レビュー
5000円で買える多機能キーボードは使えるか
OWL-KB119GM(B)
10個のマクロキーを備え,さらにメディアボタンなどを搭載し,実勢価格は5000円前後(※2010年2月20日現在)。公式ライセンス品ではないものの,PlayStation 3とWiiへの対応も謳われるゲーマー向けキーボードは,ゲーム用途で新たな選択肢となり得るのか。使い勝手を中心にチェックしていきたい。
若干変則的な日本語119キー配列を採用
それをマクロキーとホットキーが左右から囲む
さっそく,OWL-KB119GM(B)の全体を俯瞰してみよう。下に写真で示したとおり,本機は,日本語フルキーボードを,左右から特殊キーやボタンが囲むようなレイアウトになっている。
一方,大きさの割りに,本体は大変軽く,本体重量はケーブル込みで790g,ケーブルを重量計からどかした参考値では520gしかない。底面に滑り止めのゴムが用意されているので,設置感はそれなりにあるのだが,傾斜を調整するためのチルトスタンドには滑り止めが用意されていないので,チルトスタンドを建てると,やや頼りなさを感じることになる。
また,チルトスタンドに関連したところだと,キーボード面の傾斜がほとんどない点は少々気になった。奥側の高さはキートップを含まず24mm程度。対して,最も手前部分だと同21mmだから,キーボード面の手前と億には3mmしか高さの違いがないことになる。パームレストが盛り上がっていることもあって,体感ではさらに“傾斜感”は薄れる印象だ。
傾斜を好むユーザー向けにチルトスタンドは用意されているものの,立てても奥側が5mm高くなるだけで,全体的に傾斜は緩やかな点は,好みが分かれるだろう。
一般的なPC用キーボードだとあるべき場所に[Windows]キーがなく,右[Alt]キーの右に“追いやられて”いる |
Razer Tarantula。詳細はレビュー記事を参照してほしい |
ただ,そのほかのポイントに個性を見い出すのはちょっと難しいかもしれない。というのも,OWL-KB119GM(B)の全体的なデザインは,Razerブランド初のキーボード製品で,2006年発売の「Razer Tarantula」とそっくりのキー配列設計だからだ。
メインのキーボード部を,左右5個ずつ,計10個並んだ「マクロキー」が囲み,さらにその外を,特定のアプリケーションに対応した計14個のショートカットボタン「ホットキー」が囲むという仕様は,キーやボタンの名称,そしてボタンの機能こそ異なるものの,Razer Tarantulaと完全に同じ。
この配列だと,どうしてもキーボードの横幅を広く取らざるを得ないのだが,それを少しでも短くすべく,[Delete][End]キーなどのブロックを,コンパクトキーボードなどでよく見られる縦長の配置にしているのもRazer Tarantulaと同じである。
一方,大多数のオンラインゲームでは,ソフトウェアベースの外部ツールを利用することが禁じられている。一部には,アンチチートツールが機能し,ドライバが動作しているだけで弾かれる場合もあるため,少なくとも国内で,オンラインゲーム用に使うのはまず無理だ。
ならばFPSなどのアクションゲームならどうかというと,今度はマクロに使い道がないうえ,キーのカスタマイズ機能はたいていゲーム側に用意されているため,実質的に,これらを使う機会はまずないだろう。
続いてはショートカットボタンとして用意されるホットキーだが,利用できる機能は下記のとおりだ。
ご覧のとおり,ほぼゲームとは無関係。基本的には,多機能キーボードにありがちな,そして,まずもって使うことのなさそうなボタンが並んでいるという理解でいい。
使い道がありそうなのは,ボリュームコントロールとミュートなので,今回は
筆者が普段のゲーム用に用いている32bit版Windows 7ベースの自作PCと,テストのために32bit版Windows 7をクリーンインストールした自作PCの両方で試したが,残念ながらどちらも利用できなかった。対応OSはWindows XP/Vista/7となるOWL-KB119GM(B)だが,マニュアルに「OSだけでなくマザーボードの機能にも依存しますので、対応OSでもご利用いただけない場合があります」(※原文ママ)と書かれているので,この影響かもしれない。
ただ,いずれにせよ,ホットキーには,「メインキーやマクロキーよりも一段低い位置に置かれているので,ゲーム中に“誤爆”してしまう可能性が低い」という点を除けば,あまりメリットはなさそうな気配である。
押下圧30gで軽快な打鍵感を実現
「最大6キー同時押し対応」は効果ありだが弱点も
メインキーボード部のキーストロークは6mmで,キースイッチが反応する深さは3mm程度となっている。一般的なPC用キーボードと比べるとやや浅めだが,特別に浅いというほどではない。
それに対して,キーの押下圧は,錘(おもり)を使った実測で30g前後。一般的なPC用キーボードだと40〜50g程度に設定されていることがほとんどなので,かなり軽い。OWL-KB119GM(B)に触れれば,ほとんどの人は「軽いな」と感じるだろう。
キーのバネは,メンブレン式キーボードで広く利用されているゴムキャップ。ゴムの材質や厚さを工夫して,30g荷重という,軽いキータッチを実現しているのだろうが,押し下げ始めに,(言葉にするのは難しいのだが)「ぽこっ」という感覚の,わずかな抵抗があるのが特徴といえる。
ゴムキャップだけに底突きはなく,力強くキーを叩くタイプの人でも,指を痛める心配はなさそうだ。
実際にゲームで使ってみての反応も上々である。
ごくごく一般的な19mmキーピッチを採用し,かつキーがグラついてしまうような不体裁もないため,いい意味で,何も言うことがない。軽いタッチのゴムキャップを採用している以上,長期的にはメンブレンスイッチの耐久性に懸念は残るが,こればかりは長く使ってみなければ分からない。メンブレンスイッチを採用するキーボードは,どれも似たような懸念を抱えているのも事実なので,このあたりはユーザーの考え方次第だろう。
例えば「しゃがみ斜め移動中の武器変更」など,とくにFPSでは,3〜4程度のキーを同時押しするケースが頻発するため,ゲーマー向けキーボードでは,「キー何個の同時押しに対応できるか」が大変重要なポイントになる。一般的なPCユーザー向けキーボードでは最大3キーの同時押し対応がせいぜいになるが,ゲーマー向け製品では,高級モデルだと,全キー同時押し対応を謳うものさえ存在する状況だ。
そういった状況におけるOWL-KB119GM(B)の立ち位置はどうかというと,公式に,[W/A/S/D]を中心とした16キーにおいて,最大6キーの同時押しが可能だとアナウンスされている。
同時押しに対応可能なキーの範囲に制限がある製品としては,冒頭でその名を挙げたGMKB109シリーズがあり,あちらは21キー。ただ,GMKB109シリーズでは,[Shift][Ctrl][Alt]キーが同時押し対応としてカウントされているので,実質的な違いは2キー分というわけだ。
では,実際の使い勝手はどうなのか。今回は「Enemy Territory: Quake Wars」(以下,ETQW)「Left 4 Dead」「Quake Live」といったFPSをプレイしてみたが,[W/A/S/D]キーと[Space]キーを組み合わせたジャンプ移動や,[Shift]キーを組み合わせた加速といった操作は,同時押し対応周りのサポートがない一般PCユーザー向けキーボードと比べて,確かにスムーズだ。また,筆者はETQWとQuake Liveで,数字キーに武器変更を割り当てているのだが,この操作感も,一般的なキーボードと比べて反応がいいことを体感できる。
しかし,全体として,どうもしっくりこない。その原因は何かといろいろ試行錯誤してみたのだが,答えは,ETQWやLeft 4 Deadでリロードに割り当てられる[R]キーや,Useコマンドに割り当てられる[F]キーといった,比較的頻繁に使うキーを操作するとき,引っかかりが感じられる点にあるようだ。
[R][F][V]キーの列,せめて[R]キーだけでも同時押し対応してくれていれば,印象はかなり変わったはずで,この仕様はやや残念である。
同時押し対応を実現するには,キースイッチ基板上にあるキーボードマトリクスを,通常のキーとは異なる組み方にしなければならないなど,相応のコストがかかる。低価格で,同時入力対応を可能にしようとすれば,ある程度の制限を持たせながら実現するのが現実的な解となるわけで,OWL-KB119GM(B)で実現されていることは,少なくとも間違いでは決してない。先ほど述べたとおり,同時入力が可能な範囲での使い勝手は良好なので,自分のプレイスタイルと合致するかどうかで,ゲーム用途における本機の評価は大きく変わるはずだ。
“多機能キーボード”としての用途は見いだせないが
この価格でキーの軽さと複数キー同時押し対応は魅力
以上,OWL-KB119GM(B)の使い勝手を中心にチェックしてきた。ゲーム用キーボードとしては,GMKB109シリーズの価格的なインパクトが大きいこともあって,実勢価格5000円前後の本機を「エントリー向けとしてコストパフォーマンスが高い製品」と,定型の表現で片付けるわけにはいかない。また,ウリの一つであるマクロキーやホットキー,メインキーのカスタマイズ機能といったあたりが,ゲーム用途ではほとんど使い物にならない点も,評価を下げる一因になってしまっている点は否めない。
一般的には軽いキータッチのほうが素早く押下できるので,アクション性の高いゲームをプレイするなら,キータッチは軽いほうがいい。この一点に,GMKB109シリーズにはない魅力を感じる人で,かつ,導入コストはできる限り低く抑えたいという場合に,OWL-KB119GM(B)は選択肢となるだろう。
店頭価格が4000円を切るようなら,より面白い存在になれると思うのだが……。
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