アイアンストーム 日本語版

Text 松本隆一
30th Jan. 2003

人類の歴史,それは戦争の歴史なのである

長い塹壕線の上をハイテク戦闘ヘリコプターが飛ぶ,不思議な戦場だ

 問題。えー,タイムマシンで過去に戻ったら戦争をやっていました。戦っている兵士に「これは何という戦争ですか?」と聞いたところ,「第一次世界大戦です」と答えてくれました。さて,この話のおかしなところはどこでしょう? 答え。第二次世界大戦が始まるまでは”第一次”世界大戦はあり得ない。よって,現に戦っている兵士が「第一次世界大戦です」と答えるわけはない。
 というのをどこかで読んで「おお,そうだったかー!」と目からウロコが5,6枚落ちた経験のある私としては,かねがねこの「アイアンストーム 〜鋼鉄の嵐〜」(以下,アイアンストーム)に突っ込んでみたいと思っていたのである。具体的には,たとえばニヒルな兵士がタバコをくゆらしながら「いったいこの第一次世界大戦はいつ終わるのだろう」とかなんとか言ったとき,ここぞとばかりに「ウフフ」とできれば小さな幸せですよね。

 と,このように相変わらず読者のハートをグッとつかむマクラ話から始まる私の記事。すでに皆様も薄々お気づきかと思うが,これから紹介する「アイアンストーム」は第一次世界大戦のドイツを舞台にしたFPS。しかもゲームの舞台となる時代は1964年なのだが,1914年8月に始まった世界大戦が,なんと実に50年以上も続いているという荒廃した世界となっているのだ。こういった作品をオルタナティブ・ヒストリーものとか,代替歴史ものとかいうらしいですね。まあ,ちょっと前に流行った架空戦記などもその仲間だろうけど,日本がアメリカをガンガンやっつけたり,日本がソ連をガンガンやっつけたり,日本がドイツをガンガンやっつけたりするご陽気な和製架空戦記とはいささか違い,なんというかフランスならではの妙にデカダンムードの濃い世界になっていて,こういう雰囲気が好きな人にはけっこう"くる"ものがあるだろう。
 歴史そのものは微妙に歪曲している。そもそもの第一次世界大戦がドイツ帝国vs.イギリス・フランス連合で始まったのが,1964年にはロシアを中心とした東欧連合と,それ以外の国による西欧連合とが戦うという状況に変化。最前線はドイツ国内を縦に走っている。ロシア革命はどうやら阻止され,一人の指導者による帝国主義社会になっているし,西欧連合は戦争によって莫大な利益をあげる武器商人たちが幅を利かせているらしい。

男爵の寝室で発見した謎の美女の死体。誰なんだろう? シベリアからやってきた東欧軍最強最悪の兵士。次男の名前はザハロフ2世。あとは不明 これが東欧連合軍の指導者ウガンバーグ男爵その人。背後の人物はひ・み・つ

このところ勢いのあるヨーロッパからの新作FPS

ウォルヘンバーグ市街。いたるところにいる狙撃兵が強敵だ

 今さっき書いたように,「アイアンストーム」を開発したのはフランスの4×Studio社。これがデビュー作となるようだ。で,パブリッシャーもフランスのWanadooであり,アメリカとカナダではDreamCatcherが,日本語版はツクダシナジーが発売している。そのためかどうか,ゲーム中は英語だけでなくドイツ語,ロシア語とさまざまな言葉が飛び交ってかなり国際的だ。ゲームでロシア語など聞く機会は少ないから,とても新鮮である。
 余談ながら,最近のゲーム市場にはこのようなヨーロッパ産ソフトが次々に登場し,それぞれ高い評価を得ているようだ。とくにフランスは国策としてゲームを振興していて,アドベンチャーを中心に良質の作品をコンスタントに生み出している(という話)。いずれもちょっとひねった世界観や個性的なグラフィック,爛熟した雰囲気などがヨーロッパ的でかっこよく,レベルは非常に高い。OLなんかが「まあ,おしゃれ」と喜びそうだが,彼女たちがあんまりゲームをやらないのが残念でたまらない。
 この状況を余るほどの予算と人間を投入してヒット作の続編を量産するハリウッドと,低予算ながらたまに傑作を生み出すヨーロッパ映画界に比較するのは,ちょっと穿ちすぎだろうか? すぎ? そうか。すまん。しかも,ネットゲームを中心にしたアジアの追い上げもなかなか急であることだし,オラたちも遅れちゃなんねーな。
 さらに余談ながら,私はこの「アイアンストーム」の直前に「Syberia」というゲームをプレイしていて,感動のあまり思わず目頭を熱くしちゃったのである。お恥ずかしい。なんか最近,年のせいなのか涙もろくなってしかもトイレも近いのである。「今さらアドベンチャーか」と思って遊んでいたのだが,とてもよくできた話で,アメリカでスマッシュヒットを記録したというのも納得である。
 そしてこの「Syberia」が「アイアンストーム」と同様,フランスのデベロッパーの手によるものであり,おまけにDreamCatcher経由で英語版になるという経緯を持っている。「おお,再び熱い涙を流せるかもしれない」と思ってプレイしていたら,あんまり難しくて別の意味ですっかり泣かされてしまった,というのがこの話のオチである。ちゃんちゃん。おっとっと,終わっちゃいけない。

戦場は,さながら悪夢のような光景

 主人公はジェームス・コ○ーン,と思わず間違えてしまいそうなジェームズ・アンダーソン少尉。格好も顔つきもそっくりだが,なにしろ開発陣がサム・ペキンパーの隠れた傑作「戦争のはらわた」と,スピルバーグの「プライベート・ライアン」に影響を受けたと公言しているので間違いない。ボルンの生まれだが,名前がかなり英語風なのが不思議。デビッド伊東とかジェームス三木みたいなものだろうか。戦争孤児で,19歳で陸軍に入隊して以来ずっと最前線で戦ってきた叩き上げの男だ。

男爵の司令部になぜかおいてある大仏。日本ブームなんですかね 激しい戦いの末,なんとか倒した。どちらかがバラバラになる場合が多いので,こうしたきれいな死体は珍しい(自慢) このマシンにアクセスすると,東欧連合の放送をキャッチできる


シベリア3兄弟の攻撃を受け,バラバラになったアンダーソン少尉。気の毒

 そんな彼がある日,前線司令部に呼ばれ,上司のセシル隊長から命令を受ける。敵の指導者であるアレクサンドロビッチ・ウガンバーグ男爵が,なにやら新型爆弾を開発したらしいというのだ。この爆弾が完成するとこっちが負けて悔しいので壊しなさい。でもただ壊すだけでなく,サンプルを一つ二つ見繕って持ってきなさい。しかもそれを全部,自分一人でやりなさい,というのだ。これがゲームだからいいようなものの,もし現実なら間違いなくイジメだと思う。オッケー,ボス。
 まず与えられたのはMLUという装置で,これによってセシル隊長および,秘密部隊の指揮官であるミッチェル大佐の指示を受けられる。また,DRTというテレビみたいなメディアを使えば敵の情報を収集することができ,さらにICT'Sというターミナルを使ってコチラ側の情報にアクセスすることも可能だ。それにしても,なんでまたこんなに省略形が多いかね? 自慢じゃないが,すぐに分からなくなる。もっと"液晶テレビ・ベガ"とか,おじさんにも覚えられるナイスな名前を希望。なんでもドイツ語ってのは,構造上ついダラダラと長くなりがちで,普段から頭文字言葉が多いのだそうだ(ホントか?)。ともかく武器庫で武器を漁り,基地内を見て回り,看護婦にいたずらし(ウソ),いよいよ前線に出るオレ様である。

 最前線は,20世紀初頭の戦場と現代のそれが微妙に入り交じった不思議な世界だ。落ち着いた色調と,壁や建物のボロっとしたムード,そして光線の具合なんかも非常によく,このゲームのために開発された描画エンジンPHOENIX 3Dの性能はなかなかだ。立ち枯れのねじくれた木や雲の様子など,リアルというより,なんかシュールレアリズムっぽくもある。登場人物のモデリングも,昔見て夢でうなされたフランスのアニメ「ファンタスティック・プラネット」のドラーク人にも似て「さすが変だぜヨーロッパ」といった味わいだ。うーむ,相変わらず私の説明は分かりやすい。
 オープニングムービーなども含めて考えてみると,この戦争,どうやら相変わらず塹壕戦などをやっているようだ。兵士達が敵めがけてワーっと203高地さながらの白兵突撃をし,機関銃にガシガシ撃たれて華々しく戦場の露と散っているようである。海は死にますか? 50年間,進歩なしかい? 戦闘ヘリコプターは飛んでいるが,戦闘機はおらず,後ほど出てくる戦車は時代遅れの多砲塔型。原子炉や自動防衛システムなんかはあるが,装甲列車や彫刻の施された機関銃などは大時代的。全体に「そうか?」ってところもあるし「そうだろうなあ」ってところもあって,兵器オタクのはしくれとしては,いろいろ考えてしまう。ゲーム的には,緻密に考察されたというよりはデザイン優先だろう。だって戦車や戦闘ヘリコプターがある時世に,塹壕戦を続けてはいられないんじゃないスかねえ。

敵は倒したものの,あっさり捕まってしまったアンダーソン少尉。だがこれも計画のうち このマシンでは,味方に出た指示の内容を聞くことができる 非人道的最強兵器がこれ,地雷犬。距離さえとれば,なんのことはないのだけど……

難度の高さは折り紙付き あ,またやられた

このマシンにアクセスすると,東欧連合の放送をキャッチできる

 さて,兵士の一人がさっそく私に助けを求めているので,やっかいな狙撃兵を倒すべく塹壕から頭を出す。ビシ! オレ様に弾丸命中。即死。うそ! 塹壕から再スタートだ。兵士の一人がさっそく私に助けを求めているので,やっかいな狙撃兵を倒すべく塹壕から頭を出す。ビシ。オレ様に命中。即死。うそ! 塹壕から再スタートだ。
 ……イージーモードでこの難しさ。なんでも聞くところによると,欧州では難度の高いアクションゲームのほうが一般的にウけるらしいのだ。たぶん,強がりさんばっかりなのだろう。そんなわけで,この「アイアンストーム」の難度はすこぶる高い
 当たりどころがまずいと,狙撃兵の弾丸はノーマルモード以上なら一発,イージーでも数発で死亡。手榴弾は,直撃でなくても2メートル以内ならほとんどダメ。ロケット弾の場合も,たとえ直撃でなくてもそばに立っていただけで木っ端微塵のバラバラになってしまう。こ,これは緊張するぞ。
 しかも,敵AIはかなり手強いと評判だ。「メダル オブ オナー アライドアサルト」のドイツ兵だって,あっちふらふらこっちふらふらで弾が当たりにくかったが,こっちの敵は驚くほど機敏に物陰に隠れ,弾丸を交換するときはちゃんと腰を落とし,爆弾や毒ガス弾などを状況に応じて投げつけてくるのだ。かつてない頭の良さで,一見の価値はあるだろう。ナイフ一本で丸腰の敵の科学者を倒さなければならなくなったりするシーンもあるのだが,そのときも奴らったら「あー」とか「わー」とか叫んで逃げ回り,衛兵を呼び,警報のスイッチを押し,しかもこちらが出したナイフを寸前で見切って身をかわしたりして,科学者のくせにムカつくったらないのである。きー!
 とはいえ本当のことを言うと,そんなのはまだ序の口だ。最強の敵,それは犬である。一匹のシェパードがこちらへ駆けてくるので撃ったところ,大爆発で少尉バラバラ。これこそ恐怖の地雷犬である。地雷犬といっても「大きな古時計」を歌っている人ではない。背中に地雷をしょった犬が突撃してくるという,実在した兵器だ。ソ連政府(当時)刊行のあの分厚い第二次世界大戦通史「大祖国戦争」にはただの一行も登場しないが,数多くの証言からその存在が間違いないとされるあの非人道的にしてポチタマ真っ青の地雷犬が襲ってくるのだから,たまらない。そもそもそれだけではなく,ただの軍用犬だってあなどれない。何よりまず食い殺されるとめちゃくちゃ悔しいことが重要。「犬に食われて死んじまえ」ということわざがあるが,いざその通りになってみると,戦場にて犬に食われて絶命する自分が情けないったらないのである。
 いちおうゲーム中では,シベリアからやってきた最強の兵士”シベリア3兄弟”(カッコイイぞ)が一番強いことになっているが,実はそれは正確ではない。

強さの順(筆者の独断による):地雷犬>犬>自動防衛システム>シベリア3兄弟>シベリア兵>狙撃兵

建物の内部。ここでシベリア3兄弟の一人と対戦することになる。ロケットに要注意 秘密爆弾を乗せ,ベルリンへ向かう装甲列車。駆動機関は不明だ 捕虜にまぎれて移送トラックに乗り,戦場を脱出するアンダーソン少尉

ただ突撃するだけでは問題の解決にはならない

謎の建物。どうやら秘密爆弾はこの奥にあるらしい

 ゲームは六つのステージから構成される。我がアンダーソン少尉は秘密兵器を追って塹壕,敵のキャンプ,市街,地下工場,装甲列車,そしてウガンバーグ男爵の総司令部といった各ステージを戦い抜いていかなければならない。ミッションをクリアするためには当然,敵を倒したり,謎を解いたり,いろんなボタンを押さなければならないのだが,そこらへんの難しさもまた「アイアンストーム」の特徴の一つかもしれない。聞くところによると,ヨーロッパの人はあまりに簡単な謎解きでは満足しないらしいのだ。重ね重ね難儀な人々である。
 たとえば(ネタバレ注意ね),さる場所の警備隊は絶対にやっつけることができない。死にもの狂いになってチャレンジを続け,僥倖が重なってもし敵を全員倒せたとしても,どこからともなく飛んできたロケット弾によってオレ様バラバラ。「どうなってんだこりゃ!」と叫んでも仕方ないのね。実は,このシーンでは捕虜のフリをして潜入しなくてはならないのだ。捕虜なんだから,もちろん武器を持っていてはいけない。どこかに捨てなくてはならない……と,ここまで気づくのに私は半日かかった。ちくしょう。
 また,最終ステージであるウガンバーグ男爵の総司令部は4階建てで,内部はまさに迷路だ。途中,ガスが漏れていてどうしても通れないところがある。セシル隊長が「ガスの元栓がどこかにあるはずだから探してみて」と言うが,近所にはなにもない。実は,すでに通り過ぎた階に再び戻って落ちていたロケット弾を拾い,上空のヘリコプターを落としてからじゃないとガスを止めることはできないのだ。だが,そのロケット弾を拾うためには戦車を倒さなければならず,戦車を倒すためには……ああ,ややこしい。そんな感じで,あらかじめ想定された解法を逸脱すると,たちまち行き詰まって立ち往生してしまったりする仕組みである
 だからといって一本道FPSなのかというと,これがそうでもない。マップによっては構造が非常に立体的で,あっちのコースでダメだったらこっちのコースからという選択のできる場合もある。いずれにしろ,力業だけではなかなかエンディングを見ることはできない。まあトラップといっても,さっきも書いたように分かってみれば「なーんだ」というものが多いので,あんまり心配することはない。しっかしあのエレベーターの二人組,不死身ってのはねーんじゃねーの?

街の広場を走り回る戦車。デザイン的にはちょっと古め 秘密爆弾を製造した地下工場。今さらながら,どうやら爆弾とは原爆のことらしい 持ち歩ける兵器には制限がある。理由は,写真にもあるとおり,背中が一杯でゆとりがないから。よって,武器の選択は慎重にしなければならない

ひと味違ったアクションを楽しみたいユーザーにおすすめ

 そんでもって,軽く1000回は死んだ。という長い戦いの末,アンダーソン少尉は秘密爆弾およびウガンバーグ男爵のすぐそばまで近づくことに成功する。そのとき彼がそこで見たものは……,あとは読者の皆さん自身の目で確認していただきたい,なーんちゃって。と,お約束のフレーズを書くのだが,それにしてもこの後味のちょっと残る終わり方も欧州風なんでしょうね。「え,終わりなの? うそ?」って感じ。アンダーソン少尉の物分かりの良さに大人物の風格を見る思いがいたします。
 ところで,冒頭の「誰かがこの戦争を"第一次"世界大戦と呼ぶかもしれない」というお楽しみだが,当たり前っちゃ当たり前だが,結局ゲーム中ではただの一人もそんなこと言いませんでした。うーん,残念だ。え,そんなクイズに感心するのはオレだけ? じゃーこんなのはどう。タイムマシンで過去に戻って,そこにいた人に「今は何時代ですか?」と聞いたら「紀元前250年です」と答えました。この話のおかしなところはというと……。

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体験版(日本語版:201MB)

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