インタビュー
Epic Gamesの創設者Tim Sweeney氏が語るゲームと電脳社会の未来 〜ヘッドマウントディスプレイは文明を変えるか?
今回,Epic Games Japanのご好意で,4GamerではTim Sweeney氏にインタビューを行った。同社が手がける注目の次世代ゲームエンジン「Unreal Engine 4」(以降,UE4)について,また,CEDECの講演で触れられた将来のゲームデバイスについて,話を聞いてきたので,ざっくりとまとめてみたい。
AAAタイトルから小規模ゲームまで
スケーラビリティを重視して開発されたUE4
本日はよろしくお願いいたします。
先ごろ発表されたUE4は次世代ゲーム機や次世代のPCに向けたものだと思いますが,すでにゲームメーカーへの提供は始まっているのでしょうか。
Tim Sweeney氏:(以降,Sweeney氏)
まだ数は少ないのですが,UE4自体はすでにハイエンドPC向けにゲーム開発を行っているライセンシーへの提供が始まっています。向こう6か月以内には,さらにライセンシーが増える見込みです。
4Gamer:
UE4では動的なグローバルイルミネーション(以降,GI)を取り入れて話題になっていますよね。ダイナミックGI以外でSweeneyさんが次世代の家庭用ゲーム機やハイエンドのPCゲームに必要だと思っている技術要素はなにかありますか。
Sweeney氏:
UE4では確かにダイナミックなGIが目に付きますが,それ以外にも表には見えない部分に力を入れて開発しています。とくに開発者の効率を高めるツールの開発に力を入れています。
また,パーティクルのシステムは従来のシステム(UE3)とは次元の違う表現ができますし,アニメーションにも新しい機能を入れています。
さらにソーシャルネットワークとの連携を容易にする機能や,ムービーシーンを作るツールについても強化しました。
4Gamer:
Epic GamesのUnreal Engineシリーズは,AAAタイトルを制作するためのゲームエンジンと理解しているのですが,CEDECの講演では広い範囲のゲームに触れていましたね。
Sweeney氏:
もちろん,AAAゲームにも対応できるのですが,とくにUE4では,大きなゲームから小さなゲームまで開発できるスケーラビリティを重視しています。1人で制作するようなゲームから,超大型のAAAゲームまでをカバーすることを目指しており,そのための機能や開発効率を高める工夫を随所に盛り込んでいます。
例えば,従来からあるビジュアルスクリプティングシステム,かつてはKismet(キスメット)と呼ばれていたものですが,これを強化改良しています。ビジュアルスクリプティングシステムを使えば,1人で開発しているような環境でも「Angry Birds」のようなゲームが作れてしまいます。UE4の開発環境が整えば,個人でやっているような小さなゲームスタジオでも非常に面白いゲームが作れるようになるだろうと期待しています。
4Gamer:
なるほど。UE4では,トップエンドの表現力を上げること以上に,開発の生産効率を上げることが重視されているようですね。
小規模開発もUE4に置き換わるとなると,UDK(Unreal Development Kit)はアップグレードされるのでしょうか?
Sweeney氏:
もちろんです。UDKを継続して提供することは我々にとっても重要なステップです。まだ時期は確定していませんが,UE4版のUDKを提供するべく開発を行っています。(UDKを無償で公開することで)個人でやっているようなゲームスタジオにもUE4を使ってもらうということは,我々としても力を入れていることでもありますし。
4Gamer:
同じように幅広いスケーラビリティを特徴としている製品にUnityがありますね。Unityについてどう思いますか。
Sweeney氏:
Unityは素晴らしいですね。小さくコンパクトという意味で,よくまとまっていると思います。習得すればすぐに使えますし,ハードルがとても低いのがいいですね。
13歳になる私の甥がゲームに興味を持って,ゲームを作りたいと私のところに聞きに来たのですが“じゃあUnityをダウンロードして触ってみるといいよ”と推薦したくらいです。そういうレベルの人には使いやすいゲームエンジンですね。
Unityの入りやすさ,使いやすさは,我々としても見習って実装していかなければならないところだと思っています。UE4をもっと使いやすく,小さなチームでも使いやすくというのが我々のゴールですから。
また,小さなゲームから大きなゲームを作っていくという流れも(開発の現場では)よくあることでしょう。小さなゲームを作っているときに使っていた環境を,そのまま大きなゲームに使いたいというのも,また自然なことですから,我々としてもUE4の使いやすさを上げることに力を入れていきたいですね。
次世代ゲーム機ではゲームの開発費高騰は避けられない?
4Gamer:
CEDEC 2012の会場では,UE4のElemental Demoを見ていた日本の開発者で「甲冑をきたようなキャラクターではなく,人間のキャラクターが見たい」とつぶやいている人がいました。最近は人間をリアルに表現するグラフィックス技術が注目されていますが,Elemental Demoに人間のキャラクターが出てこないのはなぜでしょうか。
Sweeney氏:
昨年のGDCで発表したSamaritan Demoは人間のキャラクターに特化したもので,Separable Subsurface Scattering(編注:人間の肌をリアルに表現するUE4にも取り込まれた技術)を使ったリアルなキャラクター表現などに力を入れました。その代わりに制作には非常に工数がかかりました。
Elemental Demoに関しては,もう少し小さめで短い期間で作りたかったので,全体のボリュームを抑えています。また,UE4で特徴的なダイナミックなGIやパーティクルを表現することに重点を置いているので,キャラクターまで作りこむ時間と工数をかけられなかったということがあります。
もちろん,(グラフィックスにおける)キャラクターの技術は進歩が速く,注目されているところですし,UE4にも取り入れていきたいと考えています。近い将来,そうした技術を使ったUE4の上で動くキャラを見て,驚いてもらえる機会があるでしょう。
4Gamer:
やはり人間のキャラクターにはコストが掛かりますか?
Sweeney氏:
我々のエンジンでは,キャラクター作りの工数や手間を削減するということを一つの大きな目標にしています。ただ,リアルな人間の動きを作るには,まずアーティストやアニメーターで多くの工数がかかるのが事実でしょうね。
4Gamer:
モーションの生成は自動化できないのでしょうか。
我々もアニメーションの効率化は意識して研究を重ねています。これまでに実現できたこととして,モーションと物理計算を掛け合わせることで,物理演算を利用してモーションをコントロールすることは可能になってきていると思っています。
それでも人間の表情の動きや滑らかな動きを自動で生成するのは難しく,いまのモーションキャプチャをさらに進めた技術が実用化されるには,あと数年はかかるでしょう。
4Gamer:
ダイナミックGIやテッセレーションは,制作費を削減できる技術としても期待されていましたが,実際に制作費低減につながっていると思いますか?
Sweeney氏:
コストを削減し開発効率を上げるために,新しい機能を実装するのは我々のエンジン開発にとって大きなモチベーションになっています。従来のエンジン開発ではハードの持っているパフォーマンスを最後の一滴までまで搾り出そうという形でしたが,先ほどもお話しししたように,今回(UE4)は開発効率を上げることをに重点を置いているのが特徴です。
例えば,GIは,シーンを変更するときにアーティストが描画しなおしてライティングの計算結果を待って……という手間をかけず,その場で結果を反映したグラフィックスを確認しながら作業できるので,開発コストの削減につながると思います。
4Gamer:
CEDEC 2012の講演では,次世代機のAAAタイトル開発費は従来の3倍になると語られていましたが,具体的にどこに一番コストがかかるとお考えですか。
Sweeney氏:
まず明確にしておいたほうがいいと思うのですが,私が現世代に比べて次世代機のコストが3倍になるといったのは,現世代の初期のゲームと次世代の初期のゲームの開発費を比較すると3倍になるだろうということです。現世代でも初期のゲームと今のゲームでは開発コストが変わってきているので,そこは誤解のないようにお願いします。
(次世代機のゲームの)どこにコストがかかるかというと,まずグラフィックスやゲームプレイに対するプレイヤー側の期待が大きくなっているということが挙げられます。例えば,AAAタイトルであれば,ボリュームのあるキャンペーンと,専用のマルチプレイがあるということがゲーマーの期待としては当たり前になっていて,制作者はそれに応えなければなりません。ここが一番大きいと思います。
また,次世代ではパフォーマンスが大きく上がるので,グラフィックスのクオリティを大きく上げることができるようになりますが,ハードのパフォーマンス向上をフルに活かそうとすると時間とコストがかかるので,現在と同じことをやっていれば,そこから開発費の高騰が生じてくるでしょう。
4Gamer:
日本ではPlayStation 3の世代でそのようなことが起こり,プレイヤーの期待値がどんどん高まってビッグタイトル同士の競争になり,多額の開発費と開発期間をかけたビッグタイトルが投入されてきましたが,コストに見合う売り上げを出すことが難しくなったり,プレイヤーの期待値に届かなくなったりで,最近ではニッチな市場に向けた小規模なゲームのほうがコストを回収しやすいようです。
おっしゃったようなことはワールドワイドの市場でも起きている現象だと思います。しかし,選択肢が広がったという意味では歓迎すべきことではないでしょうか。
AAAタイトルのような大規模タイトルから,中規模,そして小規模タイトルまで,さまざまな価格帯でタイトルが作られるようになっていますし,提供先としてもiOSやPC,家庭用ゲーム機,さらにパッケージだけでなくデジタル配信といった提供方法にもバラエティが増えています。これはよいことでしょう。
私はよく映像に例えるのですが,例えば映画館で見るような大規模な映画もあれば,テレビ番組もあり,YouTubeもありますよね。さまざまなサイズのコンテンツを楽しむ機会が増えたというのはとてもいいことですし,ゲームにしてもそれは同じだろうと思っています。
4Gamer:
選択肢が増えるのはよいことですね。ただ,小粒なゲームばかりになるのもゲーマーとしては寂しいところがあります。個人的には,Epic GamesにはAAAタイトルを期待しているのですが,そちらのほうの開発は続けてられているわけですよね。
Sweeney氏:
もちろん,Epic Gamesという会社はAAAタイトルを作ってきましたし,これからも作っていきますよ。
ただ,最近になって変わってきたのは,AAAタイトルを作り続ける一方で,もっと小さなゲーム,これまでとは違ったゲーム体験をもたらすゲームも作るようになったということです。
例えば(傘下の)ChAIR Entertainment Groupでは「Infinity Blade」というiOS向けのタイトルを作っていますし,最近設立したImpossible Studiosでは「Infinity Blade: Dungeons」というiOS向けのゲームを作っています。またEpic Games自身でも「Fortnite」という,PC向けの小さめのゲームを作っています。
いずれの場合も,優れたもの,価値のあるものを作るというEpic Gamesのフィロソフィーは変わっていませんし,AAAタイトルから小さなゲームまで,すべてのものに当社のフィロソフィーを当てはめています。
家庭用ゲーム機は生き残れるか? 将来のゲームプラットフォームは?
CEDECの講演では,スマートフォンについても触れられていましたね。スマートフォンについては,どう見ていますか?
Sweeney氏:
手早くゲームをプレイしたり,短い時間ゲームで遊ぶというのには,理想的なデバイスでしょうね。常に携帯しているし,いつでも取り出せます。短いゲームをさくっとプレイするのには,とてもいいデバイスです。
世界中で,家庭用ゲーム機などとは比べ物にならないほど出荷されているというのも大きな要素でしょう。スマートフォンがこれだけ大きなゲーム市場に育ってきたということに私はワクワクしています。
4Gamer:
スマートフォンやタブレットは性能の向上が著しく,いずれ家庭用ゲーム機に匹敵する性能を持つようになりそうです。家庭用ゲーム機は生き残れるのでしょうか?
Sweeney氏:
間違いなく生き残るでしょう。なぜなら,スマートフォンと家庭用ゲーム機では得意としているコンテンツが大きく違うからです。
スマートフォンは小さなゲームを手軽にプレイするのに理想的です。一方,家庭用ゲーム機は大型のAAAタイトルや,没入感があるようなゲームをプレイするのに向いています。
動画の場合でも,映画を見るのは大型のスクリーンが有利だし,スマートフォンはYouTubeの動画のようなものを見るのに向いていますよね。このように,やることによってデバイスを使い分けるということが必然的にあるはずです。
世界で最も進んだ技術を使い,もっともコストをかけたゲームが最初に出てくるのは,今後もPCと家庭用ゲーム機の分野でしょう。
4Gamer:
CEDECの講演ではタッチパネルやセンサーがゲームにおいても重要な入力デバイスとして使われるようになると語っておられました。実はソニーもPlayStation Vita(以降,Vita)でまったく同じことを言っていて,Vitaにはゲームに最適化したセンサーを搭載したと主張しています。携帯ゲーム機のVitaについて,どう見ていますか?
Sweeney氏:
ゲーマーにアピールする携帯型ゲーム機を提供するという意味では,ソニーは素晴らしい仕事をしました。スクリーンは大きく美しく,CPUは高速でコントロールデバイスも優れています。ハードウェアはゲーマーにアピールする素晴らしいものを作っていますが,問題はもっと別のところにあるようです。
Vitaの問題は,市場にはスマートフォンとは別に携帯ゲームの需要があるはずだという前提で事業を計画したというところにあるのではないでしょうか。いまは誰でもスマートフォンを持っていますよね。子供でさえスマートフォンをほしがっているという世の中で,それとは別に携帯ゲームデバイスが必要なのか? という問題になってくると思います。
4Gamer:
Sweeneyさんは,先日の講演でも,さまざまなデバイスを紹介されていて,ゲーム以外にも目を向けているのかなという印象を受けました。Epic Gamesとして,ゲーム以外のエンターテイメントやツールといったものに興味をお持ちなのでしょうか?
もちろん興味を持っています。実際すでにUEは,例えば建築のウォークスルーなど,ゲームとは関連のない分野でも使われている例がありますし,3Dの描画技術自体,ゲーム以外にも使われています。今後もっと広がっていく可能性があるでしょう。
とくにAR技術が発展して一般的になれば,すべてのものを3Dで描画する必要がありますから,我々のビジネスチャンスが広がってくるでしょう。技術が進むに連れ,ゲームとゲーム以外のジャンルの境目があいまいになっているので,我々ゲーム開発者にとって,もっとエキサイティングな時代になると期待しています。
ヘッドマウントディスプレイは文明をも変える?
4Gamer:
CEDECの講演では,かなりヘッドマウントディスプレイ(以降,HMD)に興味を持っているように見えましたが。
Sweeney氏:
昔からHMDには興味を持っていたのですが,そもそもHMDのような機械が最初に考え出されたのは1980年代にまで遡ります。これまでに,何度かあの手の商品が発売されてきましたが,すべて失敗してきました。その理由は,いままでに出たHMDの技術が,没入感を提供するのに十分なレベルに達していなかったことにあると思います。
現代の技術は,それを可能にするレベルにありますので,今後数年の間にはHMDのようなものが,実際のビジネスにつながる状況が整うでしょう。
また,AR技術によって,現実の世界と眼鏡越しにコンピュータが描いた情報をミックスして表示するという時代が,すぐそこにてきているように思います。
4Gamer:
ところで,HMDには没入型と,現実の世界に情報を付加するタイプ,バーチャル型ともいえる2通りのタイプがありますが,どちらにより興味を持っていますか?
Sweeney氏:
長期的には後者のほう,現実世界に情報を加えていくバーチャル型のほうに強い興味を持っています。HMDがメガネのような形になれば,もう文明を変えられるくらいの存在になるんじゃないかと。
メガネのような,簡単に装着できるデバイスになれば,誰もが24時間装着していられますし,何か調べ物をしたり,情報を得たり,情報を交換したりといったことが,すべてHMDを通して行えるようになるので,文明レベルの変化が起こってくるんじゃないでしょうか。
一方,没入型のHMDの用途は,ゲームくらいに限られそうです。
日本には10年間HMDをつけて生活しているという大学の先生(編注:神戸大学工学部電気電子工学科 塚本昌彦教授)がいるんですが,その先生がCEDEC 2012で講演していまして,2,3年のうちにHMDがポピュラーになると主張していました。そのうち,現在の形のスマホなんかはなくなると。
Sweeney氏:
可能性はあると思います。いまポケットに入っているスマートフォンやゲーム機の出力がHMDになったり,メガネに形を変えるだけですから。非常に多くの企業が鎬を削ってスマートフォンを開発しているわけですから(同じようにHMDが2,3年のうちにポピュラーになる)可能性はあると思います。
4Gamer:
バーチャル型のHMDを生かすアイデアを何かお持ちですか?
Sweeney氏:
例えば,スマートフォンにはWordLenzという,外国語のテキストにかざすと自動で翻訳してくれるアプリケーションがあります。ああいうものがメガネやHMDに実装されればとても便利になるでしょう。いまのWordLenzは,ただの玩具というか,使ってみて興味深いという程度のものですが,メガネに実装されれば世界を変えるアプリケーションになれると思いますね。
このように,いままでは「単に体験としては面白かったが実践的でなかったり不便だったり」というレベルで終わっていた技術が,HMDによって本当に実用的で日々の生活を変える技術になっていくでしょう。
また,スマートグラスやHMDが一般的ものになれば,市場にも大きな変化が起きるでしょうね。テレビもいらなくなりますし,ディスプレイもいらなくなります。HMDにいつでも情報を映し出せるようになるので,そういったものが必要なくなりますから。
それは同時に,大型のLCDを使わなければならなかったのものが小さなメガネで済むので,より経済的になるということでもあります。これまではゲーム機やPC,スマートフォンといったいろいろなデバイスを使い分けていたものが,すべてメガネ一つで済んでしまうという時代になる。没入してプレイするような家庭用ゲーム機ならではのゲームも,メガネだけでプレイできてしまうようになれば,ゲーム業界も大きく変わるでしょうね。
4Gamer:
では入力デバイスについてはどんな進化があると思いますか?
それは用途とシチュエーションによって変わってくるでしょう。さまざまな形が考えられます。
例えば,手の動きでコントロールしたり,マウスはなくても机の上で手を動かすと操作できたり,フィードバックが必要ならフィードバック専用のデバイスを持ったり……さまざまなパターンがあるでしょう。
この分野(モーションセンシング)の技術の進歩は非常に速いですから,数年のうちにKinectより高速で高性能,正確な検出ができるデバイスが出てくるはずです。指の動きを1本1本検出することで,例えばキーボードがなくてもキーボードが打てたりというようなことが普通にできるようになるかもしれません。無限の可能性がある分野ですから,今こうなるだろうという予測を立てるのはとても難しいですね。
4Gamer:
現在のゲーム機は,出力側(画面やグラフィックス性能)では各社にそれほど差はなくなってきていますが,入力側(コントローラ)は各社独自のものを出しています。こういったものはゲームエンジンを開発するうえで障害にならないのでしょうか?
Sweeney氏:
さまざまなコントローラが各社から出てくるというのは,非常にエキサイティングで楽しいことだと思っています。
確かに,いろんな入力があることが障壁になることもあります。例えば,Infinity Bladeはタッチスクリーンで快適に遊べるようにデザインされていますので,家庭用ゲーム機に持っていくのは非常に難しいでしょう。逆にシューティングゲームをタッチスクリーンのデバイスに持ってくるのは,非常に難しいですね。
そのような,移植やゲームをさまざまなデバイスで提供するということについて,入力デバイスが障壁になることもあります。
しかし,さまざまな会社がさまざまなイノベーションを試しているということには価値があると思います。今のように,さまざまな形が試された結果,将来これがベストだという究極の入力システムがいずれ誕生してくるでしょうから。
4Gamer:
その究極の入力システムとはどのようなものになると思われますか?
それに答えるのは非常に難しいですね。
非常に長い期間……数年ではなく十年といった単位で考えると,最終的にはAR技術が入力システムに統合されていくだろうと思います。例えば,机の表面で手を動かすとマウスの代わりに精密にコントロールができるデバイスとか,空中でジェスチャーすると,もう少し大雑把な操作ができたりするような……AR技術を使うことで,そういう入力が可能になるという方向に行くと思います。
あとは声ですね。音声認識,音声入力はここ最近,非常に速い速度で進化していますから,近い将来,もっと実用的なものが現れるでしょう。例えば,電子メールを打つにしてもタイプするのではなく声で入力するというようなことは,近い将来,実現されるはずです。
ジェスチャーや声だけでなく,それをARと組み合わせることでバーチャルなキーボードやマウス,さらにほかのシステムをバーチャルに表示して,なおかつ十分なビジュアルフィードバックを得るということも可能になるかもしれませんね。
4Gamer:
こういった未来予測は聞いているだけでワクワクしてきますね。
本日はありがとうございました。
以上,Tim Sweeney氏との話をまとめてみたが,まずUE4が幅広いゲームに対応できるスケーラビリティを持つという点には注目しておくべきだろう。UE4というと,ダイナミックGIによる美麗なグラフィクスを駆使したデモが目を引くだけに,ビッグタイトル向けのゲームエンジンと見られがちだが,それ以上に,ゲームの制作効率を上げるような機能も豊富に備えているという。
それだけに,無償で公開されるUDKのバージョンアップは大いに期待したいところ。ゲーム制作に興味を持っている4Gamerの読者もチャレンジしがいのある開発キットになってくれるのではないだろうか。
また,Tim Sweeney氏が家庭用ゲーム機の将来に自信を持っているあたりも興味深い。スマートフォンを始めとするモバイルデバイスが非常に盛り上がっている昨今,家庭用ゲーム機の先行きには懐疑的な人も少なくないと思うが,Sweeney氏は,そうは考えていないようだ。逆に,スマートフォンの普及をゲームプラットフォームの広がりと前向きに捉え,ゲームやその技術に対して明るい未来を描いていたことが印象的だった。Epic Gamesのタイトルもさまざなプラットフォームに広がっていくということだろう。「優れたもの,価値のあるものを作る」という同社のフィロソフィーが反映された今後のタイトルにも期待したい。
(2012年8月24日収録)
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