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同人ゲーム開発の現在と将来を探る研究会をレポート。いま,同人ゲームの抱えている問題点とは?
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印刷2009/05/08 18:31

イベント

同人ゲーム開発の現在と将来を探る研究会をレポート。いま,同人ゲームの抱えている問題点とは?

IGDA日本 同人・インディーゲーム部会 第1回研究会
「同人・インディーゲーム開発の現状と課題」をレポート


 さる2009年5月2日,東京の文京学院大学,本郷キャンパスにおいてIGDA(International Game Developers Association)日本が主催する研究会,「同人・インディーゲーム開発の現状と課題」が開催された。これはタイトルどおり,現在の日本のインディーゲーム開発に関し,実際にフリー/同人ゲームを作っているクリエイターに講演をしてもらうという企画であり,連休中にも関わらず会場には160名近い参加者が詰めかけた。

※4Gamerでは自主制作のゲームを通常「インディーズ」と表記しますが,本稿ではIGDAジャパンの講演タイトルに従って,「インディー」としています。

 講演を行ったのは,長健太氏(ABA Games),渡辺訓章氏(kuni-soft),藤崎豊氏(フランスパン),片岡とも氏(ステージなな)の4名。

講演に先立ち,東京工業大学の七邊信重氏によって,日本のインディーゲーム史が発表された
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 講演でおおむね共通していたのが,インディーという立場でゲームを作ることへのモチベーション維持の難しさである。これは個人であっても,グループであっても同じようで,ほとんどの講演者が「『こういうものを作ろう』と言うのは簡単だが,完成させるのは難しい」と述べていた。
 実際,筆者も大昔に趣味でプログラムを組んでいたことがことがあるが,ゲームを作るのは相当に根気が必要な作業である。しかも,作ったからといって面白いゲームになるとは限らないし,ちゃんと動くはずなのに動かないといった問題は日常茶飯事。新しい機能を追加したら突然破綻したという経験にも事欠かない。「9割はお蔵入りになる」という言葉には,深く頷けるものがあった。


上の写真の七邊氏がまとめた「インディーゲーム開発の問題点」。いずれも会場から共感を伴った笑いが起きていた
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 また,インディーゲームの強みとして,「商業作品にはない尖った作品が作れること」「自分が作りたいものを最優先して作れること」を挙げていたのもほぼ共通していた。
 インディー特有の尖り方というのは,インディーをベースに商業化された作品にも見受けられる。例えば,「Portal」はもともとゲーム専門学校の生徒達が卒業制作として作ったゲームを製品化したものだが,類作のないゲームシステムが高い評価を得た。ある意味,インディーゲームが持つ尖り方を色濃く残しつつ商業化に成功した例といえるだろう。
 また,なかには商業化なんて絶対無理と断言できるくらい突っ走っている作品もあり,そういうものを作ったり探したりするのもインディーゲームの楽しみの一つだ。
 こういった尖りっぷりは,しばしば世界的な注目を集めることすらある。最近では,「大統領に靴を投げるゲーム」およびそのクローンがその典型例と言えるだろう。


「ゲーム制作のハードルが高くなっている」


 興味深かったのは,講演者が口をそろえて「最近ではゲームを作るハードルが高くなっている」と述べていることだ。ここには,二つのハードルが存在している。

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長健太氏(ABA Games)。ユーモラスな語り口で会場を大いに沸かせた
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渡辺訓章氏(kuni-soft)。グループでのゲームを開発する際に特有の問題が議論された
 一つめのハードルは,ゲームを作る技術である。かつて,PCには「BASIC」のような簡単な言語が付属しており,多くのユーザーはそれを利用して自分なりのプログラムを作って楽しんでいた。
 電波新聞社の「マイコンBASICマガジン」(通称ベーマガ)はこういった自作ゲーム制作者にとってバイブル的な雑誌で,講演でもしばしばこの雑誌名が一つの世代を象徴する意味合いで(「I/O」や「Oh!X」ともども)引き合いに出されていた。当時はBASICが標準的なプログラム言語で,アセンブラを使うのは「上級者」と目されていた――それくらい,ゲームプログラミングは気軽な趣味だった。
 しかし,現状ではOSやハードウェアといったPC環境の複雑度が飛躍的に増大し,なにより,それらの技術が更新される頻度が著しくなっている。扱いやすい高級言語も出てきてはいるが,サンデープログラマーとして趣味でゲームを作るといった行為は難しくなった。

 もう一つのハードルは,ゲームそのものだ。近年,同人/フリーゲームのレベルは,とくに先端部分において非常に向上している。また,いうまでもなくコンシューマー/PCゲームの進歩は日進月歩そのものだ。
 これにより,いざ「ゲームを作ろう」という場面において,いきなり高望みをするケースが増えている。それほどでなくとも,「ほかのゲームが標準的に備えている機能くらい持たせたい」と思ったとき,それが意外と高度な技術を要求する場合も多い。
 同様に,プログラミング以外の部分,例えばゲームのコンセプトデザインや,実際のレベルデザインにおいて,想像以上に高度な技術の要求がなされる場合もある。この場合,企画はごく抽象的な段階で頓挫しかねない。

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藤崎豊氏(フランスパン)。グループにおけるプログラマとしての仕事や進行のありかたが語られた
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片岡とも氏(ステージなな)。「同人ゲームにおいて,モチベーション危機はありません。なぜなら同人ゲームは自分が作りたいから作っているのであり,モチベーション危機が発生するならそもそもそれは何かが違っています」という言葉には重みがある
 後者の問題は,一見するとそういう問題が絡まなさそうなノベルゲームにおいても存在するという。具体的には,グラフィックスやサウンドにかかるコストの問題である。
 ほかの作品と比べたとき,明らかにグラフィックスの枚数が少なかったり,音楽がフリー素材をひたすら使いまわしているだけだったりということが繰り返されると,当然ながら受け手は「がっかりした」という感想を抱かざるを得ない。
 しかしそこで「がっかりさせない」ためにグラフィックスの枚数を充実させようとすると,今度は予算の問題が表出する。講演会のあとで行われたパネルディスカッションに参加した「ごぉ」氏(ぶらんくのーと)は,この経費問題を指して「なんで同人をやってるのか分からない」と発言している。

 これは,「ゲームのボリューム」という,別の視点からの問題にも繋がっていく。とくにノベルゲームで顕著だが,一つのゲームはどれくらいのボリュームを持っているべきなのか。一つのゲームが何十時間も遊べる(遊べるべき)という状況は,本当に健全なのか,ということだ。
 この問題は,一筋縄ではいかない部分を持っている。だが,ステージななの片岡氏が指摘する「ストーリーを楽しむならば,3時間で十分であり,それ以上は長すぎる」という見解は,正論であるように思う。事実,映画だって4時間クラスの超大作となると疲労のほうが濃くなってくるものだ。
 ストーリーに限らず,ゲームの「量から質への転換の必要性」はGDCでも議論されており,今後のゲーム制作における一つのメインストリームになっていく可能性が高い。


作品を見せられないという問題


 これとは別に,共通した問題意識として挙げられていたのが,「作った作品を広告する場所がない」という点だった。
 かつては同人/フリーゲームのニュースサイトが存在したが,近年ではそれらのサイトは更新停止になるか,あるいは更新速度が大幅に遅くなっているという。パネルディスカッションに参加するクラスの,いわゆる「大手クリエイター/サークル」であれば,そういったニュースサイトの縮小による影響はあまり感じられないということだったが,実際に同人ゲームを作っている参加者からは,「ニュースサイトの縮小からこのかた,ゲームを掲載しているサイトへのアクセスが激減した」という声が出ていた。
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澤田進平氏(筑波大学)。近年になって減少傾向にある大学における同人ゲームサークルの交流を促進するため,「全日本学生ゲーム開発サークル連合」を立ち上げた
 とはいえ,こういったニュースサイトは個人が趣味で行っているものであり,発表されるタイトル数の増大とともに,個人で捌ききれなくなるのは自明だ。また,非常に赤裸々な発言だが,「ヒット数が欲しいなら,同人ゲームの紹介サイトよりはPGゲーム(いわゆる18禁ゲーム)の紹介サイトを作ったほうが確実」という意見も出ていた。
 これに対しては,同人/フリーゲームを紹介するwikiを立てるのが一番いいのではないかという意見が出されており,ひとつの手段としてそれはあり得るだろうという結論が得られたようだ。

 もっとも,個人的な意見をいうならば,そういったwikiは確実に機能するだろうが,利用者が増えれば増えるほど維持コストが等比級数的に増大していくのが定めである。ゲームの紹介ともなれば,最低でも数枚のスクリーンショットは掲載したいだろうし,できるべきだろう(不思議と日本の同人ゲームにはスクリーンショットを伴わないサイトが多いとはいえ)。そうなったとき,データ転送量がどれくらいになるのか,そしてそれを個人で賄いきるだけの財力と熱意を投じ続けられるかという生臭い問題は必ず発生する。当然ながら,「荒らし」への対応もコストに含まれていくだろう。
 むしろ,会場でも指摘があったが,iPhoneのアプリケーション販売システムなど,すでに軌道に乗っている「同人/フリーゲームの情報・販売サイト」は存在している。このように,最終的には情報を頒布する側にも提供する側にも,金銭的な循環が発生する環境を作らなければ,長続きさせるのは難しいだろう。もちろん,長続きさせる必要などなく,その時代に応じて何か便利なものがあればそれでいい,という見方も当然あって,それはそれで正しいと思うが。

ちょっと前後するが,講演に先立ち,IGDAジャパンの新清士氏によるIGDA/IGDAジャパンおよび,その研究会であるSIG-Indieについての説明があった。また,海外の同人ゲームの現状なども説明された。上はそのとき使われたスライドの一部
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「コンピューターを使う」とは?


 このほか,さまざまな論点が議論された講演会だったが,全体として参加者全体の高い意欲を感じさせるイベントになっていたと思う。会場には実際にフリー/同人ゲームを作っているクリエイターも数多く来場しており,おたがいに良い刺激になったようだった。
 上でも少し触れたが,インディーレベルでのクリエーション,およびその手法は,商業レベルのそれらに比べて曖昧だったりいい加減だったりする印象があるが,実のところその本質において大きな差はない。ゲームのボリュームに関する議論は商業レベルでの議論とまったく同じ観点から為されているし,開発にあたって可能な限り素早くプロトタイプをつくり,ダメそうだったらとっとと破棄するといった「サンデープログラマーなら当たり前」の作法は,いまやゲーム制作現場における一般的な手法として体系化されつつある。

三宅陽一郎氏(フロムソフトウェア)司会によるパネルディスカッション。さまざまな議題が,参加者からの意見を交えながら討議された
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 先にPortalの例を引いたが,アメリカではGDCを草刈場として,インディーゲームが商業化される流れは珍しくないという。事実,「World of Goo/グーの世界」は,今年のGDCでも大きな注目を集める作品となった。もう少し小さいプログラムであれば,ゲームマシンとしてのiPhone市場の活発ぶりはよく知られている(携帯電話としてそれでいいのかと思わなくもないが)。
 こういった草の根レベルでのゲーム文化が活性化していることは,産学一体で進行している商業レベルでのゲーム文化の進展と同じくらい,重要なことだ。こと趣味の世界においてはなんでもそうだが,最終的にたどり着く先は「自分で作ってみる」ことであり,個人レベルで言えばそれが時間あたりの費用対効果に最も優れている。

 かつて,ベーマガにおいては,「コンピューターを使う」とは「コンピューターでプログラムを組む」とされ,「コンピューターでソフトを使う」のは別の行為だとみなされていた。さすがに現状においてその「常識」に戻ろうとは思わないが,ベーマガ世代の一員として,古い意味での「コンピューターを使う」楽しさが,さまざまな形でもっと広がっていくことを期待したい。
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