Freelancer

●Preview#45
Freelancer

Text by 奥谷海人

■「Privateer」や「Wing Commander」の後継的なスペースオペラ

 「Freelancer」は,同じくMicrosoftから発売された「Starlancer」(日本ではメディアクエストより日本語版が発売)と同じ世界観を受け継ぐDigital Anvil社の作品だ。スペースコンバットのスリリングな戦闘とRPGやアドベンチャーゲームの面白さを兼ね備えている往年の名作「Privateer」と,映画「ブレードランナー」のような世界観を掛け合わせた感じといえばよいだろうか。実際,第1人称視点のアクションシーンばかりでなく,実際にキャラクターが惑星の基地に降り立つという第3人称視点でのゲームが融合されており,2時間半に及ぶCG映画でストーリーが補足されていくという巨大な規模のゲームなのだ。

 開発が公表されたのは今からもう3年以上も前のことで,当時のリリース予定は2000年末とされていた。非常に壮大なゲームのためか,その後何度も発売が延期されている。このゲームを草案したクリス・ロバーツ氏エリン・ロバーツ氏の兄弟も,MicrosoftがDigital Anvil社を正式に買収したのに合わせて辞職しているものの,残ったメンバーによって制作が進められてきた。Microsoftが2002年2月末に行ったゲームイベント"International Game Festival"では今年末中の完成が見えてきたということだったが,5月のE3でのプレスリリースは,また2003年初期まで延期してしまっている。しかし,フィニッシュラインもようやく見え始めたのは事実であろう。

 「Starlancer」をプレイした人なら覚えているだろうが,宇宙に飛び出した人類が植民地の争奪戦を繰り返しているというのが,このシリーズのバックグラウンドとなっている。その国家間の喧騒が膨れ上がり,やがて30世紀には地球をも破壊してしまう"第一次太陽系戦争"を引き起こしてしまうのだ。わずかに生き残った人類は,それぞれの国家が転じて,リバティ家(アメリカ),ブリトン家(イギリス),レインランド家(ドイツ),クサリ家(日本)という家督を形成した。
 Freelancerでは,時代を大戦争から数10年後の31世紀初頭に設定しており,「征服時代」(Age of Conquest)と呼ばれる時期の中で,これらの4大勢力は銀河系に大きな勢力を持つに至っている。これらの勢力は,冷戦状態の中でお互い反目し合っているものの,貿易も盛んに行われるようになった。征服時代と呼ばれるのは,その貿易資源をいち早く囲い込んでしまおうと,各国が太陽系をも離れて植民地を切り開いているために名付けられたのだ。
 そんな壮大な宇宙の空間で,あるときはバウンティハンター,あるときは貿易商,そしてまたあるときは宇宙の治安を守る警護団のリーダーとなって,自由奔放に生きていくのがFreelancerである。


■貿易から賞金稼ぎまで,
  幅が広く自由度が高いクエストシステム

 シングルプレイヤーモード用のキャンペーンでは,プレイヤーは旧式の宇宙船を使って一攫千金を夢見るトレント・エディソンという主人公を操ることになる。ゲーム開始直前で,取り引き用の高価な物資を貯め込んでいたFreeport 7と呼ばれる宇宙基地が謎の爆破にあい,トレントは間一髪で逃げ延びるものの無一文になってしまう。彼はリバティ家の首都マンハッタンに避難し,そこで爆破事件に合わせて幻の秘宝も盗まれたとの情報を得るのだが,とりあえずは自分の生活を支えていくことを優先に考えなければならない状態なのだ。

 こうしてプレイヤーは,惑星から惑星へと飛んで物資の密輸を請け負ったり,危険区域での護送を務めたりという仕事をこなしていくことになる。これらのサブクエストは300パターンも用意されているといわれ,同じようなクエストばかりを繰り返す必要はないし,毎回違った状況に置かれている自分も体験できるはずだ。これらの仕事は難度や報酬に応じて選択できるようになっており,ゲーム内のコンピュータを探すこともあれば,酒場でNPCと話したりテレビニュースを見て情報収集することも可能だ。

 このゲームがユニークなのは,Privateerとは違ってゲーム中の行動がすべてプレイヤーに委ねられており,ゲーム世界の状況に刻々と影響を与えていくことである。スクリプト化されたストーリーはほとんど存在せず,ゲーム世界の国家情勢や経済といったことが,プレイヤーの行動にダイレクトに関連してくる。もちろん,冒頭で記述したようなメインストーリーが存在し,13種類のチャプターに分かれた総計10ミッションで構成される見込みだが,それ以上にフリースタイルのサブクエストに注目したい。
 例を挙げると,あるときプレイヤーは,宇宙パイレーツたちがある惑星の近辺で暴れまわっているというニュースをテレビで見る。この星は,某国勢力の外辺にある実りの多い農業系惑星だが,パイレーツたちの反乱には指を加えてみているだけだ。
 そこで,プレイヤーがパイレーツ退治に乗り出して見事に成功。この星の豊富な食料資源もようやく外へ運び出せることが可能になり,近隣の工業中心の惑星との貿易ルートが開かれる。コンピュータに制御されているほかの貿易商達が盛んに往来し始めるのだ。ただし,両方の惑星の輸出入が安定するので,貿易には旨味のあるルートではなくなってしまうし,これまで食料確保に依存してきた別国領内の惑星の物資は,急激な値崩れを起こしてしまう……。

 これまでにも「Ultima Ascension」のように,村人がある生活パターンを持って1日を過ごしているなどの,あらかじめ開発者側に設定された行動をするNPCを実装したゲームはあった。しかしFreelancerのように,プレイヤーやほかのNPCキャラクターの行動によって,常時変化していく流動的な世界作りが達成されているのは指摘しておくべきポイントだろう。

 例に出した話を続けると,もしこの貿易ルートで依然として十分なパトロールが行われないと,やがて"宝の船"を狙ってパイレーツ達が再集結し始め,何度か被害が出た時点で商人たちがバウンティ(賞金)をかけることになる。そのときの状況によってNPCが反応し,クエストが自動生成されていくという,斬新でロジカルなデータマネージメントが行われているのは興味深い。このようなサブクエストのテンプレートは,賞金稼ぎ,密輸,捜査,破壊,エスコートなど16種類となっており,前述のように,合計で300パターンが用意されているのだ。
 また,プレイヤーキャラクターには知名度という概念もある。これはつまり,プレイヤーが,ストーリーを進行していく過程で,どの国家勢力に加担していくかで,ほかの勢力との関係に影響を及ぼすというものである。場合によっては,一方の国の庇護を受けるプレイヤーには物資を供給してくれない惑星もでてくるのかもしれない。このあたりは,例えばスペインの助けを借りたイタリア人のコロンブスというような,大航海時代のプライベティアさながらの雰囲気を持つゲームになっているのだろう。
 手っ取り早く現金を手に入れるためにプレイヤー自身が貿易船を狙うこともできるが,繰り返していればお尋ね者になってしまうことになる。プレイヤーの知名度が地に落ちてしまうのだ。この場合,プレイヤーは小惑星の内部に作り上げたパイレーツたちの隠れ基地を拠点にし,いつも強力な武器で武装したバウンティハンターたちに追い回される生活を強いられることになってしまう。


■簡略化された操作性で,
  アドベンチャーゲームの要素も持ち合わせる

 さて,賞金稼ぎや貿易によって儲けた金銭は,高価な輸出用物資を買い揃えるためばかりでなく,自分の船を買い換えたり装備や武器をグレードアップするのにも使用できる。ゲームに登場する宇宙船は,鉱物資源掘削船などを含めて50種類ほどが用意されており,この中から20程度の宇宙船をプレイヤーが操縦できることになる。この中には,軍事戦闘のファイターや商業用の運搬船なども含まれている。
 船の装備や物資の購入,情報収集できる酒場,そしてスペースポートの四つの地区は,都市の区画としてプレイヤーに提供される。これらの施設をもった惑星は全部で48個も用意されており,ほかにもアステロイドや宇宙ステーションなど160種類に及ぶ土地に着陸可能だ。実際,銀河系の大きな部分がマップ化されていて,15星系隔てた惑星に物資を運ぶなどというシチュエーションも考えられるだろう。ガス雲やアステロイドベルトなど,スペースシムにはお馴染みの自然現象(?)も多く存在する。
 Wing CommanderやStarlancerでも使われていたが,これらの場所へはジャンプゲートを使って瞬時に飛行するのがいいだろう。もちろん一つ一つの惑星には,20種類の物品に合わせて個別の需要と供給が設定されているので,貿易ルートは3000種類に及ぶのではないかと推測されている。豊富なサブクエストにも驚かされるが,さまざまな貿易ルートを開拓するだけでも楽しいゲームになるのではないだろうか。

 機体のコントロールについては,コンバットシムファンには少々残念な話になってしまうかもしれない。Freelancerはジョイスティックをサポートしておらず,完全にマウスとキーボードで操作しなくてはならないからだ。マウスを操って,視界に見える行きたい場所をクリックしたり,敵艦を攻撃したりできるというシンプルさだ。これはクリス・ロバーツ氏が以前話していたように, 「Wing Commanderのようなゲーム体系では,依然として初心者に対するハードルが高すぎる。通常のシムファンに限らず,もっと多くの人に無理なくプレイしてもらいたい」 という開発時のコンセプトがあったのが大きな理由だ。このため,インタフェースの見た目は彼のほかの作品の雰囲気を世襲しているものの,すべてマウスでプレイできるように,大きな改良が加えられているのが特徴だ。
 機体は一人で操作できるものばかりで,最近のコンバットフライトシムに多く見られる,パイロットや銃撃手などに別れた役割分担はできないようになっている。しかし,プレイヤー自身がミッションの内容に合わせてほかの宇宙船やファイターを雇用することもできる。戦闘能力の低い戦艦を,複数のファイターで護衛するなども可能になっているのだ。
 また,いったん惑星や基地に降り立つと,Westwood社が制作した「Bladerunner」や,もっと大雑把にいえばSierra社のアドベンチャーゲームのような感覚で,第3人称視点で見たキャラクターを操ることになる。この部分は純アドベンチャー形式で戦闘したりすることはないが,ストーリーを進展させるためのシネマティックスが用意されていたり,アイテム購入や情報収集を行うためにある。




 グラフィックスは,1999年に発表された当時こそ1万ポリゴン以上で制作されている機体モデルというのは驚きだったものの,最近では並みの部類になってしまっている感もある。それでもDirectX 8.1に対応させたグラフィックス効果は美しいし,今やMicrosoft傘下の開発元になったDigital Anvil社の名に恥じない出来なのも確かだ。敵機を砲撃したときに,燃えカスが流れていくという慣性に則した描写も,いつ見ても素晴らしい。
 ただ気になるのは,ちょっと勘違いしたような日本のイメージがアートワークに見られることで,甲冑を着た銅像はもちろん,「タカラ」(商標違反!?)や「格安チケット」なる看板も見受けられた。Starlancerでも,日本勢力について戦国時代をモチーフにしたようなイメージがあったが,そもそもこのシリーズは,第二次世界対戦をベースに作られたのは疑いない。冒頭の世界設定を見てもわかるが,第一次太陽系戦争の集結が地球爆発(日本への核爆)で起こり,その後は各国が商業主義にまい進している姿が投影されている。

 マルチプレイヤーモードについては,100人程度のプレイヤーをサポートするゲームサーバーも用意され,何日にも渡ってプレイヤーが入り浸ることもできるようになるという小型のオンライン専用ゲームとして開発されているそうだが,この計画がどこまで進んでいるかは依然として見えてきていない。ただし,Microsoft社が提供するGaming Zoneでサーバーが無料で提供されるということなので,従来のオンライン専用ゲームとBattle.netを組み合わせたようなシステムになるのだと思われる。おそらくは,ゲーム発売後しばらくたってからのサポートとなるのだろう。

 1999年のE3において世界中のメディアから絶賛されたこともあるFreelancerは,最近では次々と発表される他社の新作の影に隠れている感も受ける。しかし,「Wing Commander」や「Descent」以来,大きなヒットのないスペースコンバットシムのジャンルに,喝を入れるようなゲーム性と魅力を持っているのも事実だ。2003年初頭,その全貌が明らかになるだろう。