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印刷2010/03/05 12:55

業界動向

奥谷海人のAccess Accepted / 第255回:“帝国”になったActivision Blizzardの抱く不安

奥谷海人のAccess Accepted

 「Call of Duty」「Guitar Hero」,そして「World of Warcraft」という世界的な人気タイトル/シリーズを抱えるActivision Blizzardは,今やアメリカゲーム業界最大手のパブリッシャーだ。そのスケールは,CEO自らが同社を“帝国”に例えるほどにまでなったが,現在の好調な成績とは裏腹に,それなりの不確定要素も抱えている。今回は,そんなActivision Blizzardの現状と未来を見ていきたい。

第255回:“帝国”になったActivision Blizzardの抱く不安

 

「ある日,目が覚めると,デス・スターに乗っていたのです」
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このごろ,何かとその言動が注目されるActivision BlizzardのCEO,ロバート・コティック氏。「Bobby Kotick」と書かれることもあるが,“ボビー”は“ロバート”の愛称形だ。コティック氏は,1995年にActivisionに招かれる以前は,日本のアニメの吹き替えなどを行う4Kids EntertainmentというメーカーのCEOを務めていた

 惑星を一撃で破壊できるスーパーレーザーを装備し,銀河を恐怖に震え上がらせる巨大宇宙要塞「デス・スター」。その弱点を見つけた反乱軍のXウイング戦闘機は,まるで巨大なメロンにたかるハエのようにデス・スターを攻撃する。TIEファイターやスター・デストロイヤーで応戦する帝国軍は強力だが,信じれば必ず勝利を得られる。そう,われらがヒーロー,ルーク・スカイウォーカーなら絶対にやってくれる!

 2010年2月,ラスベガスで行われたイベント「DICE 2010」の基調講演のために登壇したロバート・コティック(Robert Kotick)氏は,ゲームソフトのサードパーティとしては今や世界最大となった,Activision BlizzardのCEOである。そんな彼がスピーチの冒頭,上のような話をしたという。

 「どうしてこうなっちゃったのかは,分かりませんが,私はこれまでずっと,ミレニアム・ファルコンやXウイングを操縦する反乱軍のパイロットでした。それがある日,目が覚めると,突然デス・スターに乗っていたのです」
 もちろんデス・スターとはActivision Blizzardのことで,コティック氏自身は帝国に君臨するダース・ベイダーだという。そんな風に彼は,自分の現状を述べたのだ。

 もともとActivisionは,“巨大戦艦”であるElectronic Artsを追いかける立場だったが,2007年12月に「World of Warcraft」などで知られるBlizzard Entertainmentを傘下に収めるVivendi Gamesと合併したことにより,一気に業界トップに立った。このへんのことは,当連載の158回「Activision Blizzardが起こす業界再編の波」でもお伝えしたとおりだ。

 ダース・ベイダーといえば,全世界のSFファンに愛される「悪玉」である。コティック氏が,ActivisionがActivision Blizzardとなったときも,彼の決断によってそれまでVivendi Gamesが抱えていた数十本の新作ラインナップのほとんどが,一刀両断に中止され,他社に売却されたといわれている。そんなコティック氏が,ダース・ベイダーのように愛されているかどうかは分からないが,Activision Blizzardが巨大な帝国になって以来,その行動や発言が業界関係者の注目を集めてきたのは間違いない。

 最近のコティック氏で話題となったのが,投資家向けの懇談会の席上「ゲームの開発現場から“楽しさ”をなくすべきだ」と発言したことだ。これは,さすがにゲーム開発者から不評を買い,上記のDICE 2010で「あれは,メディアが,話の一部分だけを取り出して報道したための誤解」とし,加えて「あの発言は投資家に向けてのものです。我々が負っている責任の大きさを,ユーモラスに表現したいと思ったのです」と釈明している。

 コティック氏はそもそも,開発サイドのいうところの「背広組」のリーダーであり,彼自身はゲームの開発現場の指揮を執ったことはない。1995年にActivisionに招聘される以前から,ずっと経営畑を歩いてきた人物である。
 実際にActivision Blizzardでゲーム開発に従事している人,あるいは合併時にキャンセルされたプロジェクトに関わっていた人達にとって,コティック氏の発言は強権的に響くだろう。上の釈明発言から,開発者を束ねる責任者というより,投資家の機嫌をうかがうビジネスマンという印象を受けた人も多いようだ。

 

快進撃中のActivision Blizzardも,決して安泰にあらず
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グラフィックスまわりが老朽化しているが,それだけに低スペックのPCで動くという手軽さも人気が持続している理由の一つであると言われるWorld of Warcraft。最新の拡張パックとなる「World of Warcraft: Cataclysm」が2010年内にリリースされると思われている

 ライバルであるElectronic Artsが,約3年におよぶ連続赤字に喘いでいるなか,Activision Blizzardは快調に業績を伸ばしている。2009年には42.8億ドル(約4500億円),1株あたり9セントの利益を計上している。
 これは,主として「Call of Duty: Modern Warfare 2」によるものであり,100億円(1億7000万ドル)といわれるBizarre Creationsの買収をはじめ,いくつかの支払期限があったことを考えると,相当なものである。Call of Duty: Modern Warfare 2のほか,「Guitar Hero」シリーズ,そして「World of Warcraft」がActivision Blizzardを支える三本柱であり,例えば「Tony Hawk’s Ride」のような例があったとしても,それを十分カバーする収益を生んでいるのだ。
 さらにこの2010年,Activision Blizzardは1株当たり47セントの増益を見込んでいる。年一作がペースになったCall of Dutyシリーズの新作に加え,「Starcraft II: Wings of Liberty」や「World of Warcraft: Cataclysm」など,メガヒットを飛ばしそうな作品がいくつも予定されているからだろう。

 そんな破竹の進撃を続けるActivision Blizzardだが,死角がまったくないわけではない。コティック氏がもっとも警戒している状況は,「World of Warcraftの人気が突然なくなったとき」だという。
 北米とヨーロッパで500万近いアカウントを抱え,2004年の初登場以来,今もって人気の衰えを感じさせないWorld of Warcraft。とはいえ,大きなマーケットだった中国では,政府が運営元に新規登録と課金を停止するように命令を出すなど,プレイヤーを混乱させる事態が続いている。

 中国の出来事は,権利問題などもからむ例外的なケースといえるが,ここでもしWorld of Warcraftを超えるほどの新作が出てくればどうなるだろうか。MMORPGマーケットの62%のシェアを保持しているといわれるWorld of Warcraftだけに,管理やインフラ整備,メンテナンスにかかる費用は相当な額になる。突然,ほかの作品に多くのプレイヤーが移住してしまうようなことが起これば,この経費はそのままActivision Blizzardにのしかかってくる。

 そうしたライバルの一つとして考えられるのが,「Star Wars: The Old Republic」で,1年後くらいのローンチが予定されているようだ。これは,映画終了後も「スター・ウォーズ」フランチャイズの人気を維持させたいLucasArtsと,MMORPGジャンルでの成功を期するElectronic Arts,そしてその傘下にあり,RPGジャンルでは世界的な名門開発チームであるBioWareという,「黄金の三角形」によるコラボレーションだ。
 Activision Blizzardとしては,Star Wars: The Old Republicのローンチの時期に「Diablo III」といった新作をぶつけるという戦略などが考えられるが,いずれにせよグラフィックス的に古さを感じさせるWorld of WarcraftとActivision Blizzardにとって,2011年が正念場になるかも知れない。

 コティック氏にとって,「WoWクラッシュ懸念」だけが心配のタネではない。
 Guitar Heroシリーズでおなじみの,専用コントローラを使用するタイプの音楽ゲームの市場規模縮小が著しいのだ。2009年のマーケットは,前の年に比べて40%も縮小してしまったといわれ,Electronic Artsの「The Beatles: Rock Band」がなんとか200万本越えを達成したものの,そのほかのヒット作は出ていない。
 最盛期といわれる2007年の「Guitar Hero III:Legends of Rock」は,Xbox 360版だけで438万本ものメガヒットを記録したが,2009年の「Guitar Hero 5」は73万本と,100万本にも届いていない。新しいコントローラを投入した「DJ Hero」も70万本ほどで,開発費がペイできたのか微妙といわれているし,「Band Hero」にいたっては25万本にとどまっている。こうした音楽ゲームの市場はすでに飽和状態にあり,また不況の影響で高価なコントローラを購入する消費者が激減したと分析されている。
 大ヒットを続ける,Call of Dutyシリーズだが,ここでも,開発会社であるInfinity Wardのキーメンバーが退社し,訴訟騒ぎに発展しそうな事態になっているのだ。具体的に何が起きたのかは分からないが,経営と開発,親会社と子会社の間でのトラブルを連想させてしまう出来事なのは間違いない。
 Activision Blizzardは,Activision Asia-Pacificを担当していたフィリップ・アール(Philip Earl)氏をInfinity Wardの運営に当たらせたうえで,傘下のTreyarchと,新たに設立したSledgehammer Games,そしてInfinity Wardの3社体制でフランチャイズの拡充を図っていく構えだ。

 いずれにしろ,コティック氏がいう“デス・スター”となったActivision Blizzardは,同時に,反乱軍の小さな戦闘機から戦艦まで,さまざまな攻撃を受ける立場になったということだ。紆余曲折の末,業界トップに駆けあがったActivision Blizzardの正念場は,これからなのである。

 

※次回3月12日のAccess Acceptedは,Game Developers Conference取材のため休載いたします。次回の更新は3月19日を予定しております。

 

■■奥谷海人(ライター)■■
サンフランシスコ在住の4Gamer海外特派員。ゲームジャーナリストとして長いキャリアを持ち,多様な視点から欧米ゲーム業界をウォッチし続けている。2004年に開始された本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,4Gamerで最も長く続く週刊連載だ。
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