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[CEDEC 2014]「艦これ」のこれまでと現在の姿が数字によって明らかに! プロデューサーらが教える「艦これ」の秘密
2014年8月現在,登録アカウント数220万という人気タイトルになった「艦これ」だが,いろいろ「神話化」してしまい,実態が見えない部分も多い。プレイした人ならすぐに分かることだが,一般的なソーシャルゲーム(ないしブラウザのオンラインゲーム)に比べ,「艦これ」は課金要素が少なく見え,いろいろと商売っけが薄いようにも思える。この理由(ないし収益計画)については「グッズやマルチメディア展開によるロイヤリティビジネスとの複合による収益化」という理論が語られ,そういうインタビューが一時,ゲームメディア以外にさえ踊ったわけだが,ズバリ,「艦これ」はその目論見通りに動いているのだろうか?
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「艦隊これくしょん -艦これ-」公式サイト
パシフィコ横浜で開催中のゲーム開発者向けカンファレンス,CEDEC 2014の初日となる9月2日に行われた講演で,角川ゲームズの田中謙介氏(開発本部 ゼネラルプロデューサー 「艦これ」開発運営統括)と,DMM.comの岡宮道生氏(DMM.com 社長室 新規事業開発 POWERCHORD STUDIO室長 「艦これ」エグゼクティブプロデューサー)が,そんな「艦これ」神話を自ら斬ってみせたので,その模様をお伝えしたい。
なお本講演は写真撮影が許可されていなかったため,講演者やスライドなどは掲載できない。この点は,前もってご了解願いたい。
偶然から生まれた「艦これ」
講演に先立って,まず「艦これ」のプロモーションムービーが上映された。岡宮氏によれば「昔,田中プロデューサーが徹夜して作った」ものだそうで,いうまでもなく「艦これ」の宣伝用に作成されたものである。
だが,このムービーは,事前に想定されたような活躍をする機会が与えられなかった。というのも,このムービーが投入されようとしていた頃,「艦これ」はサーバーがパンクしそうな状態であり,テレビコマーシャルの計画すらキャンセルされていたからだ。むしろ逆に「宣伝しないでほしい」というお願いを各所に訴えるほど,ある意味,異常な状態にあった。
このように,制作サイドにとっても想定外のヒットになった「艦これ」だが,その企画の発端は偶然であったという。
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岡宮氏と田中氏は,かつて同じゲーム開発会社に所属していたが,その後,岡宮氏はDMMに移籍し,そこでゲームを作ることになった。たまたま田中氏と再会した岡宮氏は,飲む約束を取り付け,その場で田中氏に,PCのブラウザをプラットフォームにした,新しいゲームを作りたいと持ちかける。
田中氏はこの頃,趣味で作っていたゲームがあり,そのコンセプトを岡宮氏に話したところ,田中氏の企画に魅了された岡宮氏は「ぜひそれでやろう」と即決したという。
田中氏は「お酒の勢いかもしれません。そもそも我々は,普通なら飲みではなくカラオケに行くので,もしカラオケに行っていたらこんな話にはなっていなかったかも」などと聴衆を笑わせつつ,「艦これ」のスタートがある意味,偶然で始まったことを振り返った。
開発は急ピッチで行われたが,もともとの予定だった2013年3月ローンチには間に合わず,ゴールデンウィーク前の4月23日にようやくリリース。だが,この段階では「改」バージョンの艦娘のデータは,半分くらいしか完成していなかった。このため,一斉にプレイを開始したユーザーが,艦娘のレベルをぐんぐん上げていくのを睨みつつ,大慌てでデータを作り,実装を進めていくことになったという。
一部の艦娘(とくにネームシップ)は,「改」になることで大幅にステータスが向上するが,これについては「数値を盛りすぎた」とのこと。盛りすぎていたことに気づいて,修正をかけようとしたのだが,その頃には当該の艦娘を「改」にし終えていたプレイヤーが多数いたため,手遅れだったと田中氏は反省する。
システムとマネタイズ,そしてキャラクター
このように,ドタバタとローンチされた「艦これ」だが,その仕組みは3つの要素に分割できると田中氏は語る。その3つとは,「システム」と「マネタイズ」,そして「キャラクター」である。
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まずシステムについてだが,「カードゲームにしたい」というリクエストは岡宮氏のほうからあったという。田中氏はもちろん,岡宮氏もシミュレーションゲームが大好きなのだが,当時大流行していたカードゲームに比べて,いかにもマニア向け。このため,最初はかなり精密なシミュレーションゲームとしてデザインされていた「艦これ」に,カードゲームのルック&フィールが導入されることになった。
続いてマネタイズだが,これについては原則として,「赤字になってはダメ」「ゲーム自体で自立できるようなマネタイズの仕組みが必要」という認識でデザインされている。
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最後にキャラクターだが,これはシステムとマネタイズをサポートし,駆動させるエンジンという位置付けになる。
こうして見ると,よくあるソーシャルゲームと似たような構図だが,ただ「艦これ」の大きな特徴として,開発と運営を統合して運用する(「運営鎮守府」の設置)というシステムが挙げられる。岡宮氏はあくまで戦略的なオーバービューを行うだけで,開発,運営,サポートを1つの組織で行っているのである。
田中氏はこの特殊性を指摘しつつ,それぞれの要素についてさらに詳しく解説を進めていった。
抽象度の高いゲームシステム
システムの設計思想として,田中氏は6つのポイントを示した。
・抽象度が極めて高いシミュレーションゲーム
上記のとおり,ガチガチのシミュレーションゲームにすると,マネタイズできるだけのプレイヤー数を確保できそうもない。このため,「ブラウザカードゲーム」の文法を既存のユーザーインタフェースや構造を参考にして取り入れている。
重要なのはここで,ブラウザカードゲームを作ったのではなく,シミュレーションゲームを極度に抽象化して,ブラウザカードゲームとして仕立てたのが「艦これ」だということだ。
このため,「艦これ」の目に見えない部分にはシミュレーションゲームの要素がいくつも残っている。その典型が戦闘プロセスにおける計算式で,例えば空母の攻撃シークエンスなら,空母飛行隊が敵艦に向かって飛び,迎撃機や対空砲火によって攻撃力が減衰し,さらに爆弾や魚雷を投弾して,それが命中するかどうか判定し……といった,抽象度が低いシミュレーションゲームの数式をほぼそのまま使っているという。
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・プレイヤーがいろいろ調べたくなる構造
キャラクターのデザインだけでなく,ゲームシステム側においても,プレイヤー自身がユニットに触れ,自分で調べ,自分で感じたくなるというデザインが施されている。
・KPIは追わない
最近のオンラインゲームにおいて,KPI(Key Performance Indicator=重要業績評価指標。そのゲームが「どれくらいうまく行っているか」「どのような問題が起こっているか」を判断するために,統計をベースとして導き出される指標)は非常に重要な位置を占める。CEDECの講演にも,「より効果的なKPIの設定法」といった,KPIに特化した講演があるほどだ。
「艦これ」が,KPIをまったく追わないわけではないのだが,それはあくまでも当初に掲げた目標である,自立するマネタイズという点に絞り込んで観測しているという。逆にいえば,それ以外のKPIは追わないということだ。
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ゲーム内イベントにおいて,いくつかのKPIを観測し,プレイヤーがより課金アイテムを購入したくなるようなバランス調整や改善を行うといった,普通のソーシャルゲームが必ずやることを,「艦これ」では行っていないらしい。
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KPIを観測し,それをもとに改善策を討議し,1日に何度も細かなアップデートをかけていくことは優れた運営方式だが,大きなマンパワーを要求する。そもそもKPIは,すべてを解決する魔法の杖ではないので,むしろ見るべきKPIをギリギリまで絞り込んで,浮いたマンパワーをゲームのコンテンツサービスに注力したほうが,限りあるマンパワーの有効利用になる。
実際,この決断を岡宮氏が行ったことで,田中氏としては,人員の割り振りが楽になったという。
実は岡宮氏は,KPIを追うソーシャルゲームの運営に携わり,それが言うほど簡単ではないことを痛感した経験があるという。このため,「KPIを追うことの是非には関係なく,KPIを追うためのリソースをゲームを面白くすることに使ったら何ができるのか?」という疑問を抱いたという。その疑問が「艦これ」で解消されたというわけだ。
・戦術ではなく,準備,兵站,戦略に注目する
一般的なシミュレーションゲームは,いかに戦うかという戦術の綾をゲームの中心に据える傾向がある。
「艦これ」では,この戦術の綾はバッサリと捨てられ,これにより,ヘックスやスクエアによって構成されるマップも不採用になった。
一方で,準備や兵站に注目するという「艦これ」の力の置き方は,ゲームの中だけでなく,インフォメーションから各種連動企画に至るまで,各プレイヤーが自分なりに準備していくという形で実現されている。これを指して田中氏は「艦これ」は静かなゲームであると評する。
「艦これ」では艦娘が非常によくしゃべるが,これは「艦これは静かなゲーム」という意識があればこそのことなのだ。ゲームが静かな進行をするからこそ,キャラクターにはよくしゃべらせるようにしようと思った,というのが田中氏の言葉である。
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・アクティベート
コンシューマゲームでは,チームが総力をあげて制作し,その成果がリリースという形で一点に到達したら,次のゲームに向かってプロジェクトが動き始める。チームにとってみれば,DLCなど例外はあるにせよ,そのゲームはそこで終わりである。
だが「艦これ」はオンラインゲームであり,常に新しいトキメキをもたらすような仕組みは欠かせない。リリースしてから「新要素を追加できない構造でした」では手遅れなので,最初からそのようにデザインする必要があった。
・課金を前提にした作りにしない
「艦これ」が世に出た頃,ブラウザゲームは――とくにモバイルのブラウザ向けソーシャルゲームは,課金のためのインタフェースであるといった言説があった。それに対して,「艦これ」では微課金や無課金でもゲームを進められる構造になっている。
ガチャをゲームに導入するかどうかについては,開発の早い段階から議論が行われたが,大前提として「課金しなければ,良いものが出ない」という構造にはしない,ということで合意ができていたという。
自立できるマネタイズ
続いて,「艦これ」のマネタイズ部分について話が進んだ。「艦これ」のマネタイズが独特なものであるというのは,同作がブレイクした頃,盛んに言われた話だが,実際にはどうなのだろうか。マネタイズの基本姿勢は,以下の2点である。
・F2P
「艦これ」は基本プレイ無料のゲームだが,課金しないとどうにもならないという構造にはしない。ゲームを楽しんだ人が,選択肢の一つとして課金があるというルートを設定する。
・あくまでもゲーム内の課金を原資として開発運営する
例えばゲームは広告宣伝費で維持されるので,単体で黒字になる必要がないというものではなく,あくまでゲーム単体で開発,運営が維持できることが目標で,何かのプロモーションとしてゲームがあるわけではない。
二次展開,三次展開は,それを実際にやる人達が広げていけるようにする,というのが前提。
概論の段階で,すでに「艦これ」のマネタイズ神話から若干の乖離があることに気づくが,田中氏が実際に明かしたデータは衝撃的と言って差し支えなかった。
これによると,開発運営費の90%は,ゲーム内の課金から成り立っている。フィギュアや小説といったマルチメディア展開からのロイヤリティは10%を占めるに留まる。想像とは異なり,「艦これ」はゲームに対する課金によって成り立っているのだ。
ゲーム内課金の割合も,同時に公開された。具体的な割合はともかく,課金の柱は3つあるという。
(1)拡張
・艦娘の保有数上限100を拡張する「母港拡張」
・修理ドックの枠を拡張する(一般的に,最初に行われる課金がこれ)
・レベルがカンストしたキャラクタを,さらに成長させられる「ケッコンカッコカリ」
(2)趣味/支援
・ゲームを進めるにあたっては,とくに必要のない課金で,具体的には「家具」の購入など(田中氏は,「こういうものを買ってお布施しないと,運営が続かないでしょ」という叱咤激励として大変ありがたく思っていますと述べた)
(3)時間短縮
・資源が回復するまでの時間を省略する(=資源の購入)
・修理までの時間を短縮する,例えばバケツなど
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田中氏は,「いずれも多くのソーシャルゲームにある構造で,特殊なものはない」と指摘した。
なお,課金アイテムの実際の売上の比率だが,2014年8月の売上データによると,「母港拡張」が全体の30%を占める。これは月によって異なるが,主力商品が,艦これのサービス期間中,ずっと効果が続く継続アイテムであることは昔から変わらないという。
岡宮氏はこれを,「継続アイテムを販売したからといって,必ずうまく行くとわけではない」と補足した。プレイヤーが,ゲームを続けよう,もっと続けたいという意志を持つこととセットでなければ,継続アイテムは売れないのである。
キャラクターの関係性に「空間」を作る
最後の要素はキャラクターである。ここにも明確な設計指針があり,それは今も貫かれている。
「艦これ」というゲームにとってキャラクターは,システムとマネタイズを前進させるエンジンである,と田中氏は語る。そのうえで,艦艇の擬人化というのはもちろん鍵になるが,より重要なのは「空間」であると指摘した。
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そもそも艦艇の擬人化は,それ自体が目的ではなく,あくまでも,ゲームを愛してもらうための,一種のインタフェースであると氏は定義する。そして,「キャラクターは練りこまねばならないが,そこに空間もなくてはならない」と氏は語った。
つまり,キャラクター相互の関係は,やり過ぎない程度に設定するが,そのディテールには空間,いわば「想像の余地」を意図的に残しておくというわけだ。
これにより,プレイヤーは自らその空間に価値を生み出してくれる。はやりの言葉でいうとUGCやUGMということだが,一番大事なのは,ユーザーがそこに何かを作れる余地があることで,ユーザーの持ってる熱量も作品のエネルギーとして使っていけるのだ。ただ,田中氏は「ユーザーに空間を埋めてもらう」ことと,余地を残すことは違うという点には注意が必要だと指摘する。
これに加え,「探索導線」を設置することにも田中氏はこだわっている。探索導線とは氏の造語だが,つまりプレイヤーに「これは何だろう」と思わせ,かつ「これを手がかりに,自分で調べてみよう」というモチベーションを喚起する導線である。探索導線を正しく設定することで,プレイヤーは自分でさまざまなことを調べ,その調査を自分の体験として受け取っていくことになる。
「艦これ」のこれから
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「艦これ」のリリースされた月の登録アカウント数は8000。事前登録は5000で,これは控えめに言っても少なすぎる。だがこの寂しげな事前登録者数は,当時の田中氏,岡宮氏にとって,いい感じだ! と思えたという。この段階では,大ヒットするタイトルになるという予想は,まったくなされていなかった。
その後,ユーザー数はじりじり増加し,やがてサーバーが耐えきれなくなり,議論の末「一時停止して,サーバー数を4倍に増強し」,7月からサービス再開することになったという。これで安定するかと思いきや,2013年の夏コミ(コミックマーケット)が終わってから,爆発的にプレイヤー数が増え始め,この段階で100万を突破したという。
今現在の数字としては,登録アカウント数が約220万,MAU(月間アクティブユーザー)は40%〜50%(イベントにより変動する)で100万規模。DAU(1日あたりのアクティブユーザー)はよりイベントの影響を受けやすいが,40万〜60万で推移しているという。
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ちなみに田中氏は,プレイヤー数が10万くらいまでは,自分ですべてのユーザーサポートをカバーしていたという。1日100件くらいの頃はまだ処理しきれたが,300件を超えたあたりから明らかに無理になり,岡宮氏が手伝ったこともあるそうだ。なおこの段階で田中氏は,スタッフから「もう無理」「死ぬ」と説得され,カスタマーサービスを大量増員することにした。
とはいえ田中氏は,「いろいろと大変な思いをしたが,この期間にプレイヤーの声を直接聞き続けられたのは,本当に良かった」と振り返った。
さて,大型コンテンツとなった「艦これ」だが,これからも展開は続いていく。2015年1月にはアニメ,同年春にはPS Vita向けの「艦これ」がリリースされる。それ以外にも,岡宮氏が真顔で「まだ言っちゃダメ」と田中氏に念押しするプロジェクトも進行しているようだ。
結果から見れば,最初からマルチメディア展開を狙ったように見える「艦これ」だが,実際にはひたすら地道に進み続けてきただけだったというのは,興味深いだろう。
田中氏は最後に,「艦これのモチーフとなったさまざまな(史実上の)出来事に思いを馳せたりしてもらえると嬉しいです」と語り,講演を終えた。
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