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遠藤雅伸氏の考えるiPhone/iPod touchゲーム開発とは? TDCS主催の第1回ワークショップレポート&ミニインタビュー
今回のワークショップで講義を務めるのは,先日4Gamerに初登場し,MMORPGからケータイゲームまで,さまざまなトピックについて語ってくれたことが記憶に新しい,モバイル&ゲームスタジオ取締役会長の遠藤雅伸氏。
iPhone/iPod touchのゲーム開発を題材に,企画立案の進め方を紹介していくとのことで,iPhone/iPod touch関連の情報も追いかけている4Gamerとしては外すわけにゆくまい! というわけで,遠藤氏による講義を取材してきた。ワークショップ終了後,短い時間ではあったが,遠藤氏自身に話も聞けたので,そちらも併せてお届けしよう。
ブレインストーミングで“面白さの種”を見つける
今後,2010年4月までのあいだ,それぞれのジャンルの第一線で活躍しているプロデューサーを講師に迎え,コンテンツ制作だけでなく,その流通や小売といった工程にまで踏み込んだ,コンテンツビジネス全体に関するカリキュラムが展開される予定だ。セミナーのカリキュラムや講師,受講料金などの詳細は,TDCS公式サイトでご確認を。
なおワークショップは,セミナーのカリキュラムとは別に組まれているイベントだ。第2回ワークショップは5月23日に開かれ,ゴンゾ常務取締役を務める内田康史氏が,アニメーションビジネスに関する講義を行う予定となっている(関連記事)。
それでは,遠藤氏によるワークショップの様子をお伝えしていこう。
iPhone/iPod touchの機能や特徴に関する説明に続き,遠藤氏は,18名の参加者を五つのグループに分けた。そのあと遠藤氏が出した指示は,「iPhone/iPod touch用にどんなものを作ったら面白いか」をテーマに,ブレインストーミング方式で話し合うことだった。
このブレインストーミングで得られたいくつかのアイデアを,それぞれ20文字くらいで簡潔に表現し,それらを企画のキモにするのだという。また遠藤氏は,ブレインストーミングのコツについて,無理してまとめようとしないことだとも述べていた。
次に遠藤氏は,ブレインストーミングを通じて得られたさまざまな「面白さの種」を,三つにまとめるように指示した。氏によれば,このとき出された意見の中から単に三つをピックアップするのではなく,あるアイデアをほかのアイデアに組み込める可能性を探し,それらを結合していくことが大切とのことだ。
例えば,iPhone/iPod touch本体を振って遊ぶスポーツゲームについて検討しているグループに対して,このようなタイプのゲームでは,実際に本体を動かしているあいだ,画面が見られない問題があると指摘。
また,ドミノを並べていくゲームのアイデアについて,ドミノ倒しの本質は,それが次々に倒れていくことにあり,並べるストレスを再現しても遊ぶ人はついてこないと説明する一幕もあった。実際に存在するものをもとにゲームを作るときには,どの要素に焦点を絞るのかが大事だという。
プレゼンのあと,それぞれの企画について
遠藤氏が“ダメ出し”
続いて,各グループがプレゼンテーションを行い,そのあと参加者の投票によって最も面白いと思う企画が選ばれた。プレゼンで提案された企画のうち,四つをピックアップしよう。
■「愛(ふたり)のトロッコレース」
合コンなどで威力を発揮するパーティアプリ。二人でiPhone/iPod touchを持ち合い,トロッコを操る要領で交互に傾けていく。また,本体から聞こえてくる「右」「左」の掛け声に合わせ,左右に傾けるという要素も。二人が息を合わせることが重要で,ゲーム終了後には,相性診断が行われる仕組みだ。
■「海の旅人」
漂流する“海の旅人”にさまざまなちょっかいを出して楽しむアプリ。画面をタップして波を立てたり,(iPhoneの)マイクから息を吹きかけ,風を起こしたりできる。
■「Don't touch my ジェンガ」
iPhone/iPod touch本体を動かしてバランスをとりつつ,ピースを抜き取っていくジェンガゲーム。風が吹いたり,赤ちゃんなどが登場したりし,プレイヤーの邪魔をする。
■「フィールタッチ」
「合コン支援ツール」と銘打たれたパーティアプリ。三つのミニゲームを順に遊んでいくことで,「異性へのリアルなタッチへのスムーズな移行」を目指すという内容。
挙手による投票で一番人気の企画を選んだあと,遠藤氏は,それぞれのアプリに設定された価格を書き出し,「この価格だったらぜひ買いたい」と思えるものに挙手してほしいと述べた。その結果,売り上げ(設定価格×挙手した人の数)で比べると,2番人気だった「フィールタッチ」(売り上げ:4725円)が,最も人気の高かった「海の旅人」(同:1680円)を上回ることが判明。
また遠藤氏は,設定価格500円のうち,200円を寄付金とするとしていた「Don't touch my ジェンガ」が支持されなかったことも指摘した。参加者はあらためて,アプリの価格設定の難しさを感じていたようだ。
ワークショップの最後は,完成した企画について遠藤氏が問題点などを指摘する「ダメ出しコーナー」。例えば,「愛のトロッコレース」について,アルコールが入った状態でiPhone/iPod touch本体をきちんと操作するのが難しいことや,居酒屋など,雑音が大きな場所ではBGMや効果音がほとんど聞こえず,音を使ったゲームは成立しないことを指摘した。
また,「海の旅人」には倫理的な問題があると述べ,「企画を立てるときは,倫理的に問題のある題材のほうが,人は興味を持ちやすいということに気をつける必要があります。面白きゃなんでもいいじゃん,という考えを持って作ってしまうのは,コンテンツを作る者としての責任を果たしていることになりません」と説明していた。
私が見た限り,どの参加者もとても意欲的で,ほとんどが初めて会う人同士とのことだったが,遠慮なく活発に意見を交換し合っていた。だからこそ,その結果に対してのダメ出しに,肩を落とすどころか,むしろ感激の面持ちで聞き入っていた参加者が強く印象に残った。
常日頃,遠藤氏とともに仕事をしている人でもない限り,自分達の立てた企画に対し,遠藤氏に「ダメ出ししてもらえる」機会など,なかなか得られるものではない。遠藤氏の話を聞き,企画を立てて,直接アドバイスを受けられたことは,参加者達にとって,何にも代えがたい貴重な経験となったことだろう。
“既存のもの”はもう終わり
それを超えてどこへ向かうのか
それではここから,ワークショップ終了後に行ったインタビューの内容をお伝えしよう。
本日はお疲れ様でした。少しのあいだ,話を聞かせてください。まず,iPhone/iPod touchという端末について,“ゲーム機”としてどのように見ていますか?
遠藤雅伸氏(以下,遠藤氏):
はっきり言って,日本でゲームを遊び慣れている人にとっては使いづらい端末なので,すぐにゲーム機として普及するといったことは起きないと思うんですよ。
4Gamer:
具体的に,不十分なのはどんな点でしょう。
遠藤氏:
指で画面を押さえますよね。そうすると,その下に何があるのか分からなくなるんです。
4Gamer:
ええ,確かにそうですね。
遠藤氏:
まずこの点は,あまりよろしくないと思います。本体を傾けて操作する方式も,あまりよろしくないなあ。
4Gamer:
それでは,iPhone/iPod touchにはどんなゲームがマッチすると考えていますか?
遠藤氏:
この端末専用のゲームでないとダメだと思うんです。作り方に関しても,例えばケータイゲームとも全然違っていて,iPhone/iPod touchに合った方法で作る必要がありますね。
ここで遠藤氏は,自身のiPhoneを取り出し,モバイル&ゲームスタジオで開発されたレースアクション「Cherry Drift」(関連記事)を見せてくれた。
遠藤氏:
このゲームも操作性があまりよくないんです。
4Gamer:
これは見下ろし型のゲームですが,3Dのレーシングゲームでも,操作しづらいものが多い気がします。
遠藤氏:
レースもののゲームでは,本体をハンドルに見立てて傾けたりしますけど,動かせば動かすほど画面が見にくくなるんですよね。
4Gamer:
個人的には,画面が見づらくなるだけでなく,傾けて操作する方式では微妙なコントロールが思いのほか難しい気がします。
ところで最近,私がハマっているゲームがあるんです。
遠藤氏:
iPhone/iPod touchは画面が広いので,パズルゲームは合うと思いますね。私としては,指で画面を押さえると,その下が見えなくなってしまうという点をどうやって回避するべきか,考えながら取り組んでいます。
4Gamer:
それでは,iPhone/iPod touchのゲームを作るうえで,もっとこうだったらいいのにと感じることがあれば,教えてください。
遠藤氏:
作っている側からすると,とっととカメラを使わせてくれよ,ということですね。
4Gamer:
iPhone OS 3.0には,カメラを利用するためのAPIは含まれていないんですか?
遠藤氏:
期待していたんですけど,私が聞いた限り,どうやらないらしいんです。カメラから入力した映像をリアルタイムでどうにかするAPIさえ提供されれば,それを応用する面白いアイデアはいろいろとあるんですけどね。
CPUもそこそこ速いし,描画能力も高いので,iPhone/iPod touchにはAR(拡張現実)の可能性があると思っているんですよ。
4Gamer:
ARという概念を,遠藤さんがどのように味付けして見せてくれるか,楽しみにしています。
ところで海外などで,個人のプログラマーがApp Storeで大金を獲得したという話を聞いて,「いっちょうやってみるか」と考えている人も多いと思います。
遠藤氏:
個人でやる分には,ある程度は儲かるんじゃないでしょうか。“一発アイデア”だって,世界に向けて出せるんだったら全然OKですよね。作ったものを世界に向けて売ってくれる,App Storeの仕組みは良いと思います。ただ,事業でやるには厳しいかもしれませんけどね。
4Gamer:
時間も押し迫っているようですし,iPhone/iPod touchゲームを開発している人へ向けて,遠藤さんの視点からアドバイスがあれば,ぜひ聞かせてください。
現在取り組んでいる人は,先ほど私が話した,iPhone/iPod touchの問題点はすでに分かっていると思うので,とくにアドバイスすることはありません。ただ,すでに存在しているゲームをアプライ(適用)していくよりは,新しいものを考えたほうが楽しいと思いますね。
というか,“既存のもの”はもう終わったんですよ。誰もが思いつくような簡単なものはすでに終わっていて,これからは,“それを超えてどこに向かっていくか”という話なんです。iPhone/iPod touchじゃないとできないもののほうが楽しいじゃないですか。
4Gamer:
そうですね。PSPでできるものをiPhone/iPod touchで遊んでも……という気はします。
遠藤氏:
PSPでできるなら,PSPのほうがいいよっていう話になりますからね。
もう少し時間が経って,煮詰まってこないと,新しいものは生まれてこないと思うんです。これからAndroid携帯が出てくると,タッチパネル式の端末がますます増えるわけですよね。そうなったとき,新しい観点から考える人が出れば,また別のモノが生まれてくるんじゃないでしょうか。
例えば,今,画面を指でなぞって操作するというのが「iPhoneっぽくて格好良い」と捉えられているので,先ほどのパズルゲームのように,それを取り入れたものはこれからいいんじゃないかな。
4Gamer:
今後,iPhone/iPod touchゲーマーをびっくりさせてくれるような,新しいゲームやアプリの登場を楽しみにしたいと思います。本日はありがとうございました。
現在,主にケータイ向けのゲーム開発に取り組んでいる遠藤氏が,iPhone/iPod touchをどう見ているのか,また,この端末に適したゲームとはどんなものか,限られた時間の中で,とても興味深い話が聞けた。現在,iPhone/iPod touchゲームの開発を行っているという人にとって,今後どんなゲームを作っていくかを考える,一つのヒントになったのではないだろうか。
私自身はもっぱら遊ぶ側だが,遠藤氏の話を聞き,既存のものを超えた新しいタイプのゲームがやってくるときを楽しみに,今後もリリース情報をチェックしていきたいと思う。
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