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第11回FOST賞授賞式が開催。「ハイブリッドシミュレーションの社会的利活用」「異なる利害を乗り越えた共通目標の成立要件」などの研究が受賞
FOSTは,シミュレーションやゲーミングといった技術の利用を社会や文化の中で促進させる研究課題への助成事業と,その成果を広く還元する普及啓発事業を活動の柱とする財団である。
授賞式の会場では,平成29年度にFOSTが支援・助成した研究の中から,もっとも優れたものを表彰するFOST賞に加え,若手研究者を対象とするFOST新人賞およびゲームの研究・開発・応用に関連して社会貢献した人物または人材を対象とするFOST社会貢献賞が発表された。
第11回FOST賞に選出されたのは,東京工業大学大学院教授の出口 弘氏と,北海道大学大学院准教授の大沼 進氏だ。
出口氏が行ったのは「ハイブリッドシミュレーションの社会的利活用に関する調査研究」。アナログの道具などを用いた人間のみのゲーミングの利点と,コンピュータやインターネットを利用・活用し,AIプレイヤーも混在させるシミュレーションの利点を再検討し,社会問題や政策科学の領域における合意形成や理解醸成ツールとして標準的に利用できる概念と実践事例を整えることを目的とした研究だ。
出口氏は,「人の理解と,それが及ばない範囲のロジックの双方から検討することにより,ブラックボックスではない,人の理解が及ぶシミュレーションが可能になる」という考え方に基づき,具体的な枠組みと実践事例を作ることができたとコメント。今回の受賞は,多くの協力者とFOSTの支援があったからこそと感謝の意を示していた。
一方の大沼氏が行ったのは「異なる利害を乗り越えた共通目標の成立要件についてのゲーミング研究」。利害が対立するような葛藤状況を「社会的ジレンマ状況」とポジティブに再定義することで,相互協力の達成が可能となるという仮説を提唱した。従来の「最初に目標を決めて,それに沿ったモデルを構築していく」という発想とは異なる,新しいものを生み出そうとする新しい着眼点が評価されての受賞だ。
この研究について大沼氏は「なかなかテーマを理解されない」とし,支援してくれたFOSTに感謝を示すとともに,「今後は恩返しをしたい」と語った。
第5回FOST新人賞に選出されたのは,「ゲーミフィケーションを活用したスマートフォン依存抑制アプリケーションの開発」というテーマの研究を行った,福井大学大学院工学研究科 情報・メディア工学専攻 講師の長谷川達人氏だ。本研究では,スマホへの依存を抑制するために,ユーザーが自身の決めた時間外にスマホを利用しようとすると料金が発生,逆に時間内にスマホの利用を終えると報酬をもらえるという常駐ゲームアプリを開発した。このアプリを多くの人に利用してもらい,そのログとアンケート結果を大規模に収集してデータを分析した点が評価された。
長谷川氏は,このアプリのログおよびアンケート結果から,性別や年齢層によって大きく差が出ているとし,現在それをもとに論文を書いているとのこと。
また,上記のような形で料金が発生するという点について,「子ども達に課金させるのか」という批判を覚悟していたそうだが,アンケート結果では80%以上がこの課金モデルに好意的で,かつ「もっと高くしてほしい」という意見も少なからずあると明かしていた。
第6回FOST社会貢献賞に選出されたのは,関西大学社会安全学部教授の広瀬幸雄氏。広瀬氏は,長年にわたり仮想世界ゲームの開発,研究,応用に尽力し,顕著な業績を上げている。その結果,現在多くの大学で仮想世界ゲームの研究が実施されるなど,教育的な波及効果が極めて大きく,多大な貢献をしていると評価された。
なお,広瀬氏はあと1年で定年とのことだが,今回の受賞により,自身のWebサイトを立ち上げ,今後もボランティアでさまざまなゲームの研究や指導などを行っていきたいと意気込みを見せた。
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