Breed

Breed

Text by 奥谷海人

 2002年9月にロンドンで開催された"ECTS 2002"(当サイト内の取材記事まとめは「こちら」)でゲーム・オブ・ザ・ショーを受賞したのが,Brat Designs社開発による3Dシューター「Breed」である。強暴な異星人に乗っ取られた地球を奪い返す地球軍の兵士が主人公で,豊富に用意された乗り物を駆使して戦闘を繰り広げる。シューティングとしてはタクティカルな要素のあるゲームだが,なかなか軽快に進んでいくのが面白い。

奪われた地球を,異星人の手から開放せよ!

 2602年の未来。人間が植民地開発を広げていた太陽系に,突然"ブリード"(Breed)と名付けられた異星人が来襲した。地球軍は,火星の植民基地を守るために二つの巨大宇宙母船,ダーウィンとマゼランを送り出したが,ブリードの本軍は地球人の裏をかいて地球を攻撃し,安々と敵の手に陥ちてしまう。地球軍がようやく体勢を整えて帰還したときには,すでに地球は地勢変形技術によって海面レベルが押し上げられ,ブリードの要塞と化していたのだ。ダーウィン号に搭乗していた主人公に託されたのは,敵地深くに潜り込むというゲリラ的な作戦だった……。
 これが,2003年春にCDV Software社から発売されるアクションシューティングゲーム,「Breed」のストーリーである。まあゲームではお決まりの祖国奪回なのだけど,そこは目を瞑ってゲームを見ていただきたい。ECTS 2002では,2001年度に同じくCDVから発売されている「Project Nomad」に続いてゲーム・オブ・ザ・ショー賞を受賞したほどで,美しいグラフィックスばかりでなく,アクションゲームにストラテジー性を持ち込んだゲームプレイが評価されているようだ。

 Breedは,第1人称視点でも第3人称視点でもプレイできるようになっており,4人程度のチームメイトを引き連れて,地球を支配している異星人ブリードと戦う。 ストラテジー性があるとはいえ,ゲームの本髄はいわゆる"Shoot'em Up"といわれるもので,異星人を地球から追い払うのが究極の目的だ。開発元のBrat Designs社は,Breedをかなりアクション性に偏らせたものにデザインしており,スピード感のある展開がゲームの持ち味になるだろう。
 Brat Designs社は2000年に誕生したばかりの若い開発チームで,主要メンバーはたったの5人。Breedが処女作となる。設立当初から,本作でも使用されているMercuryゲームエンジンを開発してきており,これによって複数の乗り物に関するフィジクスやスクリプト化されたシークエンス(あらかじめ開発者によって創作された,インゲームのムービーシーン)も,スムースに処理できるようになっている。もちろん,マルチテクスチャ技術やパーティクルシステム,そして3Dサウンドなどの最新のグラフィックスは完備しており,マルチプレイヤーモードもサポートした本格的なものである。

乗り物や地形を活用するタクティカルな要素が魅力

 Breedの基本的なゲームの手順は「UnrealII:The Awakening」のような感覚で,プレイヤーは軌道上に待機するダーウィン号から,ドロップシップで地球へと輸送されてミッションを行うことになる。とにかくゲームが開始されてからの描写が見事で,宇宙船からミッションの行われる地上までの様子がこと細かに描写されている。プレイヤー自身を輸送してくれているドロップシップの中でも動き回ることが可能で,ミッションによっては遂行に必要な乗り物を積むことができる。
 ダーウィン号を飛び立ったドロップシップの窓から外を眺めていると,またたく星が散りばめられた宇宙や青い地球に近付いていく様子はもちろんのこと,大気圏へ突入するときの閃光から雲を突き破って目的地に到着するまでが,すべて再現されているのだ。

 なぜ,これまでの対エイリアンもののアクションゲームでこのような描写が行われなかったかと不思議に思えるほど興味深いのだが,筆者がプレイしたことのある二つのマップでは,両方ともこのシークエンスが用意されている。開発者によると,ほとんどのマップでこうやってゲームが始まるのだという。果たして,この2分ほどあるシーンを,プレイヤーが毎回体験することに意義があるのかは分からないものの,目的地が近づいて来たときに,その場所の様子を簡略的に観察できるという利点は考えられる。着陸姿勢に入れば,ドロップシップのサイドドアを開くことができる仕様になっていたが,風景を良く見ようと近づきすぎ,誤って海に落ちてしまうこともあったので注意が必要だ。

 実際のアクションが始まるのは,着陸したドロップシップのメインゲートが開いてからだ。実はプレイヤーは一人ではなく,ほかにも4人の仲間が搭乗している。「Halo」や「Tribes」のようなタクティカルアクションを連想させるもので,ワンキーでどのキャラクターも操作できるようになっている。そういうプレイが好みではない人には,ほかのキャラクターに一定の行動パターンを設定するためのコマンドシステムも用意されていて,あとは秀逸な思考ルーチンが補ってくれる。このほうが,実際のFPSの感覚に近いだろう。
 ミッションは七つの大陸中あちらこちらで行われ,南海の島から雪降る極寒地帯までが舞台となっている。その内容は,攻撃,防御,そして情報や特殊アイテムの収集,エスコートなどさまざまだ。筆者がプレイしたところでは,目標地点まで潜入してブリードを追い払った後で,そこを拠点として敵の援軍を立ち切るというものが用意されていた。
 Breedのシングルプレイヤーモードで用意されたミッション総数は18。一つ一つのマップが非常に大きいので,ミッション達成へはさまざまなアプローチが考えられ,その分プレイヤーは戦略的な思考を要求される。つまり,その場所の地形を考慮しながらミッションを遂行していくのである。その一方で,チームメイトがジープを運転するのに合わせてプレイヤーが砲台から撃ちまくるというような,"Incoming風"のものもあって,単純なゲーム展開にならないような工夫がなされているようだ。ミッションによっては,宇宙空間で戦闘になる場合もあるらしく,戦闘機や砲台を使って敵と戦うという局面が期待できそうだ。

 ここまで読んでお分かりのように,Breedには相当数の乗り物が登場するようだ。もちろんブリードの搭乗型兵器も用意されていて,それを奪い取って戦闘で活用できるのである。使用できる武器には,SF系のアクションゲームに見られるようなものが,キャラクター用と搭乗兵器用に多数用意されている。Breedには「X-Comシリーズ」のようなアイデアも生かされていて,エイリアンの武器を持ち帰り,それをエンジニアに研究させて自分の兵器を進化させられる。こうやって,次のミッションではよりブリードに対抗できるだけのパワーを備えることができるわけである。
 武器に関する仕様では,プラズマガンのようなエネルギー系の兵器へのアプローチが面白い。これらの武器は,これまでのゲームのように補填用のAmmoパックを探したりする必要がなく,キャラクターのアーマーに常備された機器からエネルギーをリチャージできるようになっているのだ。

 さまざまな搭乗兵器に対応できるように,極限までインタフェースが簡略化されてスッキリとしているのが好印象である。メニューではなくアイコンで処理されているので,新しい兵器の操作法について戸惑ったりすることこともないだろう。
 16人までサポートされたマルチプレイヤーモードでは,ジープやドロップシップを担当のプレイヤーに運転してもらうこともできる。デスマッチやキャプチャー・ザ・フラッグなど豊富なゲームモードが追加されているが,やはりBreedで遊ぶならチーム対戦が面白いのではないだろうか。音楽コンポーザーが「Tomb Raider」シリーズの3作めまでを担当していた人というのも注目できる点だ。PC用だけでなく,Xbox用にも開発されている。

 発売予定日が2002年夏から序々に延期されてきていたが,この春までには欧米でリリースされることになりそうだ。「Tribes」に変わる新しいSFベースのタクティカルシューティングとして,ヨーロッパから参入するBreedに期待するファンも多く,新興会社の処女作でもあることから,フタを開けてみたら大ヒット,ということになる可能性だってあるだろう。

*本記事の内容は製品版では変更される可能性もあります。ご了承ください。

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