ペナルティを受けたことを無線で知らせるなどしてほしかったところである。ラップ遅れにされる場合に振られるブルーフラッグも,同様にマーシャルが振ってくれれば,さらにリアリティが増したはずだ。レース終了後に勝者をたたえ,コースマーシャルがしっかりとブルーフラッグも振っているだけに,残念。
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土砂降りのセパンサーキット(マレーシア)。コースの色合いによって水の溜まり方が違うが,ここまで路面が濡れてしまうと,レインタイヤでさえコントロールが難しい。タイヤ選択もレース戦略の重要なカギとなってくる |
カメラに当たる雨粒まで再現している。ピントが近くにあるので雨粒にマシンが反射しているが,ピントが少し遠くになるとボヤケる |
ピット付近やホームストレートなどの大きなオブジェクトも路面に反射している。画面写真だと伝わらないが,反射した風景が本当に存在するかのように流れていく様子は必見だ |
■F1に少しでも興味があるならプレイする価値は大いにあり
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画面写真のドライバーはバリチェロであるが,昨年のワールドタイトルマシンのフェラーリF2001。2002年シーズンでも2戦めまで使用された完成度の高いマシン。フロントウィングのフラップなど細かいところもモデリングされている |
GP4はF1シミュレータとして総合的に完成度が高く,今一番お勧めできるF1シミュレータといっていい。"GrandPrixシリーズ=シミュレータ=難しい"というイメージがあるが,GP4は上級者ではなくGrandPrixシリーズをプレイしたことのない人にこそお勧めしたい。最初は各ヘルプ機能を使い,自信が付いてきたら徐々にヘルプ機能を外していく。十分にマシンをコントロールできるようになり,さらに自分にあったセッティングを見つけたいと思ったら,"ADVANCE"を押せば上級者も満足できる細かなセッティングを調整することができる。
相変わらずのやや使いづらいインタフェースだったり,ネット対戦はできなかったり,搭載データが古かったりと不満な部分は残っているが,ほかのF1シミュレータでは味わえないマシンを操る楽しさ,臨場感のある演出,熱くさせてくれるAIカーとのバトルなど,プレイする価値は多いにある。初心者,上級者問わず幅広い層に受け入れられる完成度の高いF1シミュレータ。ぜひ,プレイしてみてほしい。
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