DEADLY DOZEN −PACIFIC THEATER−
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3Dシューティングが"撃って殺して突き進む"だけのゲームだった頃から,ずいぶんと時間が経った。近作には,敵に見つからずにいかにうまく目的地に到達するかに重きが置かれた作品や,マルチプレイを前提に作られ,シングルプレイはBot相手のいわゆる"一人マルチ"となっている作品など,さまざまなものがある。
また,最近よくいわれる"リアル志向"という流行もある。具体的には,"現実にある武装,もしくはそれらをもとにした武装が登場し,モンスターは登場せず,ダメージがキャラクターに与える影響がシビアな3Dシューティング"がはやっているのだ。
ぱっと見た感じが派手な,SFをテーマにした作品の場合は,だいたいスポーティな感覚(上記の傾向がリアルだとするなら,こちらは"非リアル"か)を楽しむものだと分かるのだが,同じ現実風のグラフィックスを持つゲームでも,"Rainbow Sixシリーズ"のように,たった一発の被弾がステージクリアを大幅に難しくしてしまうものがある一方,"Soldier of Fortuneシリーズ"などのプレイ感覚は,むしろ撃ちまくり系の作品に近い。また"リアル系"の仲間だといわれる「Counter-Strike」の,ぴょんぴょんと跳ね回る特殊部隊員やテロリストが本当にリアルなのかという議論もあるようで,何を"リアルである"とするかは,相当に難しい問題らしい。
このように,さまざまな性質を持った3Dシューティングが登場してきたおかげで,近頃はゲーム画面だけでは,そのタイトルの性格を把握するのが難しくなってきている。「DEADLY DOZEN −PACIFIC THEATER−」(以下,DDPT)の場合,ゲーム画面から分かるのは,第二次世界大戦をテーマとした軍事ものであるということだけだ。
みんなが戦場を元気に走り回る「Battlefield 1942」も,シングルプレイとマルチプレイがまるで別物の「Return to Castle Wolfenstein」も,地道にトライ&エラーを繰り返す「Hidden&Dangerous」も第二次大戦をテーマとしていた。ジャンル内部が多様化していく中で,DDPTがどのような位置におさまる作品なのかを考えてみたい。
ゲームタイトルからも分かるように,本作には12人の兵士が登場する。
プレイヤーは彼らを操作して,次々に与えられる任務をこなしていくことになる。任務の内容はさまざまだが,少数の精鋭兵士が敵地のただ中に飛び込んでいき,各人の能力を生かしてそれを遂行するというスタイルは変わらない。
一つのミッション(1ステージ)に参加できるのは,12人のうちの4人までとなる。隊員達にはそれぞれ個性があり,狙撃が得意なもの,静かに行動できるもの,爆発物の専門家など,各分野のエキスパートが揃っている。任務の性質に合わせて,最適なメンバーを選択するのだ。
どのステージでも,そのミッションにあったメンバーが初めからピックアップされているので,ゲームに慣れないうちは,そのまま出撃してもさほど問題ない。ただ,なかにはデフォルトの人数や装備のままだとクリアの難度が高いステージもあるので,行き詰まりを感じたら,隊員選びからやり直すのも手だ。
キャラクターに成長の要素は用意されていないが,そのおかげで"中盤以降は育ってきたメンバーしか使わない"といった状況にはならず,さまざまな隊員を積極的に使っていけるので嬉しい。
このタイプのゲームのシングルプレイでしばしば問題だとされるのが,"スナイパーが強すぎる"ことだ。どんな作戦を練ったところで,結局はスナイピングが戦場を支配することになるので,自分でスナイパーを操作して目に付く敵をすべて撃ち殺し,その後ほかのメンバーをゆっくり移動させるといったプレイになりがちである。
DDPTのシングルをプレイしていて感じたのだが,本作ではこの問題がある程度解決されているようだ。多くのミッションが熱帯雨林で展開するため,ステージは非常に見通しが悪い。自分の背丈よりも高く茂るブッシュの中を行軍することが多いので,スコープを望遠鏡代わりにしてまず掃除といった展開になりにくいのだ。
思わぬ至近距離で敵と遭遇してしまったときや,茂みの向こう側から攻撃された場合などは,自分はライフルを持ってそちらに対応したほうが良い。常にスナイパーライフルを構えている状態では,このようなシチュエーションにうまく対応できない。本来は当たり前のことなのだろうが,スパイピングに依存しすぎないプレイは意外にも新鮮に感じられた。
また,"突っ込んだら必ず死ぬ"というバランスではないため,敵の数が少なく,サポートが期待できる状態であれば,"特攻"も有効だ。自分がアサルトライフルを構え,援護射撃を受けながら切り込んでいくという戦法を,システム上は可能であっても,ゲームデザインやバランスが許さないタイトルも多い。その結果,スナイピングが幅を利かせることになる。
DDPTでは,スナイパーも存在するゲーム世界の中で,アサルト気分がしっかり味わえた。これもまた新鮮な体験であった。
マルチプレイにはデスマッチやCTFといった一般的なモードのほか,プレイヤー同士が仲間となり,コンピュータ操作の敵を相手に協力して任務を遂行する,いわゆる"Co-op"モードが用意されている。
マルチプレイ専用の特殊な仕様や,武器/アイテム,スキンといったものは用意されていない。CTF専用のマップなどはあるが,数は多くなく,またとくにマルチプレイ用にデザインされたという感じでもない。チームメンバーにかけ声を送るラジオの機能がないことなどからも判断すると,あまりマルチプレイに力を入れて作られてはいないようである。シングルプレイに重点が置かれているのだ。
そのせいか,マルチプレイはそれほど盛んではないようで,常設のオープンなサーバーは見当たらず,サーバー数自体もとても少なかった。また,立ち上がっているサーバーの多くは,Co-opの設定となっていた。
そのCo-opをいくつか試してみたが,まったく悪くない。互いのショットを褒めあったり,ちょっとした冗談をチャットで飛ばしたりしながらのプレイには,プレイヤー同士の殺し合いにはない面白さがある。仲間うちなどでプレイすればかなり楽しめるだろう。
DDPTは,"チームを操る面白さ" "スニーキングの面白さ" "狙撃の面白さ" "強行突破の面白さ"などがバランスよく楽しめる良作だ。しかし,チームに関しては多数の部隊の連携行動の要素がないし,スニーキングに関しても取りうる戦術の多様性がさほどない。狙撃銃が何種類もあるわけではなく,とにかく撃ちまくる爽快感があるわけでもない。なにか突出した個性があったら良かったのに残念だ……とまとめるのは簡単なのだが,もう少し考えてみたい。
筆者などコアゲーマーは,実績のあるデベロッパの手がける,何か新しさを盛り込んだ作品や,これでもかとディテールにこだわった作品などに注目する。しかもその関心の多くは,シングルプレイよりもマルチプレイに向けられる。こういった見方は,あるいは偏っているのかもしれないと筆者は自戒も込めて思う。
残念ながらゲーム全般を取り巻く状況を大きな視点で見た場合,インターネットを介してのマルチプレイが,いまだ少数の人だけの楽しみであることは否定できない。比較的ライトなプレイヤーがまず楽しみたいと思うのは,シングルプレイのほうだろう。この作品は,そういったプレイヤーが手に取りやすいように,アメリカにおいては,いわゆる"お手軽プライス"で発売された作品である。
さらに,この作品はデフォルトの視点が三人称である(もちろん一人称視点への切り替えも可能)。3Dシューティングのコアファンは「なんだよそれ」と思うだろう。しかし,この三人称視点はかなり使いやすかった。エイミングしづらいかと思えばそんなことはなく,キャラクターを切り替えたときに,自分の位置や向きを素早く把握できるという長所すらあった。
■ブランド:ATARI
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