アークス・ファタリス 日本語版Text by Iwahama 「アークス・ファタリス 日本語版」(以下,Arx)は,3Dで描かれた地下世界が舞台のシングルRPGだ。というと,ちょいと(かなり?)古いゲーマーであれば,「ウルティマ アンダーワールド」を思い出すだろう。「ダンジョンマスター」なんて人もいるかもしれない。 果たして本作は,古くからのRPGファンを満足させられるのか。また逆に,PCゲーム歴の浅い人でも楽しめるものなのだろうか。本レビューでは,Arxの実力を探っていく。 慣れれば快適
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| 魔法の詠唱に使うルーン文字は,実に20種類もある。すべて見つけられるかどうかは,プレイヤー次第だが |
Arxで魔法を唱える方法は,Ctrlキーとマウスの左ボタンを押しながら,マウスカーソルでルーンを"書く"ってこと。ルーン文字の組み合わせで,対応する魔法が発動するのだ。「ブラック&ホワイト」を知っている人なら,"ミラクル"の発動方法を思い出せば分かりやすいだろう。
ただ残念なことに,このルーンの認識が結構厳しい。慣れもあるのだろうが,戦闘中に焦れば焦るほど,ミスってしまう。まぁ"だからこそ"面白いのかもしれないのだが……個人的にはもう少しだけ認識を甘くしてほしかった。
このように,Arxでは状況に応じてインタフェースを切り替えて行動するわけなのだが,だからといって"取っつきにくさ"は感じない。インタフェースが切り替わるからこそ,さまざまな細かい作業が行えるわけだ。
"慣れてしまえば"という条件付きなら,Arxのインタフェースは"あり"だと思う。
(※1)……マウスカーソルを画面の端にまで持っていけば,視点を移動可能
(※2)……マウスジェスチャーとは,マウスの動かし方でさまざまなコマンドを出すインタフェース。ショートカットキーと同様,思いついた瞬間にコマンドを出せるのが便利だ。例えば「Opera」や「Sleipnir」といった対応ブラウザでは,マウスの右ボタンを押したまま左に動かし,ボタンを離せば「戻る」。マウスさえ握っていれば,キーボードに触れる必要も,小さいマウスカーソルを探して小さいアイコンまで移動させる必要もないのだ。ぜひFPSやRTSなど,操作スピードが求められるゲームに搭載してほしいインタフェースである。……ていうか,なぜOS標準の機能じゃないのだろうか?
なんとも微妙な見出しで恐縮だが,なぁに,この手のゲームでストーリーはさほど重要ではないから,いいじゃないか。「ローグのストーリーで感動して泣きました」なんて人は聞いたことないが,ローグが名作であるのは歴史が証明しているとおり(※3)。
しかしArxのストーリーは,案外「ちゃんとしている」。なので,軽く紹介しておこう。
本作について,「囚われの身で,かつ記憶を喪失している主人公が,地下世界から脱出する物語」と思っている人が多いが,これは間違い。プレイ開始15分で"脱獄"は終わるし,自らの記憶も,ゲームの序盤で思い出す。そのため敢えて主人公の正体にも触れつつストーリーを紹介するんで,例え序盤でもストーリーを知りたくない人は,この項は読み飛ばしていただいて結構だ。
5年前に突如天空に現れた巨大な隕石の影響で,太陽の光が地上へ届かなくなり,アークスの街に住んでいた人間達は,それまで対立していたトロール,ゴブリンといった異種族と協力し,街ごと使われなくなった鉱山内へ移動した。この地下にある都市,アークスがゲームの舞台だ。
アークスの民はしばらく平和に暮らしていたのだが,最近,アクバという邪神を復活させようとする,謎の集団が暗躍し始めた。もし本当にアクバが復活すれば,アークスには屍しか残らないだろう。
で,主人公は何者かというと,神々がアクバの手からアークスを守るために送り込んだ,「ガーディアン」。当然,主人公の最終的な目的は,アクバの復活の阻止,もしくはアクバの抹殺というわけ。ほら,ゲームらしいでしょ。
いざゲームが始まると,さほどストーリーを気にする必要はない。ゲームを進めていると細かいクエストが次々と発生するので,順にこなしていけばいいわけだ。ストーリーに直結しない,達成しなくていいクエストも多いが,Arxは戦闘よりクエストのほうが経験値稼ぎの効率がいいので,"可能ならば達成する"くらいがちょうどいいだろう。
シナリオに関して気になったのは,全体的にあまりにもご都合主義的な展開だということ。主人公が,ちょっとお人好しすぎるのだ。ガーディアンとしての記憶を取り戻してからならともかく,それ以前,つまり自分が何者かすら分からない時点で,ほいほい人の頼まれごとを聞く。聞くだけじゃなく,結構がんばる。「いや,それどころじゃないだろう」とツッコミどころ満載だ。
もっとも,この項の冒頭で述べたように,この手のRPGにとってストーリーは大して重要じゃない。ゲームは,楽しければOK。多少話の流れが強引でも,いいんじゃない?
(※3)……というか,逆に感動的なストーリーを売り物にしたPCゲームに名作なんてあっただろうか? 人を感動させる技術というと微妙だが,少なくともストーリーに関しては,小説や映画のほうがまだ数段優れているだろう
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| F3キーでマップを呼び出せる。×印が付いているのは,会話などで出てきた重要地点。ただしこの画面の3か所は,単に"お店" | なんとも意外な人物から,最強の鎧を入手したところ。盾がショボイのは,ご愛敬(プレイした人なら,画面をよく見れば理由が分かるだろう) |
古いRPGファンほど気にするのが,「自由度」ってヤツ(※4)。非常につかみどころのない言葉だが,やはり気になる人は多いだろうから,触れておこう。Arxは,"結構"自由度が高い。どう「結構」なのか,説明しよう。
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| 暗闇は,たいまつやろうそくで照らすことで明るくなるが,敵に見つかりやすいという難点がある。しかし「ナイトビジョン」の魔法を使えば,ご覧のとおり |
Arxでは,相手が子供だろうが王様だろうが,ぶった切って葬り去ることができる。もちろん人間族を敵に回すことになるが,それでもゲームはクリア可能。そもそもArxは,何をしようが,まずクリア不可能ってことにはならないのだ。
だから,一度めのプレイは普通に「いい人」で遊ぶことをお勧めするが,二度めには「虐殺プレイ」もいいんじゃないだろうか。
また,かなりのアイテムが,組み合わせて使用できるというのも面白い。なかでも使用頻度が高い"組み合わせ"は,食物の調理である。この手のRPGのお約束で,Arxでも主人公は食事を必要とするわけだが,調理法が数多く用意されていて面白いのだ。
例えばネズミやブタを殺して入手した"生肉"は,火にくべることで調理可能。これは基本中の基本だ。複雑なところでは,"小麦粉"と"水"を組み合わせて"パン生地"(これを焼けば"パン"に)を作成し,"麺棒"を使用して"パイ生地"(これを焼けば"パイ"に)にして,さらに"りんご"を組み合わせて焼けば,"アップルパイ"ができあがる。この手のアレンジは大量にあり,焼く前に赤ワインを混ぜると,またひと味違ったアップルパイになるってわけ。
ポーションの作成も可能だ。ダンジョン内で見つけた"スイレン"などの植物を,"すり鉢"で粉末にし,空のビーカーに入れ,蒸留機にかければ,植物に対応したポーションのできあがり。
もちろんこれらの行為は,必須ではない。食べ物もポーションも,店から購入してもいいし,他人の家のチェストの鍵を外して拝借してもいいし,「スリ」で手に入れてもいいのである。
これらを指してArxはかなり自由度が高い! と断言するのは,ちょっと違う気がする。結局は想定された動き内の自由だからだ。開発者の想像を超えた自由なプレイはできない。
とはいえ,「結構自由度が高い」という表現ならば,問題がないだろう。
(※4)……余談だが,この自由度の定義が難しく,何人かに「何ができれば自由度が高いといえるのか」と聞いてみると,てんでバラバラだったりする。そもそも,本当に何もかも自由なゲームがあるとして,果たしてそれは面白いのだろうか
すでにArxの重要なポイントは書いたと思うのだが,これだけでは怠慢のそしりを免れないので,気になる人がいるであろう点を列挙しておく。
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| 画面左の謎の物体は,ポータル。各層に最低一つずつあり,一度発動させたポータル間の移動が一瞬(ローディングの時間分)で行える |
・日本語化に関して
日本語訳は,満足のいくデキだ。全体的に違和感はないといえるだろう(先述したように,ストーリー展開自体には違和感があるが)。また音声がすべて日本語で吹き替えられているのも好印象。戦闘中にも敵キャラクターがバリバリしゃべる本作では,いちいち字幕を目で追う必要がないのは助かる
・グラフィックス
最新のFPSやMorrowindに比べれば見劣りするものの,それでもRPGというジャンルでは,十分に綺麗なほうといえる。主人公に感情移入するに足るクオリティだ。なお,Pentium4/1.7GHz+GeForce4 Ti4200,1280×1024ドットという環境では,画質を最高にしてもストレスなくプレイできた
・謎解き
いわゆる"謎解き"は,Arxでも味わえる。いささか"謎"がアナクロな感じがしなくもないが,地下世界探索RPGであるArxにとって,「古色蒼然」は褒め言葉。その手のファンは,十分楽しめるだろう
・アイテム探し
アイテム探しの魅力は,ないに等しい。というのも,最強の装備は,ある場所が決まっている。特定の行動さえ取れば,誰でも取れるからだ。ただし多少の謎解きが必要(とくに最強の盾)で,そちらに面白味があるといえるだろう
・モンスターの再ポップ(復活)
アークス世界にモンスターの死体は残り続けるし,射った矢は,ずっとその場に付き刺さっている。にも関わらず,一部のモンスターは再ポップするようだ。ただし2代め以降のモンスターはアイテムを落とさない
・世界の広さ
地下世界は,8層構造。というとウィザードリィ風ダンジョンを思い出すだろうが,実体はまったく違う。Arxの場合,たまたま世界が8層構造なだけで,最上階や最下層を目指すというわけではない。ストーリーの展開や気まぐれで,あちらこちらを行き来することになるわけだ。プレイした感覚での広さは,まぁ特別広いとは思わないが,狭いということもない。快適な地下世界である
・能力値
Arxには,"腕力" "精神力" "敏捷性" "体力"といった4種の基本パラメータと,"ステルス" "器用度" "直感力" "感応力" "アイテム知識" "詠唱力" "近接攻撃力" "遠距離攻撃力" "防御力"の9種のスキルが存在する。レベルが1上がることに,基本パラメータに1,スキルに15のポイントが入り,それを振り分けることで,キャラクターが成長していく
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端的にいえば,Arxは面白い。真っ暗な地下ダンジョンで,たいまつや食料が切れてしまうことへの恐怖や,モンスターに囲まれたときのドキドキは,懐かしく,かつ高いレベルだ。正直なところ,全体として,筆者はArxを気に入っている。
それにも関わらず,ここまでの文章がなんとなく煮え切らないのは,ひとえに筆者がArxに強烈な個性を見いだせなかったから。筆者は,Arxの何が面白いのか,どこを気に入っているかを,「ひと言」で言えない。それが,問題だ。
まぁこの時代,シングルRPGというだけでも珍しく,ましてやパーティも組まずに一人で地下世界を探索するRPGとなれば,それが十分個性といえるのだろう。この設定を楽しめる人ならば,遊ぶ価値は十分にある。
とはいえ,やはり「強烈な何か」が欲しかった。グラフィックスや魔法の発動方法,世界観,地下世界なんかではない,何か凄いウリが。
そう強く思うのは,つまりArxの質が高いからだ。5段階評価の成績表で,オール4って感じ。しかし一つでも5があれば,ほかがすべて3でも,より強い印象を受けただろうと思う。
Arxは,名作ではないかもしれないが,秀作ではある。懐かしい,それでいて今では珍しいタイプのRPGの,現代版という一つの試作品。そしてその試みは,8割方成功したと思う。
おそらくは今後,このArxをベースに,さまざまな新シングルRPGが出てくるだろう。また海外では,すでにArxの続編の開発が始まっている。それらのなかから,真の名作も出てくるはずだ。
Arxタイプの名作が次々と生まれてきたとき,Arxは,「懐かしい香りのするRPG」から,「歴史を創ったRPG」になる。そんな気がするゲームだ。
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| 「誰か助けて〜」となき悲しむ女性に近寄ってみると,これ。助けがほしいのは,こっちだ | 洞窟の幅いっぱいの超巨大モンスターも登場。チラッと見えただけで,恐い | |
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■発売元:カプコン Arx Fatalis (C) 2002 Arkane Studios, (C)2002 JoWooD Productions Software A |
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