Sea Dogs II

Sea Dogs II

Text by 奥谷海人

 「The Elder Scrolls III:Morrowind」で久々に存在感を示したBethesda Softwoks社が,17世紀のカリブ海域での冒険を描いた新作,「Sea Dogs II」(以下,SD2)をリリースする。世界を驚かせた波の物理シミュレーションにもさらなる磨きがかかるなど,相変わらずの美しいグラフィックスは魅力的だ。しかしそれ以上に,前作で指摘されたゲームプレイにおける数々の問題点に改良を加えており,大航海時代の雰囲気が快く味わえるゲームとなっている。

オープンエンドで自由度の高いゲームシステムは健在

 SD2を開発しているAkella社は,1993年からロシアで活動しており,ロシア国内に限定すれば老舗中の老舗である。同社はもともと国内マーケットに向けてソフトのローカライズを手掛けていたが,独自開発の"Stormエンジン"を使って開発したゲーム「Sea Dogs:An Epic Adventure at Sea」で世界的なデビューを飾った。現在では100人以上のスタッフを抱える大規模開発会社へと成長しており,同時に複数のプロジェクトを進行させている。とくにPCゲーム市場ではRPGの絶対数が少なくなっているだけに,2003年春に発売される予定のSD2は,世界中から期待されている作品なのである。

 Sea Dogsシリーズの概要を説明しておこう。完全3Dで描かれたアクションアドベンチャーゲームにRPGの要素を組み込んで,さらにそこに船を操作して海上を往来するというシミュレーション性が加味されたゲームである。著名クリエイターであるシド・マイヤー氏の往年の名作「Pirates!」を彷彿とさせる複合ジャンルになっているが,本シリーズではパイレーツ(海賊)だけではなく,ヨーロッパ勢力に組みするキャプテンとしてプレイするもよし,商人として新世界でひと旗揚げてもよし,さらにはパイレーツを追い駆け回すバウンティ・ハンターとして生活することだってできるのだ。

 SD2では,前作にも登場したブレイズ・デブリン(Blaze Devlin)という男性キャラクターに加え,ダニエル・グリーン(Danielle Greene)という女性キャラクターでもプレイできるようになった。両者には違ったパラメータやスキルセットが用意されているので,シングルプレイヤー用のストーリーも2倍楽しめるわけだ。キャラクターアートは各1枚ずつしかなく,キャラクター設定時には名前の変更とスキルへのポイント振り分けが行える。スキルには「フェンシング」や「ボクシング」「キャノン」のような戦闘用から「操舵」「修理」「商売」「リーダーシップ」といったものまであるようだ。
 本作では登場する国家ごとに四つのメインクエストがあって,一つのメインクエストのプレイ時間は,なんと40時間から50時間ほどになる予定だ。実はこの"ストーリーモード"(メインクエスト)の存在はE3での発表時にはなかったもので,MorrowindのXbox版の評価から追加された仕様らしい。コンシューマのプレイヤーの多くはオープンエンドのゲームシステムに馴染みがないため,Xboxでもリリース予定のSD2には,ストーリー部分での構造化も欠かせないと判断されたわけだ。
 とはいっても,もちろんプレイヤーの思うがままにプレイできる本来のゲームシステムに変更はなく,メインクエストから離れて好きなようにロールプレイを楽しむことも可能だ。さらに今回はかなり柔軟なクエスト生成システムが備わっており,プレイヤーキャラクターのランクやスキル,名声などによって自動的にサブクエストを作り出してくれる。このシステムによって,商人の護衛からパイレーツ征伐,禁制品の密輸などの仕事がいつでもランダムに与えられるようになった。
 プレイヤーが選択できる国家は"イギリス" "フランス" "スペイン" "オランダ" "ポルトガル",そして"パイレーツ(無政府)"の六つ。好戦的なイギリスやスペイン,商業に重点を置くオランダやポルトガルというふうに,国家によって志向も異なる。さらにどの国家と連携するかはプレイヤーの判断に委ねられており,それによってプレイヤーキャラクターの名声値が逐一変化するようになっているのである。雰囲気としてはやはりMorrowindに似ており,これらの国家との連携とは別に,シーフギルドやファイターギルドに属することだって可能だ。

陸地でのアクションを増やし,アドベンチャーRPGの要素を強調

 前作での"陸地"は人材や必需品の補給用という程度の扱いで,キャラクターのアニメーションや物理面のプログラムはそれほど作り込まれていなかった。どちらかというと,船と船がキャノンで爆撃し合うアクション部分に焦点が当てられていたわけだ。しかしSD2ではずいぶんと変わっていて,NPCで溢れる街や要塞を自由に探検できるようになったし,カギさえあればどの家のドアでも開錠できるようになった。さらには木々に覆われた街の外へだって足を運ぶことができるし,クエストの中には陸地で行われるものさえある。おそらくは,パイレーツが財宝を隠した海岸沿いの洞窟探しなどのクエストもあるに違いない。
 街には酒場や船着場,教会,商店など多くの建物が用意されており,物資や人材を仕入れたり,新しい船を購入したりできる。どのNPCとも話すことができ,商人や娼婦などからもクエストをもらえるようだ。またそれぞれの街や要塞にはその場所の領主となるようなNPCがいて,街の様子もひいきの国家の様式に従ったアートが用意されている。
 陸地での行動が可能になったことでゲームプレイに幅も出て,アクションアドベンチャーゲームとしてひと皮むけたように思える。反感をかっている国家の勢力範囲内では不意に襲いかかられることも多いだろうし,護衛の前で剣を抜けば,それは戦闘を意味するはずだ。海でパイレーツに出くわすように,郊外には盗賊達が巣食っていることもあるようである。ちなみに,陸地にはあるクエストを完了しなければ進入できない場所もあるなど,プレイヤーのレベルに合わせてマップが広がるようになっている(海上ならば,プレイヤーの船の耐久力や食料事情に問題なければ,好きなところにいつでも行ける)。
 また,街中での決闘も可能になった。剣を振り回すだけでなく,防御や威嚇もできる。さらに銃器での攻撃も可能だが,人目につきやすいところでは護衛兵が駆けつけてくることもあるので注意が必要だ。ちなみに,決闘が始まるやいなや物陰に隠れたり,逃げ出すNPCもいるようである。さらにSD2では陸地用に隠密行動(Sneak)モードもフィーチャーしており,これはとくに密輸などのミッションをこなすときなどに役に立ちそうだ。島の裏手に漂着し,闇に紛れて街に物資を運び込むというプレイが楽しめることだろう。

 SD2には,プレイヤーの部下になるNPCキャラクターも多く登場する。例えば街の酒場などでたむろしている連中から,資金と相談しながら能力の高そうな人材を選んで雇用できる。
 戦うことになる敵は,各国の兵士や看守,海賊,盗賊などがメイン。これもMorrowindに似たシステムが採用されていて,プレイヤーのレベルに合わせて敵の強さが自動的に調節されるようだ。このほかにも,航海中にサメやクジラ,イルカなどが出没したり,港に近づくにつれカモメが頭上を舞っているというような動物を使った演出もあり,航海の雰囲気を盛り上げている。

 海で生きる男(女)達がテーマなだけあり,やはり船選びは重要だ。E3では全50種類以上の船舶を選択できると発表されていたが,その後の絞り込みで16種類程度に落ち着く模様。ただ乗り組み員の数やキャノン数などはプレイヤー自身が考えなければならず,遠距離攻撃と至近距離攻撃のバランスを保ちながら設計していくのだ。
 今回からは,実際にプレイヤーの後ろにくっついて街中を歩き回る補佐官もいて,プレイヤーと合わせて計4人のパーティも組める。この補佐官達にはそれぞれキャプテンとして船を持たせることもできて,計4隻の船団で航行できるというのが,いかにも大航海時代らしい新仕様だ。

夕焼けの美しさが絶品の,質の高いグラフィックス技術力

 SD2で初めて採用されたのが,Akella社がゲームと並行して開発した「STROMIIゲームエンジン」である。前作は波のモーションが非常にリアルで見るものを驚かせたが,SD2ではそれ以上のリアリティで水面が表現されているのだ。
 これはSTORMIIエンジンがDirectX 8.0(GeForce 3/Radeon 8000)以上のビデオカードを念頭に置いて設計されているため。この世代には欠かせないプログラマブル・ピクセルシェーダー機能を使って,ゆったりとした大波の上に小刻みな小波の光沢を加えることによって,3D Marks 2002のような現実味溢れる水面の再現に成功している。太陽の方向によっては,島の影がうっすらと水面に映っていたりもする。
 さらにSD2では,前作で評価の高かったリアルタイムでの昼夜の移り変わりに加えて,気象変化もリアルタイムで表現している。もちろん南洋だけに雪や吹雪こそないが,スコールや霧,嵐,それに竜巻のような自然現象が起こるのだ。雨雲の移動がはっきりと確認できるようになっており,雨上がりには虹さえ空に浮かんでいるという丁寧さ。大航海時代のキャプテンさながら,プレイヤーは目で水平線の向こうや波の変化を確かめつつ,どういう航路を辿るべきか,もしくは入り江に避難すべきかを決定しなければならない。風が強くなれば帆を畳んで錨を下ろすといった船のシミュレーション部分もリアルに作られており,雷でマストがぽっきり折れてしまうというようなアクシデントだって起きるのだ。

 アニメーションも素晴らしく,船上ではプレイヤーが雇い入れた乗組員のNPCがちょこまかと動き回り,縄梯子を伝ってマストに上がったり,キャノンを砲火する様子が描かれている。攻撃によって帆に無数の穴が開いたり,船の近辺でキャノンの波柱が立つというような表現も,SD2の世界を生き生きとさせるのに貢献しているようだ。
 このアニメーションは,モーションキャプチャ技術をベースにして,計150体も制作されたキャラクターモデルに骨格や関節を付けることで,より人間的な動きを可能にするスケレタルアニメーション技法が使用されている。これにより接近戦がより迫力を増しており,船がお互いに横付けして板を渡し,それぞれの乗組員が乱闘を始める様子もバッチリと表現されている。プレイヤーも当然この戦闘に参戦でき,陸上同様に船上を動き回りながらの活劇を体験できるというわけだ。

 前作になかったフィーチャーでは,やはりマルチプレイヤーモードが気になるところだろう。SD2では,最大で16人までの対戦をサポートしていて,対戦だけでなく協力してシングルプレイヤーモードのストーリーを進めていくこともできる。ただ現在のところは,GameSpyのみをサポートする予定になっている。さらに本作ではマップやシナリオのエディタも同梱してリリースされることになりそうだ。


 Bethesda社やAkella社が,SD2の発売を2003年の春にまで延ばしたことは,このところ遊ぶゲームが少なくなったと感じているRPGファンには,非常に残念なことだろう。ただやはり,前作がゲーム性の難を指摘される部分が多かっただけに,この延期はそれほど悪い判断ではないのかもしれない。今年中にはβテストも開始される予定で,来年初頭は騒がしくなりそうだ。大航海時代にロマンを感じる人なら,要チェックのタイトルだといえるだろう。

*本記事の内容は製品版では変更される可能性もあります。ご了承ください。

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