アークス・ファタリス 日本語版

Text by Iwahama
14th Jul. 2003

 「アークス・ファタリス 日本語版」(以下,Arx)は,3Dで描かれた地下世界が舞台のシングルRPGだ。というと,ちょいと(かなり?)古いゲーマーであれば,「ウルティマ アンダーワールド」を思い出すだろう。「ダンジョンマスター」なんて人もいるかもしれない。
 考えてみれば,「ローグ」にしても「ウィザードリィ」にしても,テーブルトークRPG「ダンジョンズ & ドラゴンズ」にしても,RPGの元祖といわれるものは,すべて地下世界を冒険する内容だった。Arxは,これら古(いにしえ)の名作の後継者となるべく生まれたRPGなのだ。

 果たして本作は,古くからのRPGファンを満足させられるのか。また逆に,PCゲーム歴の浅い人でも楽しめるものなのだろうか。本レビューでは,Arxの実力を探っていく。

慣れれば快適
目的ごとに切り替わるインタフェース

 Arxは,パーティを組むことはなく,一人の主人公を中心に物語が進んでいくため,システム的にはFPSに近い
 実際ゲーム中は一人称視点で,主人公のグラフィックスが表示されるのはイベントシーンのみ。また戦闘にはアクション性があり,剣の振りや,魔法の発動をリアルタイムで指示して戦う。
 ……というと,まるでシングルRPGの超大作「The Elder Scrolls III:Morrowind」のようだが,この両者のシステムには,一つ決定的に違う点がある。Morrowindは,多くのFPSと同様に,常に同じインタフェースで主人公を操作するのに対し,Arxは,状況に応じて操作体系が変わるのである

 Arxでは,移動時は,マウスで方向を定めてW/A/D/Sで移動するという,FPSに似た操作体系となる。このとき左クリックで,正面の物体を操作できる。
 この状態で右クリックすると,マウスカーソルが現れて,視点が固定される(※1)。また同時に画面下部にインベントリが現れ,各種アイテムをマウスを使って操作可能だ。
 武器を使うには,Tabキーを押して戦闘モードに入る必要がある。移動時とほぼ同じ操作体系だが,マウスの左クリックは装備中の武器での攻撃となり,またマウスの左ボタンを長く押して"溜める"ことで,攻撃力を高めることも可能だ。つまりアクションゲームの要領であり,常に手に汗握る戦いを楽しめる。
 さらにさらに,魔法を使うときにはまた違ったインタフェースとなる。これがユニークで,いわゆる"マウスジェスチャー"(※2)となっている。

魔法の詠唱に使うルーン文字は,実に20種類もある。すべて見つけられるかどうかは,プレイヤー次第だが

 Arxで魔法を唱える方法は,Ctrlキーとマウスの左ボタンを押しながら,マウスカーソルでルーンを"書く"ってこと。ルーン文字の組み合わせで,対応する魔法が発動するのだ。「ブラック&ホワイト」を知っている人なら,"ミラクル"の発動方法を思い出せば分かりやすいだろう。
 ただ残念なことに,このルーンの認識が結構厳しい。慣れもあるのだろうが,戦闘中に焦れば焦るほど,ミスってしまう。まぁ"だからこそ"面白いのかもしれないのだが……個人的にはもう少しだけ認識を甘くしてほしかった。

 このように,Arxでは状況に応じてインタフェースを切り替えて行動するわけなのだが,だからといって"取っつきにくさ"は感じない。インタフェースが切り替わるからこそ,さまざまな細かい作業が行えるわけだ。
 "慣れてしまえば"という条件付きなら,Arxのインタフェースは"あり"だと思う。

(※1)……マウスカーソルを画面の端にまで持っていけば,視点を移動可能
(※2)……マウスジェスチャーとは,マウスの動かし方でさまざまなコマンドを出すインタフェース。ショートカットキーと同様,思いついた瞬間にコマンドを出せるのが便利だ。例えば「Opera」や「Sleipnir」といった対応ブラウザでは,マウスの右ボタンを押したまま左に動かし,ボタンを離せば「戻る」。マウスさえ握っていれば,キーボードに触れる必要も,小さいマウスカーソルを探して小さいアイコンまで移動させる必要もないのだ。ぜひFPSやRTSなど,操作スピードが求められるゲームに搭載してほしいインタフェースである。……ていうか,なぜOS標準の機能じゃないのだろうか?

良くも悪くも「ゲームらしい」
ストーリー/シナリオ

 なんとも微妙な見出しで恐縮だが,なぁに,この手のゲームでストーリーはさほど重要ではないから,いいじゃないか。「ローグのストーリーで感動して泣きました」なんて人は聞いたことないが,ローグが名作であるのは歴史が証明しているとおり(※3)
 しかしArxのストーリーは,案外「ちゃんとしている」。なので,軽く紹介しておこう。
 本作について,「囚われの身で,かつ記憶を喪失している主人公が,地下世界から脱出する物語」と思っている人が多いが,これは間違い。プレイ開始15分で"脱獄"は終わるし,自らの記憶も,ゲームの序盤で思い出す。そのため敢えて主人公の正体にも触れつつストーリーを紹介するんで,例え序盤でもストーリーを知りたくない人は,この項は読み飛ばしていただいて結構だ。

 5年前に突如天空に現れた巨大な隕石の影響で,太陽の光が地上へ届かなくなり,アークスの街に住んでいた人間達は,それまで対立していたトロール,ゴブリンといった異種族と協力し,街ごと使われなくなった鉱山内へ移動した。この地下にある都市,アークスがゲームの舞台だ。
 アークスの民はしばらく平和に暮らしていたのだが,最近,アクバという邪神を復活させようとする,謎の集団が暗躍し始めた。もし本当にアクバが復活すれば,アークスには屍しか残らないだろう。
 で,主人公は何者かというと,神々がアクバの手からアークスを守るために送り込んだ,「ガーディアン」。当然,主人公の最終的な目的は,アクバの復活の阻止,もしくはアクバの抹殺というわけ。ほら,ゲームらしいでしょ。

 いざゲームが始まると,さほどストーリーを気にする必要はない。ゲームを進めていると細かいクエストが次々と発生するので,順にこなしていけばいいわけだ。ストーリーに直結しない,達成しなくていいクエストも多いが,Arxは戦闘よりクエストのほうが経験値稼ぎの効率がいいので,"可能ならば達成する"くらいがちょうどいいだろう

 シナリオに関して気になったのは,全体的にあまりにもご都合主義的な展開だということ。主人公が,ちょっとお人好しすぎるのだ。ガーディアンとしての記憶を取り戻してからならともかく,それ以前,つまり自分が何者かすら分からない時点で,ほいほい人の頼まれごとを聞く。聞くだけじゃなく,結構がんばる。「いや,それどころじゃないだろう」とツッコミどころ満載だ。
 もっとも,この項の冒頭で述べたように,この手のRPGにとってストーリーは大して重要じゃない。ゲームは,楽しければOK。多少話の流れが強引でも,いいんじゃない?

(※3)……というか,逆に感動的なストーリーを売り物にしたPCゲームに名作なんてあっただろうか? 人を感動させる技術というと微妙だが,少なくともストーリーに関しては,小説や映画のほうがまだ数段優れているだろう

F3キーでマップを呼び出せる。×印が付いているのは,会話などで出てきた重要地点。ただしこの画面の3か所は,単に"お店" なんとも意外な人物から,最強の鎧を入手したところ。盾がショボイのは,ご愛敬(プレイした人なら,画面をよく見れば理由が分かるだろう)

 

NPCを殺してもクリア可能&料理もできちゃう!
いわゆる自由度について

 古いRPGファンほど気にするのが,「自由度」ってヤツ(※4)。非常につかみどころのない言葉だが,やはり気になる人は多いだろうから,触れておこう。Arxは,"結構"自由度が高い。どう「結構」なのか,説明しよう。

暗闇は,たいまつやろうそくで照らすことで明るくなるが,敵に見つかりやすいという難点がある。しかし「ナイトビジョン」の魔法を使えば,ご覧のとおり

 Arxでは,相手が子供だろうが王様だろうが,ぶった切って葬り去ることができる。もちろん人間族を敵に回すことになるが,それでもゲームはクリア可能。そもそもArxは,何をしようが,まずクリア不可能ってことにはならないのだ。
 だから,一度めのプレイは普通に「いい人」で遊ぶことをお勧めするが,二度めには「虐殺プレイ」もいいんじゃないだろうか

 また,かなりのアイテムが,組み合わせて使用できるというのも面白い。なかでも使用頻度が高い"組み合わせ"は,食物の調理である。この手のRPGのお約束で,Arxでも主人公は食事を必要とするわけだが,調理法が数多く用意されていて面白いのだ。
 例えばネズミやブタを殺して入手した"生肉"は,火にくべることで調理可能。これは基本中の基本だ。複雑なところでは,"小麦粉"と"水"を組み合わせて"パン生地"(これを焼けば"パン"に)を作成し,"麺棒"を使用して"パイ生地"(これを焼けば"パイ"に)にして,さらに"りんご"を組み合わせて焼けば,"アップルパイ"ができあがる。この手のアレンジは大量にあり,焼く前に赤ワインを混ぜると,またひと味違ったアップルパイになるってわけ。
 ポーションの作成も可能だ。ダンジョン内で見つけた"スイレン"などの植物を,"すり鉢"で粉末にし,空のビーカーに入れ,蒸留機にかければ,植物に対応したポーションのできあがり。
 もちろんこれらの行為は,必須ではない。食べ物もポーションも,店から購入してもいいし,他人の家のチェストの鍵を外して拝借してもいいし,「スリ」で手に入れてもいいのである。

 これらを指してArxはかなり自由度が高い! と断言するのは,ちょっと違う気がする。結局は想定された動き内の自由だからだ。開発者の想像を超えた自由なプレイはできない。
 とはいえ,「結構自由度が高い」という表現ならば,問題がないだろう。

(※4)……余談だが,この自由度の定義が難しく,何人かに「何ができれば自由度が高いといえるのか」と聞いてみると,てんでバラバラだったりする。そもそも,本当に何もかも自由なゲームがあるとして,果たしてそれは面白いのだろうか

謎解き,日本語訳,モンスターは再ポップするの?
RPGファンが気にするあれやこれや

 すでにArxの重要なポイントは書いたと思うのだが,これだけでは怠慢のそしりを免れないので,気になる人がいるであろう点を列挙しておく。

画面左の謎の物体は,ポータル。各層に最低一つずつあり,一度発動させたポータル間の移動が一瞬(ローディングの時間分)で行える

・日本語化に関して
日本語訳は,満足のいくデキだ。全体的に違和感はないといえるだろう(先述したように,ストーリー展開自体には違和感があるが)。また音声がすべて日本語で吹き替えられているのも好印象。戦闘中にも敵キャラクターがバリバリしゃべる本作では,いちいち字幕を目で追う必要がないのは助かる

・グラフィックス
最新のFPSやMorrowindに比べれば見劣りするものの,それでもRPGというジャンルでは,十分に綺麗なほうといえる。主人公に感情移入するに足るクオリティだ。なお,Pentium4/1.7GHz+GeForce4 Ti4200,1280×1024ドットという環境では,画質を最高にしてもストレスなくプレイできた

・謎解き
いわゆる"謎解き"は,Arxでも味わえる。いささか"謎"がアナクロな感じがしなくもないが,地下世界探索RPGであるArxにとって,「古色蒼然」は褒め言葉。その手のファンは,十分楽しめるだろう

・アイテム探し
アイテム探しの魅力は,ないに等しい。というのも,最強の装備は,ある場所が決まっている。特定の行動さえ取れば,誰でも取れるからだ。ただし多少の謎解きが必要(とくに最強の盾)で,そちらに面白味があるといえるだろう

・モンスターの再ポップ(復活)
アークス世界にモンスターの死体は残り続けるし,射った矢は,ずっとその場に付き刺さっている。にも関わらず,一部のモンスターは再ポップするようだ。ただし2代め以降のモンスターはアイテムを落とさない

・世界の広さ
地下世界は,8層構造。というとウィザードリィ風ダンジョンを思い出すだろうが,実体はまったく違う。Arxの場合,たまたま世界が8層構造なだけで,最上階や最下層を目指すというわけではない。ストーリーの展開や気まぐれで,あちらこちらを行き来することになるわけだ。プレイした感覚での広さは,まぁ特別広いとは思わないが,狭いということもない。快適な地下世界である

・能力値
Arxには,"腕力" "精神力" "敏捷性" "体力"といった4種の基本パラメータと,"ステルス" "器用度" "直感力" "感応力" "アイテム知識" "詠唱力" "近接攻撃力" "遠距離攻撃力" "防御力"の9種のスキルが存在する。レベルが1上がることに,基本パラメータに1,スキルに15のポイントが入り,それを振り分けることで,キャラクターが成長していく

 

まとめ
で,Arxは面白いのか?

 端的にいえば,Arxは面白い。真っ暗な地下ダンジョンで,たいまつや食料が切れてしまうことへの恐怖や,モンスターに囲まれたときのドキドキは,懐かしく,かつ高いレベルだ。正直なところ,全体として,筆者はArxを気に入っている。
 それにも関わらず,ここまでの文章がなんとなく煮え切らないのは,ひとえに筆者がArxに強烈な個性を見いだせなかったから。筆者は,Arxの何が面白いのか,どこを気に入っているかを,「ひと言」で言えない。それが,問題だ。

 まぁこの時代,シングルRPGというだけでも珍しく,ましてやパーティも組まずに一人で地下世界を探索するRPGとなれば,それが十分個性といえるのだろう。この設定を楽しめる人ならば,遊ぶ価値は十分にある
 とはいえ,やはり「強烈な何か」が欲しかった。グラフィックスや魔法の発動方法,世界観,地下世界なんかではない,何か凄いウリが。
 そう強く思うのは,つまりArxの質が高いからだ。5段階評価の成績表で,オール4って感じ。しかし一つでも5があれば,ほかがすべて3でも,より強い印象を受けただろうと思う。

 Arxは,名作ではないかもしれないが,秀作ではある。懐かしい,それでいて今では珍しいタイプのRPGの,現代版という一つの試作品。そしてその試みは,8割方成功したと思う。
 おそらくは今後,このArxをベースに,さまざまな新シングルRPGが出てくるだろう。また海外では,すでにArxの続編の開発が始まっている。それらのなかから,真の名作も出てくるはずだ。
 Arxタイプの名作が次々と生まれてきたとき,Arxは,「懐かしい香りのするRPG」から,「歴史を創ったRPG」になる。そんな気がするゲームだ。

「誰か助けて〜」となき悲しむ女性に近寄ってみると,これ。助けがほしいのは,こっちだ 洞窟の幅いっぱいの超巨大モンスターも登場。チラッと見えただけで,恐い


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■発売元:カプコン
■問い合わせ先:052-760-0335(平日9:00〜17:30)
■価格:7800円(2003年8月29日発売予定)
■動作環境:Windows 98/Me/2000/XP,PentiumIII/500MHz以上(PentiumIII/900MHz以上推奨),メモリ 64MB以上(256MB以上推奨),空きHDD容量 750MB以上
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Arx Fatalis (C) 2002 Arkane Studios, (C)2002 JoWooD Productions Software A