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[TGS 2011]ゲーム業界が近い将来立ち向かうべき課題とは。基調講演「ゲーム産業革命の本質」レポート
テーマとなるのは,「The Market Expansion」(ゲーム市場の拡大)と,「The Gaming Experience」(ゲーム体験),そして「The Business Model」(ビジネスモデル)の3つについて。以下順にお伝えしよう。
1.The Market Expansion
氏はゲーム市場の拡大を図示し,基本的には右肩上がりを続けてきたと説明。しかもそれぞれの時代で主流となった分野は,時の流れに沿って地層のような積み重ねを見せており,代替していくわけではないとした。
しかし,時代ごとに,その時代の推進力を担う存在が大きくクローズアップされるため,あたかも世代交代が起きているかのように見えてしまう,というわけである。
アーケードゲームの時代には,1つのゲームを遊ぶために,それ専用の機械が必要だった。それがファミコン時代──個人でゲーム機を購入できる時代となり,さまざまなゲームを1台のゲーム機で遊べるようになっていった。さらに1990年代前半には家電メーカーの大半が参入し,ゲーム市場に厚みが出てくる。
和田氏は,ゲーム市場が本質的には大きな変化を遂げた時期を「2000年の,PlayStation 2が登場したとき」と述懐する。というのも,PlayStation 2が,単にゲームをプレイできるだけでなく,DVD-Videoプレーヤーとしての機能も持っていたからだ。顧客がゲームを遊ぶためだけに投資する額は,PlayStation 2の登場によって,相対的に減ったとした氏は,ここで,「ゲーム市場の拡大とは,顧客がゲームで遊ぶための環境を整える投資額が減少すること」であると定義する。
さて,2000年代前半には携帯電話のスペックが向上し,もはや専用機ではない汎用機でもゲームができるようになり,顧客のゲームに対する投資額は減ったと和田氏。そして続けて,2007年を,「決定的な汎用機時代の到来」として位置づけた。
2007年は,現行のコンシューマゲームプラットフォームすべてがネットワーク対応となった年であり,また,iPhoneが登場した年でもある。「iPhoneの登場によって,顧客の投資額は極限まで減少した」(和田氏)というのだ。
とはいえ,時代が専用機から汎用機へと完全に移り変わったのかというとそうではなく,専用機は専用機,汎用機は汎用機としてそれぞれ地層のように重なり合って市場を拡大させたのだというのが,上のスライドにもあるとおり和田氏の考えである。変わったのは,市場を推進する部分であり,氏はこれを「ドライバー」と表現していたが,すなわち,プラットフォームの本質は物理的な機器からネットワークへと移行したというわけである。
そうなると次に起こることの予想もつくが,和田氏も「今後,(ドライバーとなる)プラットフォームはブラウザ,クラウドへと移行していくだろう」と述べる。現在はクラウドがストレージ部分を担い,ブラウザ上でプレイするようなスタイルが主体だが,次第にゲームプレイ処理自体もクラウドで行われるようになるという。
この一連の流れの先にあるのはもちろん,「顧客のゲームに対する投資額がさらに減少する」という事態だが,「そこにゲーム業界は投資をしていかなければならない」というのが和田氏の見解である。
ちなみに和田氏は,市場が拡大すると,ゲームに執着しない顧客であるカジュアルユーザーも増加するとも述べていた。2000年代中盤以降,いわゆる“ゲームのお約束”を知らない人が増えたことで,初めてゲームに触った人がプレイできるようなタイトルに人気が集中した例を挙げつつ,「ゲームを提供する側としては十分留意する必要がある」と注意を促していたことを補足しておきたい。
2.The Gameplay Experience
次に和田氏は,市場のドライバーとなる要素を,「ハードの処理能力」「インプット」「コミュニケーション」「アウトプット」の4つに分類した。
このうち,最初にドライバーとなったのはハードの処理能力で,代表的な例としては1990年代に各社が1GHzというクロックを目指したCPU戦争が挙げられた。しかし,2000年代に入ってからは処理能力が一定のレベルに達し,一般の人達からは差が分からなくなって,ドライバーとして機能しなくなってしまった。
次にドライバーとなったのがインプット,すなわちUI(ユーザーインタフェース)である。和田氏は,任天堂が携帯機やタッチパネル,モーションコントローラなどを次々と「ゲームコントローラ」として世に送り出していった点を指摘し,「“00年代”中盤から2010年頃まで任天堂がゲーム市場を席巻してきたのは理にかなっている」と表現していた。
ただ,タッチパネルや一部のモーションコントローラは“00年代”後半にはモバイル端末に採用された。そのため,もはや一般の人達にとって,ゲーム機と汎用機は区別できないものとなり,いきおい,UIすらも市場を推進するドライバーとはなり得なくなってしまったというのが和田氏の考え方だ。
「だからこそ,軸はネットワークに移っていった」(和田氏)。2007年以降,コミュニケーションがドライバーになっていったというわけだ。この時代を迎えたことで,ゲーム体験や顧客層だけでなく,流通などビジネス周りも大きく変わってしまったが,和田氏の認識だと,少なくとも「大手はキャッチアップしつつある」という。
ただし,コミュニケーションがドライバーとなる時代は,まだ第一波を迎えただけだとも和田氏は警告する。今後は,ネットワークを軸にして,「ほかのエンターテイメントとのガチンコの戦争になる」からだ。「そしてそれは大きなチャンスでもある」(同氏)。
……と,このあたりで,正直,時間はかなり押してしまっていた。そのため,和田氏の話す内容も飛び飛びになってしまう。たとえば最後のアウトプットに関する話をしないまま,「将来的に,また特別な機材がドライバーとなる時代に回帰するかもしれない」「それは立体視だが,現状の,目の錯覚を利用するようなものではなく,ホログラムを使って,現実世界とゲームの世界をダブらせるようなものだ」「こういったことは汎用機では実現できないだろう」と述べていたりといった具合だ。
3. The Business Model
以上の流れを受け,(かなり端折られることとなるが)最後となる3つ目のテーマへ話は移る。
アーケードゲームは1回プレイするごとに○円かかるという従量課金制だったが,それはコンシューマゲーム機とパッケージソフトの登場で定額制に変わる。そのバリエーションとして,中古販売や廉価版,あるいは北米のプライスプロテクションといった,価格を調整する概念も登場したが,「これらはまだまだ企業側のコントロール下にあった」と和田氏は振り返った。
その具体的な現象例として,和田氏はアイテム課金制を挙げる。氏は,アイテム課金制(あるいはフリーミアム)の台頭を,「単純な価格破壊ではなく,顧客ごとの満足度に応じた支払い方法が確立されたのであり,顧客が選択肢を持つためのシステムが形成された」と定義する。「ゲームを開発する側やサービスを提供する側も,それを念頭において仕事を進めなければならない」(和田氏)。
要するに,「単価が安いから商売にならない」と嘆くのではなく,ビジネスのやり方そのものを変えなければならないというわけだ。さらに和田氏は,「このゲームならでは」という部分がないと,対価を支払ってもらえないかもしれないとも付け加えていた。
ひょっとすると,この「再現できないデータ」こそが,先ほど説明されなかった「アウトプット」なのではないかという気もするが,和田氏がそう言っていたわけではないので,このあたりの判断は保留したい。
ともあれ,ユーザーがそこに価値を見出す以上は,課金モデルもそれに伴っていかなければならないが,問題は,ゲームの場合,「データを顧客が作る場の提供」しかできないということ。「再現できない」データに対して顧客は対価を払うのに対し,ゲームでは提供するもの(=場)と回収するもの(=対価)が直接的につながっていないため,課金モデルの構築が難しくなっているといのが和田氏の考えだ。
ゲームなら,かつては対コンピュータという形式だったのが,今は人対人が中心となっている。「コンピュータがそこにどういったバランスで介在するかを,どうデザインしていくかが大きなポイントになっていくだろう」(和田氏)。
……ポジティブに受け取るかどうかはさておき,和田氏の言う「汎用機」,つまり非ゲーム機が,ゲーム市場で相応の存在感を持ってきているのは確かだ。それをCESAがどう捉えているのかというのが垣間見えるという意味では,今回の基調講演は意義深いと言えるのではなかろうか。
後半,もう少し時間があれば,和田氏の考えももう少しはっきり伝わったと思われ,その点は残念だったが。
CESA公式サイト
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