エンジェリック・ヴェール

Text by Seal
17th Apr. 2003

 クロムシックスが開発中の「エンジェリック・ヴェール」は,アニメ調グラフィックスの見た目とは裏腹に,シリアスなストーリーと戦略性を重視したゲームバランスを持つ本格派シミュレーションRPG。3Dエンジンの採用によって,シミュレーションゲームでは重要となる地形を立体的に表現しているだけでなく,派手な魔法やスキルのエフェクトをも生み出しているのが特徴だ。RPGファンにはお馴染みの中欧ファンタジーの世界観を採用していることで,違和感なくストーリーにのめりこめるのも魅力的といえる。
 舞台は,十年前の内乱から完全に立ち直っていない「ベルーナ王国」。平和は長く続かず,再びベルーナ王国に襲いかかった混乱は,王国全土を巻き込んだ大規模なものになった。単なる内乱ではなく,その背後には隣国の影が見え隠れするという状況下で,ベルーナの新米騎士オージェルと,その幼なじみのフィオは,王女エリーゼと共に信念を貫き通すための戦いを繰り広げていく。
 ……といったバックストーリーでゲームは進行するが,マップ間に用意されたイベントシーンのセリフなどで,登場人物達の個性がはっきりと出されているのが新鮮な部分。全体的に見て小難しい言い回しをするキャラクターが多い気もするが,それがなんとも,ゲームにシリアスさ,重厚感を醸し出していて,良い味付けとなっている。

微妙な戦力バランスによる緊張感の持続が楽しい

戦闘はスクエアのマス上で行われる。巨大なドラゴンなども登場して,白熱するのは必至だ

 基本的なゲームシステムは,一般的なシミュレーションRPGのそれとほとんど同じ。各キャラクターを操って,シミュレーションパートを戦っていき,その中でレベルアップして強くなっていくというものだ。ただしキャラクターには"レベル"は存在せず,装備している秘石の種類でSTR(力)やAGI(素早さ)などのパラメータが少しずつ上昇するというシステムとなっている
 この秘石は,キャラクター成長の自由度を決める重要なアイテムで,STRが上がりやすいものやMAG(魔法力)が上がりやすいもの,パラメータ上昇は少ないが必要経験値が少なく頻繁にレベルアップするものなど,いくつかの種類がある。しかしゲーム中に登場する数があまり多くないため,まったく自由に成長させられないのが少し残念なところといえる。

 シミュレーションパートでは,各キャラクターの素早さによって行動順が決定する。順番が回ってきたキャラクターは,通常攻撃のほかに魔法や特殊技などを行なえるというお馴染みのルールだ。
 本作で面白いのは,1ユニットだけ持てる配下との一斉攻撃(連携)のシステム。この連携は,1ユニットの敵を囲んだあとに実行することによって,反撃回数を少なくできるというメリットがある。具体的には,通常攻撃では攻撃を行うごとに防御側の反撃フェイズがあり,配下ユニットとキャラクターが別々に攻撃を行うとそれぞれ1回の反撃(計2回)を受けることになる。しかし連携攻撃にすれば,反撃が1回になるわけだ。
 もちろん敵側もこのシステムを使ってくるので,あるユニットだけ突出して前に進んでしまうと,囲まれてあっという間に倒されてしまうこともある。ゲーム終盤である程度強くなったキャラクターでもこのような状況に陥りやすいので,一筋縄ではいかない緊張感の持続が,本作を面白くしている一つの要因といえるだろう。

 戦闘システムについては,単純に攻撃力と防御力だけで判断するのではなく,地形や時間,天候など(時間と天候はマップ固定)によって与えるダメージや被ダメージが変化する。また各ユニットには火,光,水などの属性が設けられていて,同属性に対してはダメージが減少し,シンメトリに位置する属性にはダメージが増えるなどといった細かなルールもある。
 参戦できる自軍ユニットの最大数は,主要キャラクター達とそれぞれの配下までと限られている。つまり,常に微妙な戦力同士(あるいは,敵側が多い)での戦闘が行われるということだ。主要キャラクター達は通常ユニットよりも強く設定されているが,一人でも倒されると即ゲームオーバーとなることから,難しく感じることもある。しかし,この微妙なバランスが勝利したときの感動や快感を生み出し,次ステージへの期待が膨らむ要因となっているのだ。20以上のステージが用意されていて,長く楽しめるのも嬉しい部分といえる。

3Dエンジンによって表現される地形は,起伏がはっきりと分かるようになっている。ズームアップ/ダウンや回転も自由自在 各ユニットは,天候や時刻などによって戦闘力/防御力が変化する。適したユニットを前面に押し出して戦うようにしよう 6人の主要キャラクターにそれぞれ1ユニットの配下をつけ,最大12ユニットで参戦する。連携を考慮して配下を決めていくようにしよう

バリエーション豊富なアイテムと魔法

ゲーム後半では,マップ全体に効果がある特殊技を習得する。使いどころを間違えないように

 シミュレーションRPGといっても,単純にユニットが成長するだけではつまらない。本作には主要キャラクターに限り,武器や防具,アクセサリーなどが装備でき,スキル,魔法を習得できるようになっている。これらは全体マップ上に用意されたショップを利用することでいつでも売買可能で,その種類は100以上にも及ぶ。
 武器や防具はゲームの進行度によって徐々に強力なものが陳列されるようになるが,魔法やスキルは最初からすべて購入可能。もっとも,序盤では獲得できる通貨が少ないので,あまり高価なものは購入が難しい。
 スキルには,常に2回の反撃を行う"カウンター"やターンごとに自動回復を行う"幸運"など,戦闘を有利に運ぶための,常に効果を発揮し続けるものが多い。しかし1キャラクターにつき3種までしか習得できないので,どれを選んでいくかによってその後の戦い方が変化するのだ。このあたりの組み合わせをじっくりと考えていくのも,本作の面白い部分といえるだろう。

 またキャラクターは,固有の特殊技を成長度合いによって習得する。3Dの利点をふんだんに取り入れた派手なモーションで実行されるが,単体に大ダメージを与えるのではなく,広い範囲に中程度のダメージを与えるものが多く用意されているので,使いどころが難しい。なお回復系のキャラクターにはマップ全体の味方に効果を及ぼす技もあるので,こちらは非常に便利なものとなる。
 魔法や特殊技は,ターンごとに回復する魔法力を消費して使用する。ターン数で回復するということは,つまり1マップ中で使用できる魔法力に限界があるということ。使用回数の制限が加えられているようなものだ。クリアせずにターンを引き延ばすことも可能だが,クリア時の報酬が減ってしまうため,急いでクリアするほうが得。そのため魔法や特殊技は,ゲーム後半でも慎重に使っていかなければならない。
 ただしレベルアップ時には魔法力が全回復するので,特殊技を組み込んでいく絶好のチャンスといえる。前述したように常に緊迫した戦いが繰り広げられるため,少し押されているような戦局を一転させることも可能だ。

地下の洞窟ステージでは,薄暗くなっていて雰囲気満点。特殊技が余計に派手に目に飛び込んでくる 6人の主要キャラクターにそれぞれ1ユニットの配下をつけ,最大12ユニットで参戦する。連携を考慮して配下を決めていくようにしよう 全体マップは,シナリオの進展によって行動できる地域が広がっていくという仕組み。一度クリアしたマップでも「掃討」を行うことで,再度楽しめる

恋愛アドベンチャーチックなおまけ要素も

 ストーリーは,基本的には一本道となる。しかしイベントシーンでの選択肢によって,異性の好感度が変化して,その後のストーリーが若干変化するという恋愛アドベンチャーチックなシステムも用意されている。相手には,幼馴染のフィオ,王女エリーゼ,猫族のルシアン,東方から来た剣士ユズリハの4人が選べるが,あくまでもメインストーリーの"おまけ"的な要素で,さらに本作を深く楽しむためのものと思ったほうがよいだろう。
 このイベントシーンでは,各キャラクターは豪華声優陣を起用したフルボイスで会話を進めていくのが魅力的。文字だけでは伝わらないような微妙なニュアンスなどが,音声によって非常に分かりやすく伝わってくるのだ。

 

 冒頭でも述べたが,本作は,その見た目とは違って本格的なターン制シミュレーションRPGに仕上がっている。兵力バランスも非常に練り込まれていて,簡単すぎてさくさくと進んでしまうということも,難しすぎて途中で投げ出してしまうこともない。
 とはいえ,これは1回めのプレイに限ったことではある。なぜなら本作の醍醐味は,2度め,3度めのプレイにあるといっても過言ではないからだ。本作には,ゲーム難易度としてスタート時に3種類から選べるようになっているが,難易度"普通"以上では,前プレイでのアイテムのいくつかを引き継いで新しくゲームを始められる。前のプレイ時の終盤で登場した強い武器などを2周めに引き継げれば,一段階難度を高くしたとしても,余裕で撃破できるようになるだろう。これによって絶妙なバランスが崩れてしまう可能性があるが,それでも簡単すぎるということはないので,安心してほしい。
 ストーリーは,信念の違いによって行動の変化や,戦いが生み出す結果ということを強く考えさせられるものになっている。PCではシミュレーションRPGというジャンルは比較的少ない。アクション性も少なく,本作はストーリーを楽しみながら,じっくりと繰り返してプレイするにはうってつけの1本といえるだろう。

各ユニットは細かなパラメータで管理され,装備品でパワーアップも可能。敵が持っているアイテムは,倒すことで得られる ステージをクリアすると,通貨(zt)が得られる。敵ユニットが寝返って配下となることも ショップにはいろいろな装備品が並んでいる。ゲーム進展によってどんどん強力なものが並んでいくので目移りしてしまう ステージ間のイベントでは選択肢があり,どちらを選ぶかによって,4人のヒロインとの好感度が変化する

このページを印刷する

■開発:クロムシックス
■発売元:エレクトロニック・アーツ
■価格:6800円(2003年4月24日発売予定)
■問い合わせ先:エレクトロニック・アーツ カスタマーサポート係 03-5436-6400
■動作環境:Windows98/ME/2000/XP,PentiumII/400Mhz以上(PentiumIII/800MHz以上推奨),メモリ128MB以上,空きHDD容量1GB以上
Screenshots集
ムービー
体験版(93.8MB)

Copyright (C) 2001-2003 CHROME SIX ALL RIGHTS RESERVED