Dark nad Light

Text by 奥谷海人

 フランスで開発中の「Dark and Light」は,光と闇の二勢力に分かれて戦う大規模ギルド戦争を核にしたMMORPGである
 王子や男爵といった階級制や,マニアックなこだわりを感じさせるリアルな天候表現など,ほかのゲームでは珍しいシステムも搭載しており,2004年度のダークホースになる可能性もある。まだまだ情報は少ないが,知れば知るほど楽しみになってくる作品だ。

光と闇の勢力が,広大な大陸で繰り返す果てしない戦い

 このゲームの名前を耳にしたことのある人は少ないだろうが,「Dark and Light」は,フランスで制作されている同国初のファンタジーMMORPGである。プレイヤーは,マジカルな世界で光と闇に分かれて,なんと4万平方メートル……つまり実世界の尺度で北海道の約半分に相当する広大な地域で戦うことになる。

 開発を手がけるのは,2002年8月に創設されたばかりのNP Cube社で,コアメンバーはたった5人という,いかにもヨーロッパ的な小企業。実質的に開発に携わるのは4人で,そのうち名前がPで始まるスタッフが3人いることが社名の由来だという。
 Dark and Light自体はすでにαテストの段階に漕ぎ着けていることから,元々コアメンバーがゲームエンジンなどのIPを所有していたのだろう。画面写真で判断する限り,Mefateゲームエンジンはかなり優れた能力を持つようで,また,これだけの土地面積を再現していながらも,ゾーンによるタイムラグはまったく起こらないという。なお同社は,このMefateエンジンのほかにも,コンテンツ生成ソフトやデータマネージメントソフトなどのライセンス供給も念頭においたビジネスを展開しているのだ。

 Dark and Lightのストーリーは,よくある中世ファンタジー系の世界観を持つ。
 七つの種族が平和に共存していた大陸ガナレス(Ganareth)で,あるとき,魔法の使い過ぎによって引き起こされた大惨事の影響で,月が真っ二つに割れてしまう。一つが光に溢れ,そしてもう一つが闇に包まれたかけらとなるのだが,これが影響してか地上の人々は魔法を使うことができなくなり,Dragon Natureと呼ばれる謎の一団が地上を闊歩するようになる。この軍団の勢力が弱まり,再び人々に魔力が戻った頃には,巨大都市を形成した二つの王国が出来上っていた。失われた平和に代わって,光と闇の争いだけが支配する世の中になっていたのだ。

 Dark and Lightでプレイヤーが使用できる種族は,ハーフトロール,ハーフオーク,ブレーブ,ヒューマン,ハーフエルフ,ウッドエルフ,ダークエルフ,ハイエルフ,ドワーフ,ノーム,ルティン,フェアリーの11種類と,まだ公表されていないものが一つ追加される予定になっている。たいていはお馴染みの種族だが,なかには聞き慣れない種族もあるだろう。ブレーブは「EverQuest」でのバーバリアンのような人間族の一派で,ルティンはフランス語でインプ。このルティンは猿人種……「指輪物語」のホビット系の容姿になるようだ。
 種族によって,"社交" "戦闘" "魔法",そして"探索"の四つの基本能力が異なっており,例えばヒューマンならすべてが25%ずつと均等的に振り分けられているし,魔法の比重が大きく戦闘能力が完全に欠如したフェアリーのような極端な種族もある。ハーフオークとダークエルフがダーク系に,そしてブレーブとハイエルフがライト側に所属することになるが,ほかの種族ではプレイヤーの好みでどちらに荷担するかが決定できるようになっている。
 選択可能なクラスも列挙しておくと,アーチャー,レンジャー,ドルイド,パラディン,ウォーリアー,シャドウナイト,ウィザード,モンク,イリュージョニスト,クレリック,ローグ,バード,ネクロマンサー,エンチャンターの14種類が公表されており,ヒューマンとハーフエルフ以外の種族では,選択できるクラスに制限があるようだ。

王国という名の巨大ギルドと,王子や男爵といった社会構造

 Dark and Lightには,ゲームのスタート地点となっている光と闇に分かれた二つの巨大都市以外にも多くの都市があり,広大なガナレスの大陸に用意されている王国は合計で10種類もある。これらの土地は,雪山地帯や湿地帯,砂漠地帯などの幅広い環境が表現されており,ここでクエストや生産活動を行いながら,自分のキャラクターを鍛えていくのである。
 プレイヤーはこれらの王国の政治システムにも関与できるようになっていて,ハイレベルなキャラクターならば,「○○王国の王子」として,実際にクエストを作成してほかのプレイヤーに依頼したり,大きなギルド戦争などのイベントを企画することができる。また王子は,物価の設定といった経済も調整できるなど,ゲームマスター的な政治運営が楽しめるといった特権が用意されているのだ。

 PvP(対人戦)に関しては固定されたルールは現段階で発表されていないものの,プレイヤーやギルド双方の合意によって行われるようなシステムになるだろう。
 ゲームの基本設定が光と闇の戦いであるため,ライト系のプレイヤーキャラクターは同じライト系のみと,ダーク系はダーク系のみとパーティを組んだり,ギルドを組織したりできる
 王国の各地には,同勢力のプレイヤーキャラクターのマナ疲労を急速に回復してくれる「マナの源泉」が点在していて,これらを光と闇の軍勢が奪い合う。王国を奪取する前には,その周囲のマナの源泉を,必ず掌握しておかなければならないのだ。
 またマナの源泉ばかりでなく,それぞれの王国周辺には砦が設置されており,ここでも攻防戦が繰り広げられることになる。王国の王子に任命された男爵(Barony)が,一人で最大13個の砦を支配できるのだが,この13の砦のうち九つが敵勢力に奪われると,敵側が男爵を入居させられるようになる。
 各砦での資金管理や運営のいっさいは,男爵であるプレイヤーに任される。男爵の政治手腕によっては,商人系のプレイヤーが別の砦へと移っていくこともあるのだろう。砦には,その男爵と配下のプレイヤーキャラクター達の資金を持ち寄って,鍛冶屋や商店などの公共施設と,そこに従事するNPCを設置できるようになる
 一国の王子は,5人までの公爵(Duchy)を任命し,それぞれの公爵は7人までの伯爵(County)を選び出す。さらに,それぞれの伯爵が9人の男爵を選ぶことになり,つまりは5×7×9×13で,一つの王国につき4095の砦を管理できるわけだ。王国は10あるから,大陸全体で4万を超える砦が表現されるわけだ。それにも関わらず,ゾーンによるマップの隔たりがないのだから,凄い。なお公爵や伯爵は,王子の執政官として,王国全体の運営に携わる。

 このように,ガナレスの大陸にある10の王国と,その領域に群がる大小の砦,そして王子と爵位の称号を持つプレイヤーキャラクターの存在が,Dark and Lightのゲームの中核をなす構造となっている。同じ勢力内でも平和的な権力闘争が行われるだろうし,これまでのMMORPGには少ない,王国建設の楽しみも加わっている。
 王子や爵位の任命手段として,同じ勢力のプレイヤー達による選挙で行うといったゲームシステムも考案されており,このあたりは民主主義的に解決されるようだ

ゲームに大きく影響する交易や気象変化のシステム

 Dark and Lightで最も興味深いのは,プレイヤーはパーティを組むことなく,たった一人でもゲームをプレイできるという点である。このゲームにはなんとシングルプレイヤーモードが用意されており,ソロ活動を楽しめるクエストが生成されるようなシステムもあるらしい。また,宝探しといった探検や商業活動に限定した,実際にオフラインでゲームが楽しめるようなシステムも予定されるようだが,まだその詳細は公表されていない。

 しかし, Dark and Lightを骨の髄まで楽しみたいのなら,やはりオンライン上での仲間達とのつきあいが必要不可欠だろう。
 キャラクターの経験値には,FXP(Fighting eXPerience)という,戦闘によって得られる経験値のほかに,生産や政治運営を重ねていくことで得られるSXP(Social eXPeriance)というものがある。このSXPでは,ほかのプレイヤーとの協調性も考慮されており,ほかのプレイヤーと協力する必要のあるクエストも存在するとのことだ。
 また,ほかのプレイヤーと交易することによっても,SXPは上昇していく。町で生産に従事するだけでも,十分楽しめるようになっているようだ。交易できる品目は,武具から食料品まで50種類に及ぶ見込みで,ライトとダークの間でも商売は可能になるとのこと。

 生産系専門のプレイヤーキャラクターを保護するためか,本作では鉱山などは公共施設となっており,その中には武器を持ち込めない。強力なNPCのガードマンなどによって堅く守られており,剣や斧を手に持って入ろうものなら,入場を断られるか制裁を加えられてしまうようだ。
 このような施設で得られる鉱石や木材,農業製品などは,未加工のまま売りさばいてもいいし,アイテムに加工してから販売してもいい。物資は地域によって価値が変化するので,高値で買い取ってくれる場所や仲買人を探し出すのも面白いだろう。
 Dark and Lightには,ほかのゲームにあるペットのようにキャラクターに追従する"ワゴン"が存在する。その中に商売用のアイテムを乗せてほかの町に運ぶことも可能だが,そのときは敵の襲撃に遭わないように護衛を付けるなりしたほうがよさそうだ。
 移動手段としては,マナの源泉を通じての瞬間移動や,気球に乗って,眼下に広がる世界を見渡しながらの長距離移動ができる模様。馬は確認されていないが,太ったダチョウに似たドドにも騎乗できる。個人所有はできないが,ほかにも船やケーブルカーなどの乗り物が存在する。

 Metafeエンジンでは,気象効果も非常にマニアックに制御されている。気温や風速までが常時計算されていて,その影響で自動的に雲や霧が発生したり,嵐になったりするというのだ。もちろん,この気象効果は完全にランダムに演算されているのではなく,2500m以上の標高では雪が溶けないというようなルールも組み込まれている。季節による天候や温度の変化も表現されていて,すべてがロジカルでダイナミックに制御されているのが素晴らしい。
 気象に関するこだわりは,とくに積雪の表現によく現れている。雪が降り出すと,ただ周囲のテクスチャが白くなっていくのではなく,実際に積もっていくのが分かるのだ。それぞれのオブジェクトには雪との相性値が設定されており,土に比べて,樹木の枝,岩,屋根などの上に積もった雪は溶けにくいなど,リアリスティックに表現されている。また,風が吹けば樹木の雪が落ちたり,気温が高くなって屋根の積雪が滑り落ちたりもするのだ。
 高山地域では数十cmも雪が積もることもあり,ドワーフのような背の低いキャラクターなら,移動するのにも苦労することが予想される。その半面,南方の海岸地帯など台風が起きるような場所もあり,そこではフェアリーが不利になるなど,気象はゲームプレイにも生かされている。また,雹や砂嵐,竜巻など,ランダムにキャラクターにダメージを与える過酷な環境変化も起こり得るなど,気象効果だけでも相当に作り込んでいるのが分かる。

 フランス初となるMMORPG「Dark and Light」は,早ければ2004年初頭にもβテストが開始される予定で,公式サイトではテスターも募集されている。現在行われているクローズドテストでは,5%ほどの大陸面積しか表現されていないが,地形だけで毎フレーム30万ポリゴンが表示されているなど,上々の仕上がりを見せているという。
 大きな企業の資本をバックにしたMMOが多い中,少数精鋭によるヨーロッパ開発チームの底力を見せてくれそうな気配だ。

*ゲーム画面はすべて開発中のものです。また,本記事の内容は製品版では変更される可能性もあります。ご了承ください。

Copyright MediaMobsters Ltd. All Rights Reserved.