サーティーン 完全日本語版Text by トライゼット西川善司
「XIII」(サーティーン)って,何?
主人公は,ドラマ登場率全米第1位(筆者独自調べ)の疾患「記憶喪失」にかかった危険な"フェロモン"ムンムンの美中年。砂浜に打ち上げられて意識もうろうのこの美中年を,不用意にも助けちゃうエキゾチックな水着美女。目を覚ます彼を心配そうに見守る彼女が,差し出したのは「銀行の貸し金庫の鍵」。身元につながる所持品いっさいなしのこの美中年の胸には「XIII」の入れ墨が! バックストーリーをもう少し補足しておこう。 「記憶喪失」「秘密結社」「要人暗殺」「逃亡者」……こんなわざとらしいまでの「ありがちな」設定の数々を,小気味良いまでのテンポの良さでカッコよく見せてカタルシスに変換してくれちゃう「サーティーン」(XIII)というゲームは,実はフランスの同名の人気コミックが原作となっている。
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ヘリコプターなどの乗り物類もNPR表現で描かれる |
前段で思わず「ありがちな設定」と評してしまったXIIIだが,それをいったらゲームスタイルも「ありがち」な一人称シューティング(FPS)ゲームである。ところが,プレイしていて「ありがち感」を感じさせないのは,やはりその切り口が斬新なためだろう。その斬新さを最も感じさせてくれるのがそのビジュアル様式だ。
本作のビジュアルは完全なリアルタイム3Dグラフィックスで描かれているのだが,その陰影処理手法として最近流行のセルシェーディング(トゥーンレンダリング)を採用している。
写実的な3Dグラフィックスを「フォト・リアリスティック」技法と呼び,略してPR表現と呼称されるが,これに対してXIIIのようなセルシェーティングを採用したビジュアルは「絵画的な表現技法」ということで「ノン・フォト・リアリスティック」技法,略してNPR表現と呼ばれる。
NPRな3Dグラフィックスも実際は3D生成された映像だ。そのため,まるで手描きによる二次元のセルアニメのような"見た目"でありながら,視線角度やキャラクター自身の動きの相関作用でインタラクティヴに,なおかつ手描きアニメではあり得ないようなスムースな動きが実現されている。NPR表現の魅力はここにある。
NPR表現の3Dゲームはこれまで無かったわけではないし,最近では日本の人気漫画もこうしたNPR表現で次々と3Dゲーム化されている。しかし,劇画調の一人称シューティング(FPS)というのは,あまり例がない。XIIIの直観的な「目新しさ」はなんといってもここから来るものなのだ。
なお,XIIIでは背景グラフィックスはなぜかNPR表現になっていない。NPR表現で描かれるのは動く3Dキャラクター達だけで,パッと見こそ違和感があるのだが,これが偶然の産物か計算か,背景にキャラクターを埋没させない効果になっており,FPSゲームとして大変都合のいいビジュアルになっている。
そう,遠くの敵が狙いやすく,遊びやすいという結果を生んでいるのだ。
ステージ感に挿入されるインターバルムービーもすべてNPR表現。漫画の各コマが3Dで動いている感じのビジュアルは,なかなか新鮮だ |
このNPR表現に加え,XIII独自の演出として異彩を放っているのが「コマ割りカットイン」演出。敵をド派手に倒したときに,その「やられ模様」を漫画のコマのようにダダダっという効果音と共に画面に表示してくれるのだ。具体的には,額ど真ん中に投げたナイフが命中したとき,スナイパーライフルで狙撃に成功したとき,高台の上の敵を倒して転落させたときなどにこの演出を見られる。
漫画ではド迫力のシーンを大ゴマで見せたり,アクション映画ではスローモーションで見せたりするが,そうした表現をXIIIでは独自のセンスでFPSゲームに取り入れているのだ。このほか,主人公がいない場所で進行するイベントの様子なども,こうしたコマ割り演出によって語られる。
そしてもう一つ。普段漫画を読むときには大抵読み飛ばされる運命にある「効果音の描き文字」の数々。これらもXIIIでは,状況に合わせて画面に登場する。
ゲーム中には効果音が鳴るので文字の効果音などは必要ないはずなのだが,「それらしい」装飾付きフォントで,その音が鳴る方向に描かれるのである。例えば足音は「TAP! TAP!」,マシンガンの発射音は「TA!TA!TA!…」,爆発は「BAOOOO…MM!」,死にゆく敵の断末魔は「ARRRR...!」などなど。そのビジュアルは独特で,まさに「漫画が動き出してしまったような」映像になっている。
さてさて,これまた偶然か計算か,XIIIではゲーム中,敵に自分の存在を悟られてはならないシーンもあり,そうしたミッションでは,この描き文字が意外に重宝するのである。描き文字は,遠くの効果音は小さく,近くの効果音は大きく描かれる。つまり,敵がこちらへやってくる様子,あるいは去っていく様子などを,画面に描かれる足音描き文字で壁越しに判断できるのだ。
格好良く,便利であり,それでいて笑いを誘うギャグのようでもある,こうした独特の演出手法の数々。XIIIの制作スタッフのセンスの良さを感じずにはいられない。
スナイパーライフルではるか遠方の敵を狙撃。頭部に命中すればやられモーションがコマ割りカットイン! ちなみにこの映像は,リアルタイム生成されたものだ | 遠方で同時進行するイベントは,コマ割りカットインで見られる | 敵がロケット推進弾(RPG)を取り出してきた! 敵側が切り札を持ち出してきたときもコマ割りカットイン |
壁越しに敵の位置を知るには,耳を澄ませて……いや,本作では目を凝らして描き文字を観察せよ! | 敵の脇腹にボーガンが突き刺さる。敵の断末魔の叫びは痛そうな描き文字! もちろん音も同時に鳴る | 精神病院からの脱走。銃を突きつけられ,思わず頭上に「!」を浮かび上がらせる看守さん | 頭上の「!」が消える前に撃ち殺される看守さん。「ワケも分からないままに死ぬ」ってこういうことなんだろうな |
本作がどんなゲームなのかについてもちゃんと触れておこう。
前述したように,ゲームシステムはオーソドックスなFPSで,マウスで視点操作と銃撃,W/S/A/Dの4キーで移動,その他のショートカットキーで姿勢制御,武器切り換えを行う。
ゲーム開始前には簡単な状況説明のカットシーン(ムービー)が挿入され,続いてミッションの達成条件と,「敵を殺してはならない」「敵に見つかってはならない」といった任務遂行上の制約条件も併せて提示される。
制約条件を破るか,体力がゼロになるとゲームオーバーだ。ミッションの達成条件はいろいろあるが,基本的には最終的な敵(ボス)を撃破するか,目標地点への到達のどちらかになる。コンバット・シミュレーションのような複雑さはないものの,味方と共に行動したり,味方の護衛などのミッションもあり,プレイヤーを飽きさせない。なお味方と行動している場合は,その味方が死亡してもゲームオーバーとなる。
人質を取って敵が躊躇しているところを先制攻撃……なんていう卑怯技も使えちゃう |
物語は謎が謎を呼ぶスパイアクション調で進行していくが,重要なストーリー上の説明はカットシーン(ムービーイベント)で語られることが多い。つまりアドベンチャーゲーム的な謎解き要素は,トゥームレイダーに代表される"スイッチを見つけて道を切り開いていく系"のみで,「会話から情報を集めて犯人を推理する」みたいな高度な謎解きはない。
元々コンシューマ機を視野に入れて開発されたこともあり,ゲーム進行は基本的にシューティングとアクションに重きを置いているのだ。
戦闘ヘリとの対決。RPGがあれば,ヘリだろうがなんだろうがへっちゃらだ |
特定の地点に到達すると「オレはここに来たことがある!」とかいってデジャブシーンに突入。デジャブのたびに徐々に記憶を取り戻していく主人公 |
ちなみに「シューティング」は説明するまでもなく敵を銃器で撃破していくこと。そして「アクション」とは「フックショット」を活用したジャンプアクションを指す。
フックショットは,先端にかぎ爪の付いたワイヤーを打ち出し,そのかぎ爪部分を壁や木にひっかけてワイヤーを巻き取ることで,ジャンプでは到達不可能な場所へ辿り着けちゃう移動支援アイテム。そう,どこで売ってるのかは知らないが,スパイ映画なんかの潜入シーンではかなりお馴染みのアレだ。
XIIIでは,ゲーム序盤からこのフックショットが与えられ,高いところへ登ったり,あるいは逆に高いところから飛び降りたりする場合に活用できる。フックショットを吊り下げた状態で移動キーを押すことで振り子のようにスイングでき,タイミングを見計らってかぎ爪を解き放てば大ジャンプも可能。このフックショットを活用して足場から足場へ渡り飛んでいく行動そのものを主体とした地形パズル的なミッションもあり,「フックショットを極めること=XIIIを極めること」といっても過言ではないかもしれない。
ちなみに,片手で使用できる武器ならフックショット活用中も同時に使用できるというのも,本作のゲームシステムの特徴。「吊り下がった状態で視界下の敵と対決」なんていう,ジェームズ・ボンドさながらのカッコ良すぎるシチュエーションもある。
ゲーム中盤以降はフックショットの活用頻度大。行き詰まって先へ進めなくなったら頭上か足元を見よ |
ゲーム進行状況の保存(セーブ)は,PCゲームでありながら意外や意外,ステージ単位となる。ただしゲーム中には随時チェックポイント(以下CP)があり,万が一ゲームオーバーになっても"コンティニュー"することで,最後のCPからのやり直しが可能となっている。
ゲーム後半の「敵に気づかれたら即ゲームオーバー」のスニーキング主体のステージはかなり難度が高く,一発クリアは困難となっている。ただし,洋ゲー特有の理不尽な難しさはなく,何度か挑戦すればクリアへの糸口が次第に見えてくるような絶妙な難度になっており,むしろ「挑戦しがいがある」という感じだ。
隠密行動中に銃声は厳禁。ってことで,意外にも手投げナイフの使用頻度は高い | ステージラストにはボスキャラが待ち受けているミッションもある。画面は毒薬使いのボス。敵の毒薬攻撃を食らうとこんな視界になりしばらく戦闘不能に! |
プレイし終わって強く印象に残ったのは,セルシェーティングのビジュアルの目新しさよりも,BGMの格好良さのほうであった。
本作のBGMの基本コンセプトは"ファンキーなジャズサウンド"。'60〜'70年代を彷彿とさせるビンテージ・サウンドのようで,近代風のアクロバティックなフレーズも多用された,実にクールかつ独創的な曲が盛りだくさんなのだ。
BGMは,プレイヤーが置かれている状況にある程度インタラクティブに反応して,自動的に選択されるシステムになっている。例えば,隠密行動のときにはハイハットとトライアングルがビートを刻む静かでスリリングな曲が流れ,決戦シーンでは小刻みなスネアがド派手なダンサンブルビートを刻む……といった具合。
久々にサントラが欲しいなぁと思わせるゲームミュージックに遭遇できたという感じだ(でも洋ゲーのゲームミュージックCDなんて日本では発売されないんだろうなぁ)。
さて,原作のあるゲームにつきものの「原作を知らない人にも楽しめるか?」という疑問点についてだが,本作に関しては掛け値なしで「楽しめる」と言い切れる。
かくいう筆者も原作コミックを読んだことないのだが,本作は最後まで楽しくプレイでき,プレイし終わったときには「原作コミックを読みたい」と思ってしまったほど。
記憶喪失の主人公が徐々に記憶を取り戻していく様子はゲーム中のイベントでしっかりと語られていくし,登場人物の相関関係も,かなり親切に紹介されるので把握するのに予備知識は不要。ストーリーの中心となる秘密結社の陰謀の全貌も,いっさいの省略事項なしに,しっかりした起承転結のもとに明らかになっていくので,最後までプレイして「結局なんだったんだ」とあっけにとられることもない。
ちなみに今回筆者がプレイしたのは3月13日に発売される「サーティーン
完全日本語版」のβ版で,セリフテキストはもちろんセリフ音声までもが日本語化されており,ローカライズは完璧であった。
あと本作は,最新のハードウェアを揃えていなくても結構快適にプレイできてしまうという点も特筆に値する。具体的にいえばCPUはPentiumIII/1GHzクラス,ビデオカードはNVIDIAならばGeForce3クラス,ATIならばRADEON
8500/9000クラスで快適にプレイできる。
「最近の3Dゲームはどれも重くて自分のPCでは動かなさそう」……という諦めがちのアナタ,本作は現行スペックでもイケます。Half-Life2もDoom IIIもない今年の春休み,FPSファンも,そうでない人も,とりあえずコレやっときなされ。
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