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Access Accepted第332回:サッカーチームの運営にも利用されるゲーマー情報
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印刷2012/01/30 20:55

業界動向

Access Accepted第332回:サッカーチームの運営にも利用されるゲーマー情報

画像集#001のサムネイル/Access Accepted第332回:サッカーチームの運営にも利用されるゲーマー情報

 「ゲーマーとしてのあなたの情報が利用されている」と聞けば,プライバシーの侵害を連想して眉をひそめてしまうかも知れないが,オンライン化の進む最近のゲーム市場では「ゲーマーの集団」の嗜好や行動パターンの情報が,ゲームを開発するうえで重要なものになっている。最近ではゲーム企業がほかの業界と提携して,ユーザーデータを役立てようという動きもあり,欧米のゲーム業界では新たな専門用語まで飛び出してきている。


“データテイメント”というゲーム業界新用語


 「データテイメント」(Datatainment)は,欧米のゲーム業界で最近使われ始めた新しい用語だ。“データ”と“エンターテイメント”を組み合わせた言葉であることはすぐに分かると思うが,意味としては,ユーザーのデータを利用して,それを次の開発に役立てたり,関連企業と共有する行為を指す。それ自体は,新作の企画やシリーズ作品の開発などのために昔から行われていることだが,電話やはがきを使ったアンケート調査など,手間と時間のかかる方法ではなく,プレイヤーの各種データをサーバーから直接拾い上げるのが,ネットワーク化が進んだ,現代ならではの手法といえるだろう。

 ユーザーデータの収集は,インターネット社会においてますます重要度を高めており,GoogleやYahoo!,Apple,Microsoft,eBay,そしてTwitterやFacebookなどに加えて,数多くのショッピングサイトで,我々の行動パターンは細かく集められ,利用されている。例えばハワイのホテルを検索しただけで,なぜか旅行会社からの勧誘メールが来るようになったり,オンラインで靴を購入すると,似たような商品の広告が表示されるようになったりするといったことは,何度となく経験していることだろう。
 ユーザーのプライバシーが侵害されているようであまり気持ち良くはないが,たいていの場合,こういったユーザーデータの二次使用は,ユーザーがつい読み流している同意書の中に明記されており,最近では集団訴訟を起こさせないような文言が追加されていたりする。利便性の代償ということになるのだろうが,同意はもう少し明確に簡潔に示してほしい気はする。

ユーザーの意見や動向は,ゲームを制作するうえで不可欠な「情報」だ。最近では,「これまでのオンラインの戦いで何億発の弾丸が撃たれた」とか「最も人気ある武器はアサルトライフル」といった情報が出てくるようになった。デジタルメディア上では,ネットを使えば,従来は想像もできなかったような細かい情報を得ることも可能になったのだ
画像集#002のサムネイル/Access Accepted第332回:サッカーチームの運営にも利用されるゲーマー情報

 最近の欧米のゲーム業界が,ユーザーデータをいかに重視しているかについては,MicrosoftとActivisionの話が分かりやすいだろう。MicrosoftのXbox LIVEは現在,4000万人のユーザーを誇っているが,そのうちの実に50%以上がActivisionの「Call of Duty」シリーズだけを遊んでいるといわている。しかし,細かいデータについてMicrosoftは沈黙を守っており,Activisionはそれに対して不満を抱いていた。
 Microsoftは,Xbox LIVEを運営するだけでなく,Call of Dutyのライバルとなり得る,例えば「Halo 3」のようなゲームの制作/販売も行っているため,詳しい内容を秘密にするのは仕方ないことかもしれない。しかし,それに業を煮やしたActivisionが始めたのが,Call of Dutyシリーズ専用のオンラインサービス「Call of Duty: Elite」というわけだ。Activisionは,このCall of Duty: Eliteを通じて,さらに詳しいプレイヤーデータ収集を狙っているのだろう。


イギリスの名門サッカークラブとEAが提携


 データテイメントとゲームにまつわる話題として注目すべきなのが,2012年に入って発表された,英プレミアリーグのマンチェスターシティElectronic Artsの提携だ。
 これは,EA SPORTSブランドで最高の人気を誇るタイトル「FIFA 12」を使ったマンチェスターシティとのコラボで,EAがレギュラー選手全員のモーションをキャプチャーし,このデータを公式サポータークラブの会員証のICチップに入れるもの。具体的にどのように使うのかは今のところ分からないものの,クラブ会員同士で交換できるような仕組みも考えているという。

各国で異なるFIFAシリーズのカバーアートだが,「FIFA 12」の英国版はマンチェスター・ユナイテッドのウェイン・ルーニー選手と,アーセナルFCの若きプレイヤー,ジャック・ウィルシャー選手の2人。今回のElectronic Artsの提携により,いずれマンチェスターシティの選手が表紙を飾ることになるだろう
画像集#003のサムネイル/Access Accepted第332回:サッカーチームの運営にも利用されるゲーマー情報
 ご存じのように,FIFA 12は,2011年9月に発売されるや,初週に世界累計で320万本を販売し,これについてElectronic Artsは「FIFAシリーズ最速の売れ行き」と発表したほどの人気タイトル。イギリスでは,「Call of Duty: Modern Warfare 3」に抜かれるまでトップセールスを記録し続けており,イギリスで最も売れたスポーツゲームとして認められている。

 会員証のICチップに選手データを入れるといったことは,単なるファンサービスの域を出ないが,マンチェスターシティ側はさらに一歩踏み込んだことも考えているようだ。つまり,Electronic Artsの誇るプレイヤー/チームデータを利用し,プレミアリーグやチャンピオンズリーグ戦に備えたシミュレーションに使ったり,プレイヤーの動向から人気選手を調べたり,どのようにすればマンチェスターユナイテッドやバルセロナのような世界的なクラブチームになれるのか研究したりするために,データテイメントを本格活用しようというわけだ。

 この提携は,これまでのようなゲームメーカーと異業種との簡単なコラボレーションの枠に収まらない関係の構築であり,今後の欧米ゲーム業界の流れを見ていくうえでも注目に値する出来事だろう。100万本を超えれば大ヒットだったゲームソフトが,今や1000万本を超えるモンスターソフトが次々に出現する時代となり,それらの巨大なファンデータが,サーバーから容易に抽出できる時代になっている。メーカーはその情報を,さまざまな方面で活用しようとしており,ゲーマーが好むと好まざるとに関わらず,多くの場所で利用されていくのは間違いないのだ。

著者紹介:奥谷海人
 本誌海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,北米ゲーム業界に知り合いも多い。この「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年に連載が開始された,4Gamerで最も長く続く連載だ。バックナンバーを読むと,移り変わりの激しい欧米ゲーム業界の現状が良く理解できるはず。

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