
業界動向
Access Accepted第394回:ケルンつれづれ〜ゲーム市場の熱気を感じたgamescom 2013
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来場者数では世界最大となるゲームイベントgamescom。2013年はPlayStation 4とXbox Oneが発売されるとあって,6月にロサンゼルスで開催されたE3 2013同様,大きな注目が集まった。プレイアブル展示が多いことが特徴であるgamescomだけに,4Gamerに掲載したさまざまなプレイレポートを楽しんだ読者も多いかもしれないが,ここでは,そんなgamescom 2013の印象をまとめたい。
大きく盛り上がったgamescom 2013
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そんな,大きな賑わいを見せたgamescom 2013だが,4Gamerをはじめとするゲームメディアや業界関係者にとっても今年は非常に重要なイベントになった。その理由はもちろん,Sony Computer Entertainmentの「PlayStation 4」と,Microsoftの「Xbox One」がこの年末にリリースされることになるという,かつてなかった年に行われるイベントだからだ。
この「PlayStation 4 vs. Xbox One」という図式だが,少なくともE3 2013終了直後にはPlayStation 4のほうが優位に立っていたという印象を,多くのゲーマーや業界関係者が持っているのではないだろうか。Microsoftは,Xbox Oneのポイントであるオンライン認証の価値をユーザーに十分納得させることができないまま,結局は仕様変更を余儀なくされた。さらに最近も,当初言われていたようにKinectを常に動かしている必要はなく,ラップをかけて押入れの中にしまったままでも遊べることが明らかになっており,迷走が続いている印象だ。
これでは,海外のメディアから「Xbox 180」(まったく正反対の方向性になるという意味と,360より劣化しているという2つの意味を持つ)と揶揄されるのも仕方ないことだろう。
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年末商戦に向けた前哨戦
この優位をアピールしたのが,Sony Computer Entertainmentのプレスカンファレンスの最後に登壇した同社社長兼CEOであるアンドリュー・ハウス(Andrew House)氏だった。「一方では,自分の意見やストーリーをコロコロと変えてしまう人達もいるのですが,我々のメッセージはいつも消費者の願望に忠実なものです」と,Microsoft陣営を皮肉るような発言をしたのだ。
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E3 2013でもハウス氏は,Xbox Oneの中古販売に関する措置を意識したような,「我々は中古ソフトの売買に制限を課さない」という発言をアドリブで行い,集まった観衆から大喝采を受けたことがあった。そんな経緯から,gamescom 2013でも再び攻撃的なコメントをしたのかもしれないが,しかし今回の発言については,欧米のメディアやファンの間では,苦しんでいるライバルに石を投げるような行為として好意的に受け止められておらず,結局,いくつかのメディアで釈明をすることになってしまった。
そのMicrosoftについては,gamescom 2013におけるさまざまな発表をとおして,それなりの手応えをつかんだのではないかという気がする。起爆剤となったのが,「Xbox Oneのヨーロッパ地域の予約購入者には,FIFA 14のデジタル版がバンドルされる」という発表で(関連記事),PlayStationが強い欧州市場に衝撃が走った。
また,ローンチタイトルではないものの,E3 2013やgamescom 2013で最も多くのメディアに注目された「Titanfall」の存在もある。2013年にリリースされる両陣営のローンチタイトルを比較すると,筆者の個人的な感想ではあるが,ぜひプレイしたいエクスクルーシブソフトはXbox One側に多い。放っておいても売れるFIFA 14をバンドルするという思い切った戦略も,コアゲーマーに対する強いシグナルになったのではないだろうか。
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一方のSony Computer Entertainmentだが,PS Vitaの価格を199ドル/ユーロに下げたり,大手メーカーのタイトルを中心に,PlayStation 3版からPlayStation 4のデジタル版に安価にアップグレードできるプログラムを発表したりと,ハウス氏の言う「消費者の願望に忠実」という言葉にウソはない。欧米のローンチタイトルでは,インディーズゲームやファースト/セカンドパーティの新作を中心に,Xbox Oneより10作ほど多いラインナップが発表されている。
ただし,今回のgamescom 2013プレスカンファレンスは,1989年のAmiga向けタイトルのリバイバルとなる「Shadow of the Beast」が発表された程度。また,Xbox 360に近かったはずのMojangの「Minecraft」が,Xbox Oneより早くリリースされる時限限定になることもアナウンスされるなど,ヨーロッパを中心にしたインディーズ作品が目立つ内容だった。
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業界の切磋琢磨は,ゲーマーの利益に
Sony Computer Entertainmentのカンファレンスは「インディーズゲームは我々と共にある」というメッセージを意識させる,ゲーム業界向けのものだった。しかし,ローンチ後の一年で販売数が1000万台に達するといった景気のいい話は考えにくい状況の中,インディーズゲームのライブラリをいくら豊富にしても,それがハードウェアの売れ行きにどれほどの効果があるのかは分からない。総じて,マイナスとは言わないまでも,これまでの優位をうまく活かしきれていない,やや煮え切らないカンファレンスだったという気がする。
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2つの次世代プラットフォームホルダーのせめぎ合いが激しさを増す中,gamescom 2013で最も元気だったのはElectronic Artsだろう。E3 2013でも勢いを感じたが,今回のgamescomはファンイベントであり,多くのファンの反応から,そのことが直接伝わってくる。ロサンゼルスで偉容を誇った巨大ロボット像をわざわざドイツに運び込み,その周辺に各タイトルのブースをぐるりと配置するといった構成で,「ゲームイベントのブース」の枠を超えた存在感を見せていた。ドイツっ子達もそんなElectronic Artsの熱意に応えるかのように,少しでも早く同社の人気タイトルに触れようと,「Battlefield 4」で7時間待ち,「Taitanfall」ではなんと8時間待ちという長蛇の列を作った。過去のゲームイベントで,これほどの列が出来たという話は,少なくとも筆者は聞いたことがない。
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もちろん,「Assassin’s Creed IV: Black Flag」や「Watch_Dogs」を擁するUbisoft Entertainmentや,衰えを知らない人気の「Call of Duty: Ghosts」および,日本では少し過小評価されている感のある「Destiny」を二本柱にしたActivision,そして「Batman: Arkham Origins」のWarner Bros. Interactive Entertainmentや,地元ドイツではスクウェア・エニックスの代理店でもあるDeep Silverなど,どこも元気が良かった。また,今年のgamescom会場周辺ではWargaming.netの「World of Tanks: Xbox 360 Edition」や,Gaijin Entertainmentの「War Thunder」といったFree-to-Playタイトルの大型広告が目立ったが,どちらからも「いよいよコンシューマ機という大舞台に進出するのだ」という誇りのようなものさえ感じられた。
言うまでもなく,プラットフォームホルダー同士の戦いや,新世代コンシューマ市場への参入を図る大手パブリッシャ同士の戦い,そして新市場への参入を狙う新興メーカーやインディーズメーカーのバトルが繰り広げられたとき,最終的な勝者は消費者だ。切磋琢磨があることで,より質の高いタイトルやサービスが提供されるからだ。だからこそ,2つの新型コンシューマ機が市場に投入される2013年に注目するゲーマーは多く,gamescomの熱気もさらに高まるのだろう。
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4Gamer内「gamescom 2013」記事一覧
※撮影:田井中純平
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
2013年9月2日の「奥谷海人のAccess Accepted」は,著者取材のため休載いたします。次回の掲載は9月9日を予定しています。
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