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印刷2007/09/14 20:53

連載

奥谷海人のAccess Accepted

 テキサス州都のオースティン市は,10年前に「Ultima Online」が開発されてからというもの,北米におけるオンラインゲーム開発の中心地へと変貌した。今では“シリコンヒルズ”とも言われるこの地には,その分野専門の開発者達が多い。オンラインゲームといっても,カジュアル系オンラインゲームとMMORPGでは方向性がまったく異なるのだが,Austin Game Conferenceでは双方の論客達が火花をちらす場面もあった。

Access Accepted第141回:議論を重ねる米オンラインゲーム業界
オースティンで発覚した
オンラインゲーム開発者達の“溝”
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今年で4回目となるテキサス州オースティン市でのゲーム開発者会議は,いつものようにAustin Convention Centerで開催された。北米地域におけるオンラインゲーム開発の中心地とあって,1800人ほどの開発者が来場したという

 9月5日から9月7日まで,テキサス州オースティンで開催されていたAGDC(Austin Game Developers Conference)は,オンラインゲーム開発に携わる人々が自分達の手法や成果,対策,現状と予想などのトピックを話し合う,ゲーム開発者会議の一つである。2007年からは,CMP Mediaというコンピュータ関連の出版やイベント運営を行う企業が主催者となり,春に行われている“本家”Game Developers Conferenceの姉妹イベントとなった。
 これまでと様子が違ったのは,学術関係からの講演者や出席者の数が減っていたことだ。その理由を何人かに聞いてみたが,よく分からない。欧米ではゲーム関連技術におけるアカデミーとデベロッパー間で意見交換が頻繁に行われる下地が整っており,仲違いしたというわけでもないようだ。ゲームの開発に比べて学術目的の研究はスパンが長いので,昨今話題に上るレベルでは,研究成果が出尽くしてしまっただけかもしれない。

 そんなことよりも,会場をブラブラと観察していてどうしても気になることがあった。それは,まるで真っ二つに分かれた2タイプの開発者がいるかのような,オンラインゲーム開発者達の間にある“溝”とでも表現できそうな雰囲気である。その“2タイプの開発者”とは,これまで培ってきたMMORPGという財産とノウハウにこだわりを見せる開発者達と,Web 2.0時代の波を取り入れようとするカジュアル系オンラインゲームの開発者達だ。
 別に,双方が目に見える形で対立しているのではないし,どちらが正しいという問題でもない。職種や立場上,どちらかの話をしているだけだとか,もう一方の情勢に詳しくないというのもあるだろう。基調講演も「World of Warcraft」のMichael Morhaime(マイケル・モーヘイム)氏(関連記事)や「ファイナルファンタジーXI」の田中弘道/Sage Sundi両氏が行った(関連記事)かと思えば,別の日には「Habbo Hotel」のSuika Haro(スイカ・ハロ)氏,Nexon AmericaのMinho Kim(ミンホ・キム)氏が壇上に上がっているといった具合で,運営側が意図的にアレンジしたことだったのも理解できる。

 

「MMORPG vs. カジュアル」の熱い戦い
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激論が交わされたAGDC最終日のセミナー。写真右に陣取る“Web 2.0開国派”と,左の“MMORPG佐幕派”とでもいったところだろうか。双方の志の高さは同じだが,その手段やアプローチはまったく異なっていることが浮き彫りになった

 9月7日,AGDC最終日の午後になって,「What are the Biggest Online Gaming Opportunities?」(オンラインゲームの次の大きなチャンスはなにか?)というパネルディスカッションが行われた。このディスカッションに参加したのは,韓国で「GoPets」を成功させたErik Bethke(エリック・ベスク),AreaeのRaph Koster(ラフ・コスター),EA MythicゼネラルマネージャーのMark Jacobs(マーク・ジェイコブズ),Sony Online Entertainmentの「EverQuest II」プロデューサーJohn Blakely(ジョン・ブレイクリー)各氏で,モデレータにはZeniMax Online Studiosという新会社を設立したばかりのMatt Firor(マット・フィラー)氏という,中々面白いメンツだった。パネルディスカッションなら,ディベート好きなアメリカ人でもお互いの立場を尊重し,緩めの話に終始することが多いのだが,今回はまさに火花が散るような熱い討論へと発展したのだ。
 パネルのメンバー(所属会社)を見れば分かる読者もいるだろうが,前者の二人がより大きな市場を目指してWeb 2.0など時代の進化に続かんとする,いわば「カジュアル派」で,観客からみて右席に陣取っている。後者の二人は高額開発費と月額徴収制を基本としたスタイルにこだわる「MMORPG派」で,モデレータを挟んで左側に座していた。

 このディスカッションの直前にあったNexonの「メイプルストーリー」北米進出成功の話題(関連記事 [AGDC 2007]“月額料徴収の牙城”北米市場を,アイテム販売で突き崩すNexon)を受けて,まずテーマはマイクロトランザクション(アイテム課金)から始まった。口火を切ったのはジェイコブズ氏で,「アメリカでは成功しないモデル。一時的なものであって市場に受け入れられるべきものではないし,開発者も訴訟が怖くて踏み込めない」という。
 これに対し,コスター氏は「現状,オンラインゲームの人気トップ10で,旧来の月額課金方式なのは,World of Warcraftしかない」と牽制。さらに,「World of Warcraftの基調講演は満員だったが,Habbo Hotelはガラ空きだったことに空しさを感じる。Habbo Hotel,Club Penguin,BirbieGirlsなど,トップ10にあるウェブ系オンラインゲーム(サイト)で会員数300万を下るものはないということくらい覚えておくべきだ」と語気を強めていた。これにベスク氏が続き,「なぜ料金の一律徴収にこだわるのか。ゲーマーによってプレイ時間も体験も異なる。GAP(アメリカの衣料品小売店)で,異なる服に同じ値段を払って納得する人はいない」とたたみ掛けた。すかさず,ブレイクリー氏が「Costco(量販店)ではやっている。要するに,店が仕掛けた対価と価値に消費者が納得するかだ」と双方ジャブを打ちまくるといった具合だった。

 

論客達が彩るオンラインゲーム業界

 このディスカッションは,この後もオークション,RMT(リアルマネートレード),ビジネスモデルに関して,笑いも織り交ぜながら激しい議論が続けられた。途中で,コンシューマ機のネットワーク機能の話になって,「ポテンシャルはあるが未熟」(ブレイクリー氏)とか,「実際にXbox Live!の利用者は多くない」(コスター氏)などで,ようやく歩み寄りを見せた感じだ。ブレイクリー氏は,さすがに親会社の手前もあり遠慮気味だったが,“MMORPG派”にせよ“カジュアル派”にせよ,PCが今後もオンラインゲーム業界を担っていくという未来像では一致していた。

 

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真剣に聞き入るAGDC参加者達。惜しみのない情報開示と議論こそが,北米ゲーム業界の強みの一つである。携わるゲームのジャンルや規模,プラットフォームにかかわらず,企業の垣根を取り払って皆で成長しようという姿勢が感じられる

 カジュアル派は,「YouTube」や「MySpace」をはじめとするWeb 2.0の台頭に,ある種の脅威を感じ取り,そこにゲームも食い込ませようとしている。細かいコンテンツ作成は利用者に任せることで,内容を充実させようという動きだ。
 一方のMMORPG開発者にしても,別に月額徴収にこだわっているわけではないようだ。ただ,技術やアートなど自分達の持つ能力を生かして良いと思うものを制作。それが受け入れられれば成功なのだと考える,職人気質を残す集団だといえるだろう。

 両者とも目的とする理想が異なり,「進化を続けるインターネット世代から置いてきぼりにされそうな頭の固さ」とか「ドットコムブームの亡霊を追ってわけの分からない方向にまい進する輩」などと過小評価し合ってはいるが,「業界を良い形で進化させたい」という思いは同じだ。
 アメリカには,すでに当サイトでもお馴染みになったコスター氏のほかにも,Greg Costikyan(グレッグ・コスティキャン)氏,Eric Zimmerman(エリック・ジマーマン)氏,そしてDamian Schubert(ダミアン・シューバート)氏といった論客は多い。自分の意見や理想を語り,ときには激しい討論を繰り返しながらも,業界を活性化しようとしているのだ。彼らの様子を見ていると,オンラインゲームが新しいステージに差し掛かったことをあらためて感じさせられる。
 ベスク氏は,今回のディスカッションの中で「アジアで,自分達の手の内を公開し,それを討論しようという土壌はない。そのクリアでフレキシブルなところが,我々の強みではないか」と話していた。筆者も,このようなディスカッションを通して彼らの開発理念が伝わってくることが,面白みの一つなのだと確信している。

 

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。3か月ほど前に庭で見つけたナメクジを,子供達に見せてやろうと,捕獲してプラスチックの入れ物に入れておいたという奥谷氏。次の日の朝になるとナメクジはいなくなっていたのだが,そのままナメクジの存在さえ忘れてしまっていたという。だが,先日窓を掃除しようとしたところ,窓枠に30匹ほどの小さなナメクジがウネウネしていたそうだ。想像もしたくない光景だが,奥谷氏は塩を撒くのも忍びなく,1匹1匹を箸でつまんで外へ逃がしてやったとか。3か月ほど後には,庭先で900匹ほどウネウネしているんじゃないでしょうか?

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