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“すれ違い”の実態は“一期一会”。TDCS,遠藤雅伸氏を講師に「すれ違い通信」をテーマにしたワークショップを開催
今回は,すれ違い通信の概要や,この機能をゲームに取り入れるときに考えなければならない問題点などについて,遠藤氏の話を聞きつつ,オリジナルゲームの企画を立てていくという趣向である。
さて,ワークショップではまず,受講者が3〜4人のグループに分かれ,どのようなデータをすれ違い通信でやり取りすべきか,ブレインストーミング形式で話し合った。
すれ違い通信といえば,最近ではニンテンドーDS用ソフト「ドラゴンクエストIX」で話題を集めたばかりだが,受講者のうち,実際に体験したことがあると答えたのは全体の3分の1程度だった。
すなわち,AもBも不特定多数に向けて一方的にデータを発信するとともに,不特定多数からデータを受信しているだけなのだが,結果として,あたかもAとBがデータを交換しているかのように見えるのである。
また,大きなデータの送受信には,それなりに落ち着いた環境が必要となる。すれ違った程度で送受信可能なデータとなると,容量はコンパクトにならざるを得ず,必然的に情報を選別し制限しなければならない。
そういった制約に加えて,遠藤氏は,考慮すべきこととして以下の問題を提起していった。
・AからBにしかデータが行かなかった場合にAが受けるメリット
・見知らぬ他人に悪用されないデータであること(例えば,電話番号や口座番号などはダメ)
・Twitterでやり取りできる内容なら,すれ違い通信でやる必要はない
・多少のノイズは遊びとして必要。しかし要らないデータばかりが来ると分かっていて,すれ違い通信をやろうという人はいない
続いて受講者同士の質疑応答が行われたあと,ほかのグループが出したアイデアなども参考にしつつ,「こんなデータを“すれ違い通信”するゲームの企画」を立てる段階に。
遠藤氏は,ここでは商品化は考えていないので,本来のゲーム企画であればタブーとされるようなもの──例えば,公序良俗に反するような内容──でも面白ければアリだと述べたあと,いくつかのヒントを提示した。
・双方向性を期待できないので,送りっぱなしの状態になることを前提に考える
・変なデータのアイデアを組み合わせて強引に企画にしてしまうのも(ワークショップの意義としては)アリ
・ゲーム内容が他人に伝わりやすくなるように企画をまとめる
最終的に,各グループがプレゼンテーションした企画は,以下の四つだ。
「好きです」「ありがとう」といったメッセージに,簡単なシチュエーションや,相手の特徴などを加えたデータを送受信する。例えば,「乙女座AB型のアナタ,好きです」「背の高いお兄ちゃん,助けてくれてありがとう」といったデータを送信すると,受信者側は気に入ったものを,自分に宛てられたメッセージと“かん違い”してストックできる。
またストックしたデータを,新たに送信して周囲に広げていくことも可能。ゲーム本編は,要らないデータをエサにしてペットを育成するような内容を想定している。
ジェネレータにキーワードをいくつか入力することで「都市伝説」を作り上げ,そのデータを送受信する。受信したデータが面白ければストックし送信できる。やり取りするごとに1ポイントずつ加算されていき,さらに自分が作った伝説がめぐりめぐって再び自分に戻ってくると,「都市伝説化達成」となり,5ポイント獲得できる。
受信した4コマ漫画に,1コマ付け加えて送信。例えばABCDという4コマを受信したとすると,それをストックする一方で,Eを加えてBCDEという形で送信する。再び受信したときに,こんなストーリーに発展したのかと,その混沌っぷりが楽しめる。
なお,絵を描くのは苦手という人のために,コマの半分程度に何かが描かれたテンプレートを多数用意しておく。
それぞれのプレイヤーは,星座や血液型といった情報を入力して名刺を作成し,送信する。名刺を受信した人は,そこに書かれた情報を参考にして自分の軍隊に組み込んだり,ほかの名刺と入れ替えたりしながら軍隊を編成していく。編成した軍隊は,ゲーム本編や対戦プレイに活用できる。
プレゼン終了後,受講者達による人気投票が行われた。最も高い人気を集めたのは無限都市伝説だったが,遠藤氏は,受信者が必ずしも次に送信してくれるかどうか分からない点を指摘した。
そのほか漫画リレーについては,むしろフキダシにセリフを入れるだけにするといった簡便化を図るべきだし,戦闘ゲームなら,名刺(プレイヤー)ごとに階級情報を設定し,隊長クラスの名刺を組み込むことで軍隊全体をパワーアップできるようにするといった工夫が考えられると述べていた。
最大の問題は“すれ違えない”こと。ネットワークの活用で地域格差を補完
とはいえ,短い時間でブレインストーミングから企画まで漕ぎ着けるのは,たとえプロであっても困難とのこと。遠藤氏自身,企画の出来を重要視しているわけではないようだ。
むしろ,このワークショップの意義は,普段知らない人とコミュニケーションをとり,互いの意見に折り合いをつけていく過程にあるという。
また,一般にクリエイターというと発想や想像の豊かさばかりが注目されがちだが,プロとしてやっていくなら締切を意識し,限られた時間の中で何とか形にして他人に見せる過程に重点を置いてほしい,という狙いもあるそうだ。
今回テーマに掲げられたすれ違い通信に関しては,遠藤氏自身,かなり試行錯誤しており,さまざまな思いがあるという。
まず最大の問題は,地域によってプレイヤー人口が大きく偏ってしまうこと。例えば,東京在住なら山手線に数駅間乗るだけでも2〜3人とすれ違えるが,それは日本全国を見渡すとかなり恵まれたケースといっていい。多くのプレイヤーは,頻繁にすれ違うことができない環境にあるのだ。
そのほか遠藤氏は,ゲーム関係のメディアが東京に集中していることにも問題があると指摘する。
例えば,ドラゴンクエストIXの通称「まさゆき地図」「川崎ロッカー地図」は,メディアが取り上げたことで一気に全国へと広がったが,そのことが,逆に東京近郊以外に住むプレイヤーの不満を募らせる結果ともなった。
実際には,メディアが報道する以前から,同様のメリットを持つ地図が,各地域のプレイヤー間で流通していた。ところが,メディアがたまたま身近で流通している情報を伝えた結果,東京近郊で流通している地図こそがすごいものであるかのような認識が広まってしまったからである。
ドラゴンクエストIXといえば,400万本以上出荷された実績を持つタイトルだが,その数分の1ほどしか出荷されないゲームでは,そもそも“すれ違えない”という状況が発生することが容易に想定できる。
遠藤氏は,そうした地域格差を乗り越え,今後すれ違い通信がより大きく発展していくためには,Wi-Fi通信などを利用して格差を是正するシステムなどを用意する必要があるとの見解を示した。
それでは最後に,遠藤氏からすれ違い通信の今後についてコメントをいただいたので,紹介したい。
「すれ違い通信の最も大きな問題は,“すれ違えない”ということです。したがって,そういった地域性をネットワークで補完することにより,すれ違い通信のメリットを倍加していくような仕組みを作る必要があります。
どこかですれ違い通信が起きると何かが変化する,さらにネットワーク上ですれ違うと別の変化が起こるといった要素を加えると,また新たな良さが出てくるのではないでしょうか。
“希少なすれ違い”“一期一会”をどうやって演出するか。もっといってしまえば,複数のゲームタイトルをまたいで,“すれ違ったこと”をネタにできるようなギミックを作ることができれば,面白いですよね」(遠藤氏)
- 関連タイトル:
ドラゴンクエストIX 星空の守り人
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