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今は冬だがカナダが熱い。「カナダのデジタルコンテンツ最新動向報告会」レポートを掲載
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印刷2008/01/18 23:32

業界動向

今は冬だがカナダが熱い。「カナダのデジタルコンテンツ最新動向報告会」レポートを掲載

画像集#017のサムネイル/今は冬だがカナダが熱い。「カナダのデジタルコンテンツ最新動向報告会」レポートを掲載
広大な国土と豊かな自然を持つカナダ(写真はイメージです)
 まずはクイズを一つ。以下のゲームおよびソフトウェアの共通点を挙げなさい。
 「アサシン クリード」「ニード・フォー・スピード プロストリート」「シベリア」,そして3D制作ツールの定番,「3ds Max」と「Maya」。まあ,ちょっと上のほうを見ればタイトルに書いてあるのでバレバレだが,答えはすべて“メイド イン カナダ”であることだ。ビックリしました? 「カナダ」と聞くと「シマリス」しか連想できない筆者のような人々にとって意外なことに,いつの間にやらカナダは押しも押されもせぬゲーム大国になっていたのである。
 というわけで,1月17日5時PMから東京赤坂のカナダ大使館で開催されたのが「カナダのデジタルコンテンツ最新動向報告会」だ。タイトル長いです。
 これは,2007年11月24日から12月5日にわたり,カナダのデジタルコンテンツに関する最新動向を調査するため彼の地に派遣された調査団の帰朝報告として行われたもので,調査団はモントリオールで開催された「モントリオールインターナショナルゲームサミット2007」に参加したほか,30社以上の現地企業,複数の高等教育機関,そして政府関係者とのミーティングを行ったとのこと。ちなみに,会場となったカナダ大使館内オスカー・ピーターソン・シアターに集まった観衆は,メディア関係だけでなくゲームメーカー関係者,投資企業の関係者など。これまであまり知られることのなかったカナダ事情について耳を傾けたのである。

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新 清士氏
画像集#011のサムネイル/今は冬だがカナダが熱い。「カナダのデジタルコンテンツ最新動向報告会」レポートを掲載
小野憲史氏


講演1:「なぜカナダのゲーム産業クラスターは強力に発達したのか?」


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ヒットマンの47号ではなく,カナダ大使館のステファン・ボーリュー氏。日本語ペラペラ
 カナダ大使館のステファン・エンリック・ボーリュー氏の挨拶に引き続いて登壇したのは,ゲーム産業をフィールドとするフリージャーナリストの新 清士氏。
 「カナダのゲーム事情についてはほとんど知りませんでしたが,実際に訪れてみるとまさに目からウロコが落ちる思いでした。なぜ,いつの間にこうなったのかを考えてみたいと思います」と報告を始めた。
 調査によると,家庭用ゲームの市場規模の推移は,2001年の段階で日本が最大。北米とヨーロッパがそれに続くという構図だったのだが,正確な数字が得られている2005年にはその順位が逆転し,北米,ヨーロッパ,日本の順になっている。わずか5年ほどで北米とヨーロッパの市場規模は2倍に膨らんだのだが,日本は横ばい状態。では日本のゲームソフトの海外輸出が伸びているのかといえば,それもまたほとんど変わりはない。こうした北米,ヨーロッパ市場の拡大に大きく寄与しているのが,上位三地域以外で制作されるゲーム,なによりカナダ産タイトルであると新氏はいう。
 実際,イギリス貿易投資総省(UK Trade & Investment)の調査によると,ゲームなどのデジタルコンテンツに関して2007年,カナダは世界第3位に躍進した。これは同省が「投資先として見た各国」を各種数値から格付けしたランキングであり,必ずしも市場規模や輸出量とパラレルではないにしろ,一位のアメリカ,二位の日本に次ぐ順位は驚きだ。
 こうした事実は,よほど積極的に資料を渉猟しない限り,聞こえてくるものではなく,新氏も,行って話して初めて分かったことが非常に多かったとのこと。
 カナダの強さについては,以下のような点を挙げる。

世界的な有力スタジオを持っており,

世界クラスの新しいIPを生み出せること


 Ubisoft Entertainmentのモントリオールスタジオや,バンクーバーのEA Canadaなど,北米およびヨーロッパの主要パブリッシャのスタジオが今やカナダに置かれている。

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Ubi Entertainmentのモントリオールスタジオ
 ケーススタディとして新氏が取り上げたUbiモントリオールは,当時不況に苦しんでいたケベック州の強力な誘致によって1996年に立ち上げられた。フランスを本拠とするUbiとしては,同じフランス語圏であることや,州政府の援助,市場であるアメリカへの近さなどが魅力だったらしい。とはいえ,開設当時は子供向けのソフトを細々と作る10数人規模の小さなスタジオだった。転機が訪れたのは1997年,パブリッシングだけでなくインハウスのゲーム制作を拡大しようとパリが決定してからだ。手っ取り早く開発力をつけるため,2000年にはレインボーシックスシリーズで知られるRedstorm Entertainmentを買収し,また「プリンス・オブ・ペルシャ」や「Myst」といったIPを獲得してスタジオの拡大が始まった。
 新氏によれば,モントリオールスタジオはElectronic Artsにならった「PCで培われたテクノロジーをコンシューマ機に積極的に採用していく」という方針を採ったことで,マルチプラットフォーム展開や独自エンジンの開発などを早くから模索していたらしい。その方針が功を奏したのが2002年にリリースされた「スプリンターセル」だった。Unreal Engine 2.0を徹底的に改造して作り出した光と影の演出は,世界累計で600万本以上の販売実績という大ヒットにつながり,モントリオールスタジオを一躍Ubiのトップスタジオに押し上げたのである。
 現在では1600人のスタッフを擁する世界でも最大規模のスタジオに成長し,数年以内にさらに1000人の増員を図っているとのこと。フランスやほかの国の開発スタッフが総勢で300人程度なのに比べ,Ubiのゲーム開発の中心がモントリオールにあるのは今や間違いなく,ケベック州が行ったスタジオ誘致の成功例として特筆できる。

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EA Canada。まるで大学のような雰囲気
 また,Electronic ArtsのカナダスタジオであるEA Canadaは,EA Sportsが数々のスポーツゲームのヒット作を量産する一方,EA Black Boxがニード・フォー・スピードシリーズという日本でもよく知られるタイトルを制作している。バンクーバーのEA Canadaは,そのスタッフ実に2000人という,おそらく単一のスタジオとしては世界最大であり,EAの収益の40%近くを上げていたときもある。
 さらに,バンクーバーには「Scarface: The World is Yours」などを作ったRadical Entertainment,「Company of Heroes」でヒットを飛ばしたRelic Entertainmentなどがある。モントリオールのEidos interactiveは,今後3年のうちにスタジオを300人体制に持って行く予定であり,ここでシリーズ最新作「Deus Ex 3」の開発を進める。
 さらに見逃してはならないのが,「Softimage」「3ds Max」「Maya」といった定番3D制作ツール御三家がカナダで作られている点だ。3ds MaxとMayaを作るAutodeskの本社はアメリカだが,開発スタジオはトロント。Softimageも現在はアメリカ企業に買収されているが,モントリオールで設立されたSoftimage社が作り出してきたツールだ。これらカナダ製のソフトウェアを使っていない日本のメーカーはないはずだ,と新氏は言う。
 ほかにも,音楽ツールを制作するスタジオや,ゲームのマルチプレイ部分だけを担当するスタジオなど,大きなスタジオを中心に複数の中小メーカーが一つの産業クラスターを形成している。こうした底支えがあるため,カナダのゲーム制作条件は非常によいのだ。

低い給与や経費の安さ


 新氏によると,たとえ小さなスタジオであっても,内部はかなり広い。かつて紡績工場だったというUbiモントリオールはまさに「でか!」だそうだ。個人のスペースもゆったりしており,仕事環境はとても良好。地震の少ない土地柄なので,古い建物がそのまま残っており,それらを安く借り上げられるそうだ。
 そんなわけで,例えば「Tom Clancy's Rainbow Six: Vegas 2」では100人以上のスタッフが一か所で仕事をしており,壮観そのもの。その代わりといってはナンだが,多くの建物はとても古く,中にはカナダ建国以前に建てられたビルの中で仕事をしているメーカーもあるらしい。

 カナダはまた,人口の90%がアメリカ国境付近に住んでいるという地の利がある。カナダ東海岸のモントリオールやトロントは,同じカナダ西海岸のバンクーバーよりニューヨークやボストンとの結びつきが深く,その文化圏に属する。同様にバンクーバーはアメリカ西海岸と指呼の間にあり,シアトルやロサンゼルスのメーカーがスタジオを置くのに適している。
 人件費もアメリカより安いが,その点に関しては昨今のカナダドル高(というか,アメリカドルの価値が下落しているのだが)のせいで,なんともいえなくなってはいる。あくまでアメリカと比べての話であり,近頃ゲーム制作で名を馳せつつあるオーストラリアやシンガポールに比べれば高い。その点を補っているのが,州政府による助成だ。

州政府の援助と産学協同


2001〜2005年の世界の市場規模の動向
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 カナダの特徴の一つは州の独立性がきわめて高く,連邦政府の権限は相対的に小さいことだ。そのため,ゲーム産業に対する州政府の支援策の多くは小回りが利き,キメが細かいと新氏は語る。中でもケベック州のサポートはきわめて強力とのこと。
 例として挙げられたのがモントリオールのUbi Campusと呼ばれる学校だ。これは地元の大学と共同で設立されたもので,グラフィッカー,プログラマー,レベルデザイナーなどを養成する職能訓練学校である。民間企業が自社で雇用する社員の育成を行う学校を設立するにあたり,ケベック州は400万カナダドルを負担したという。
 ちなみに,大学のコンピュータサイエンスのコースにゲームを取り入れることは,日本以外のほとんどの国で行われていることで,成績のいい学生がゲーム産業に就職することも日本ほど異色とは思われていない。

 ゲーム産業に対する税制面での優遇や,還付金制度などはもちろんのこと,ケベック州政府はゲーム産業の振興のための投資会社を設立している。多くの国では,設立されたばかりのゲーム会社に公的支援が行われることはまずないが,ケベック州では「Unreal Engineを買ってきて改造してゲームを作る」というR&D(研究開発)的なプロジェクトにさえ,場合よっては助成金が出る。
 外国からのスタジオ誘致をする必要上,州政府の発行する各種統計資料は非常に充実しており,政府担当者もゲーム産業に非常に詳しい。行政のやる産業振興と聞くと,どうしても大ざっぱなバラマキ系を連想してしまうが,ケベック州の投資会社は一言で「まともなファンド」として機能していると新氏は強調する。
 上に書いたように,人件費だけを見ればそれほどのメリットはないかもしれないが,こうした州政府の助成金や還付金制度,そしてトレーニングされた人材の獲得の容易さなどから,トータルで見た場合の金銭的なメリットは大きいのだ。

急速な成長とはうらはらなカナダの弱さ


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 だが,こうした州政府の手厚い政策に問題がないわけではない。ゲームメーカーの立ち上げが容易であるぶん,大手スタジオからスピンアウトする人材が増える。とはいえ,なんだかんだ言って人口が3000万人程度で,ゲーム市場規模がアメリカの10分の1以下という環境で,小さなスタジオの生き残りは難しい。実際,独立系スタジオの“致死率”は非常に高いとのこと。
 また,税制面での優遇措置やアグレッシブな投資は,ほかの地域からの批判を呼んでいる。イギリス政府には,このカナダ式支援策をWTO(世界貿易機構)に提訴しようという動きがあるし,フランス政府もまた国内産業の流出を懸念して批判的だ(フランス政府がカナダのような優遇税制を採用することを,欧州委員会が承認している)。

 作られたIPが国内に残らないこともカナダの弱さの一つである。UbiにしてもEAにしても基本的に外国企業であり,Company of HeroesはTHQブランドで,CSIシリーズはVivendiのブランドで販売される。そもそもカナダのゲーム産業が我々の耳目に入りづらいのはそのためであり,カナダ産のゲームがカナダに利益をもたらさないという結果になっている。

 こうした問題に関して,政府関係者は「雇用の創出」を第一義として考えているようだと新氏は分析する。現段階ではIPや利益の国外流出には目をつぶり,とりあえず雇用を生み出すことを優先させている可能性が高い。
 実際,海外パブリッシャがカナダに進出する場合,「×年内に××人を雇用する」という文言が添えられることが多く,契約としてあらかじめ取り交わされていると見るのである。
 これまでカナダのゲーム育成はかなり進み,良好な環境が整ってきたようだ。とはいえ,カナダのパブリッシャが出現し,カナダブランドのゲームが我々の前に登場するまでにはまだいくばくかの時間がかかりそうだ。

日本ではそれほどでもなかったが,世界中で大ヒットした「Splinter Cell」(左)と,EA Black Boxが製作する「ニード・フォー・スピード カーボン」(右)
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講演2:「おもしろいゲーム開発と生活の質」


 二人目の講演者は,フリーライター/ゲームジャーナリストの小野憲史氏である。新氏が比較的グローバルな視点からカナダの現状を報告したのに対し,小野氏は訪れたゲーム開発現場をよりパーソナルな視点から紹介した。
 小野氏が感じた「カナダのゲーム/アニメスタジオの三大ビックリ事情」。それは以下のようなものだとのこと。

  • 古い
  • 広い
  • 寝袋がない

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 たいへん率直な感想だ。広いのはまあ,世界で2番目に広い国土を持ちながら韓国より少ない約3200万人という人口のせいであり,古いのは地震の少なさに由来すると分析する小野氏。重要なのは「寝袋がない」という点かもしれない。泊まり込む必要がないというのは,要するに効率化が進んでいるという意味であり,カナダはデベロッパの生活の質(クオリティ オブ ライフ)が高く,それはそのために企業が投資しているからだ」という話をどこへ行っても聞かされされる。
 実際,Eidos Interactiveのモントリオールスタジオの残業は5〜10%以内。当然ながら寝袋はない。シャワー室があったので,泊まり込む人がいるのか聞いたところ,これは自転車通勤者向けのものであり,仮眠室もないと言われてしまうのだった。
 大企業だけでなく,2006年に起業されたベンチャーで,社員25人という所帯を持つデベロッパ,Groove Games(トロント)の労働時間は平均8〜9時間で,初年度の有給休暇が10〜14日。しかも消化率も高いとのこと。
 こちらは新氏の話によるものだが,カナダのゲーム開発者達はほとんど残業をせず,時間が来れば帰ってしまうのだそうだ。

 さて,うらやましがってばかりもいられない。ひるがえって,なぜ日本ではカナダのような労働スタイルを取れないのかと考える小野氏。ここでいう「寝袋」とは,残業や仮眠室,休日出勤といった事柄を象徴させているのだが,寝袋が必要なのはゲームにバグがあるからであり,なぜバグがあるのかといえば効率化が進んでいないから。すでに「がんばるだけです」といった精神論だけでは限界で,適切な投資が必要だと主張する。
 なんだかカナダから離れてしまうがとりあえず続けると,日本のゲーム開発では一人の遅れが全体の遅れにつながりやすいが,メイン開発者の入れ替えは利きにくい。開発者の生活の質の向上を確保するために,ペースを守って開発する必要があり,その結果が面白いゲームにつながるということだ。
 というわけでカナダ。日本と違って,カナダは大規模開発を可能にするメソッドへの投資を厭わない。最近の大規模開発現場では「コンテンツパイプライン」という考え方が主流になっている。これはベルトコンベアの上を製品が流れて行く,まるで製造業のような開発スタイルのこと。
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 最初に企画ありきという日本とは異なり,まずプログラマーがフレームワークを作り(一から作る場合もあり,また外部のエンジンを購入する場合もある),その中でデザイナーがゲームデザインを行うというスタイルだ。プログラマーとデザイナーの力関係で見れば,カナダがプログラマー優先で,日本がデザイナー優先という感じになる。
 コンテンツパイプラインでは各段階で最新技術を導入しやすく,またアウトソーシングも容易になる。そのため,ゲームのマルチプレイ部分だけを請け負うThree Wave Software(バンクーバー)や,サウンド部分を担当するAudiokinetic(モントリオール),そしてデバッグを担当するEnzime Testing Labs(モントリオール郊外)といった外部スタジオの助力も得やすくなるのだ。
 こうした開発手法が採れるのは,ヒットゲームの70%近くが,「アクション」「スポーツ」「レース」「シューティング」の4ジャンルで占められるという欧米の市場動向にも理由を見いだせる。

カナダ式開発方法は最強なのだろうか?


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 ここまで説明して小野氏は「では,カナダのゲーム開発スタイルは最強なのか?」と聴衆に問い,まあカナダ大使館でいうことではないでしょうがと前置きしたうえで,「そんなこたぁ,ないしょう」と自分で答えを出す。
 カナダ式の開発スタイルでは「グラフィックスはすごいがゲームがつまらない」「途中で終わる」「ジャンルの偏り」といった,いわゆる洋ゲーにありがちな事象が起きやすいというのである。
 とはいえ,日本だって人のことは言えないと小野氏は続ける。現在の開発スタイルでは,これまた日本ではありがちな,「ビジョンは壮大だがゲームが完成しない」とか「最新ハードの性能をフルに引き出せない」などのダメな例が起きてしまうのだ。

 結局のところ,どちらが良いというわけでなく向き不向きの問題なのだ。小野氏はその例として,モントリオールインターナショナルゲームサミット2007で行われた基調講演,「ゲームプレイ時の不要なストレスをいかに軽減するか」を取り上げる。このテーマについて,「スーパーマリオギャラクシー」を開発した任天堂の小泉歓晃氏が,多数のプレイヤーの反応をもとに企画面から解消していくとしたのに対し,EAで「Spore」を開発するクリス・ヘッカー氏は,人間とCPUはあまりに思考の仕組みが異なるので,その架け橋となる優れたAIを作るべきだと答える。
MADDEN NFL 08
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 小泉氏の考え方は実際的であり,13年以上にわたって優れた商品開発を行ってきた任天堂が持つノウハウが基礎となっている。ヘッカー氏の話は現段階では単なる夢想にすぎないが,そうした作業を続けている限り5年,10年後にどうなるかは分からない。不要なストレスを自然に解消しつつプレイヤーにゲームを呈示するAIがごく当たり前になっているかもしれないのだ。
 繰り返すがカナダ式,日本式それぞれに強みと弱みがあり,どちらが正解であるということはない。なんだかカナダを肴にして日本のゲーム開発現場にあってほしい姿を考えるという展開になってしまったが,来場したゲーム開発関係者にとっては示唆に富んだ報告だったかもしれない。

 以上を以て,「カナダのデジタルコンテンツ最新動向報告会」は終了となった。それにしてもタイトル長いなあ。
 確かにカナダはシマリスだけでなく,今やイギリスをしのぐ世界第三位のゲーム勢力に育っている。報告にもあるように,アメリカやヨーロッパのパブリッシャがリリースするタイトルの多くが,実はカナダ生まれなのだ。とはいえ,今のところカナダは欧米企業のアウトソーシングの受け皿として機能しているだけであり,カナダゲームの独自性は出ていないようにも思える。
 タイトルの多さは知っていたもの,これまではどうもピンとこないカナダではあったが,今回の報告で多くの情報を得た現在,これからちょっと注目していきたい。新氏の話によると,旧フランス領ということもあり,食事がかなりおいしいというのも,アメリカにはない大きな魅力になるだろう。個人的に。
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