マイクロソフト ライズ オブ ネイション
〜民族の興亡〜

3rd Mar. 2003
Text by TAITAI

※記事中のScreenshotsは,すべて開発中のものです。ご了承ください。

 現在,一部メディア向けにβ版が配られている「マイクロソフト ライズ オブ ネイション 〜民族の興亡〜」(以下,RoN)は,「Civilization II」「Alpha Centauri」の開発者として知られるブライアン・レイノルズ(Brian Reynolds)氏を始めとしたCivilizationシリーズの開発者が,多く制作に参加している。まさに,ここ最近のストラテジーゲームの注目作。RoNでは,彼らが以前に手掛けてきた作品とは打って変わってリアルタイム制が導入されており,Civilizationシリーズのファンはもちろん,Age of Empires(以下,AoE)などを始めとした,リアルタイムストラテジーゲーム(以下,RTS)のファンからも大きな期待が寄せられている。

 ただ,古代から現代までの約6000年が舞台というその壮大なゲームスケールや独自の国境システムなどから,"結局のところ一体どんなゲームなのか"が分かりづらく,ファンの間で物議を醸しだしていたのも事実。今回のプレビューでは,手に入れたβ版を元に,ゲームの感触や細かいゲームシステムについて探っていきたいと思う。


■CivilizationとAge of Empiresのどちらに近いのか?

 さて,まず簡単な"プレイ感覚"の話から入っていこう。
 リアルタイムストラテジーとして制作されているRoNは,基本的にはオーソドックスなRTSのゲームスタイルを踏襲しており,大まかな意味でのプレイ感覚は,AoEやEmpire Earth(以下,EE)といった既存のRTS作品にかなり近いモノがある。初期配置される「町」から市民を生産し,それらを使って食料や木材,鉄などといった資源を集めていくのだ。資源を集めて施設やユニットを作り,敵と戦うというゲームスタイルも実に"RTS的"であり,そういう意味では,本作は巷で言われているようなCivilization系列の作品ではなく,あくまでもRTS然とした作品だといえる。


■ターン制とリアルタイム制のクロスジャンルたる所以は?

 とはいえ,"クロスジャンル"と呼ばれるRoNには,もちろん既存の作品にはない独特の雰囲気とゲームシステムがある。中でももっとも特徴的なのは,本作の内政システムだろう。RoNの内政システムは,丁度Civilizationシリーズを連想させるものがあるのだ。

 RoNでは,生産ユニットである市民を使って資源を集めるわけだが,AoEやEEのように「ユニットがちょこちょこ動き,資源を採ってそれを町や貯蔵庫に持ち帰ることで資源獲得」という形ではない。各町や資源の採集所ごとに「市民を割り振れる数」が決められており,そこに市民を割り振ると,時間ごとに一定の資源が入ってくるという仕組みになっている。一人なら30秒で10の資源を獲得でき,2人なら20という感じだ。経済ユニットの移動効率などを考えなければならなかったAoEやEEなど内政システムが,多少ブラックボックス的な側面を含んでいた要素であったのを思うと,RoNの内政はかなり明確化された形になっていると考えてよいだろう。つまり,画面上ではリアルタイムに作業している様子が移されるが,内政のシステム自体は,ターン制ストラテジー的な要素で固められているわけだ。

 また内政は,マップにも大きく左右される。たとえば,木を切るにしても近くの森林に伐採所を建てて木を集めるわけだが,その森が小さければ「伐採所に割り振れる市民の数」が少なくなってしまうのだ。初期配置によって,木が豊富な勢力や鉄が豊富な勢力など,多少の有利不利が出てしまう雰囲気といえばよいだろうか。いわゆるスポーツゲーム的なRTSが全盛の昨今だが,このあたりの仕組みを見ていると,RoNが純正統派戦略ゲームの流れを汲む作品だと感じることができる。都市の作り方にしても,マップ上の豊富な資源を勢力下に入れることを第一に考えて建築していくわけだ。
 ただ,経済は時代ごと(経済テクノロジーのレベル)に上限が設けられているため,がむしゃらに内政が強化されるというコトはなく,初期配置だけで勝負が決まってしまうような大味な印象は感じない。とくに資源の中には,テクノロジーが発達しないと発見できないもの(基本資源では石油。レア資源ならば石炭,ウラン,チタンなど)があるため,序盤に苦しい展開を強いられても,後半で豊富な石油を確保して盛り返せたりするなど,国家の織りなすダイナミックな興亡史をゲーム中に体感できるあたり,本作の持つ独特の味が感じられる。


■領地拡大という陣取り合戦をルール化した作品

 しばらく遊んでいて感じたのだが,RoNは,陣取りゲーム的な要素がかなり強い作品といえる。もちろん,その理由は本作の持つ「国境システム」にあり,これが経済と戦闘の両方に大きく影響しているのだ。

 本作では,自分の領地内にしか施設(軍事,経済両方とも)を建てることができないため,必要な資源を確保するには,まずその場所を自分の勢力下に収める必要がある。基本資源の確保も重要だが,マップ上に点在するレア資源を確保することも戦略上の大きな要因となるのだ。馬,塩,大理石,石炭,チタン,ウランなど時代ごとに何種類も用意されているレア資源は,確保すると一定の収入に加えて,建築コストのダウンや経済的制約の解除などのちょっとした特殊ボーナスも付加され,戦局に少なからず影響を与えるからだ。闇雲に都市を建設したり敵地を攻めるのではなく,資源の豊富な土地を重点的に狙っていくなどの戦略的判断が求められる。
 また戦闘に関しても国境の存在意義は大きい。自国のエリア外で戦うと「補給がない状態」と判断され,ユニットが自動的にダメージを食らってしまうという「兵站ルール」があるからだ。しかもこのダメージが結構バカにできず,甘く見ているとあっという間にダメージが蓄積していき,せっかく揃えた大軍がいつの間にかボロボロになってしまうということが多々ある。兵站ルールによるダメージ幅は,テクノロジーや文明特性によって上昇させることができ,ナポレオンのロシア遠征やドイツの侵攻を消耗戦のすえ撃退した歴史を持つロシアは,攻め寄せる敵により大きなダメージを与えられるなど,ちょっとした歴史的ニュアンスが含まれている点は面白いところだろう。

 ちなみに筆者が思うに,この兵站ルールは非常に"考えられた"ルールの一つだと感じる。単に現実の要素をデフォルメして盛り込んだだけというワケではなく,ちゃんとゲーム的な部分で大きな意味合いがあるように思えるのだ。つまりこのルールには,攻撃したモノ勝ち,という従来のRTSにありがちだったゲーム展開を防止するという意味が込められているように感じるのである。


■兵站ルールに見る,RoNのゲームデザイン性

 ちょっと話はゲームから離れるが,元々「攻撃」とは戦略的優位(大局的優位)の選択肢である。それだけに攻撃側が戦術的優位(局地的優位)を兼ね備えるものだと,勝負は否応なくそこで集結してしまう。実際の戦闘でも,なぜ「防御」という行動があり得るのかといえば,それが戦術的に有利な戦闘行為だからである。大局的には負けていても,防御という戦闘行動をすることで,局地的な地域での不利を軽減できるわけだ。そこで決定的な敗北を防ぎつつ,状況の変化(援軍,補給,天候など)を待って反撃の機会を待つという意味が,防御という行為には含まれている。

 しかし従来のRTSの大部分は,このような戦略/戦術的ロジックが十分に盛り込まれておらず,すべてにおいて攻撃側が有利な作品が少なくなかった。物量ゲー,力押しゲーなどと評されたAoEなどは,その代表的な作品といえるだろう。確かに物量で勝負が決まるのは,ストラテジーゲームとして当たり前のことだ。しかし,攻撃の理,防御の理,それぞれの要素を絡めた上でゲームのルールが作られていれば,また違った評価を受けていたのではないだろうか。AoEなどは,古くはボードゲームから脈々と続くストラテジーゲームの歴史から見ると,ルールとしてはあまりにお粗末だったといわざるを得ない。
 そういう部分を考えていくと,RoNのゲームルールは非常に評価できると共に,本当の意味で練り込まれたゲームデザインだと考えられるのである。

 それを裏付けるかのような工夫が,ほかにも見られる。とくに大きく目を引いたのは,ユニットが増えれば増えるほどユニットの生産コストが上昇するというルールだ。ユニットが少ない初期ではコスト40の歩兵が,生産を重ねるごとに41,42という感じでコストが増えていき,最終的には倍近いコストを支払わないとユニットを生産できなくなる。つまり,劣勢のときには軍を立て直しやすく,優位なときは軍の強化が難しくなるわけだ。これも,優位を築いた勢力の戦力が雪だるま式に強化されるのを防ぐ工夫の一つといえるだろう。


■総括:β版を遊んでみて

 細かいところにばかり目がいってしまったが,操作性を含めたグラフィック,サウンドなどゲーム自体のクオリティは,文句の付けようがないレベルだ。写真だと分かり難いが,ユニットのアニメーションなどは非常に細かく,過去の2Dの作品のアニメーションが紙芝居のようにカクカクに見えてしまうほど。サウンドも迫力満点で,雰囲気に合った高揚感のある音楽も非常に心地よい。RoNは,遊んでいてなんの理屈もなく「楽しい」と感じさせてくれる,数少ない作品だといえよう。

 ただ,一つだけ気になる点を挙げるとすれば,外交的なシステムが非常にお粗末な点だろう。RoNが"戦略級"ストラテジーゲームを目指すのであれば,戦闘以外の駆け引き……つまり外交がクローズアップされていてもよいのではないか,と個人的に期待していたせいもある。過去のターン制ストラテジーゲームがそうであったように,群雄割拠した状態で駆け引きを楽しめるゲーム性を筆者はRoNに期待していた。ターン制のゲームでは時間が掛かりすぎて実質的に"Unplayable"だった過去の作品を洗い直し,リアルタイム制という新しい方式で"Playable"な形にまとめあげることを,筆者は本作に期待していたのだ。しかし,RoNの現状の外交システムは,AoEなどの外交システムを多少拡張した程度に過ぎず,駆け引き要素の一つとして扱うには少々無理があるように感じる。この点だけは,従来のRTSの呪縛から逃れられなかったのかもしれない。

 とはいえ,本作は"忙しすぎる"従来のRTSのスタイルにアンチテーゼを投げかける,意欲的な作品であることは間違いない。RoNは,Warcraft3やAge of Mythologyに代表される競技性の高い作品とはまた違ったベクトルを持つ,文字通り新機軸のストラテジーゲームだという印象を強く持った次第だ。勝敗を競い合うスポーツゲームというよりは,資源の配置などに一喜一憂しながらみんなでワイワイとゲームの展開自体を楽しむ,ボードゲームライクな作品という感覚が近いように思える。RoNは,アクション性の強すぎる従来のRTSが肌に合わなかったユーザーも親しめる作品といえるのではないだろうか。
 なにより,グラフィックやサウンド,そして細かいルールの数々のすべてが高いレベルでまとまっており,面白いゲームだけがまとう"ある種のオーラ"を感じる点は,RoNのクオリティの高さを証明するものだろう。ただ正直なところ,対戦ゲームとしてのRoNの評価はまだ判断が付かない。マルチプレイというのは非常に繊細なもので,ある程度遊び込んでみないとバランス,ルール共にその真価が見えてこないからだ。しかし,RoNの持つポテンシャルの高さは,今回のβ版で十二分に感じることができた。
 本作は,ターン/リアルタイムを問わず,すべてのストラテジーゲームファンが注目すべき作品である。これが,β版を遊んで感じた素直な感想だ。



→「ライズ オブ ネイション」の当サイト内の特設ページは,「こちら」

(c)2003 Microsoft Corporation. All rights reserved.