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稲船敬二氏が手掛けるPS Vita向け新作「SOUL SACRIFICE」発表会レポート。味方を「救済」するか,それとも「生贄」にするか
本作はcomceptの稲船敬二氏が「真実のファンタジー」を理念に掲げて制作を進めている,「リアルファンタジー共闘アクションゲーム」。稲船氏のほか,音楽を手がける光田康典氏や鋒山 亘氏らも登壇し,実際のゲームプレイの様子などが披露された発表会の詳細をお伝えしよう。
左から,光田康典氏,鋒山 亘氏,稲船敬二氏 |
「SOUL SACRIFICE」ティザーサイト
「SOUL SACRIFICE」発表会速報
(トレイラームービー/スクリーンショットあり)
なお,発表会で明らかになった,本作の開発体制は以下の通りである
- 制作・プロデュース:SCE JAPANスタジオ プロデューサー:本村健太郎氏
- 企画・開発:comcept コンセプター:稲船敬二氏
- 開発:マーベラスAQL
- 音楽:光田康典氏,鋒山 亘氏
アソシエイトプロデューサー:鳥山晃之氏
SCE ワールドワイド・スタジオ プレジデント 吉田修平氏 |
comcept代表兼コンセプター 稲船敬二氏 |
稲船氏が最初に紹介したのは,「真実のファンタジー」という本作のコンセプトについて。稲船氏は,「ファンタジーはもともと架空の世界の架空の物語。それに“真実”を重ね合わせていく」と述べていた。
ここでいう“真実”とは「犠牲」と「代償」のことだ。稲船氏は「良いものを食べたければ,たくさんのお金を払わなきゃならないし,努力もしなきゃいけない」と身近な例を挙げ,「それを“共闘”というゲームアクションの中で示すことができれば,面白いものになるんじゃないか」と語った。
そして稲船氏は,そのコンセプトを表現したというデモムービーを上映。ムービーでは,「世界に起源があるように魔法にも源泉がある」「犠牲と代償」「力を手に入れるため――」「命を捧げる覚悟はあるか」「そこには,残酷なまでの真実がある」といったテロップと共に,プレイヤーキャラクターとおぼしき人物が口の中から巨大な剣を抜き出すシーンが描かれていた。
稲船氏によると,この剣の名前は「エクスカリバー」で,術者が自分の背骨を引き抜いて作り出したものなのだという。エクスカリバーといえば,ご存じアーサー王伝説やさまざまなゲームに登場する剣だが,背骨から生み出すようなグロテスクなイメージはないだろう。しかし稲船氏は,「誰も抜けないものを抜く。それくらいの覚悟をもって抜くことができれば,敵を大きな力で倒すことができる。自分の魂を伴う背骨や内蔵を抜いてでも戦えるのであれば,それは真実のエクスカリバーなのではないか」という解釈を述べた。
そこまでして戦いに挑む本作の主人公は,邪悪な魔法使いに囚われた一人の奴隷だ。彼は生贄になる時を牢屋の中で怯えながら待つばかりの日々を過ごしていたが,ある時,その牢屋で1冊の本を見つける。その本は,その記述にある出来事を読むことで実際に体験できる不思議な力を持っていた。本作ではどうやら,そこでの体験をクエストのような形でプレイしていけるようだ。
敵として登場する魔物は,ハーピィ,ケルベロス,スライムなど,ファンタジー作品ではお馴染みの面々。しかし,馴染みがあるのは名前だけで,その容姿はいずれも本作ならではの個性的かつグロテスクなものとなっている。
稲船氏は「モンスターには凝り固まったイメージのデザインがありますが,それを基に自分達が描き起こしても,所詮はコピーにしかなりません」と述べ,自分達が考える“リアル”なモンスターの像として,こうしたデザインになったのだと明かした。ちなみに,魔物はいずれも「己の欲望の赴くままに魔法を使い続け,闇に落ちてしまった人間のなれの果ての姿」であるらしい。
さて,こうした魔物にプレイヤーキャラクターの魔法使いはどう戦っていくのか。稲船氏は「このゲームの中には,“MP”という概念はありません」と強調し,「何を“犠牲”にして大きな魔法を使っていくのか。“犠牲”と“代償”という概念があるだけです」と述べる。犠牲にするものの大きさに比例して,得られる力も変化するらしく,例えば自分の背骨を引き抜くという大きな犠牲を払って手に入れるエクスカリバーは,そのぶん強力な力を持っているというわけだ。
続いて稲船氏は,PS Vitaの実機を用いて,SOUL SACRIFICEのゲームプレイの様子を披露した。
本作は三人称視点のアクションゲームとなっており,[○/△/□]の各ボタンに魔法をアサインできる。今回確認できた魔法だけでも,自分の腕を棍棒のような形に変化させて敵を殴るものや,自分自身が大きな岩の塊となって敵に体当たりするものなどが見られた。多彩な攻撃手段が用意されているようだ。
また敵を倒すと,その相手を“魔法を使うための「生贄」”にするか,あるいは「救済」するかの選択肢が表示される。救済した場合は何か得られるものはありそうだが,今回のデモでは「生贄」が選択されていた。その直後にデモそのものが終了したため,救済,生贄共に明確な仕様は不明だ。
短いデモプレイを終えると稲船氏は,「ファンタジー自体の考え方,今までの概念を変えていくようなゲームを作ることができているんじゃないかと思っています。期待していてください」とプレゼンテーションを締めくくった。
次に,本作の音楽を手がける光田康典氏と鋒山 亘氏が登壇。両氏の手がけた楽曲が1曲ずつ披露された。
稲船氏は「世界観が難しくて,やりにくくはなかったですか?」と質問をするが,光田氏は「イメージはしやすかった」と返答。ただし「“普通に作ったら面白くないだろう”ということで,いろいろと自分なりに解釈するのに時間がかかった」のだという。そうして出来上がった曲については,稲船氏も「光田さんらしい,繊細な音になっている」と絶賛していた。
この曲を,稲船氏は「見た目だけじゃなくて“心”に突き刺さるようなものを書いてほしい」というオーダーに応えつつも,バトルとしての迫力も溢れた1曲になっている,と評価していた。
なお,本作の楽曲制作はまだまだ作業段階で,海外でのフルオーケストラ・フルコーラスによるレコーディングも予定されているそうだ。鋒山氏は最後に「光田さんと2人で,すごい世界をこのゲームに提供したいと思います」と抱負を述べた。
この後,本作の大きな要素の一つである「共闘」を見せるため,マルチプレイのデモ映像が上映された。披露されたのは,ケルベロスを相手にプレイヤー4人が共闘するという内容。巨大なゴーレムを召喚してけしかけるなど,4人それぞれがさまざまな魔法を駆使して戦っていた。
途中,瀕死のプレイヤーのもとにほかのプレイヤーが駆け寄る場面があったが,ここではなんと,敵を倒したときと同様に「生贄」「救済」の選択肢が表示されていた。犠牲にできるのは己の肉体だけでなく,仲間の命も含まれるようで,ここでは無情にも生贄を選択。瀕死の状態だったプレイヤーは全身が炎に包まれた“サラマンダー”に変化してしまった。しかしサラマンダーの力は強大で,あっさりとケルベロスを撃破していた。
ケルベロスを倒すと,そこには,ケルベロスに成り果ててしまう前の,もとの人間が出現。ここでもプレイヤーそれぞれの画面に「生贄」「救済」の選択肢が表示されたのだが,満場一致で生贄が選ばれていた。この選択によって各プレイヤーは報酬を獲得できるようなのだが,どうやら,先の戦闘でサラマンダーになってしまったプレイヤーだけは“命を犠牲にした”ということで,同じ報酬を得られないらしい。
こうした要素について稲船氏は,マンガやアニメであるような「ここは俺に任せろ! 行けー!」といったシチュエーションをゲーム化したかったのだと明かした。俺に任せろというか,問答無用で生贄に捧げられてしまうと,むしろプレイヤー同士の信頼関係が揺らぐような気もするが,これはこれで独特の緊張感をもったマルチプレイが楽しめそうではある。
稲船氏は最後に,「“今までやったゲームの中で一番面白い”と言わせてみたい,という気持ちで作っています。自分の中でも“犠牲”をたくさん払って,良い仲間,良い“代償”を得ることができました。でも皆さんにはPS Vitaと,このソフトを買うという“犠牲”だけを払って楽しんでいただけたらなと思います」と,作品のコンセプトに絡めたメッセージを以て,今回の発表会のステージを締めくくった。
発表会の終了後には,稲船氏,SCE JAPANスタジオ プロデューサーの本村健太郎氏,SCE JAPANスタジオ アソシエイトプロデューサーの鳥山晃之氏を囲んで,メディア合同のインタビューが行われた。その模様を掲載しよう。
――今回の企画は,どういった形でいつごろ始まったのでしょうか。
稲船氏:
カプコンを退社していろいろな企画を立ち上げた中で,PS Vita向けに良いだろうなというタイトルを,かなり早い段階でSCEさんにお話させていただきました。僕が独立してからのタイトルでは,最も早く進行したプロジェクトの一つです。
――SOUL SACRIFICEを据え置き機ではなく,PS Vita向けに開発された理由は?
稲船氏:
マルチプレイの“凄まじさ”は,カプコンで良く知っていますので(笑)。PS Vitaの性能を活かしきったマルチプレイを,自分なりに作れるのではないかということで,PS Vitaに決めました。
――企画段階からマルチプレイの構想があったわけですか。
稲船氏:
そうですね。
――マルチプレイは,アドホックプレイのみの対応ですか?
本村氏:
アドホック以外にも,オンラインを使ってマルチプレイができるようにしていきます。
稲船氏:
まだ海外で売るかどうかは分かりませんが,海外に対してもアピールしたいと思っています。そういう意味で,「アドホックだけでやっていく」という構想はありません。
――ソフト単体でオンライン対戦に対応するのでしょうか? これまではPS3の「アドホック・パーティー」を介する形式もありましたが。
本村氏:
PS Vitaならば単体でもオンラインプレイができます。また,アドホック・パーティーについては,続報をお待ちください。
――マルチプレイのデモ映像において,ほかのプレイヤーを生贄にしてクエストをクリアしている場面がありましたが,生贄になってしまったプレイヤーが得られる褒賞などはあるのでしょうか?
稲船氏:
これもまだ企画中ですけど,まったく得られないということはありません。しかし,生きている状態での“得られ方”と,死んだ状態での“得られ方”はもちろん違います。
また,犠牲に“した”側にも,何らかの作用があるはずですよね。仲間を犠牲にして得られたものが,仲間を犠牲にせずに得られたものと同じわけがない。そういう部分の組み合わせで,いろいろ迷ってもらおうかと企画中です。
――クエストの最後に,人間を「生贄」にするか「救済」するかの選択肢が各プレイヤーの画面に表示されましたが,あれは各プレイヤーが別々に投票するわけですよね? 例えば3人中2人が「生贄」を選んで,残り1人が「救済」を選んだ場合,これはどうなるんでしょう。
稲船氏:
当然,「その場合どうなるか」という仕組みはありますが,今は言えません。ただ敵を倒して「よかったね」というゲームではなく,倒した後も「じゃあどうする」と考えるような深さは用意します。
――それはプレイヤー同士で喧嘩になりそうですね。
稲船氏:
そうですね。良い意味での喧嘩はしてほしいです(笑)。
――その「生贄」「救済」という選択は,オンラインプレイの場合,どのようにコミュニケーションを取るのでしょう。
本村氏:
PS Vitaならボイスチャットなどもできるので,そういった部分を活用するなど,何らかの手段でコミュニケーションを取る場を想定しています。続報をお待ちください。
――オンラインプレイのほかに,PS Vitaならではの特別な仕様などは考えていますか。
本村氏:
いろいろと新しい試みを用意していますので,こちらも続報をお待ちいただければと思います。
――クエストクリア型のゲームになると思うのですが,ダウンロードコンテンツなどは予定されていますか?
稲船氏:
今の時代,DLCも含めてゲームの1つだと思っているので,企画の内容には入っています。
――発売時期や,パッケージ版/ダウンロード版といった販売形態は決まっていますか?
鳥山氏:
発売時期は今冬を目標に頑張っているところです。PS VitaにはPlayStation Networkを介してソフトを購入できる仕組みもありますので,ダウンロード版も販売するつもりで動いています。
稲船氏:
気持ち的には,めちゃめちゃ早く出したいですけど,そうもいかない場合もありますので,「今冬」です(笑)。僕は今年中に出したいと思っています。
――E3 2012が6月にありますが,そちらで海外向けのPRをする予定は?
稲船氏:
海外版はまだ決まっていません。僕自身が普段から「グローバル」と言っているので,当然,この作品も海外向けの仕様などは考えています。これから海外とは「発売できるかどうか」も含めてやり取りしていきます。
――ムービーを拝見した限り,非常にゴア表現が激しい印象です。CEROのレーティングや,プレイヤーをある程度制限してしまうことについての懸念などはありますか?
鳥山氏:
CEROは審査中です。ただ,あまりにもユーザーを制限するような形にはしない方向で検討しております。
稲船氏:
コンセプトがコンセプトだけに「CERO:A」というのはあり得ないと思います。ただ,「グロい」という部分に関しては,いろいろ考えながらやっていこうかと思っています。
――敵モンスターの数やボリュームはどれくらいになりますか。
稲船氏:
たくさんのモンスターを考えてはいますが,発売時期次第ですね。でも,すでにかなりの数のモンスターは作られています。
――最後に,ファンに向けてのメッセージをお願いします。
本村氏:
PS Vitaならではのコンセプトであり企画であると思っています。顔色を窺いながら遊ぶような部分がありつつも,オンラインプレイであれば顔が見えないからこそ,犠牲にできてしまうような醍醐味もある。まったく新しいものになると思いますので,ぜひ続報をお待ちください。
鳥山氏:
PS Vitaならではのマルチプレイを「共闘アクション」という形で表現しています。今までになかったような遊び方には,期待していただけるのではないでしょうか。
稲船氏:
「稲船らしいゲームを作りたい」ということで進めていますが,「稲船らしい」という捉え方は,ユーザーによって違っていると思います。海外から見た稲船も違うし,どの稲船のゲームをやったかによっても違う。僕自身,たくさんの顔を持っていると思っています。ですが,このゲームのコンセプトは,稲船が一番好きな部分の一つです。
僕は一つの世界観を考える時に,ありきたりのものになってしまうことを,すごく嫌っています。だからファンタジーを作るにしても,過去に作られたもののコピーではなく,自分なりの考え方,自分なりの面白さを付け加えたファンタジーというものを,自分らしい形で料理させてもらいました。なので,このゲームには本当に自信があります。これをユーザーに伝えることによって,また新しい“稲船らしい”を作り出したいので,ぜひこの稲船らしさを体験してください。
「SOUL SACRIFICE」ティザーサイト
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SOUL SACRIFICE(ソウル・サクリファイス)
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(C)2013 Sony Computer Entertainment Inc.
- SOUL SACRIFICE(ソウル・サクリファイス) PlayStation Vita the Best
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